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サンタクロースの条件

    【あらすじ】

    母子家庭で育った津軽は、中学3年の夏、母親から「父親はサンタクロースだ」と告げられる。
    半信半疑のまま進学した高校で、津軽は楽しいことが大好きな埜村と出会い、“クリスマス部”を結成する。
    そこへ、「去年からサンタが来なくなった」という高良が入部し、3人は“サンタが来なくなる年齢が人によって違う”ことを知る。

    サンタクロースとは一体何なのか。

    違うクリスマスを知っていく中で、津軽は、自分のクリスマスだけが少し特別だったことに気付き始める。



    第一章【サンタクロースの娘】

    「え?うち母子家庭じゃないよ?」

    そう言われたのは中3の夏休みのことで、
    私は食べていたスイカの種を吹き出した。

    「え、だっていないじゃん、私の父親って」
    「仕事が忙しいからね」
    「それにしてはいなさすぎでしょ、私会ったことないし」
    「あるわよ、毎年、クリスマスに」
    「クリスマス?毎年お母さんと2人だよ?」
    「あぁ、そうね、あなた寝てるもんね。あの人が来てる時」
    「寝てる?そんな夜に帰ってくるの?」
    「うん、だってサンタクロースが来るのは夜でしょ?」
    「うん?」

    「…サンタクロースだから、あの人」

    …真夏にサンタクロースの話をするのも、何だか変な感じがする。

    「…サンタクロースって、あのサンタクロースよね?毎年プレゼントくれる」
    「クリスマスソングにも絵本にも出てくる、あのサンタクロースです」
    「え、本当の話なの?そもそもお母さんとの歳の差すごくない?」
    「何で?」
    「だっておヒゲのおじいさんじゃん、サンタクロースって」
    「えー!まさかあのヒゲ本物だと思ってたのー!?あれ、ズラよズラ」

    思いっきり咽せた。
    つけヒゲって、ズラって言うのかな。

    「…全然実感ないんだけど、サンタクロースの娘とか」
    「そんなもんじゃない?お母さんだってサンタクロースの妻の実感ないし」

    ガリッと間違って種を噛んでしまった。
    そのまま噛み砕きながら探しても、言葉は見つからなかった。父親がサンタクロース…

    考えるのは止めよう。
    高校受験を控えた中3の夏、嘘のような母の話より受験勉強の方が大事だった。

    だから今は頭の片隅に、
    母のユニーク話の一つとして保存することにした。


    第二章【プレゼント2つ】

    忘れられない一コマがある。
    たった一度だけした、母との大喧嘩。

    きっかけは、とても些細だった。

    「どうして私には、お父さんからのクリスマスプレゼントがないの?」

    ほんの細やかな疑問だった。
    小3の冬、クラスメイトから聞いた話が衝撃的でそのまま母にぶつけてしまったのだ。

    母も、最初はいつも通りだった。

    「なぁに?それ、どういうこと?」
    「今日クラスの子が、お父さんからもお母さんからもプレゼントもらったって言ってて」
    「へぇー」
    「そしたら、そんな子ばっかりだった」
    「うん」
    「何で私にはないの?」
    「…クリスマスの朝、起きたらプレゼントあるじゃない」
    「それはサンタクロースからだよ、私が言ってるのはお父さんからのプレゼントだよ」
    「プレゼントが2つ欲しいの?」
    「え?」
    「ならお母さんが2つプレゼントするから、今度から欲しいもの2つ言ってね」
    「え、え…違う…よ?お母さんからは1個だよ、みんなもそうだもん」
    「みんな?」
    「だからお母さんから2個もらうのは違うよ…」
    「みんなに聞いたの?学校全員?」
    「ち、がうけど…」
    「じゃあこの話は、もうおしまいね」

    悲しかった。
    お母さんが話を聞いてくれていない気がした。

    「おしまいじゃない!!」

    私が大声を出したのは、あとにも先にもあの時だけだ。今のところ。

    「…」
    「みんな私を“お父さんからもらえなくて可哀想”って言ってた、私、可哀想なの?」
    「自分で可哀想だと思ってるの?」
    「…?」
    「ねぇ!自分を可哀想だって思うの!?」

    母の大声を聞いたのも、この時一度きりだ。
    これはもう二度とごめんだ。

    「…ごめんなさい…」

    気付いたら、謝っていた。
    何に謝ったのか、今でも分からない。

    「お母さん…ごめんなさい…怒らないで…」
    「…」
    「ごめんなさい…きらわないで…」
    「!」

    ただ、この時は
    母の深く傷付いた顔を見て、
    自分のせいでお母さんが悲しんでいる。
    その事だけが分かり、涙が止まらなかった。

    「嫌うわけないじゃん、大好きだよ」
    「……ほんと?」
    「本当の本当に大好きよ。絶対に、何があっても嫌わない、何があっても」

    あの時、心の底から安心して、

    母がいれば、もうそれだけでいい。

    本当に、そう思った。


    第三章【高校生デビュー】

    「自分の娘が高校生だなんて…私も年取るはずだよなぁ」

    なんとか受験を乗り越え、私は高校の制服に袖を通す許可を得た。
    まだ見慣れない制服姿の私をしみじみ見つめながら、母はカメラもないのにあらゆるポーズを私にリクエストする。
    仕事から帰った姿のまま、もう1時間ほど経つ。

    「…今日から毎日この制服なんだから、もういいでしょ」
    「何言ってんの。高校初日は今日しかないんだよ?」
    「…そんなに入学式に来られなかったのが残念?私は別に気にしてないけど」
    「んー」

    曖昧に笑う母を見て、私はもう諦めた。

    「お母さんが高校生になった日は、どんな日だったの?」
    「初日で友達100人できると思ってたのに全然でガッカリした」
    「それは3年かけて成し遂げる目標では」
    「あなたは、どんな高校生になりたい?」
    「んー…今は特に思い浮かばないけど」
    「まぁそうだよねぇ」
    「ただ卒業する時、もう大人になってたいかな」
    「大人?どんな?」
    「…スーツを着こなせるような?」

    目を見開いたあと、
    やっと満足したのか、ようやく母から「着替えてよし」の号令が下された。


    第四章【ないのなら、】

    「部活、何に入るか決めた?」

    そう聞いてきたのは、隣の席の埜村さんだった。
    人見知りなんて、言葉すら知らなさそうな笑顔を向けられれば、私だって自然と笑顔で話せる。

    「帰宅部かな、見た感じ入れそうな部がなかったから」
    「分かるー!実は私も!運動部が良かったんだけど、私が入りたいのが強豪すぎてついていけそうになくってさー」

    それは私の「入れそうな部がない理由」とは
    だいぶ違いそうだが、敢えて否定はしなかった。

    「中学の時、何部だった?」
    「中学も帰宅部だよ、正確には茶道部の幽霊」
    「あぁ、お菓子を食べるだけだと思って入った的な?」
    「そうそう。そしたら結構作法とかいっぱいあって覚えられなくて、ほとんど行かなかった」
    「ウケる」
    「そういう埜村さんは?」
    「埜村で良いよぉ!中学の時から名字呼び捨てで呼ばれてたから」

    …どうしよう、名字でも名前でも、クラスメイトを呼び捨てにした事がない。
    でもそれを言ったら、入学初日から「友達が少なそう」のレッテルを貼られそうな気がする。
    …レッテルも何も、事実なんだけど。

