【乳がん記録】Hello!New Me
目が覚めた。
…気がする。
おぼろげな意識の中に、夫の顔があった。
あったような気がする。
そのとき私は何か言ったらしい。
「Hello! New Me.」
文法が合っているのかはわからない。
でも、そう言ったらしい。
自分では覚えていない。
次の瞬間、ワープするように病室にいた。
意識はまだぼんやりしていた。
看護師さんが優しく声をかけてくれた。
「お疲れさまでした」と。
しばらくして、主治医が来てくれた。
「お疲れさまでした。無事に終わりましたよ。転移もなかったです」
心底、安心した。
転移がなかった。
その一言にどれだけ安心できたか。
ずっと心のどこかに抱えていた不安が、静かに溶けていった。
夫が、子どもたちの動画メッセージを送ってくれていた。
「手術成功おめでとう!待ってるね!!」
可愛い。ただただ可愛い。
まだ力が入らなくて動けない。
でもスマホを持つ手だけは動いた。何回も再生した。
胸がなくなった感覚は、不思議となかった。痛みもない。
しっかりとガーゼやテープで覆われていて、ぱっと見ではまだ全然わからない。
この日は、うとうとしながらも細切れに目が覚めるような、ずっと夢の中にいるような、不思議な時間が続いた。
意識がはっきりしたのは翌朝だった。
やっと、ああ無事に手術が終わったんだ、と思えた。
覆われた胸は見えないようになっている。見る勇気も、まだなかった。
幸いにも痛みもほぼない。
看護師さんが来て、身体につながった管の一部を外してくれた。
そして言われた。
「動けるなら、無理のない範囲で少しずつ動いたほうがいいですよ」と。
ノロノロと身を起こして、ゆっくり歩き始めた。
入院患者の休憩スペースに向かった。
そこは、とても眺めのいい場所だった。
ちょうど朝日が昇ったばかりのタイミングだった。
眩しくて、本当にきれいだった。
偽りでも誇張でもなく、空がキラキラと輝いて見えた。
涙が出てきた。
悲しみの涙じゃない。うれし涙だ。
生きてて、よかった。
普通の毎日は、こんなにも幸せで美しいものなのかと思った。
何気ない朝日が、こんなに心に沁みることがあるのかと。
私はこの日、新しく生き始めた。
何があっても、私は私。
この日が、もうひとつの誕生日。
一生忘れない一日と、朝日だ。
