凍る朝
エアコンの機械音で目が覚めた。
まだ夜は部屋に居座っている。
天井は見えているのに、
手を伸ばしても届かない。
目標や理想はあるのに、手は動こうとしない。
逃げ出したい。
けれど、身体が言うことを聞かない。
胸の奥が冷たくなる。
せめて、夢の中だけは温かくあってほしい。
何度も追い焚きした心は、
まだあの感覚を覚えていた。
昨日の現実が蘇る。
カーテンを開ける勇気はなく、
水滴がついた窓の向こうの朝を拒む。
やっと眠れたはずの昨日なのに、
目覚めた今は鳥肌が凍るように冷たい。
時計をじっと見つめる。
針は動いているはずなのに、
時間だけが僕を置いていく。
机の上の液晶が目に入る。
開く気力は湧かない。
誰かの声も笑顔も、
期待も。すべてが重く肩にのしかかる。
夢の中で見たあたたかさを思い出す。
記憶の中の過去、殺風景な温泉街、
でも現実は、冷たい光と同じくらい無機質で、
僕を押しつぶす。
家を出る。
凍るドアノブを握り、
指先の感覚が鈍くなるのを確かめる。
車に乗り込む。脳から指令を出す。
足の甲に力を入れる、ペダルを踏み込む。
逃げたい。
けれど、進まなければならない。
今日も、
自分の中にある地獄へ進み出すためだ。
それでも、この地獄の形は僕だけのもの。
他人に説明する必要も、
理解される必要もない。
ただ、進む。
凍る朝の中を、この五感だけを頼りに、静かに、止まることなく。
夜、部屋に戻ると、
冷え切ったグラスにウイスキーを注いだ。
液面が光を反射して揺れる。
ひと口、
またひと口。
複雑な香りとアルコールが身体に染み渡るたび、
少しだけ肩の力が抜ける。
あの時の朝を忘れられる気がする。
昼間の残像が消える気がする。
でも、少し経つと蘇る明日が、
僕の希望を奪い取ってくる。
逃げたわけじゃない。
ただ、今は少しだけ現実から距離をとる。
凍る朝の記憶と、明日への重さを背負ったまま、
僕はまた、凍る朝の中へ何も持たずに足を出す。