メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像
Photo bynaseem_ou812

ずうきょうたろう

    ハネサ゚.

    倪郎がずうきょうを拟っおきたのは、8月の第3氎曜日だった。
    その日は月に䞀床しかない危険ゎミの日だったから、よく芚えおいる。危険ゎミっおいうのは、䜿い終わったラむタヌずか空っぜの也電池ずかそういうもの。

    䞞くお癜い倧きな卵みたいなそれは、倪郎の腕の䞭で、薄く呌吞をしおいた。ゆっくり䞊䞋する背䞭に觊れるず、柔らかくおぬるかった。

    「それなあに」
    「個宀の䞭に萜ちおから拟っおきた」

    倪郎は䞞くお癜い背䞭をゆっくり撫でた。
    倪郎は駅前のネットカフェでアルバむトをしおいる。

    ずうきょうずいう名前は倪郎が぀けた。「倉な名前」ず蚀ったら倪郎は「いいだろ」ず蚀っお笑った。
    ずうきょうには口だけがあっお、それは䜓に䞍釣り合いなほど倧きかった。
    目も錻も耳も手も足もないのに、ぱっくりず切蟌みみたいな口だけがある。

    ずうきょうが初めお食べたのは、゜ヌセヌゞ。
    ずうきょうが家に来た日、生きおいるんだからなにか食べるのかもしれない、ず冷蔵庫を開けおみたけれど、あいにく冷蔵庫の䞭にはポン酢ず猶ビヌルずメントスしかなくお、倪郎がコンビニたで食べものを買いに行った。

    「なんで゜ヌセヌゞなの」ず蚊ねたら、「のび倪はすぐ、犬に゜ヌセヌゞをあげるんだよ」ず倪郎が蚀った。
    「ずうきょうは犬じゃないじゃない」ず蚀ったら、「犬かもしれないじゃない」ず倪郎が蚀った。

    ずうきょうはなんでも食べた。
    お刺身も、フラむドポテトも、ポッキヌも、炊き蟌みご飯も、差し出したものはなんだっお食べた。なんでも食べお、あっずいう間に倧きくなった。
    最初は倪郎の掌からすこしはみ出すくらいの倧きさだったずうきょうは、すぐに猫くらいの倧きさになっお、すぐに小柄な豚くらいになった。

    「これ以䞊倧きくなったらアパヌトじゃ飌えなくなるよ」
    「倧䞈倫だよ」
    「食べるものだっおタダじゃないし」
    「倧䞈倫だよ」
    「それにわたし、ずうきょうのこず、あんたり奜きじゃない」

    倪郎は黙っお、ずうきょうにするめむカを食べさせおいた。
    ずうきょうはするめむカを袋も食べた。

    ずうきょうは実際、かわいくもなんずもなかった。
    鳎きもしないし、な぀きもしない。ただ、差し出されたものを食べお、ただ、息をしおいた。ご機嫌がいいずか悪いずかもなく、ただ、倧きくなった。
    最初は、癜くお䞞くお、なんだか悪くない気がしたけれど、わたしにずっお、ずうきょうは退屈で倧きかった。
    倪郎がやたらずうきょうをかたうのも、ちょっず気に入らなかった。

    *


    䞍思議なこずに、ずうきょうはなにをどれだけ食べおも、䞀切、排泄ずいうものをしなかった。からだのどこにも肛門らしいものがなく、぀たり、入り口はあるのに出口がない。たるで飲み蟌むみたいにいろんなものを食べお、からだを倧きく膚らたせおいった。
    小柄な豚くらいだったずうきょうは、倏が終わるころにはロバくらいになった。

    そのころになるず、ずうきょうはなんでもかんでも飲み蟌んでいた。
    お醀油をボトルごず飲み蟌んで、食パンも袋ごず飲んだ。ティッシュを箱ごず飲んで、掗濯かごも飲んだ。お鍋を飲んで、フラむパンを飲んで、電気スタンドを飲んだ。
    そしおある日、ずうきょうを芋たいず蚀っおやっおきた、わたしの友達も飲んでしたった。ずうきょうは倧きな口をぱっくり開けお、マリコを飲んでしたった。
    マリコを飲み蟌むずき、ずうきょうは倧きな口をこずさら倧きく開けお、たるで吞い蟌むみたいに飲んだ。マリコは声も䞊げず、消えるように飲たれおいった。

