
ピクサー展へ行った日。結局、私は大丈夫だった。
「ピクサー展行こうよ!」
このお出かけは、夫の一言から始まった。
「えー、遠いし混んでるよ。」
「絶対娘も喜ぶって!」
「チケット取れるかわからないよ。」
「大丈夫、大丈夫!」
……と言うだけ言って、予約するのはいつも私(笑)。
当日も私は考えていた。
満員電車は、できれば避けたい。
行きから不安を大きくしたくなかった。
だから、この日ばかりは惜しみなくグリーン車に課金した。
すると夫が一言。
「グリーン車乗るほどの距離じゃないよ。」
「私は行きから不安を増やしたくないの。」
そう返すと、
「じゃあ俺は普通に行く。」
夫は普通車へ。
「じゃあ新橋で会おうね。またあとで!」
娘と私はグリーン車へ向かった。
この日は、ちょうど二つの台風が近づいていた。
その影響もあってか、グリーン車には私たちを入れても二人しかいなかった。
「わぁ、快適〜✨」
娘と二人で思わず笑う。
満員電車を覚悟していた私は、それだけで肩の力が少し抜けた。
「今日は大丈夫かもしれない。」
そんな予感が、ほんの少しだけした。
新橋で夫と合流し、ゆりかもめへ乗り換えた。
こちらも台風の影響なのか、とても空いていて、三人並んで座ることができた。
窓の外は土砂降り。
それでも娘は初めて乗るゆりかもめに大はしゃぎ。
「すごーい!」
と何度も窓の外を眺めていた。
その姿を見ているだけで、私まで嬉しくなる。
夫は窓の外を見ながら、
「この辺、昔毎日通ってたんだよ。」
と懐かしそうに話し始めた。
以前、この近くで働いていた夫。
私は初めて、
「こんな遠くまで毎日通勤していたんだ。」
と知った。
少しだけ尊敬した。
窓の外では雨が降り続いている。
でも車内には、
娘のワクワクと、
夫の懐かしい思い出と、
少し緊張しながらも「今日は楽しもう」と思う私がいた。
みんなそれぞれの想いを乗せて、目的地へ向かっていた。
会場へ着くと、そこはピクサーの世界。

娘は目を輝かせながら展示を見て回り、私も夢中になった。
「来てよかった。」
そう思った。
この展示は、一度中に入ると最後まで戻れない。
まるでIKEAみたいな一方通行。
途中でトイレに行きたくなっても引き返せない。
本当なら、こういう場所は一番苦手だ。
でも不思議と、この日は自分より娘のことばかり考えていた。
「トイレ大丈夫かな。」
「疲れてないかな。」
母親になると、自分のことばかり考えていた頭が少しだけ外へ向く。
そういう時は、不安も少し小さくなる。
……とはいえ。
そういう時に限って、不安なことを引き当てるのも私(笑)。
前を歩いていた家族の子どもが、
「気持ち悪い。」
と言い出した。
嘔吐恐怖のある私は、一瞬でその子が気になってしまう。
「お願いだから最後まで頑張ってね🙏🏻」
心の中で何度も祈りながら、そっとその家族を追い越した。
そのあと何度か振り返ってしまったけれど、
結局、何も起こらなかった。
私はまた展示を楽しみ、娘の笑顔を見ながら歩き続けた。
お昼は東京駅へ。
人、人、人。
お昼時のレストラン街は、人であふれていた。
夫はラーメンが食べたい。
でも、その人の多さを見ただけで、
「今日は食べられそうにないな。」
と感じた。
でも、娘にはちゃんとご飯を食べさせたい。
周りを見渡すと、一つだけゆっくり座れそうな洋食屋さんが目に入った。
「私は娘と先にここへ入るね。ラーメンを食べたら合流しよう。」
そう夫に伝えると、
「じゃあそうする。」
夫は一人でラーメン屋さんへ向かった。
私は娘と洋食屋さんへ入り、
娘はキッズプレートを、
私はアイスコーヒーを注文した。
少しすると夫も合流し、
三人でコーヒーを飲みながら今日の出来事を話した。
デザートも頼んでみた。
気づけば、私も少し食べられていた。
昔なら、
「家族なんだから一緒に食べよう。」
そんなことでケンカになっていた。
でも今回は違った。
一緒にラーメンを食べなくてもいい。
あとで合流して、一緒にコーヒーを飲めばいい。
その時の自分にできる方法を選べばいい。
そんな時間を過ごせたことが、とても嬉しかった。
食事を終えると、
夫は大好きなドラゴンボールショップへ。
娘と私はトイレ。
一度解散して、それぞれ用事を済ませることにした。
最後は娘の大好きなサンリオショップへ。
その日は、キティちゃんと「くまのがっこう」のジャッキーがコラボしていた。
「かわいい〜✨」
娘だけじゃない。
気づけば私まで目を輝かせていた。
帰り際、
夫は娘と私に、お揃いのおはじきシールを買ってくれた。
小さなお土産。
でも、そのシールを見るたびに、この一日を思い出せそうな気がした。
気づけば体力はもう限界だった。
なんといっても、
朝も昼もほとんど飲み物ばかり。
人混みの遠出は、いつも夕方になると力尽きる。
だから帰りは、またグリーン車でゆっくり一日を振り返りながら帰ろうと思っていた。
娘も、
「また快適電車乗りたーい✨」
と嬉しそうに歩いていた。
……そんな私たちのペースを、毎回見事に無視するのが夫である(笑)。
「電車来てるよ!」
「これ乗っちゃおう!」
「逃したら次なかなか来ないから!」
そう言うと、夫はさっさと走って飛び乗ってしまった。
「えっ!? グリーン車は?」
「えーー!!快適に座って帰るって言ったじゃん😭!」
娘も、
「疲れた〜。座りたい。」
と言っている。
すると夫は、
「この電車なら、あっという間に着くから大丈夫!」
……
大丈夫じゃねーよ(笑)。
そう思いながらも、
結局、私たちも乗った。
夫は昔からマイペースだ。
正直、振り回されることも多い。
でも、その夫のペースに巻き込まれている間は、不思議と考えすぎる暇がない。
気づけば電車はどんどん進み、
あっという間に家の近くまで帰ってきていた。
家に帰って、一日を振り返る。
台風だった。
新しい仕事の疲れもあった。
嘔吐恐怖もあった。
会食恐怖もあった。
一日中、不安は何度も顔を出した。
でも心に残っていたのは、不安じゃなかった。
「楽しかった。」
その気持ちだった。
そして、ふと思った。
本当は私は、ワクワクすることが大好きだった。
いつの間にか、
「もう無理かもしれない。」
そんな思い込みが増えて、
自分からワクワクすることを遠ざけていた。
でも、この日思った。
もっと好きなことをしていい。
もっとワクワクしていい。
不安になってもいい。
途中で具合が悪くなってもいい。
その時の自分にできる方法を選べばいい。
私にとって、この日はただ楽しかったイベントではない。
私はまだ、人生を楽しめる。
そう信じられた。
それだけで、十分だった。