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宇宙と姉と魚卵〜ウィスパーボイスの小5娘が、水ロケットで最優秀賞を獲るまで〜

宇宙飛行士への道

Kちゃんがまだ2歳になるかならないかの頃だった。

ある日、何の前触れもなく、Kちゃんは真剣な顔で言った。

「宇宙飛行士になりたい。」

その言葉を聞いた私は、一瞬耳を疑った。

宇宙――。

私自身は宇宙とはまったく縁のない人生を歩いてきた。
星座の名前もろくに知らないし、ロケットの仕組みだって説明できない。
それでも、目の前の小さな娘が本気の眼差しで夢を語るのを見ているうちに、「できる限り応援したい」という気持ちが芽生えていた。

その日から、私は必死にパソコンを開き、宇宙に関するイベントを探し始めた。

地元で宇宙のイベントといえばの、市へと繋がった。

宇宙のまつり、JAXA関連イベント――見つけられるものは片っ端から参加した。

そして、その出会いは突然やってきた。

宇宙のまつりの会場で、宇宙少年団の団員や保護者の方々がビラ配りをしていたのだ。

人見知りの私は、声をかけるだけでも勇気が必要だった。

それでも、「この機会を逃したら後悔するかもしれない」と思い切って話しかけた。

連絡先を交換していただき、そこからKちゃんの「宇宙飛行士への道」が静かに始まった。

帰宅後、私は再びパソコンを開いた。

「宇宙飛行士になるには何が必要なのか。」

調べれば調べるほど、現実は想像以上に厳しかった。

英語は話せて当たり前。

さらに中国語やロシア語が話せれば有利だという。

まだ幼いKちゃんには途方もない話だったが、夢への小さな一歩として、当時通っていた幼稚園の英語教室に加え、外部の英語教室にも通わせることにした。

二つの教室を掛け持ちしながら、少しずつ英語に触れる日々。

しかし次に立ちはだかったのは、中国語という壁だった。

どうしたらいいのだろう。

悩んでいたとき、周囲の方々から今通っているインターナショナル系の小学校の話を聞いた。

そこには中国語教育もある。

宇宙飛行士という夢へ近づくための環境かもしれない。

そう思った瞬間、新たな目標が生まれた。

その小学校への入学だった。

けれど、その選択は簡単なものではなかった。

Kちゃんは今の幼稚園が大好きだったからだ。

友達に囲まれ、先生にも恵まれ、毎日を楽しそうに過ごしていた。

「子どもの何気ない一言を真に受けすぎているのではないか。」

「でも、可能性を伸ばしてあげたい。」

その狭間で、私は何度も揺れた。

そして今もなお、答えを探し続けている。

初めての受験。

結果は不合格だった。

英語力そのものは問題なかったらしい。

試験後、先生からも「英語のレベルは大丈夫だと思います」と言われた。

ただ――。

Kちゃんはあまりにも話さなかった。

「判断するには、もう一日様子を見たいです。」

そう言われたことを今でも覚えている。

その学校が求めていたのは、完璧な英語力よりも、積極的に発言できる子どもだった。

だから不合格も仕方なかったのだと思う。

実際、後に入学してみると、英語が話せない子も書けない子もいた。

けれど、その子たちは皆、自分の意見を堂々と伝えられる子ばかりだった。

あるいは、面接に同席した私や主人に何か足りなかったのかもしれない。(それか、癖があったのだろうか…)