    「じゃあ…埜村、は?」
    「ソフトテニス部!だけどここって硬式なんだよねぇ。だから、小学校の時にやってたバレーでも良いなって思ったんだけど、バレー部は県大会の常勝校なんだって。練習ハードそうだし無理かなって」

    ふーん、と相槌を打ったが、話を聞く限り彼女はどちらも出来そうに思う。
    練習ハードそうって理由で避けるのなら、恐らく彼女は元々の運動神経が良くて、何でも出来るタイプなんだろう。

    「バドミントンも好きなんだけど、全国区の先輩がいるらしくって、絶対厳しそうじゃん?」
    「ずいぶん詳しいんだね」
    「うん、お兄ちゃんがいるの。ここの3年に」「そっか、なるほどね」
    「津軽は?きょうだい。あ、津軽って呼んで良かった?」
    「大丈夫だよ。私ひとりっ子」
    「いいなぁー!うちは3人兄妹。兄と私と妹」

    何が良いのか分からなかったが、曖昧に笑う。
    彼女のこの雰囲気から、明るくて賑やかな家庭を想像する。
    きっと、家族でクリスマスを祝うような。

    「あ、入るのがないなら作れば良いのか!」
    「え?」
    「だから部活よ、ないなら作るしかなくない?」

    いや…私には帰宅部という選択があるけど。

    「どんなのにする?好きなものを部活にしたいよね!」
    「…ん?」
    「運動部は練習場所とか顧問の確保とかが面倒だし、文化部が良いと思わない?」
    「待って。何で私にそんなこと聞くの?」
    「え?運動部が良い?意外だな」
    「いや運動は全く出来ないから嫌だけど」
    「だよね、それっぽいもん」
    「それに何の関係が…?」
    「一緒に作るんだよ、新しい部活。私と津軽で」

    たった今分かった、
    人見知りの私が彼女とすんなり話せた理由。

    彼女は母に似ている気がする。


    第五章【パーソナルカラー】

    「津軽の私服、大人っぽくてメッチャ良いね!」
    「……そういう埜村は、華やかな服が似合ってて良いと思うよ」

    私の服装が大人っぽいのは当然で、これが母のお下がりだからだ。
    お下がりというか私達は体型も好みも似ているので、服は2人でシェアしている。

    対する埜村はテレビの人が着てる服みたいで、
    キラキラ女子って感じだ。

    「まずどこ行くー?駅前に出来たカフェでランチしたいけど、まだ人多そうだしなぁ」
    「私も行ったことないけど、確かに多そう」
    「あ!ドーナツ屋さんのランチも良いな、ここから近いし美味しいし」
    「あー私そこも行ったことないな」
    「じゃあそこにしよっか!その後どうする?私、モール行きたいんだよね」
    「じゃあそこに行こうか、私行ったことないし」
    「どこも行ったことないじゃん津軽!」

    ケラケラ笑ってくれる埜村に救われる。
    お友達と休日に出かけるなんて初めてなんだから仕方がない…とは、言えない。

    「さすがドーナツ屋さん、デザートが選べるドーナツだ。津軽はどれにする?オールドファッション?」
    「何で一択?」
    「んーイメージ?」
    「…まぁ実際そうなんだけど」
    「良いね、私チョコー」
    「チョコも美味しそう」
    「じゃあ半分こしようよ」
    「え、いいの?」
    「いいも何も、私もオールドファッション好きだし。2人で2種類、美味しい思い出来るじゃん」

    はい、どうぞー。って言いながら、自分のドーナツを半分にして寄こし、素早く私のドーナツも半分にしてくれる。
    同い年なのに、ぼんやりしている自分が恥ずかしい。

    「なんかごめんね、やってもらっちゃって」
    「謝ることなくない?私こそ勝手に触ってごめんね、手はおしぼりで拭いたから」
    「それは全然いい」
    「そう?それは良かった」

    いただきまーすと明るく言う埜村に倣う。
    そういえば彼女には妹もいると言っていた。
    兄妹がいると、自然にこういう事が出来るんだ…自分を励ます。

    「ドーナツの真ん中ってさ、捨てちゃうのかなぁ?」
    「集めてまたドーナツにするんじゃない?知らないけど」
    「だったら最初から穴あけずに作れば良いのにね、もっといっぱい食べたい」
    「穴で大きさそこまで変わるかな?」
    「津軽って現実的だねぇ」
    「あ、ごめん。面白くないこと言って」
    「その発言がもう面白い」

    そう笑う埜村に、私が心配したような感情は起こらなかったようだ。少し安心する。

    「そういえばモール行きたいって言ってたけど、何か欲しいものでもあるの?」
    「そうそう!今年の我が家のクリスマスは、兄妹で競争するんだ。その為の材料を今から仕入れておこうと思ってさ」
    「クリスマスに競争…話が見えない」
    「こういうのは早めに始めないと、12月に仕入れ始めても冬のものしか手に入らないじゃん?差をつける為にも、春から始めておかないと!」
    「それは…そうかも?」
    「今だったら桜とか三色団子とかピンク系のものが狙いかな?クリスマスにピンク…メッチャ良くない?」
    「良いとは思うけど、そもそもクリスマスカラーの赤と緑にはちゃんと意味があるんじゃなかったっけ?」
    「そうなの?」
    「緑は何か…植物の色だから“永遠の命”とか“力強さ”、赤は確か…“神様からの愛”とか“神様の寛大さ”を表すんじゃなかったかな…違うかな」
    「あ、そうなんだ。じゃあマズイか」
    「…いや、待って。ピンクは赤と白のミックスって考えたら…そもそも白もクリスマスカラーではあるし、白は“純潔、純粋”…それを合わせるって意味では、“神様からの愛を受け取る純粋な心”ってテーマを持たせられるんじゃないかな?」
    「おおー!」
    「まぁ…今のはちょっと、自分でもよく分かってないけど…」
    「私もよく分かんないけど、凄い気がする!」
    「ひとりっ子の私にはクリスマスに競争って発想がそもそもないし」
    「私はクリスマスにテーマを持たせるって発想がなかったよ!それに津軽ってクリスマスに詳しいんだね」
    「そう?普通だと思うけど」
    「津軽の普通はレベル高いわ」
    「そんなこと…」

    「これってさ、もう活動理由じゃない?クリスマス」

    「どういう事?」
    「これを部活にしようよ、面白そうじゃん」

    新しいおもちゃを手にしたみたいに、
    埜村はキラキラした笑顔で言った。


    第六章【クリスマス部】

    「部って意外と簡単に作れるんだね、申請してから何日もかかるかと思ってた」
    「……どう考えても、埜村がテンションで押し切った感があるけどね」

    月曜日、さっそくと言わんばかりに埜村の行動は早かった。前の日に作ったという[クリスマス部新設申請書]なるものを右手、私を左手に持って、意気揚々と職員室に向かった。

