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【連載】第8話「別れてくれ」

    # 第8話 「別れてくれ」──家族より自由を選ぶ夫

    夫がお風呂から出てきたあとも、私は何も言わなかった。
    次の日も、その次の日も。
    普段通りに朝ごはんを作り、「いってらっしゃい」と送り出した。証拠だけは気づかれないようにSDカードへ保存した。

    そして数日後。
    娘たちが眠った夜、私は彼に声をかけた。
    証拠は充分集まった。

    「少し話がある。」

    夫はテレビを消し、面倒くさそうに椅子へ座る。

    「なに?」

    私は切り出した。

    「悪いけどあなたの携帯見せてもらった。ずっと態度がおかしいの、自分で気づいてる?不倫してるでしょ。」

    確信を持って問いただした。
    空気が固まった。
    数秒の沈黙。
    彼は言い訳を探すように口を開きかけて、閉じる。
    私は続けた。

    「全部見た。」
    「写真も、メールも。」

    その言葉を聞いて夫は観念したように深く息をつき、

    「……してる。俺、別れたい。ごめん」

    そう口にした。
    最初に出てきた言葉は、「別れてくれ。」だった。

    ---

    「別れてほしい。」

    夫はそう言いました。
    理由はいくつも並べられました。

    「食べ物の好みが合わない。」
    「一緒にいても楽しくない。」
    「自由になりたい。」

    私は黙って聞いていました。
    食べ物の好みなんて、付き合っていた6年間で、お互い知り尽くしていたはずです。
    魚が苦手なことも、外食に行けば私が何を注文するかも。

    それなのに今になって、「合わない」と言われても、私には理由を無理やり探しているようにしか聞こえませんでした。

    夫が本当に欲しかったものは、自由。

    家族ではなく。
    妻でもなく。
    二人の娘でもなく。

    好きなときにお金を使い、好きな女性と会い、好きなように生きる生活。

    それだけだったのだと思います。

    長女が生まれてからの3年間はなんだったのだろう。私へはともかく長女への愛情もなくなったのかと愕然としました。

    ---

    私は帝王切開からまだ間もない体でした。
    傷口を押さえながら授乳をし、夜中は何度も起きる。身体の痛みは継続していて、長女は突然妹が生まれた生活に戸惑い、甘えたり泣いたりを繰り返していました。

    離婚なんて、現実的な選択肢ではありませんでした。

    働くこともできない。娘たちはまだ幼い。
    心身ともに弱っている私は、「別れる」という答えだけは選べませんでしたが、最初は彼に離婚する風を装っていました。

    どう出るのかを知りたかった。
    本当に私たちを捨てる気なのか確かめたかった。

    私から彼への恋愛的なものは綺麗さっぱりなくなり、氷点下までいきましたが私と学生時代から同棲をした6年間。
    結婚して子供が産まれて5年間。
    合計11年間の経過があるのです。
    彼なりの家族の情があるのではないか?
    生まれたばかりの次女もいるのに、別れるのは本気じゃなくて、少ししたら目を覚ましてくれるのでは?と思う気持ちもありました。

    だけど、油断はしなかった。
    すべてのやり取りをノートに記録していました。もしもの時、自分と娘たちを守れるように。

    ---

    その数日後。

    あろうことか夫は、自分の父親を動かしました。
    義父と夫が向かった先は、私の実家でした。
    私が離婚に乗り気な様子をみせないため、
    私の両親を説得するために。

    (第9話へ続く)

     
     
    命がけの妊娠中、夫はダブル不倫をしていました。出産後にその事実が発覚。仮面夫婦生活の中で子宮頸がんステージ3Bを宣告されるも、絶望を乗り越え現在7年目。同じ境遇で苦しむ誰かの光になれますように。

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