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08.僕の田舎暮らし|大嵐の日、タクシーが止まった

沖縄をスケボーで一周していた18歳の頃。

当然だけど、毎日晴れていたわけじゃない。

雨の日もあった。

風の日もあった。

それでも基本的には、スケボーを漕いだ。

お金もないし、ほかに移動手段もない。

漕ぐしかない。

ただ、一日だけ。

さすがにこれは無理だろう、という日があった。

大嵐だった。

雨というより、横から水をぶつけられているような天気だった。

風もすごい。

立っていることすら大変だった。

そして、そんな僕が着ていたのは、

なぜかサイズの小さいカッパ。

たぶん安かったんだと思う。

18歳で金もなかったし、サイズより値段を見て買ったんだろう。

身体に合っていない小さなカッパを無理やり着て、

びしょ濡れになって、

スケボーを抱えて、

大嵐の沖縄に立っていた。

今なら分かる。

どう考えても、スケボーをする天気ではない。

でも当時の僕には、

「今日はホテルでゆっくりしよう」

という選択肢もない。

ホテル代がない。

そんな時だった。

一台のタクシーが止まった。

タクシーの運転手さん、

運転手さんは、僕を乗せてくれた。

たぶん、

あまりにもかわいそうだったんだと思う。

小さいカッパ。

全身びしょ濡れ。

スケボー。

18歳。

沖縄一周中。

情報を並べれば並べるほど、

拾った方がいい感じがする。

ありがたく乗せてもらった。

これでひとまず助かった。

そう思っていたら、

そのタクシーがまた止まった。

見ると、大豪雨の中、

バス停で二人の男女がバスを待っていた。

新婚旅行で沖縄に来ていた夫婦だった。

運転手さんは二人にも声をかけた。

そして、

バスに乗るくらいの料金でいいから

と、二人をタクシーに乗せた。

こうして、

大嵐の沖縄を走る一台のタクシーの中に、

新婚旅行中の夫婦と、

タクシーの運転手さんと、

びしょ濡れでスケボーを抱えた18歳の鈴木少年が乗ることになった。

カオスである。

非常にカオスである。

たぶんこの先の人生でも、

このメンバーで同じ車に乗ることは二度とない。

旅というのは、ときどき、

意味の分からない組み合わせを作る。

そして、なぜか喫茶店へ。

新婚さんと別れたあとだったと思う。

運転手さんは、

この金のなさそうな少年をどうするか考えてくれたらしい。

そして僕を、ある喫茶店へ連れて行ってくれた。

運転手さんの知り合いの店だった。

正確に言うと、

運転手さんの愛人がやっている喫茶店だった。

急に話がややこしくなった。

なぜ僕が18歳で、

沖縄のタクシー運転手さんの愛人の喫茶店にいるのか。

自分でもよく分からない。

でも、

飯を食わせてもらった。

そして、

「ここで寝ていいよ」

と言ってもらった。

だから寝た。

金もない。

宿もない。

外は大嵐。

断る理由は一つもなかった。

その夜、

僕は知らない土地の、

その日初めて会ったタクシー運転手さんの、

愛人の喫茶店で眠った。

人生というのは、

計画していない日の方が、

あとになってよく覚えていたりする。

次の日

朝になった。

嵐がどうなっていたのかは、もうよく覚えていない。

でも、

一つだけ覚えている。

あの運転手さん、また迎えに来てくれた。

昨日たまたま拾った、

びしょ濡れの、

スケボーを持った、

金のない18歳を。

次の日まで気にかけてくれていた。

今考えても、本当にありがたい。

あの人にとっては、

旅の途中で見つけた変な少年を助けただけだったのかもしれない。

本人はもう、

僕のことなんて覚えていないかもしれない。

でも僕は、

ずっと覚えている。

一人でやってみたかった旅だった。

僕がスケボーで沖縄を一周しようと思った理由は、

自分で選択して、

自分の力で何かを成し遂げてみたかったからだった。

だから一人で始めた。

自分の足でスケボーを漕いだ。

雨でも進んだ。

風が吹いても進んだ。

でも、

旅を続けていくうちに、

少しずつ分かってきたことがある。

一人で始めたからといって、
一人で成し遂げなきゃいけないわけじゃない。

どうしようもない時に、

知らない人がタクシーを止めてくれることがある。

飯を食わせてくれる人がいる。

寝る場所を貸してくれる人がいる。

そして翌朝、

また迎えに来てくれる人までいる。

僕はスケボーで沖縄を一周した。

でも、

あの旅を自分一人の力でやったとは、

今でもまったく思っていない。

むしろ覚えているのは、

どれだけ漕いだかより、

途中で出会った人たちのことだったりする。

そして僕は、

そんな人たちの言葉を残したくて、

旅の途中、一冊のノートを持ち歩くようになった。

出会った人に、

一言ずつ書いてもらった。

今はもう、

そのノートは手元にない。

でも不思議と、

そこに書いてもらった時の嬉しさだけは、

今も残っている。

その話は、また次に。

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