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「ねえお母さん。いつか死ぬのに、どうして私は生まれたの。」#エッセイ


「ねえ、お母さん。
私はいつか死ぬのに、
どうして私は生まれたの!!教えてよ!!!」


小学校4年生の時、
私が母親にぶつけていた言葉だ。

母親になった今なら分かるが、
こんなこと言われたら
心臓がにぎり潰されたように苦しくなり、
呼吸ができなくなると思う。

気持ちがピークに達した時に、
私は決まってこの言葉を泣き叫んでいた。

答えが欲しかったわけではないのは
分かっていて、こういうことを言っていた。

「ごめんね」と言って、
私の頭をなで、ぎゅっと抱きしめる母の腕を
振り払うように身体を捻るが、
しばらくすると、その動きもやめた。

抱きしめられると、
途端に心が落ち着き、
涙も引いてくる。

「いやだ、いやだ。」

口ではそういうけれど、本当は、
気持ちは、だんだんと
戻っていっているのも
自分では分かっていた。

でも、絶対それに
気付かれてはいけない。
私は怒っている。
苦しんでいる。
私は大切にされるべきである。

母親を責めたいわけではない。
「産んでもらった」という考えがない
幼い私は、
母親の気持ちなんて微塵も考えられるはずはない。

ただ、こういえば、
みんなが私を気にかけてくれる。
今ぐらい、私がよしよしされたっていい。

今思えば、自分の気持ちに正直にいることが
どんなことか、分からなかっただけだった気がする。

友達に悪口を言われて仲間外れにされて悲しかったこと。

掃除でふざけていた上級生を注意したら、
「生意気な口を聞くんじゃない」と、
なぜか私が先生に怒られたこと。

同じことを繰り返す毎日に、
飽き飽きしていたこと。

そのフラストレーションに、
「強い私」は気づいていなかった。
なんだってひとりでできるから、
問題は自分で全部解決できるし、
そもそも気にしてなんかいないし。


「どうしたの?何か嫌なことがあったんでしょう。」

決して優しくはないが穏やかな母親の声。
強さを感じる。手慣れた声掛けだ。
遠くで、姉たちの笑い声が聞こえる。
やっぱりイラつく。

「何でもないって。
もう、とにかく、嫌なんだって。」

「そっかあ。」

私の背中を縦にさするお母さんの手。

(祖母になった今、母は、
「子どもが泣いていたらね、
背中をさすってあげればいいのよ。
それで落ち着くんだから。ね。あなたもそうだったでしょ。」というもんだから、
分かっててやっていたんだな。)

気づけば涙も止まっていたし、
もうなんで泣いていたかも忘れた。

「スイカあるよ、食べる?」

「......うん。」

「じゃあオレンジジュース、
出しておくね。」

私は泣き腫れた目で顔が赤いまま、
リビングに行く。
姉たちは私が来たことに気づいているはずなのに、こっちを見ない。
妹は、心配そうに私を見ている。
なんなら、妹まで泣きそうな顔でもある。

スイカはもうほぼ無くなっていた。
残っていたのは、種が多いスイカだけだった。


ああ、こんなことなら
泣いてないで食べておけばよかったと
後悔した。

ぽろん、ぽろん、と
気まずそうに皿に落とされる種を見た後、
少しパサついたスイカを
私は静かに歯茎で噛み締めた。


「ねえ、母さん。いつか死ぬのに、
どうして、ぼくは生まれてきたの。」

息子にそう言われたら、
私は何といえば良いだろう。


私が適応障害と診断された翌週に、
妊娠したのがこの子だった。


「この世から消えてなくなりたい」という思いが、
小学校の時から漠然とあったが、
誰にも言わないでいた。

それが大きくなり、
隠しきれなくなったのが社会人6年目。

異動先の新しい環境に違和感があったが、
それに気付かないふりをして仕事をしていた。

ある朝、起きようと思ったら、
いきなり身体が動かなくなった。

「これが"かなしばり"ってやつ?」
と頭で考えていた。
けど、その瞬間に涙が出てきた。

止まらない涙に、夫も気づき、
近くに寄ってくる。
何も言わずに、私の背中をさする。

それでもとめどなく流れる涙。
だんだん苦しくなってくる呼吸。

何もできなかった私は、
すべて夫に任せるしかなかった。

「何もできない私なら、
いなくなっても変わりやしない。」と
周りに迷惑かけずにいなくなる方法を
考えていた。

数日後、総合的に見てくれるクリニックに行き、話を聞いてもらった。
優しい声の先生は、
「適応障害といってね......」と、
すぐ診断書を書いてくれた。

その後、気づいた。
3週間も生理がきてないことに。
検査薬を使うと陽性。

いろんなことが突然過ぎてついていけない。

適応障害なのに、
妊娠ってどういうこと?

1番に、周りからの目が気になった。
なんて言われるだろう。と怖くなった。

次に、こんな私が子育てができるのか
自信がないと思った。
いつかいなくなろうと思っていた私のところへ、
どうしてこの子は来てくれたんだろう。

子どもは欲しかった。
だから嬉しかった。けど、、、。

夜になり、仕事終わりの夫に話した。
そしたら、夫は
驚き2割、嬉しさ6割、戸惑い2割のような
絶妙な反応をしてくれた。

私には大正解の反応だった。

「婦人科予約してみよっか。
もちろん一緒に行くよ。」


私がずっと前から決めてきた
産婦人科の予約を取った。


こないだ息子の2歳の誕生日を迎えた。

今の私には、
「この世からいなくなりたい」など
考える暇もない。

そんなこと考えているならば、
保育園のエプロンを洗いたいし、
明日の仕事の予定を確認したい。

それに、トーマスのイベントやグッズを
調べておかないといけない。

この子が私を生かしてくれている、と思う。

どうして生まれてきたかには答えられないけど
でもね、あなたがいてくれるから
ママは生きていけるよ。


「ママ、だっこおぉぉ〜〜」

素直に甘えられる息子は、
夫に似たのだろうか。

泣き叫ぶ息子の小さな背中を
大きくゆっくりなでながら、
「一緒にいちご食べようか。」
と、誘ってみる。

案の定、ぱぁっと明るくなる息子の笑顔を見て、
私はこの喜びを噛み締めながら
キッチンに向かう。


#創作大賞2026
#エッセイ部門

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