
Destiny君のことを一生忘れない 最終話
家族
日も暮れかかった時刻、あのホテルに俺は向かっている。
桃子にフラれたクリスマス、夏子に驚きの告白をされる寸前に過ごしたクリスマスを過ごしたあのホテルの店に今回は予約をした。
これが美琴と夏子と会える最後の食事だ。
誕生日に会えないのが本当に辛いがそれでも俺は美琴に誕生日プレゼントを準備して、夏子にもお揃いのハンカチを包んだ。俺のもお揃いで買ったことは内緒だ。
空に星が見える。
何もかも夢だったんだろうか。
あの日、全てを引き受けると言って夏子と結婚することを決めたこと。
美琴が生まれた日のこと。
いや、夢なんかじゃない、美琴のことだけは実の子ではないのにおかしい言い方かも知れないが自分の子が生まれたという不思議な幸せな気持ちになったのだ。それを夢なんかには出来ない。
美琴とは本当はずっと一緒にいたい。
美琴が結婚する時に美琴の隣りを歩きたい。
美琴がもし子供を産むならその子供を抱いてみたい。
そのくらいの愛を持って美琴を夏子とともに育ててきた。
でも、所詮は他人の俺がそこまでの気持ちになってしまったことこそが夏子にとっては重かったのかも知れないなと俺は俺を笑う。
山下公園を歩くと右手に見えてくる。
古く歴史のある著名人も宿泊したというホテル。
そこでいつかは桃子とクリスマスディナーを食べた。
その翌年に夏子とクリスマスディナーを。
そして、俺たちは美琴とともに家族になった。
俺の何がいけなかったのかは、どんなに考えてもわからない。そのわからないところが原因なんだろうとも思う。
桃子、Destinyってこうして終わることも含めてなのか?
山下公園でタクシーを降りる。
あの頃は飾り気もない公園だったが、今は薔薇がアーチ型に飾られるように咲いている。
観光地の写真スポットになっている。
遠くにマリーンルージュが見える。
サザンオールスターズの曲が聴こえてきそうな気分になる。
ふと目をやると、視線の先に美琴が見えた。
その隣りに夏子が美琴と話している様子が伺える。
俺としたことが二人を遠目に見ているだけなのに涙が出てきそうで慌ててハンカチで拭いた。
家族揃いのハンカチで涙を拭くなんて滑稽すぎる。
俺はしばらく二人を遠くから見ていた。
そこへ近づいていく家族がいる。
俺は目を凝らす。
父親と母親とそれに美琴と同じくらいか、少し若い男の子、春琴。
それがすぐに桃子と裕人と春琴だとわかった。
何故、ここに?
夏子は知っているのか?
美琴に裕人を会わせるつもりなのか?