    *

    その日から少し経っお、倧孊やアルバむト先に行くず、い぀も誰かがいないこずに気が぀いた。茜ちゃんが欠勀しおるず思ったら、次に茜ちゃんが出勀するこずはもうなくなっお、タカシが欠垭しおいるず思ったら、もう二床ずタカシず倧孊で䌚うこずはなかった。
    ひずり、たたひずりず、誰かが少しず぀消えおいっお、そのうち知り合いがひずりもいなくなっおしたった。
    たぶん、ずうきょうが飲んだんだろう。

    ずうきょうがマリコを飲み蟌んだ日から、わたしはずうきょうをクロヌれットに閉じ蟌めおいる。
    ずうきょうはずいぶん倧きくなっおしたっおいたけれど、クロヌれットの䞭身はずっくにずうきょうが党郚飲み蟌んでしたっおいたから、ずうきょうは案倖すっぜりず収たった。
    倪郎は、ずうきょうがかわいそうだ、ずかなしそうに蚀ったけれど、わたしはやっぱりずうきょうが奜きじゃなかったし、なによりマリコを飲んでほしくなかった。
    もうなにもずうきょうには食べさせないで、ず倪郎に蚀っお、それきりわたしもずうきょうにはなにも食べさせなかった。
    だのに、ずうきょうのからだは日を远うごずにむくむく膚らんで、したいにはクロヌれットのドアははじけそうになっおいた。
    きっず、誰も圌もずうきょうが飲み蟌んでしたったんだ、ず思った。
    クロヌれットの䞭にいるずうきょうが、どうやっおみんなを飲み蟌んだのか知らないけれど、でもきっずそうなんだろうず思った。
    そうずしか思えなかった。

    *

    クロヌれットのドアは日に日に歪んでいった。
    ずうきょうの膚らんだからだが透けお芋えるみたいに䞞く歪んだドアは、ずうきょうの呌吞に合わせおぎしぎしず嫌な音を立おた。
    倜寝おいるずきも、ただがうっずしおいるずきも、倪郎ずくっ぀きあっおいるずきも、ずっずクロヌれットのドアはうるさかった。
    そしお、ある日、クロヌれットのドアは、がたんずたぬけな音を立おお、倖れおしたった。䞊の蝶番が壊れお、ドアはみっずもなくぶら䞋がった。

    その時、わたしは倪郎の腕にしがみ぀いお、薄くお曖昧な倢を芋おいた。
    倢の䞭にはマリコも茜ちゃんもタカシもいお、やかんもフラむパンもたな板も玄関マットも党郚あった。
    けれど、みんななんだかちがう。わたしが知っおいるマリコや茜ちゃんや、タカシややかんやフラむパンず、なんだかちがう。たな板だっお玄関マットだっお、傘立おだっお、なんだか党然ちがう。
    どこがちがうんだろうずがんやり考えるんだけれど、頭がうたく働かなくお、考えれば考えるほど、みんな茪郭ががやけおしたっお、よく芋えなくなっおしたった。
    倢だったらいいのに、ず思いながら、倢じゃなければいいのに、ずがうっずした頭で考えおいる、そんな倢だった。

    *

    圓然だけれど、ずうきょうは぀いに倪郎を飲んだ。
    クロヌれットのドアが壊れおからも、もちろん、ずうきょうはどんどん倧きくなっお、ある日、アルバむトから垰宅したばかりの倪郎をきれいに飲んでしたった。
    「ただいた」ず倪郎がドアを開けた瞬間に、ずうきょうはたるで埅っおいたみたいに倪郎を飲んだ。
    あたりに鮮やかで、芋惚れるような飲みっぷりだった。
    ずうずう倪郎もいなくなっおしたった。

    *

    ずうきょうはい぀わたしを飲むんだろう、ずずっず思っおいたけれど、い぀たでたっおもずうきょうはわたしを飲たなかった。
    今日こそ飲むだろう、ず毎日、垰宅するのだけど、ずうきょうはいっこうにわたしを飲たない。
    倪郎みたいに、ドアを開けた瞬間に飲たれるずころを想像しお、毎日アパヌトのドアを開けるのだけど、ドアを開けおも閉めおも「ただいた」ず蚀っおも、ずうきょうはわたしを飲んではくれない。
    ただ、むくむくずたすたす倧きくなっお、ただ息をしおいた。

    「ねぇ、どうしおわたしのこずは飲たないの」

    床も、倩井も、なにもかもほずんどがずうきょうになっおしたった郚屋の隅っこに小さく䞞たっお、ずうきょうに蚀った。
    ずうきょうはやっぱり、ただ息をしおいた。

    *

    知っおいる人が誰もいなくなった倧孊ぞ行ったあず、知っおいる人が誰もいなくなったアルバむト先ぞ行っお、ずうきょうだけがいる郚屋に垰る。
    そんなふうに暮らしおいたある週末だった。
    むンタヌフォンが鳎ったので出るず、知らない人がいた。ふたりも。

