【番外編】父、痔の手術で見栄をはる
サマンサが学生の頃の話である。
父が入院することになった。
普通は1日程度で退院できるところ、
父の場合は1週間くらいかかるという。
母「まあー、1週間も?(フッ)」
母「たかだか(フフッ)、痔の手術なのにねえー。オホホホホ」
母、こらえきれずに
笑っちゃってる。
すると父、
「笑い事ではない!!」
「本当に死ぬかと思うくらい痛いんだ!!」
父、プリプリカンカン。
母が声をかけても、
うんともすんともである。
そういう訳で
「母に代わってお見舞いよ!」
と術後の父の様子を見に行くことになった。
入院先は大きな病院。
聞けば、
父の勤め先が経営している病院とのこと。
病院へ見舞いに行ってみると、
父は個室に入院していた。
果物。
贅沢な花束。
風呂、トイレ、水道完備。
革張りソファの応接セットまである。
一介のサラリーマンの父。
思っていた以上にVIP待遇である。
父は手術後の傷跡が痛むらしい。
ナースコールを押しているところだった。
父「院長、お願いします」
サマンサ「・・・(院長?)」
しばらくすると、
本当に院長先生が病室に入って来た。
父「すみませんねえ」
院長「いえいえ」
父は院長先生に、
手術跡の傷のケアを
直々にお願いしているようだった。
院長先生はサマンサの方を見て、
「お嬢さんは、一度外に出ていた方が
いいかもしれませんね」
とおっしゃった。
父は
「まあ娘なんで大丈夫です」
などと言っていたが、
いや。
大丈夫じゃない。
娘でも嫌だ。
親とはいえ、
痔の手術跡を見たいかと言われれば、
見たくない。
私はありがたく病室を出た。
しばらくして
院長先生が帰られたので、
病室に戻る。
サマンサ
「わざわざ院長先生じゃなくても、
看護婦さんで良かったんじゃないの?」
父「看護婦さんじゃ恥ずかしいだろ。尻の穴だぞ。」
なるほど、それはそうかも。
父「実は今回の手術、会社には内緒なんだよ」
サマンサ「・・・え?」
父 「当然病名もだ」
サマンサ「え?じゃあ会社にはなんて言って休んでるの?」
父「海外旅行」
サマンサ「は?」
父 「俺、海外旅行に行ってることになってる」
サマンサ「・・・海外旅行?」
父 「そうだ」
父は真顔で頷いた。
いや、「そうだ」じゃないだろ。
サマンサ
「行き先は?行き先はなんて説明してんの?」
父「海外は海外だ」
サマンサ「お土産とかどうすんの」
……。
いや。
そもそも…
色々おかしくないか?
そこで私は、
気になっていたことを父に聞いた。
サマンサ
「この果物とお花は誰から?」
父「会社のみなさん」
サマンサ「へえ」
父「そう」
サマンサ「・・・」
父「・・・」
それ。
バレてるやん。
どう考えても
海外旅行中の人に、
日本の病院へ果物とお花は届かないのである。
しかし父は満足そうだった。
だから私は、
そのことを言わなかった。
帰る時間になった。
病院の玄関を出る。
ふと振り返ると、
父が入口のところで、
ずっと手を振っていた。
サマンサも手を振る。
歩き出す。
振り返る。
父はまだ手を振っている。
何度も振り返るたび、父は手を振り続けていた。
父の"海外旅行"の行き先は、
会社の皆さんから果物と花束が届く病室だった。
父は、
最後まで笑って
手を振っていた。
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