真実は分からない。

ただ、その結果を受け止めて次へ進むしかなかった。

二次試験を受け直す道もあった。

しかし私は、一か八かの勝負はしたくなかった。

宇宙飛行士になるという長い道のりの中の、ほんの小さな通過点。

勝負に出る必要はない。

そう考え、9月からの途中入園を選んだ。

大好きな友達に囲まれ、「しっかり者」と言われていたKちゃん。

そんな彼女が転園先では、言葉も通じず、知っている友達もいない環境へ飛び込むことになった。

しかもクラスで一番英語ができない状態からのスタート。

人見知りで、場所見知り。

不安な気持ちを打ち明けられる先生もまだいない。

どれほど心細かっただろう。

そして私もまた、不安だった。

「親のエゴで無理をさせてしまったのではないか。」

その思いは受験前からずっと消えなかった。

けれど、そんな私の想像以上に、Kちゃんの夢は強かった。

もともとKちゃんが宇宙飛行士になりたいと言った理由は、とても可愛らしいものだった。

8歳年上の大好きなねえねに、たらこやいくらをたくさん食べさせてあげたい。

そのために宇宙飛行士になりたい。

そんな幼い願いだった。

でも、その想いは成長とともに薄れるどころか、少しずつ強くなっていった。

ねえねとKちゃんは、普段は驚くほどよくケンカをする。

時には大声で泣き、叫び、家中に騒ぎが響く。

けれど、不思議なことに、本当に困ったときはいつもお互いを守る。

Kちゃんが私やパパに叱られれば、真っ先にかばうのはねえね。

友達とのことで落ち込めば、励ますのもねえね。

ギャル気質で、明るくて、自己肯定感の高いねえねの言葉は、なぜかまっすぐKちゃんの心に届く。

最後には二人で笑いながら、

「じゃあ次はこうしてみようか。」

と解決策を考えている。

そして何より、ねえねは私たち親にとっても大切な存在だった。

私やパパが宇宙飛行士という夢に前のめりになりすぎたとき。

Kちゃんにプレッシャーをかけてしまっていると感じたとき。

ねえねは必ずブレーキをかけてくれる。

「それって誰の夢?」

「ママの夢?」

「Kちゃんの夢?」

その言葉に、私は何度も立ち止まらされた。

Kちゃんの可能性を広げたい。

夢を応援したい。

でも、その夢を私自身の願望にすり替えてはいけない。

ねえねはいつも、その大切な境界線を教えてくれる。

宇宙飛行士への道は、きっと想像もつかないほど長い。

これから先、夢が変わる日が来るかもしれない。

途中で別の道を見つけるかもしれない。

それでもいい。

ただ一つ確かなのは――。

2歳の頃に「宇宙飛行士になりたい」と言ったあの日から、Kちゃんは自分の力で一歩ずつ前へ進み続けているということ。

そして私は、その背中を見守りながら、今日もまた問い続けている。

これは本当にKちゃんの夢だろうか、と。

すると、いつも隣からねえねの声が聞こえる。

「大丈夫。それはKちゃんが決めることだから。」

その言葉に背中を押されながら、私たち家族の宇宙への旅は、今も続いている。

そして昨年一つの転機がありました。
宇宙少年団の分団から水ロケット大会作品募集の情報を貰ったのです。
締め切りまでは、もうあとわずか。
迷う時間もなく、Kちゃんと私は急いで応募することを決めました。

応募を決めると、Kちゃんが目を輝かせながら言った。

「キラキラ光る水ロケットを作りたい!」

その言葉は、飛距離や性能を競うことに夢中な男の子たちが多い中で、とても新鮮に聞こえた。 
水ロケットといえば、どちらかというと機能重視のシンプルなデザインがほとんどだ。
そんな中、「光る」という発想は、まさに女の子らしい感性から生まれたものだなぁ。と感心したのを覚えている。

しかし、「キラキラ光る」と言っても、どうやって実現すればいいのだろう?

電球を付ける?
お祭りで見かける光るブレスレット、いわゆるサイリウムの中身を使う?
そういえば、YouTuberのすしりくさんが、以前光る水ロケットの動画を作っていたような気もする。

家族で知恵を振り絞った。

動画を見て、記事を読み漁り、週末は図書館へ。
毎日のようにホームセンターや100円ショップを巡った。
光る素材を探し求めて、店内を何度も歩き回った。

けれど、現実はそう甘くない。

電球や電池を載せれば重くなる。
そもそも、その重さで水ロケットが飛ばなくなるかもしれない。
発煙筒は?と考えましたが、消防法に引っかかる…?とアイディアは思いつくけど、どこまでが法に触れないか判断つかず…(花火とかも、アイディア出ました)

そんな悩みを抱えていた頃、大学のサイエンスデーに参加したり、電気関係の仕事をしている方々と話す機会があった。
私は会う人会う人に水ロケットの相談を持ちかけた。

今思えば、ずいぶん迷惑だったなぁ。と。

それでも皆さんは親身に耳を傾けてくださった。
そして宇宙少年団分団の皆さんとも相談を重ねる中で、一つのアイデアが浮かんだ。

「田んぼの鳥よけに使われる反射板なら、光を受けてキラキラ輝くのではないか?」

それと同じ原理の自転車の反射板も併せて使用しました。
電気も使わず、軽くて安全。
まさに求めていた条件に近かった。

本当はサイリウムを入れたいというのが、Kちゃんの最初の希望だった。
しかし、安全面を考えると不安が残る。
人にも環境にも優しく、飛行にも支障のない素材を選ぶことも、ものづくりをする人間にとって大切な責任だ。

私はKちゃんにも、開発者には夢を追うだけでなく、安全性や実用性を考える経験も必要だよ。と話した。

そうして私たちは、100円ショップやホームセンターで見つけたさまざまな光る素材を買い集め、試行錯誤を繰り返した。

気が付けば、材料費も決して少なくない金額になっていた。

「これだけ試作品でお金がかかるなら、本物のロケット開発はもっと大変なんだろうね。」

そう話しながら、Kちゃんと顔を見合わせた。

そして私たちは、技術やアイデアだけではなく、開発を支えてくれるスポンサーの存在がどれほど重要なのかを、身をもって実感したのである。

キラキラ光る水ロケットを追いかけた日々は、単なる工作の時間ではなかった。
夢を形にする難しさと楽しさ、そして開発者としての責任を学んだ、かけがえのない挑戦の記憶として今も心に残っている。

