死にかけた瞬間、会ったことのない人が浮かんだ
これは、私が子どもの頃に体験した出来事。
夏が近づいてくると、思い出す。
子どもの頃、死にかけたことがある。
その時、不思議な体験をした。
高い場所から落ちた。
ほんの一瞬の出来事だったはずなのに、足を滑らせてから落ちる瞬間まで、世界が急にスローモーションになった。
映像だけが細かく刻まれて、音は何も聞こえなかった。
体を打ちつけるまでの時間が、まるで何枚かの静止画になったみたいに感じた。
カシャッ、カシャッ、カシャッと、シャッターを切ったようなイメージ。
その途中の一コマで、なぜか会ったこともない人の顔が頭に浮かんだ。
もう亡くなっていて、写真でしか見たことのない人だった。
どうしてあの瞬間に、その人だったのか。
今でも分からない。
地面にぶつかる直前まで、時間だけが妙に引き伸ばされていた感覚がある。
地面との距離がほぼなくなった瞬間、さらに一瞬時間が止まった。
そして地面に叩きつけられる衝撃の瞬間、急に現実へ戻されたみたいに、音も痛みも一気に戻ってきた。
叩きつけられた衝撃は、驚くほど強くて、
痛みと圧迫で、
すぐには呼吸も出来なかった。
その後、検査したが、幸い異常はなかった。
今も普通に生きている。
あの時の体験を
極限状態で脳が見せた現象だった、という説明はできるのかもしれない。
こういう現象は、
脳が極度の緊張状態に入った時に起きる現象として説明されることがあるらしい。
例えば、
転倒や事故の瞬間に、
脳が「これは命に関わるかもしれない」と判断すると、 アドレナリンなどが大量に出て、 周囲の情報を普段より必死に処理しようとする。
実際の時間は一瞬でも、 脳が普段より大量の情報を記録しているから、 あとで振り返ると“長く感じる”と言われたりする。
「音が消えた」のも、 極限状態で脳が視覚に集中して、 聴覚処理が薄くなることで起きる説がある。
そして、
亡くなった人や強い印象の人物が浮かぶこともある。
これは、 脳が極限状態で記憶ネットワークを激しく活性化させるから、 感情と結びついた人物像が突然出てくる、という考え方らしい。
当時の私にとって、「死」は身近なものではなく、
その人が、
一番印象的な「死」の対象だったのかもしれない。
でも、子どもの頃の私は本気で考えていた。
会ったことはないけれど、
その人が
助けてくれたのではないか。
ずっと不思議だった。
なんで写真でしか見たことのない人が出てきたんだろうって 。
スローモーション中の一瞬に。
もしかしたら、
あの世とこの世はどこかの境目で時空が異なっててるんじゃないか。
時間の流れが別なんじゃないかって。
そして、生と死の境目みたいな場所に、ほんの一瞬だけ触れたんじゃないかって。
あの時感じた“境目”のような感覚だけは、
今でもうまく説明できない。
大人になった今でも、時々思い出す。
