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空飛ぶ絨毯でオムツを替える。

    青豆

    家を建てた。
    次男が生まれるタイミングである。

    引き渡し日が決まったとき、私は言った。
    「家具・家電はこのまま持って行くよね」

    妻は言った。
    「寝ぼけているのか貴様」

    妻が指差す先には、長年の相棒たちの姿があった。

    ① テレビ
    長男がリモコンを持った手で那須川天心もびっくりな右フックをお見舞いし、常に画面右側にカラフルな線が入るオシャレな32型テレビ。

    ② 冷蔵庫
    極貧大学生活の頃、川崎市高津区を走る廃品回収のおっちゃんにガチ泣きしながら譲ってもらった思い出の冷蔵庫。四半期に一回は下から謎の水が漏れてくる。

    ③ 人をダメにするソファ
    くったくた。溶けている。ほぼ床。
    そんな表現がぴったりな、人をダメにすることができなくなった愛着だらけのソファ2つ。

    ④ メインテーブル
    楕円が可愛いしコタツにもなるユーティリティプレイヤー。低すぎて小さい。夫婦でご飯と味噌汁、おかずを一つ並べてギリギリ。おかずをもう一品、麦茶のコップをテーブルに乗せるのが夢。長男のライブステージ。いぇい。


    全部そのまま持って行くと思っていた。

    減価償却の耐用年数は、とっくに超えていても、
    まだまだ現役だと思っていた。

    蓮舫さんばりの妻の仕分けにより、長年の仲間との突然の別れが訪れた。2位じゃダメなんでしょうかとは言えなかった。

    ワンピースでのメリー号との最後を思い浮かべた。
    もっと一緒に旅をしたいとの声が聞こえた。
    でも、船長(妻)の決定は絶対なのである。
    アイアイサー。


    そうなると当然、家具・家電を揃えることになる。

    新しい船員(クルー)はこんな感じ。
    ※ 買った順。

    ① 溶けないソファ
    床と合わせたウォールナットの4人掛けソファ。
    もう溶けない。高かった。資産計上。

    ② ライブができないテーブル
    同じくウォールナットの大きなダイニングテーブル。おかずニ品・飲み物だって机上に置ける。
    夢が叶った。夢にはお金が掛かる。

    ③ 大奮発テレビ
    壁掛け(長男対策) 60型のテレビ。
    グッバイ、カラフルライン。
    グッバイ、マイマネー。

    ④ 廃品じゃない冷蔵庫
    手をかざすと勝手に開く大きな冷蔵庫。
    もう水は漏れない。初めての無料じゃない冷蔵庫。
    長く使おう。定年を見届けて欲しい。

    大満足だ。頑張ったぞ我がクレジット。

    来月の支払い請求を考える。
    極貧大学生時代にシャープペンの芯を齧ったことがある私にとって、昼飯を抜くなんて朝飯前だ。
    何を言っているんだろう。


    そしてある日、妻が言った。
    「絨毯が欲しい」

    私は軽い気持ちで答えた。
    「じゃあ今度ニトリでも行こうか」

    すると妻は言った。
    「ペルシャ絨毯がいい」

    私はその時、ペルシャ絨毯を知らなかった。

    正確に言うと、存在は知っていた。
    アラジンが乗るやつである。
    ペルシアンも知っている。ニュースの進化系。
    きりさくが強かった。
    このあと、この絨毯が急所への攻撃となることを
    私は知らなかった。
    だから軽い気持ちで答えた。
    「いいんじゃない?」

    後日。
    実物を見に行った。
    妻の実家にもあるペルシャ絨毯を買ったお店だ。
    値段を見た。
    目玉が飛び出た。
    危うくペルシャまで飛んでいくところだった。
    ペルシャがどこか知らんけど。

    妻は生地を触っている。
    私は携帯で補助金を探している。
    「 絨毯 補助金 子育て世代 助けて 」
    夫婦で見ている方向が違う。

    妻は絨毯を見ている。
    私は冗談だと祈っている。

    結局、我が家にペルシャ絨毯がやって来た。

    高級感がある。
    美しい。
    職人技を感じる。
    一生モノらしい。
    なるほど確かに素晴らしい。

    揃えた家具・家電の中で一番高かった。
    国税庁のサイトで絨毯の耐用年数を調べてみた。
    涙でよく見えなかった。
    落ちた涙もペルシャは弾く。
    一生一緒にいてくれや。
    32歳で三木道三になった。

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    いまの俺にとっちゃお前が全て

    そして今、
    その上で次男のオムツを替えている。
    長男はアンパンマンのおもちゃを投げている。
    お菓子も落ちる。
    麦茶もこぼれる。
    一生モノと聞いていたが、
    毎日がきっとペルシャにとっては試練である。
    それでも不思議と嫌ではない。
    たぶんペルシャ絨毯も覚悟して我が家に来たのだろう。

    もし火事になったらどうするか。
    もちろん子どもたちを連れて逃げる。
    それが一番だ。

    だが、そのあとで少しだけ戻るかもしれない。
    ペルシャ絨毯を迎えに。
    うちに何かあったら、
    この絨毯は空を飛ぶ。
    私が飛ばすのだ。
    ペルシャに翼を授けるのは私である。


    そして、時が経った今思うことは、
    絨毯がある生活は最高だ。
    ペルシャじゃないといけないのかは分からない。
    でも、家族4人でペルシャ絨毯に座って、笑い合う家族の時間は幸せ以外のなにものでもない。
    一生モノ。いつか子どもたちが家を出て行くときに思い出してくれるものの一つになるだろう。
    現状、私より包容力がある。
    ペルシャの職人恐るべし。
    これからもたくさんの思い出をこの絨毯と刻みたい。


    最後に豆知識。

    ペルシャはイランだ。

    いらん情報だったかな。

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    また来てね。

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    青豆

     
     
    小さな田舎町で神主と中小企業診断士をしています。 妻と2歳と1歳の息子と暮らす日々。

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