そう考えている間もなく、美琴が俺に気がつき俺を呼んだ。
「お父さん!」
俺は呼ばれて美琴の方を見た。
俺と美琴と夏子を挟むようにして、桃子たちがいた。
夏子も桃子たちをチラッと見たが驚いてはいないようだ。
桃子たちは俺たちを見ていない、いや見ないようにしていると言った方が正しい。
やはり、示し合わせているのだろうか。
特に俺にそれをとやかくいう資格はないが。
とにかく俺は美琴だけを見て笑顔で「おぉ、久しぶりだなー!」と美琴に近づいた。
夏子も俺を見て軽く会釈する。
俺もそれに合わせた。
美琴が俺に向かって走ってくる。
赤いヒールを履いていて、転ぶのではないかと心配して「走ると転ぶぞ」と言った。
ちょうど、裕人と春琴のそばで転びそうになった美琴を、春琴が美琴の腕を掴んで助けた。
俺は駆け寄りそうになった足を止めた。
二人の会話が聞こえる。
「また転んでるよ」と春琴が笑う。
「うっさいなー!なんでまたいるのよ。でも、ありがとう。昨日の飴玉も、めっちゃ嬉しかったよ。」
と美琴が言った。
裕人が美琴を薄目で見ているのがわかる。
何も声はかけない。
美琴はそっと裕人に視線をやって微笑み、
「じゃあね、私これからお父さんとお母さんとこのホテルでディナーなんだー!」と言った。
桃子のことも見て桃子も美琴を見た。
お互いに微笑んだ。
「俺たちもだぜ。ここに泊まってんだ、昨日から。」
おそらく何も知らない春琴が心からの笑みで言う。
「そっか。じゃあね!」美琴は春琴にそう言って、俺のところに駆け寄ってきた。
それを追うように夏子も来た。
それぞれの家族はそれ以外の言葉を交わすことはなかった。
「お父さん、今日美琴楽しみにしてたんだ。」
俺の腕を掴んで美琴が言う。
俺は泣いたことを悟られぬように上を向きながら「このレストラン美味いからか?」と聞いた。
「違うよ!お父さんに会えることだよ。」
美琴の言葉に我慢出来ず、男泣きをしてしまう。情けない。また、揃いのハンカチの出番だ。
「お父さん、嬉しいの?」
「そりゃ、嬉しいさ。美琴と会えるのがお父さんの一番の幸せなんだから。」
そういう俺を夏子はハッとしたように見た。
そして、夏子は言った。
「これからも一年に一度と言わず、食事くらいは3人でしよっか。」
俺は夏子の言葉が嬉しくてさらに泣いてしまう。夏子が俺の背中をさする。
「そうだよ、お父さん!一緒に住んでも住まなくても家族は家族。美琴が結婚する時には絶対二人揃って出てよね!」
俺の腕を掴んだまま、美琴が言う。
「美琴、後は食事しながらにしよ。このままじゃ、レストランに辿り着けなくなりそうよ。」と夏子は俺の背中をさすりながら言う。
俺は小さな声で言う。
「夏子、美琴。ありがとう。お父さん、生きててよかったよ。」
夏子は美琴と反対の俺の腕を掴んで
「義行、私はあなたが嫌いで離婚したんじゃないの。私の心のわがままのせいなの。だから、一緒には住めないけれど、こうして家族でいられることは出来ると思うのよ。それでもいいかしら?」
と言った。
俺は、うんうんと頷きながらハンカチを握り締めた。
カバンの中には美琴と夏子にお揃いのハンカチが入っている。
早くこれを渡したい。
そんな気持ちになった。
「早く行こう!」
美琴が言う。
「そうね。」夏子も言った。
「Destiny」
そう桃子が呟いたような気がして俺は振り返った。
隣りを見ると夏子と美琴も振り返っていた。
少し離れた後ろの方から桃子と裕人と春琴が俺たちを見ていた。
振り返った俺たちに春琴だけが手を振った。
美琴も手を振った。
そして、俺たちはレストランへ入っていった。
終わり
Destiny君のことを一生忘れない全話収録マガジンはこちらです。
気になった方がいたらお読み頂けると嬉しいです😊
後書き
「Destiny君のことを一生忘れない」全12話を全て読んでくださった方、どれか一つでも読んでくださった方、全ての方に深いお礼を申し上げます。
普段は詩を書いて、日記を書いている私が小説を書こうと思ったのは、人と人の関わりが温かくどんなに辛いことがあっても助け合って生きていく心を書いてみたいと思ったからです。
ここに登場した人は皆、毎日を懸命に生きていました。
横浜を舞台にしたのは、私にとって一番思い出のある土地だからです。
横浜の風って、余所者に優しい。
そんなふうに感じるのは私のエゴでしょうか笑
誰のことも拒まない風が吹いている。
そんな気がして、度々足を運んでしまいます。
後書きが長くなりましたが、この作品を読んでくださった方の中に何かひとかけらでも残ったなら幸いです。
最後までお読み頂き、本当にありがとうございました。
歩美