
この席が落ち着く理由
※この投稿は「#いつもの場所に座って」コンテスト参加作品です。
無印『不定期日常』より。
いつも書いている“あの席”をそのまま切り取ってみました。
いつもの席は、フードコートのいちばん端。
横にはパーテーション、前には壁。その向こうに少しだけ窓がある。
人のざわめきと食器の音が、混じり合って空気の層になる。
静かな家よりも、なぜかここが落ち着く。
この席に座ると、鞄からBluetoothキーボードを取り出す。
スマホをスタンドに立て、指を置く。
周りから見たら、スマホに向かって真剣にカタカタしている人。
ノートパソコンなら違和感もないだろうけれど、
このちぐはぐなセットが、今の私の“作業机”だ。
音が多いのに、頭の中は静かになる。
誰の話も聞き取れないのに、会話の流れだけは感じられる。
それがちょうどいい。
外の世界が私を包み、境界をぼかしてくれる。
ひとりきりの家の静けさより、
人の気配に溶けるこの空間のほうが、心がほどける。
ここでは、言葉が自然に浮かぶ。
画面の光よりも、コーヒーの香りのほうがはっきりしている。
キーボードの音がリズムになり、
ざわめきが伴奏になる。
その瞬間だけ、私は“書く人”に戻る。
何も起きない?
いいえ、全部そこで起きていました。
※お題に乗ってみました。
隔てるだけならパーテーションでも十分なんですが、
片側だけ壁があると、どうしてか安心します。
その理由は、書いている本人にもまだ分かりません。
……分かる人、いますよね?