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③硝子の少年・Kinki Kids/1997年

    Kame Nigai

    新しいものに変えましょうか、と女は言った。
    ソーダですよね。
    ソーダです、と私は答えた。
    女は水割りになってしまったハイボールを流しに捨て、新しいハイボールを作った。
    炭酸が抜けて氷が溶けたハイボールは不味い、と女は言い、グラスの水滴を綺麗に拭いてコースターに載せた。
    女は装飾がない黒いドレスを着ているが、どこか新しさがなく誰かのお下がりのような印象を受ける。
    そう思いませんか?
    確かに、とわたしは答えた。
    薄暗い照明に照らされた女の顔は、女性を何人か並べて1人から1つずつ顔のパーツを寄せ集めたような顔だった。凹凸はあるのに、捉えどころがない。
    「確かに、炭酸が抜けて氷が溶けたハイボールは世界で一番不味い」
    「そう?それより不味いものはあると思う」
    「例えば?」
    「温い小松菜のスムージー」
    「なにそれ」
    「小松菜が嫌い、温いスムージーも」
    「他には?」
    「煮た人参かな、すごく人参の味がするやつ」
    「すごく人参の味がする?」
    「煮た人参ってすごく人参の味がするのよ。すごく」
    「すごく人参の味がする煮た人参を食べたことがない」
    「そう?」

    硝子の少年・Kinki Kids/1997年。

    小さいおじさんは新しい歌を歌うことにしていた。
    あなたも歌うの、と聞くように女は首を傾げてこちらを見つめたが、おじさんの目はずっと画面に向けられていた。小さいおじさんのハイボールも不味い飲み物に変わっていたが、気にせず飲み干して歌い始め、空になったグラスは店主がケアした。
    女は画面を見つめ、わたしはその横顔を見ていた。女の顔は後ろに並んだグラスに馴染み、まさに風景だった。
    ねえ、と女が振り向く。
    「この歌知ってる?」
    「知ってる」
    「何歳くらいの時の歌?」
    「たぶん、中学生になったばかりくらいじゃないかな」
    「そっか、じゃあ私の方が年下か」
    とだけ言って女は携帯を取り出して奥に引っ込んで行った。
    小さいおじさんの相方は店主が務めることになった。ただ、店主のパートは店主には所々キーが低すぎる。おじさんは店主のパートもマイクなしで歌う。
    歌が最後に差し掛かって女が戻ってきた。
    小さなおじさんは息が辛いらしく、大きな息継ぎをマイクが拾う。

    「温い小松菜のスムージー、飲んだことある?」
    「ないかな、スムージーを飲まない」
    「じゃあ嫌いなものは」
    「寒天かな」
    「なにそれ、なんで」
    「よくわからないから」
    「なにが」
    「味も食感もすべて、何を食べているのかよくわからない、固いくせに歯応えもなくて、固いのかどうかもわからない」
    「あんみつは」
    「寒天以外なら大丈夫」
    「牛乳寒天は」
    「だめ」
    「牛乳は」
    「好きも嫌いもない」
    「寒天スムージーは」
    「あるならチャレンジするけど、多分嫌い」

    女はわたしのグラスに目をやったあと、カウンターに肘をついて、連絡先交換しよう、と言った。
    女のドレスの袖から毛玉がだらしなくぶら下がっていた。

     
     
     
    窓辺のマーガレットってすてき。Kame Nigaiです。 創作かエッセイを中心に週1回はupしたいと思います。

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