そして私たちは、雨の中、キラキラ光る水ロケットを飛ばす瞬間を動画に収め、気合を入れて編集し、コンテストへ応募した。

応募を終えた時には、結果は関係なくなり、やりきった気持ちだった。

「やることはやった。」

そんな思いで、Kちゃんも私も結果を待つことすら忘れるほど、また慌ただしい日々を過ごしていた。

数か月後のことだった。

所属している宇宙少年団の分団事務局から一本の連絡が入った。

「Kちゃんが、水ロケットコンテストで最優秀賞を受賞しました!」

その言葉を聞いた瞬間、思わず耳を疑った。

もちろん、心のどこかでは「もしかしたら」という淡い期待もあった。
しかし応募者の年齢層は幅広く、本格的な機体を飛ばす高学年の男の子が選ばれるのだろうなぁと思っていた。

だからこそ、その知らせは信じられないほど嬉しかった。

この時の私は、ただただ受賞の喜びに浸っていた。

「受験の時に少し有利になるかもしれないな」

そんな邪なことを考えていたくらいだった。

ところが後になって、その賞状授与を行うのが宇宙少年団理事長でもある元宇宙飛行士の山崎直子さんだと知り、初めてこのコンテストの凄さに気付いた。

その時の驚きは今でも鮮明に覚えている。

事務局の方も分団長さんも、自分のことのように喜んでくださった。
そして東京まで行かなくても済むようにと、市内の会場を用意してくださり、オンラインで表彰を受けることになった。

周りの人たちに支えられてこそ、やりたいことに納得ずくいくまで挑戦できる。

そして何かを成し遂げた時には、一緒に喜んでもらえる。

その温かさ、ありがたさに触れた時、私はふと思った。

宇宙飛行士という仕事も、きっとこういうものなのかもしれない、と。
周りが協力して何かを、結果を出せるんだな、と。

当日、画面越しに現れた山崎直子さんは、柔らかな笑顔の奥に凛とした強さを宿していた。

その不思議なオーラに、見ているこちらまで背筋が伸びるようだった。

一方のKちゃんは、人前に出ることが何より苦手だった。

だからこそ毎日欠かさずスピーチの練習を重ねてきた。

本番では、緊張しながらも一言一言を大切に、堂々と話していた。(事務局の方、学校の校長先生からのアドバイス有り)

普段は蚊の鳴くような声しか出ず、英語の先生から「ウィスパーボイス」と言われているKちゃん。

そんな彼女が、多くの人が見守るオンラインの場でしっかりとスピーチをしている姿を見た時、私は思わず涙ぐんでしまった。

そして、その後にも更に素敵な出会いが待っていた。

最優秀賞の授賞式が終わり、一つの区切りがついたと思っていた頃。

分団の4月のイベントで、改めて壇上での表彰と賞状授与の機会を設けていただいた。

さらに驚いたことに、その日のゲストは『宇宙兄弟』の星加正のモデルとなった上垣内茂樹さんだった。

実は…母である私の方が大興奮していた。

Kちゃんも私も『宇宙兄弟』が大好きで、アニメや映画、漫画を何度も楽しんでいた。

以前、オンラインの宇宙イベントで上垣内さんに質問したことがあったが、その時の丁寧な受け答えとダンディな人柄がとても印象的だった。

それ以来、親子そろってファンになっていた。

その憧れの方に直接お会いできるだけでなく、Kちゃんの晴れ舞台を見ていただけるなんて。
(英語&日本語のスピーチを褒めて頂きました)

水ロケットコンテストへ応募しようと考えた時には、想像もしなかった未来。

「宇宙飛行士になりたい」

幼い日のKちゃんの小さなつぶやき。

そこから数年。

小学5年生になった今、その一言がこんなにも素敵な方々との出会いを運んできてくれるとは思わなかった。

こんなにも世界が広がるとは思わなかった。

もちろん、これから先、6年生になり、中学生になり、高校生になれば、宇宙飛行士という夢が変わることもある、はず。

けれど、憧れの宇宙飛行士・金井宣茂さん、元宇宙飛行士の山崎直子さん、そして上垣内茂樹さんに出会えたことは、Kちゃんにとって大きな財産になったはずだ。

宇宙飛行士は決して手が届かない 夢ではない。

努力を重ねれば、夢は目標に変わり、手が届くかもしれない。

そんな希望を感じることができたのではないだろうか。

Kちゃんは決して積極的な子ではない。

目立つことも好きではない。

発表会では、一番台詞の少ない役を選ぶような子。

それでも諦めず、一歩ずつ努力を続けてきた。

そして周りの人たちの応援を受けながら、ここまで歩いてきた。

そんな娘の姿を、私は心から誇りに思う。

これからどんな未来が待っているのだろう。

どんな夢に出会い、どんな景色を見るのだろう。

そしていつの日か、『大好きなねぇねが魚卵を食べられる薬を作りたい。』という夢を叶えた瞬間に私も立ち会いたいな。

その時は、ねぇね、Kちゃんと魚卵をつまみに美味しい地酒を飲むのがママの夢です!

#創作大賞2026 #エッセイ部門

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