    担任に延々とクリスマスを語り、最終的にクリスマス部がないのはオカシイ!この学校の欠点だ!と言い張り、担任を説き伏せたのである。

    担任の「…勝手にしてくれ」を飲み込んだであろう後の、「……受理した」が重く響いた。

    「さてと…まだ部員が2人じゃ部室も貰えなかったし、まずは新入部員の確保からだね」

    埜村がこんなに本気だとは思わなかった、本当に部を立ち上げるとも思っていなかった。
    でも、始まってしまった。

    「…無難に、ポスターとか描いてみる?」
    「良いねぇ、津軽は絵描ける人?」
    「景色とかは無理だけど…、サンタクロースとかツリーならギリ」
    「十分十分っ!クリスマスといえば、その2強でしょ」
    「あとは、具体的な活動内容だけど…」
    「ふふふっ…」
    「え、何?どうしたの?」
    「いや、津軽が一緒に考えてくれて嬉しいなって思って」
    「え、何で?」
    「だってクリスマス部を作ろうって言い出したのも、本当に申請したのも私だからさぁ。無理やり付き合わせちゃったかなって、思わなくもなくてね?」
    「そんな…別に無理やりじゃないよ」
    「うん、だから良かった」
    「……ポスターは1枚描いて、それをコピーして各階に貼っていく感じで良い?」
    「良いよぉ!さてと、具体的な活動内容だね」
    「あ、うん。ポスターにそれは書かないといけないし」
    「この部活ってさ、私達みたいに入る部活がない帰宅部がターゲットじゃん?」
    「ターゲット」
    「だからメリットがあると良いと思うんだよね。ほら、中学時代の津軽みたいに、お菓子が食べられるから茶道部入ろうみたいな人いるでしょ」
    「そういう人に刺さるポスター…」
    「あと純粋に、ちゃんとしたクリスマスやりたい人とかね」
    「12月に開くパーティーをより楽しくする為のクリスマス研究…」
    「それだ、それ!実際私も兄妹との競争に勝つって動機から始まってるし、クリスマス当日の為の部活だ」
    「競争に勝つって話まだ生きてたんだ」
    「勿論だよ!クリスマスって家によって違うじゃん?それが面白いし」
    「じゃあポスターの文言は…」

    〜クリスマスをセルフプロデュース!〜
    ・サンタからのプレゼント
    ・綺麗なツリーの飾り付け方
    ・盛り上がるクリスマスソング
    ・パーティーの定番メニューなどなど

    みんなでクリスマスを研究して
    楽しいパーティーを開こう!

    そんな文言の横に、私が描いたサンタクロースが笑っている。
    どこにでもいそうな顔。

    何故か少しだけ、目が離せなかった。

    各階にポスターを貼りながら、気付けば
    部員来ますように…と願っていた。


    第七章【初めての入部希望者】

    このまま部員2人かもしれない、なんて少しだけ思い始めていた頃だった。

    「クリスマス部の人って、自分ら?」

    放課後、他クラスの男子に埜村と2人で声をかけられた。

    「えっ!もしかして入部希望者だったり!?」
    「…うん、まぁ」
    「部長の埜村です!」
    「…津軽です」
    「高良。今はまだ、寄席部だけど」
    「兼部も全然オッケーだよ、ウチ」
    「いやもう辞めるつもり…代わりにここ入ろうかなって」
    「ほうほう!して、ウチの志望動機は?」
    「部活は入ってた方が有利だし、寄席部はつまんねぇし、そしたらポスターが目にとまった」
    「ええぇ…」

    見るからに埜村は、
    最初の入部希望者の動機にガッカリしている。

    「何で失望されてんの、俺」
    「いや全然そんな事はありません」

    高良くんは、少し間を置いた。

    「…サンタの研究するんだよね?」
    「あぁ、クリスマスに関することなら何でも」
    「…去年、来なかったんだよね」
    「「え?」」
    「サンタ。それまで毎年来てたんだけど…」

    少しだけ、視線を外す。

    「…だから、まぁ…」

    また、間。

    「一応…理由くらいは、知っても良いかなって」
    「っ!それ!メッチャ良いじゃん!ねぇ津軽!」
    「えっ…あ、うん…」
    「そんな面白い人を待ってました!ようこそクリスマス部へ!」
    「面白い、のかな…」
    「んじゃ、入部って事で良いな?なら、ちょっと行ってくる」
    「どこに?」
    「寄席部。退部届出してくる」

    数分後、本当に戻ってきた。

    「辞めてきた」
    「早っ」
    「で、まず何すんの?」
    「そうだなぁ」
    「……あの…高良くん、聞いて良い?」
    「何?」
    「…さっき、去年サンタクロースが来なかったって言ってたよね?」
    「そうだけど」
    「本当に来なかったの?…他の兄弟が持ってったとかじゃなくて?」
    「俺ひとりっ子」
    「親御さんが間違えて片付けちゃったとか」
    「毎年決まった日にくれるのに間違えないだろ」
    「でも、もし本当に来なかったのなら、これってメチャクチャ気になるやつじゃん!」
    「まぁ…来ないなら、その理由があるはずだし、気にはなるよ」
    「今後の活動内容が決まりました」
    「急に?で、なに?」
    「サンタってそもそも何?ってやつを3人でやっていこう!」
    「…何か微妙に違う気ぃするけど、まぁいいや」
    「津軽もそれでいい?」
    「え…?うん、そうだね」

    進む話を聞きながら、

    ——サンタって、何なんだろう。

    考えようとすると、いつも思考が止まる。

    “来るもの”なのか、“誰かがやるもの”なのか。

    それとも——思い出しかけて、やめた。


    第八章【サンタの合格ライン】

    「サンタとは何か」を調べる、というよく分からない活動が、その日から始まった。

    「で、何からやんの?」
    「まずは高良の今までのサンタから深掘りするのは?」
    「良いけど、別に特別なもんはねぇよ」
    「特別じゃないと思っているのは本人だけ、っていう事もあるからさ」
    「…今まで、どんなものを貰ったの?」
    「どんなって…靴とか時計とか」
    「結構良いの貰ってんなぁ」
    「多分イメージしてるのと違うぞ、時計は目覚ましだし、靴はバスケの」
    「バスケ?あぁ、部活?」
    「そ。でも中2の夏で辞めたから、貰った時には不要だった」
    「高良は部活辞めすぎじゃない?」
    「…だとしたら、何でバスケシューズだったんだろう?辞めたのに」
    「まぁサンタからのプレゼントなんだし、あるあるじゃね?」
    「…え?」
    「分かった!部活を辞めた高良は良い子じゃない判定だったんだ!だから去年は貰えなかったんだよ!」

    「嘘だろ、じゃあ俺今年も無理ってこと?」

    一瞬、笑えない沈黙が落ちる。

    「でも寄席部ってそんなに所属してなかったんでしょ?ならウチが本命だし、3秒ルールで大丈夫でしょ」
    「何の3秒だよ」
    「安心して、クリスマス部を信じなさい」
    「意味が分からん」

    こういう時の埜村はほんと、神だと思う。

    これまで
    サンタクロースが来ないかもしれないなんて、
    考えたことがなかった。

    高良くんの言う「来ない理由」があるのなら、「来る理由」もある。

    そんなことあるんだろうか。

    「津軽はどう思う?」
    「えっ?何が?」
    「今の話だよぉ」
    「高良くんが良い子じゃない話?」
    「何でだよ」
    「ほら、やっぱりそう思うよね?去年の高良はサンタの良い子の条件を満たさなかったんだよ!」
    「今のそんな話だったか?」
    「でも大丈夫、今年はクリスマス部に入って辞めずに良い子にしてれば貰えるはずだから」
    「埜村はこの部活を信じすぎじゃね」
    「…でも私、プレゼント貰う為に良い子でいようって意識したこと…ないかも」
    「あ、それは確かに私もだわ」
    「俺もないけど」
    「じゃあ私達は無意識で良い子だった、ってことじゃない?」
    「埜村が信じてんのは自分か」


