
家に来たヘデラ
5月だというのにエアコンをつけないといられないほどの暑さの日、
私は玄関の前に置いてあるプランターが気になって様子を見に行った。
扉を開けて一歩踏み出した瞬間に、
おしゃべりの人間がたくさん住むこの町で
話しかけられずに家に帰るという、私のミッションは失敗に終わった。
「それ、なに育ててんの?」
おじさんが声をかけてきた。
「オクラです、種から育ててます。」
不織布をプランターにかけながら返事をした。
ここら辺は野良猫もカラスも鳩も多く、土に植物が生えてるだけでなにをされるか分からない。ついでにゆうと、人間も、なにをするか分からない(詳しいことは想像にお任せする)。
「うちはぶどう植えてるねんけど、全然、実がならんわ!
棚作らんとやっぱあかんのかなぁ、ネット見てるねんけどな。」
なんとなく野菜や花の話を振られると思っていたので、
少し返事するまでに間があいてしまった。
「花も咲かないんですか?」
そう、これやで、と自宅から四軒ほど離れたところにあるおじさんの家の庭先に案内された。
なるほど、これは難しそうだ。
プランターのようなモノで育てており、地植えではなかった。
おじさんはブドウのことを何か言っていたが
私は、他の植物を見ていた。
私の家には10種類ほどの観葉植物があり、私自身とても植物が好きだ。
特にカラテアという植物は多湿を好み、
自宅でできる限界の加湿をしているが葉先が枯れることもある。
だがこのカラテアが可愛くて仕方ない。
手がかかる子ほど可愛いとは本当にこのことだろう。
まーた乾燥してるのか、と心配になり
新芽が出てきている!と嬉しくなる
こういった色々な感情が生まれるからだろうか。
「そうや、これめっちゃ増えるねん。切ってな、水差しとけば根っこ出てな、持って帰ったらええわ、ちょっとまっとき。」
私が、よく茂っているヘデラの前に立っていると
そう声をかけられた。
すぐに玄関からハサミを持ってきて、
根本から茎(木化してるようなもの)を切り私に渡した。
ヘデラはかなり茂っていて、私に渡すために切ったはずの根本周りにも
隙間はできなかった。
「ありがとうございます。」
私は嬉しかったのだが、なぜか喜ぶ姿を見せることが恥ずかしくて
意識的に感情を抑えてお礼を言った。
その後すぐに、私は玉ねぎが直射日光に当たって傷みそうなので位置を変えるとかなんとか意味のわからないことを言い、
小走りで家に戻った。
家に入ってすぐにガラスコップに水を入れて、もらったヘデラをさした。
それが可愛くて、水にさした状態を見せたいと思い
まだおじさんが近くにいるか、窓から覗いたがもうすでに姿はなかった。
私は何をしようとしているんだ。
玄関を出て、声をかけられた瞬間
あー、早速か。
と思っていたはず。
先住の観葉植物の横に置き
光に当たって少し葉が透けて見えるヘデラを眺めていた。
私の気分は、さっき玄関を出た時よりも上がっていた。