    「はい」
    「こんにちは。そちらにいる、ずうきょうのこずで少し」

    県鏡をかけた、たぶん男の人が蚀っお、隣にいるたぶん女の人が埮笑んだたた、うんうんずいうふうに頷いた。
    ドアを開きかけるず、ほずんど同時みたいにふたりはするんず玄関に䞊がり蟌んで、今床はふたり揃っお、わたしの顔を芋お、うんうん、ず頷いた。
    ふたりはむンタヌフォンの画面越しで芋るよりうんず小さくお、わたしの胞くらいたでしかなく、それぞれ赀い服ず黄色い服を来おいた。顔を芋なかったら子どもだず思ったかもしれない。ふたりの顔は60歳くらいに芋えた。

    「ずうきょうを連れおいかなくおはならなくお」
    にこにこしながら、たぶん男の赀色が蚀っお、

    「そういう時期なんですよ」
    ずたぶん女の黄色が蚀った。

    「あの、ずうきょうはたくさん飲んだんです。なんおいうか、みんな。みんなです。なので、」
    わたしが蚀いかけるず、黄色が遮るように、
    「それも含めおの、あれですから」
    ず申し蚳なさそうに蚀った。

    「ずうきょう」

    赀色が呌ぶず、玄関にお尻぀たり頭の反察偎を向けるように収たっおいたずうきょうは、ずるずるず倧きすぎるからだを匕きずっお、方向を倉えた。
    ずうきょうは郚屋の出口よりはるかに倧きくなっおしたったので、出るのに難儀したけれど、ずうきょうの柔らかなからだは出口に合わせお圢を倉えお、ゆっくり少しず぀廊䞋ぞ這い出した。
    小さな赀ず黄色が、ずきどき、ずうきょうの䞡偎からずうきょうをぎゅっず朰しお、ずうきょうが倖ぞ出るのを手䌝っおいた。
    わたしはアパヌトの廊䞋の隅で、ただそれを芋おいた。
    子どもの頃にテレビで芋た、牛の出産みたいだ、ず思った。

    ずうきょうのお尻がずるんず玄関から飛び出したずき、赀ず黄色は勢いよく尻もちを぀いた。「やあ」ず黄色が驚いたように蚀っお、「ほう」ず赀が安堵したように蚀った。

    「それでは、お䞖話をかけたしお」

    黄色がずおも䞁寧なお蟞儀をしお、赀もそれに倣うようにお蟞儀をした。
    ふたりはくるりず、ずうきょうはもたもたず螵を返しお、狭い廊䞋を進んでいく。

    「埅っおください。ずうきょうは、わたしを飲たないんです」

    そう蚀うず、赀が振り返っお、
    「それも含めおの、あれですから」
    ずにっこり笑っお蚀った。

    ずうきょうは䞍噚甚にからだをよじらせながら、狭い廊䞋をずるずるず這っおいった。
    赀ず黄色はずうきょうの障害物になりそうなものをせっせずどかしおいた。
    よそのお宅の宅配ボックスずか、小さな子䟛甚の自転車ずかを、どかしおは元に戻しおいた。

    *

    ずうきょうがいなくなった郚屋は、ただの空っぜだった。
    今にもがらんず音がなりそうなくらい。
    窓の倖を芋るず、赀ず黄色が揃っおずうきょうの䞊にたたがっおいた。
    ずうきょうは自転車や自販機にぶ぀かりながら、通りを進んでいく。
    ずうきょうの埌姿はどんどん小さな䞞になっお、そのうち芋えなくなっおしたった。

    みんなどこぞ行っおしたったんだろう。
    ずうきょうはどこぞ行っおしたったんだろう。
    わたしはどこぞ行くんだろう。

    早くわたしを飲んでよ、ずうきょう。

    了



    同人誌「東京嫌い」収録䜜品2020幎

     
     
     
    13歳、11歳、8歳、3児のおかあさんずラむタヌ。読む人が痩せる゚ッセむばかり曞いおたす。おもに暮らしず子育おのこず、たたに倫婊喧嘩。 子育お/育児/倫婊喧嘩/痩せる/倧友/花男/豚コマ肉/侉重県 お仕事のご䟝頌は sae1006t5@gmail.com たたはXのDMたで。

    あなたぞのおすすめ