    第九章【みな、平等?】

    「私思ったんだけどさ、サンタって何か条件がありそうな気がしない?」

    一旦それぞれで考察をし、後日みんなで集まってまとめようという話になった。

    「条件?」
    「中学の友達に聞いてみたんだけどさ、その子は小学校卒業した途端貰えなくなったらしいのよ」
    「俺より早ぇじゃん」
    「でもその子本人は別に気にしてなくって、というのもその子のお兄ちゃんもお姉ちゃんも小学生までだったんだって」
    「ああ、だからそいつにとって中学生になったら貰えないのが当たり前だったって事か」
    「確かに…何歳まで貰えるのかハッキリしてないもんね」
    「そうなの。だから、貰えなくなって当たり前だと思う年齢はみんな違う」
    「なら、“俺が良い子じゃない”って話、取り消せ今すぐ」
    「気にしてたの?」
    「…いや別に」
    「…でもそれだと、各家のルールってことにならない?」

    ずっとあった違和感を、私は口にした。

    「兄弟がそうだったからっていうなら、私や高良くんみたいにひとりっ子はどうなるの?」
    「あ、うーん…」
    「しかも同じひとりっ子でも、私と高良くんでも違うし」

    それなら、
    条件なんて最初からないんじゃないか。

    そう言いかけた時、

    「じゃあさ…」

    高良くんが、少し間を置いて言う。

    「来ないやつは、もうずっと来ないのか?」

    その言葉に、否定も肯定も浮かばなかった。

    プレゼントが貰える条件。
    私が思うほど、
    サンタクロースは平等ではないのだろうか。


    第十章【出張クリスマス】

    「間もなく我らのクリスマスが来る訳ですが」
    「結局俺等3人のままだけどな」
    「なので今年のクリスマスが盛り上がれば、入部希望者も増えると思うわけ。その為にも熱狂的に盛り上げるぞ」
    「必死か」

    私としては毎年母と2人か、母が仕事だったら夜まで1人のクリスマスだったから、もうすでに盛り上がっている。

    「クリスマス当日は、フリー入場のパーティーにしようと思うんだよね」
    「「フリー入場?」」
    「部員以外も参加オッケー、参加費は無料だけど自分で飲み食べする分は持ち込んでねって感じでやれば、出来なくはないでしょ?」
    「なら部員は何するわけ?」
    「空き教室を借りてきて会場にして、飾り付けしたり、クリスマスソングかけたりして、楽しそうな空間を演出するんだよ」
    「それは確かに楽しそう」
    「じゃあ俺、クリスマスソング担当で」
    「…意外なんだけど」
    「俺が飾り付けする方が意外だろ」
    「いやすぐに話に乗ったのが」
    「イヴから教室を借りてさ、部活という名目で3人でプレゼント交換しよう。もちろん会場セッティングもその時にするよ」
    「俺、女子の欲しいもんとか分かんねぇよ」
    「マジメか」
    「高良くんが一生懸命選ぶプレゼントなら、何でも嬉しいって私達」
    「マジメか」
    「結局サンタの条件は分からなかったけど、私達でやるプレゼントなら確実でしょ?」

    「……」
    「いいよいいよ高良、ありがとうなんて」
    「言ってねぇよ」


    「夜の学校って雰囲気あるよねぇ」

    クリスマス・イヴの夜、
    私達3人は合宿という名目で夜の学校にいた。

    立案者である埜村が誰よりもワクワクしていて、黒一点の高良くんは相変わらず、感情の見えない表情をしていた。
    私はというと、やはり、ワクワクしていた。
    母以外と過ごすイヴは、生まれて初めてだ。

    「高良さぁ、イヴを女子2人と過ごせる贅沢にもっと笑みをこぼしなさいよ」
    「別に楽しくないとは言ってないだろ」
    「楽しいとも言ってないじゃん、このモテまくりの状況を満喫したらぁ?」
    「イヴに問題なく部活してる時点で非モテなんだわ全員」

    いつも通りの2人の軽口でさえも、何だか特別に思えてしまう。
    母以外にプレゼントを用意するのも初めてで何にするかめちゃくちゃ悩んだが、とても楽しかった。

    「そもそもモテに部活関係ないですぅ、彼氏いないとか言ってないし私」
    「…え?埜村、彼氏いるの?」
    「津軽が知らない時点で嘘確定だろ」
    「あーうるさいうるさい、私語は慎め」
    「お前が始めた話題だろ」

    そんなお喋りをしつつも、私達は教室の飾りつけに取りかかる。
    明日はクリスマス、ここがパーティー会場になると思うと不思議だ。
    不思議で、何故か、くすぐったい。

    「ここに電飾付けるなら、延長コードいるぞ」
    「そんな事も、あろうかと!ウチから持ってきました!さすが部長!」
    「部長は関係あったか?」
    「そういえば埜村、クリスマスの兄妹対決はどうしたの?」
    「クリスマスに何の対決すんだよ、兄妹で」
    「埜村家には独自ルールがあるんだよ、気にしたって答えは出ないよ」
    「津軽の埜村に関する理解度高すぎね?」
    「ウチも本番は明日だよ!夜に決戦の火蓋は落とされるから、結果は電話するね」
    「うん、寝ずに待ってる」
    「マジか津軽」
    「よーし、飾り付けはこんなもんかなぁ。明日はとにかく生徒を呼び込んで、あわよくば新入部員を確保するぞ!」
    「あわよくば…」
    「…出来たら良いな…」

    高良くんと私の2人分のやる気を一身に背負ったように、埜村は張り切っていた。

    「よっし、じゃあ最後は私達のプレゼント交換で締めますかぁ」
    「やっとかよ」
    「どんな感じで渡す?」
    「やっぱ部長たる私からいこうか!」
    「ちょいちょい出る部長アピール何なん?」
    「まずは津軽に!はい、どーぞ!」
    「ありがとう、…!…可愛い、ワンピース?」
    「そっ。津軽の好みじゃないかもだけど、普段の私服と違うものがあっても良いかと思って」
    「うわぁぁ、嬉しい。ありがとう、大事に着る」

    凄い、綺麗な色のワンピース。
    こんなキラキラした服なんて持っていないから、凄く嬉しい。

    「今度それ着て遊びに行こう〜津軽」
    「うん!楽しみだよ。本当にありがとう」
    「ふふっ良いってことよ」
    「私から埜村へは、これだよ」
    「っ!待って、これ限定色のリップじゃん!」
    「うん、欲しいけど最近他のリップ買ったばかりだからって言ってたし、まだ買ってない?」
    「買ってない買ってない!めっちゃ嬉しっ!ありがとうね津軽!」
    「女子って感じだなぁ。悪いけど、俺はそんな気の利いたものじゃねーから期待すんなよ」
    「ここで高良がモテる男かどうかが試されるね」
    「ハードル上げんな、…2人分一緒に渡すぞ」
    「ありがとー、津軽一緒に開けよう」
    「うん、楽しみだね。…ポーチだぁ」
    「わぁ!お揃いじゃん!色違い!可愛い!」
    「可愛いねホント、ありがとね高良くん」
    「高良ナイスセンス!ありがとう!」
    「はいはい、どーいたしまして」
    「じゃあ私から高良には、これ!はいっ」
    「…どーも。って、これ、靴?」
    「まぁみんなで決めた予算内だから、有名なのは買えなかったけど、結構良さげじゃない?」
    「待て待て、何で俺のサイズ知ってんの?聞かれてないよな?」
    「え?そんなん高良の靴箱の上履き見れば一発じゃん、クラスは知ってるんだし」
    「何その行動力すごっ」
    「じゃあ次、私から高良くんに、コレどうぞ」「どーも………おっ、腕時計」
    「私も予算内だから、ホント大したものじゃない…好みじゃなかったらゴメンね」
    「いや全然?…普通に、ありがとう、2人とも」

