
ある日フードコートにて
―――戦場、到来。
フードコートは、いつものように平和だった。
私はスマホにBluetoothで接続したキーボードでカタカタと入力作業をしていた。
右隣ではノーパソを開く会社員、左では付箋を挟んだ本の山と格闘する大学生。
読書中のお爺ちゃんは、やがて本に突っ伏して眠っている。
子供たちの笑い声も、心地よい雑踏のBGMにすぎなかった。
――その時
「……これから戦だからね」
近くの飲食店のチーフらしき人が、スタッフにそう声をかけた。
戦? フードコートで?
その場にいた誰もが首をかしげたが、すぐにその意味を思い知ることになる。
十数分後。
市営公園での花火大会が終わった瞬間、どっと人の波が流れ込んできた。
席はみるみる埋まり、通路は押し寄せる人でごった返す。
トレイを片付ける暇もなく席を確保する人々。
声を張り上げるスタッフ。
行列は瞬く間に長蛇となり、終点がどこか見えなくなるほどだった。
静かだった空間が、まるで戦場のように変貌したのだ。
ノーパソ勢も、大学生も、うたた寝していたおじいちゃんも──
まったり勢は皆一様に顔を上げ、慌ただしく荷物をまとめ始めた。
もちろん、私も。
フードコートは、もはや仕事のできる場所ではなかった。
そう、チーフの言葉通り「戦」の幕は切って落とされたのだ。
私は、静かにその場を後にした。
何も起きない?
いえ、全部そこで起きていました。
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あとがき
本当にびっくりした。
あの「戦だからね」の一言は伊達じゃなかった。
作者は無事戦線離脱しました。
どうか皆さまも「戦」にはお気をつけて。