    本当に珍しく、高良くんが小さく笑った。
    入部して数ヶ月、彼の笑顔は初めて見た。

    「高良って笑うんだ、表情筋錆びついてんのかと思ってたわぁ」
    「普通に嬉しかったり楽しかったら笑うわ」
    「それは良かった」
    「このイヴパーティーした甲斐があったね!」
    「あ、そーいや…」
    「んー?」
    「なに?」

    「……メリークリスマス、

    …ってニヤけてんじゃねーよ」


    そして、クリスマス当日。

    1年目のパーティーは、
    結論から言って大成功だった。

    参加費無料で好きに飲食物を持ち込めるという事で、私が予想した以上の人数が来てくれた。

    3人で頑張って飾った会場はたくさんの生徒で賑わい、みんなツリーやリースや電飾を褒めたり写真に収めたりしてくれた。

    中には入部してくれた人もいて、彼らは全員他の部に所属(そちらが本命)してて、12月にだけクリスマス部に参加する(埜村は彼らを師走部員と名付けた)のだが、それでも部員が(見た目上)増えたことには違いない。

    「という事で!私達クリスマス部に部室が与えられましたー!!!拍手ー!」
    「やったね」
    「学校から俺達へ、クリスマスプレゼント」
    「あ、そういえば高良くん」
    「?」
    「今年はサンタクロース、どうだった?」
    「あぁ…」

    高良くんはどこか晴れやかな顔をしていた。

    「悪くなかったよ」
    「何が?」
    「ま、大事にする。せっかく貰ったし」

    どこか楽しそうな彼の声は弾んでいて、
    でもその後続く「片付けダリぃ」と言う声はもう、いつも通り気怠げであった。


    第十一章【サマークリスマス】

    年が明けて学年が上がっても、私達は相変わらずクリスマスの話で盛り上がっていた。

    「うちのプレゼントには毎回メッセージカードをつけてくれるんだよ」
    「えー凄い、直筆初めて見た」
    「津軽ん家はついてないの?」
    「カードは…ないかな、だから埜村のコレ普通に羨ましい」
    「でも毎年“気に入ってほしい”って書いてあるの、保険だよね」
    「保険?」
    「そー。“希望が外れてても気に入ってね!”っていうサンタなりの保険の掛け方じゃない?」
    「何それ、外れるとかある?」
    「あるでしょ普通に、サンタも全知全能の神じゃないんだし」
    「あ、それはそっか」

    サンタクロースも、人の親かもしれないしね。

    「でも、サンタから貰える事に意味があるよね」
    「まぁね。でもそこまで大きく外れないよね?」
    「えぇー?年によるくない?それもガチャ要素で楽しいから良いんだけど」
    「ガチャって…そこまで言う?」

    二人で笑いながら、
    これまでのプレゼントを思い出す。

    たくさんのものをもらってきたが、
    外れた記憶が…なかった。

    「喜べよ部長、俺達にもついに後輩が出来るぞ」
    「っっ、マジで!?でかした!」

    部室に入ってきた高良くんは、埜村の心を鷲掴みにする話を持ってきた。

    彼は意外にも部活の出席率が高く、クリスマスが終わってもずっと飽きずに部員でいてくれる。

    「まぁでも師走部員だけどな。俺のバスケ部時代の後輩で、高校でもバスケ続けるってさ」
    「いや全然いいよ。でも確かバスケって12月にデカい大会ないっけ?」
    「知ってたんか、そうだよ」
    「大丈夫?クリスマス来れる?ウチは師走部員は許すが、幽霊部員は許さないからな」
    「大丈夫。本人は難しいかもだけど、友達多い奴だから、他のやつ連れてくる」
    「高良…素晴らしい後輩を持ったね、部長として誇りに思うよ」
    「そんな誇られても」
    「後輩かぁ…私、先輩って呼ばれたことないから楽しみだなぁ」
    「そうなの?言ってくれれば私がいくらでも呼んであげたのに」
    「タメからの先輩呼びは謎すぎるだろ」
    「よし!我々エリート部員3名は、夏合宿を行いたいと思います」
    「何が“よし”なのか」
    「夏合宿?良いね、部活っぽい」
    「一応は俺等も部活な」
    「思ったんだけどさ、サンタって夏に何してるのか、気にならない?」
    「本当だ、確かに」
    「気にしたことなかったな」
    「でしょ?だから夏のサンタクロースを調査するの、面白そうでしょ?」
    「結構苦労しそうだな、資料集めとか」
    「だから合宿する意味があるんじゃん!さっそく先生に泊まりの許可取ってくる、2人は都合悪い日とかある?ないね?」
    「「ない」」
    「よく言った、じゃあ行ってくる」
    「よく言った…とは」
    「何か部活らしいね」
    「そうか?」

    ちょっと夏合宿、楽しみになってきた。

    「それでは!本日より、一泊二日の夏合宿を始めますっ!」
    「クリスマス部で夏合宿って、季節外れ感すげぇけどな」
    「まぁ、私達は年がら年中クリスマスだから」
    「それだと響きがパリピだぞ」
    「パリピ…」
    「何でちょっと嬉しそうなんだよ津軽」
    「まずは開放されてる内に図書館で資料を集められるだけ集めて、部室に運び込む。そして部室で調べて資料をまとめたりしよう、あと途中で議論挟んだりする感じで」
    「思ったより、ちゃんとした合宿なんだな」
    「あんたは私を何だと思ってんのよ」

    こうして、クリスマス部初の夏合宿が始まった。

    クリスマスに関する本はとてもたくさんあって、学校の図書館にある日本の本だけでもかなりの量になった。それに外国の本も加えると、3人でも結構時間がかかった。

    「うー疲れたー、この筋トレだけでも合宿の意味あったよね」
    「本を運ぶことを筋トレとは言わねぇよ」
    「あ、このサンタクロースの本、私最初に使っていい?」
    「津軽はブレねーな」
    「そういえば津軽ってさ、絶対にサンタクロースって言うよね。サンタじゃなくて」
    「え…?そうだっけ、そうかも…?」
    「略すの苦手なタイプだっけ?」
    「いや別に。こだわりもないし」
    「そもそもサンタクロースって英語?」
    「語源はオランダ語で、その英語訛りじゃなかったかな。サンタクロースのモデルになった人も、確か実在の人物だよ」
    「津軽ってホント、クリスマスに強いよな」
    「そう?別に普通だよ」
    「もし自分がサンタなら、夏に何する?」
    「俺なら遊びに行くかなー」
    「サンタクロースが遊んでる姿…可愛いかも」
    「絶対あのヒゲ暑いよね、真夏とか」
    「あぁ、でもあれは…」

    ズラだよ、って言いかける。危ない。

    「少しは剃るんじゃない?分かんないけど」
    「だよねー、目立つだろうし」
    「バレないように変装して、人気商品のリサーチとかするんじゃない?」
    「ミシュランの調査員みたいだな」
    「実はすれ違ったこと、あったりして!」

    埜村の話を聞きながら、父親かもしれないサンタクロースと自分がすれ違う場面を想像してみる。
    私は絶対に気付かないけど、父親は?
    気付いて、
    こちらを見つめたりするんだろうか。



    第十二章【クリスマスの花火】

    「部活の合宿とはいえど、自分達の夏の思い出も欲しいよね!」

    調べ物を終え、学食で夕飯を食べに来ていた。
    学食はとても賑わっていて、普段学食を使わない私には物珍しかった。
    同じく学校で合宿している他の部活生(ほとんどが運動部)に埋もれながら、こじんまりと3人でまとまって座った。

    「夏の思い出?」
    「青春を駆ける高校生の夏に、思い出がないまま大人になる訳にはいかないでしょ」
    「そんなことねぇけどな」
    「私にとって夏合宿も十分夏の思い出だよ」
    「津軽の合宿の思い出が良いものになりそうで私も嬉しいけど、この思い出はもう一段階グレードアップ出来ると思うんだ」
    「グレードアップ?」
    「このあと3人で花火しようよ」

    埜村の突拍子もない提案に、
    私も高良も動きを止めた。

    「学校で火を使うのはアリなのか?」
    「別に校舎に火を放つわけじゃないし問題ないでしょうが」
    「怖いこと言わないでよ」
    「先生に見つかったらヤバくね?」
    「ビビリだなぁー、といいつつ私もバレたら怖いから事前に先生に許可取ってある」
    「マジ?よく許可してくれたね」
    「イルミネーションの参考にするためです!って言い張った」
    「言い張ってる時点でこじつけだろ」
    「何でも良いんですぅ、それとも高良くんは花火しないんですかぁ?津軽と2人で見せびらかしまくるぞ」
    「いや、やるけど」
    「はい満場一致!食べ終わったら屋上行くよ」

    屋上!?
    驚く私達を見て、埜村はサプライズが成功した子供のように誇らしく笑った。

    「随分な種類の花火だな」
    「埜村家が保有する花火の中から、私が好きなの厳選してかっぱらってきた」
    「後々兄妹争い起きない?それ」

    静かな夜の屋上、自然と3人の声は小さくなる。
    私にとって初めて来た屋上。
    まさか夜に来るなんて、思ってもみなかった。

    「さぁ、どれからやる?好きなの選んでー」
    「俺こういう花火やったことないんだけど、オススメとかあんの?」
    「へぇ、意外」
    「別に全ての家庭が花火やるわけでもないだろ」
    「いやそうじゃなくて、オススメを聞くのが」
    「あ?」
    「高良くんならテキトーに選びそうだなって」
    「何だよそれ」

    何故か高良くんは嬉しそうに鼻で笑った。

    「オススメはこれかな、結構派手でいっぱい火花出るし長持ち」
    「んじゃあソレで」
    「両手に持っても楽しいよ!」
    「そんなもん?」
    「そんでクルクル回るのさぁ」
    「埜村を一瞬でも信じたのが間違いだった」
    「高良くんがクルクルしてるの面白そう」
    「期待すんじゃねーよ」

    たくさんあるように見えた花火も、3人でやるとあっという間に終わった。

    「残るは定番の線香花火だね」
    「何で線香花火って最後ってイメージなんだろ」
    「それはもう条例で決まってるから」
    「どこの地方だよ」

    いつの間にか3人で集まり、周りから隠すようにしゃがんで火をつける。

    パッと一斉に火花が弾ける。

    「合宿の良い思い出が出来て良かったー」
    「楽しかった、埜村ありがとね」
    「こちらこそ!2人とも私がやりたかったことに付き合ってくれて、ありがとう」
    「どーいたしまして」

    「実は私、中学ん時の部活があんま楽しくなくってさ。夏合宿もあったんだけど、レギュラー争いが凄くてバチバチだったんだ」
    「そうだったんだ…」
    「みんなで勝とう!とか、みんなで頑張ろう!とか全然なくて。息が詰まるような部活だった」
    「ウチと真逆だね」
    「ここは深呼吸どころか鼻歌も歌えそうなお気楽さだもんな」
    「…だから今日は、本っっ当に楽しくて、本当にやって良かったなって思った。ありがとう」

    初めて見せた埜村の表情に、
    私も高良くんも静かに頷いた。

    「さて、最後にジャンケン勝負といきますか」
    「は?」
    「え?」
    「負けた人には、この花火の後片付け係をやってもらいます!」

    夜の屋上で、花火のあと。
    負けられない戦いが、静かに始まったのだった。


    第十三章【セカンドクリスマス】

    例の高良くんの後輩は、本当にたくさんの1年生を送り込んでくれた。
    “元”とはいえ先輩の言うことは絶対!という動きは、私のイメージする運動部そのものだった。

    おかげで2回目のクリスマスパーティーも、無事成功した。今年は前回より規模を大きくしたため忙しく、去年のように3人でのイヴは出来なかった程だった。だから3人で簡単にプレゼント交換しただけだったのだが、それを埜村が許すはずもなく、来年はクリスマスの後夜祭をやることが早々に決まった。

    新入(師走)部員も少し増えて、
    少しずつ賑やかな部活になってきた。

    「わぁ!津軽、今年はピアスもらったんだ!メッチャ良いじゃん」

    新しいピアスをつけて登校した朝、埜村は目ざとく私の耳を指さす。

    「よく分かったね、これがサンタクロースからだって」
    「あ、サンタからなんだ?てっきりお母さんからかなって思った」
    「何でお母さん?」
    「だってそれずっと欲しいって言ってたやつじゃん、だからお母さんに直接お願いしたのかなって思った」
    「あ、うん、欲しかったけど…」

    だからこそ、サンタクロースにお願いした。
    一番欲しいものをくれるのが、サンタクロースだから。私にとっては。

    「それより見てよ、私の今年のプレゼント!マジウケるから」
    「何もらったの?」
    「見てー!覚えてる?これ去年の私が欲しかったやつー!」

    もちろん覚えている。
    それは去年、埜村が欲しいと何度も言っていた
    新作のスマホケース。
    当然、それはもう新作ではない。

    「今までも外れはいっぱいあったけどさぁ、ピンポイントで去年の欲しいものが来たのは初だったわー」

    去年も、一昨年も、その前も、
    私のプレゼントが外れたことはない、気がする。

    「でもこれはこれで面白いから、メッチャ嬉しいけどね」
    「埜村ずっと笑ってるもんね」
    「サンタが去年欲しかったものを覚えてたとしたら、逆に愛を感じるよ」
    「…確かに、それは愛かも」

    外れたことがないのは、
    私だけだったのだろうか。


    第十四章【誰かの話】

    高校3年生にとって、
    とにかく関心は進路の事である。
    大学、専門学校、就職。
    たくさんある道の中で、自分が望むものを探す。

    「由緒正しきクリスマス部の部室が、こんな受験勉強の場になるなんて…」
    「創部3年、正規部員3人の弱小部だろ」
    「何言ってんの?今年の1年は正規部員よ?」
    「え?ならその1年はどこに?」
    「自分達の教室みたい。まぁ古参の3年が陣取ってたら入りにくいわよね」
    「自覚あって占拠してんのタチ悪くね?」
    「何言ってんの、もうすぐ卒業する創設者を労ってのことでしょうが」

    卒業。
    進路を考えることで、その現実から目を背けてる気がする。高校生活が楽しかったのは事実だが、
    別に卒業したくない訳じゃない。

    だけど、私の中で何かが終わりそうで
    この感覚を上手く説明出来ずに、
    考えないようにしていた。

    「はー、もう大学とかどこ選べば良いのかマジで分かんないんだけど!」
    「高3でその疑問を持つのは遅すぎるだろ」
    「持ったのは1年ですぅ、未解決なだけですぅ」

    未解決…
    その響きに心がざわつく。

    「だから津軽は凄いよね!就職って最初から決めてたもんね!」
    「凄くはないけど、入学した時には決めてたよ」
    「俺も就職にしようか迷ってんだよね」
    「高良はまだ決めてないから凄くないよ」
    「別に埜村に褒めてもらいたいとかねぇわ」

    「高良くんは何で就職?」
    「ん?元々卒業したら家を出ることは決めてて、なら進学よりも自分で生計立てられる方が良い気もするし」
    「一人暮らししたいんだ?」
    「それもあるし、早く親も2人でいたいだろ」
    「あ、そっか。お母さん再婚されたんだっけ」
    「つっても俺が小学校の時だからもう普通に家族だし、良い奴だけどな」
    「2人の時間を作ってあげようとするの親孝行だね、良いと思う」

    そう言うと、高良くんは何故か驚いた顔をした。

    「え?なに?」
    「…親孝行って言われるとは思わなかった」
    「そう?」
    「いろんな形があるってことだね、クリスマスも親孝行も」
    「何で急に埜村がまとめるんだよ」

    誰かの話を聞いて、自分を知っていった。
    そんな高校生活だったな、と
    私も急に自分でまとめるのだった。


    第十五章【アフタークリスマス】

    後日、私と高良くんは埜村の家に招かれた。
    出来なかった3人のクリスマスパーティーが開催されるのである。

    「ご飯系はウチのママンが用意してくれたから」
    「凄く豪華だね、有り難い」
    「それにしても賑やかだな、想像通り」
    「お兄ちゃんが帰ってきてるから妹がはしゃいじゃっててね、それにクリスマスが2回出来るのも嬉しくてはしゃいでる」
    「なるほど、妹ちゃんはお兄さん大好きだしね」
    「私には反抗的なくせにさー。ちょっとあの兄妹止めてくるから2人は先に食べてて」

    いつも通り賑わう埜村兄妹を見て、微笑ましい気持ちと羨ましい気持ちが混ざる。
    何度も話には聞いていた。もはや予想通り過ぎて既視感すらある、埜村家の賑わい。

    「私が子供の頃にイメージしてたクリスマスそのものだな、ここのクリスマスは」
    「そうなのか?」
    「うん、だから羨ましいんだと思う」
    「何で?」
    「ウチはいつも母と2人だけのクリスマスだから、賑やかでは全然ないし」
    「でも津軽は、いつもその母親とのクリスマスの話、楽しそうにしてるよな」
    「楽しそう?」

    「おん。だから、その津軽のクリスマスを羨ましいと思う奴、普通にいると思うけど」


    「……」

    「何だよ」

    「いや…高良くんが他所の家のことをそんな風に話すって、あんまなくない?」

    「お前の中の高良くん、どうなってんの?」

    「感心してるだけ、凄いね高良くん」

    「心こもってねー」


    そんなことは全然ないのだが、
    敢えて否定もしなかった。
    伝わっている、手応えがあったから。


    「よーし!戻ったよぉ!3人で改めて乾杯しよー!」

    「はいはい」

    「乾杯しようしよう」


    楽しいクリスマス後夜祭の始まりだ。


    第十六章【一張羅に身を包んで】

    「何回来ても買い物は楽しいよねぇ」
    「買っても買わなくてもね」

    多趣味な埜村だが、買い物が一番の趣味で目的があってもなくて、楽しそうにお店を回る。

    「津軽は私と全然違うタイプの服が似合うから、一緒に服探すの楽しすぎるんだよねぇ」
    「私は埜村に言われるまで、自分に似合う色なんて考えたことなかったよ」
    「何言ってんの!明るい色にも落ち着いた色にも、この世に自分に似合う色はいくらでもあるんだから。試さなきゃ損だよ?」
    「そうだね、埜村がくれたワンピースも私にとっては“チャレンジ”だったしね」
    「似合ってるよ、さすが私」
    「ホントにね、さすが私」
    「あっ!これとか津軽に似合うんじゃない?」
    「今まで持ってないタイプだなー、可愛いね。…私に似合うと良いけど…」
    「大丈夫!自分が“良いな”と思って着るものに、似合わないとかないから!」
    「埜村ってアパレル向いてそう、カリスマ店員の才能あるよ」
    「そんなに褒めても、次のクリスマスまではプレゼントないよぉ」
    「そっかー、ざんねーん」

    次のクリスマス。
    その時に着る服を今から厳選しなきゃ。
    自分の似合う服。

    「でもアパレルかぁ、津軽に言われたら何かそういう道もアリな気がしてきたな」

    満足するまでお店を回った後、カフェで向き合いカフェオレを飲む。

    埜村はいつも私の言葉ひとつひとつ、
    丁寧に受け取ってくれる。

    「お客さんに似合う服を提案して、凄く褒めてくれそう。初デートの服とか、一緒になって悩んで考えてくれそうだもんね」
    「一歩間違えばお節介だな、気をつけよぉ」
    「埜村の場合そうならないのが不思議」
    「そ?マジで?」
    「うん、マジで」
    「なら才能アリかも私」
    「うん、ステキな才能」
    「津軽は私を褒める天才よな〜」
    「褒めるとこがいっぱいあるってことだよ」
    「津軽ってね、少しウチのオバアに似てる」
    「埜村のおばぁちゃん?」

    仲良し家族の埜村家だが、
    祖母の話は初めて出た。

    「すっごいパワフルな人でね!趣味も多くていつも楽しそうで、どんな時も幸せそうな人だった」
    「…私より、埜村によく似てるよ。当たり前か」
    「似てる?なら嬉しいな。オバアみたいな人になりたいって、ずっと思ってきたから」
    「憧れなんだね」
    「うん。一緒にいると周りを明るくするような、周りも楽しくなるような人」

    本当によく似ている、私の目の前の埜村に。

    「…でも悩みがないわけじゃなかったの、辛い時も大変な時もあったんだ」
    「うん」
    「そのオバアがずっと闘病してたって知ったのは、亡くなった時だったんだよね」
    「そうだったんだ」
    「全然分からなかった、そんなの微塵も感じさせなかった。おかげで私は、オバアとの思い出には楽しいものしかないの。笑顔のオバアしか記憶にない、何なら爆笑してるイメージばっか」
    「ステキなおばあちゃんだね」
    「でしょ?」
    「お会いしたことないのに、何か埜村のオバアを知ってる気がするもん」

    目をキラキラさせて嬉しそうに笑う
    埜村のその笑顔は、
    初めて見たような気がした。


    第十七章【試着室の奮闘】

    「いつも思うんだけど、こうやって一緒に服選び出来る瞬間が一番“母と娘”感出ると思わない?」
    「分かるような…分からないような…」

    無事面接を受けた会社からの内定を貰い、春から社会人になる事が決まった。

    内定通知を開いた瞬間、歓喜の雄叫びを上げたのは母が先で、私は完全に出遅れてしまった。自分の事なのに。

    「埜村ちゃんに電話しようよ!」と急かす母は、まるで彼氏が出来たことを早く友達に報告したい女子高生のようだった。時々、母は私より女子高生だ。

    「スーツってパッと見同じようでも、形とか生地感とか色々違うんだね」
    「そうだよ〜スカートの形とかね」
    「あ、ホントだ。ヒラヒラしてたり、タイトだったりするんだ」
    「職場的には何か規則あるの?」
    「色の指定だけある、黒またはグレー」
    「赤とか白とかはダメなんだぁ」
    「紅白が許される職場の方が珍しくない?それ。でもブラウスは何色でも可」
    「おっ!楽しいじゃん。何色にする?」
    「ピンクとか可愛くて良いかも」
    「ピンクならこの辺りに並んでるよ」
    「埜村が淡いピンクのワンピースくれたじゃん?それ以来、ピンクも良いなって」
    「あれ貰った後、あなた何時間もワンピース眺めてたもんね」
    「何時間もは話盛り過ぎ」

    急に恥ずかしくなって、試着でもしてこの場から退避しようと思った。
    試着室まで移動し、そこで軽く絶望する。

    『ご試着の際は 
     必ずスタッフへお声掛けください』

    「……」
    「店員さんなら、あそこにいるよぉ」
    「お母さん…」
    「なぁに?」
    「…店員さんに声かけてきて欲しいです」
    「はい、よく言えました」

    まだ私は高校生だから、と。
    頭の中1人で言い訳をした。

    試着室には2つのスーツを持ち込んだ。
    1つは私に似合いそうな形の、
    もう1つは私が好きな形のスーツだ。

    まずは、ピンクのブラウスに袖を通す。

    問題は、その後だった。
    動きやすさを確認しようと足を動かしてみたら、スカートが窮屈で動きにくい。
    見れば裾が糸で縫い留められている。ヒダ部分が軽く縫われているのだ。
    え?この糸、何のためにあるの?これ買った後で切るの?だとしたら、何のためにこんなことを?もしかしてこれがスタンダードなの?
    え、待って。
    ジャケットの前を留めた時って、こんな感じなの?動きにくくない?私が太ってるってこと?
    スーツって動きやすくはないんだ。

    …大人って大変だったんだな。


    「試着室で何があったらそんな消耗した顔になるの?大丈夫?」
    「いや全然大丈夫、寧ろ大人になる覚悟が出来たかもしれない」
    「およ。それは素晴らしい」
    「お母さん」
    「はぁい?」
    「こっちのスーツと、このブラウスが良いです」
    「かしこまり」

    私は自分で、
    自分が好きだと思ったスーツを選べた。


    第十八章【夢うつつ】

    子供の時から、睡眠が浅かった。

    誰かが部屋にいる気配がして、
    目を開けようとした。

    気配は思ったより近いのかもしれない、
    冷たい空気と何かを置く音だけが
    直ぐ側にあった。

    私に降りる、視線と影。

    思い出せるのは、その気配だけだった。


    「…何見てるの、お母さん」

    つい、うっかりリビングのテーブルでうたた寝してしまった。顔を上げると、前の席に座った母が私をニヤニヤ見つめてくる。

    「何だか可愛くってさー、ふふっ」
    「止めてよ恥ずかしい」
    「でもすぐ起きちゃったなー、もっと見たかったのに」
    「別に珍しくないじゃん」
    「そうでもないよ。部屋に入ったら、あなたすぐ目が覚めちゃうから」
    「あー…それはそうかも」
    「だから朝まで部屋には入らないようにしてるのよねぇ」
    「ふーん…」

    夢の中の気配を辿る、

    「…ねぇ。お母さんってサンタクロースに会ったことあるよね?」
    「なぁに?急に」
    「どんな人?」
    「聞いてどうするの?そんなこと」
    「どうするって…知りたいでしょ」
    「なんで?」
    「だって、私の…お父さん、なんでしょ?」
    「そうだよ〜」
    「だったら、知りたいじゃん」
    「そう?前まで興味なかったのに?」
     「そうだけど…」
    「少なくとも、あなたは会ったことないと思ってるんでしょ?なのに、今更知りたいの?」
    「……」

    何か言い返そうとして、
    言葉が出てこなかった。

    さっきの夢の中の気配が、
    まだ少しだけ残っている。

    近かったはずなのに、
    思い出そうとすると遠ざかる。

    「……あなたが思い浮かべた姿で良いんじゃないかな」
    「え?」
    「それがあなたのサンタクロース」

    「……いいよ、もう」
    「ふーん?」

    母はそれ以上、何も聞かなかった。



    最終章【ラスト・クリスマス】

    「これ、まだ使えると思う?」

    部室の隅にあった箱を覗き込みながら、埜村が聞いてきた。3年生の登校最終日。

    「何だっけ?それ」
    「初年度に私達が手作りしたサンタ衣装」
    「私達の歴史じゃん」
    「残しとく?」
    「いや捨てるけど」
    「津軽のそういうとこ私好きー」

    3年生(師走部員含む)が各々、自分達の持ち場を片付けている。要るもの、要らないもの。
    後輩に、引き継ぐもの。

    「あっという間だと思ったけど、こうして見ると歴史もあるんだねぇ」
    「まぁ3年間ずっとサンタクロースのことばっかしてたからね」
    「季節問わずね」
    「よく考えたらウケるよね」

    「結局さ、サンタクロースって何なんだろうね」「…埜村は、どう思うの?」

    「私?え、語っていい感じ?この3年間の集大成語っちゃう?」
    「えー…長そうだし遠慮しようかな…」
    「何じゃそりゃー!」

    埜村はいつも、楽しそうに
    サンタクロースを、クリスマスを語る。

    答えようと思えば、いくつか思い浮かぶ。

    でも、どれも少し違う気がして、
    口には出さなかった。

    知らないままでも、
    楽しく過ごしてきた。

    これまでも、これからも。

    「でもこの一言に尽きるかなー」
    「うん?」
    「クリスマスは楽しい!」
    「さすがです、部長」


    3月1日。
    雪が降る卒業式になった。

    真冬の刺すような寒さではなく、
    淡い冷気に優しく包まれるような寒さだった。
    これって、ホワイト卒業式?
    …すっかりクリスマス脳になってしまった。
    この3年間の弊害である。

    式は淡々と進んでいく。
    卒業生が順番に名前を呼ばれ、壇上で卒業証書を受け取る。

    自分の名前が呼ばれ、立ち上がる。

    思えば、壇上に上がったのはこれが初めてだ。

    急に緊張して、
    さっさと受け取り早く降りようと急ぐ。

    ふと、誰かに見られている気がした。

    たくさんの保護者の向こう、
    見覚えのない誰かと真っ直ぐ目が合う。

    一瞬、足が前に出かける。

    呼ぶ名前が、思いつかなかった。

    逸らせないまま、壇上を降りる。

    自席に着き、そのまま前を向いた。

    振り返ることは、しなかった。

    #創作大賞2026 #ファンタジー小説部門

     
     
    短い日記のような何か。 その時に思い浮かんだものを綴ってます。

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