第70話 「所定の様式」
御校広域数理科学科助教授公募に応募したく、以下の書類 (所定様式) を提出致します。
研究計画
ゲージ理論を応用したマクロ経済と金融相場に於けるゴースト補正。詳細は別紙様式3を参照。
研究業績
著書1編。審査附き学術論文50編。国際会議報告20編。一覧は別添様式2を参照。
これ迄の教育経験
これ迄は非常勤とか派遣研究員であったので正式に講義を要請された事はありません。抑々そういうもんは正教授とか準教授の役目だと思います。私の専門領域は、純粋な自然現象とは程遠く余り魅力的でない所為なのか世界でも類い稀なる少数派でして、いえ、決してカルトとかそういう類いの物ではなくって、華やかさに闕けはしますが人類の叡智の為、我が子栄一の為、日夜努力が続けられております。僅かの人間だけですが、その重要さ故に地道にコツコツと、競合相手がいないので適当に胡坐をかいて成果が積み重ねられております。私共が諦めてしまったら、この産声を上げたばかりの新研究領域を支える人間が絶滅してしまいます。世界遺産、人間国宝、天然記念物、マグロ経済です。鮨食いねえ。
この危機的状況に鑑みて、共同研究者獲得や後継者育成の為に非公式な集中講義をせざるを得ない状況が続いております。而も只働きなのに名誉だの光栄だのと心にも無い事を平気で言って笑顔で引き受けなければならず、真に嬉しい限りでございます。嗚呼、何て嘘吐きなんだろう。そんな甲斐あってか今年もまた講義をやらされる事になりました。契約が違うじゃないかとか、お前自分で計算してみろよとか、論文読めよとか、先刻説明しただろ、とか言いたくなる事は焼酎ですが人事権は正教授の掌中にあるので決してそんな事は口に出来ません。飲み過ぎで卒中が起きそうです。
次に、研究指導経験について述べさせて頂きます。頭狂大学時代には博士課程学生二名、急襲大学時代には修士課程学生一名の指導を行ない、研究結果は全て一流論文雑誌に出版されています。現在在職中の凶徒大学では博士課程学生二三名の指導に携わっております。論文執筆を通じて、研究に必要な姿勢、努力と底力、念力とFLマスク、ダイヤルQ2に引っかからない技術などを伝えながら、学生の能力を見極める良い機会であったと考えております。大学本部から電話代の請求書が来た時は正直慌てました。あと、鮨屋で鮪だけを注文しないで欲しいです。
教育への抱負
卒業後、将来活躍出来るだけの潜在的な力、そして国際舞台へと進出する馬力を養って貰う事を目標にします。
昨今では色々な場面で国際競争力の必要性が叫ばれています。国際的に通用する人材を育成するためには高度な専門知識だけでなく、独自に研究分野を開拓して行くだけのパワーと独創性が求められます。独創性の発揮には柔軟な発想が不可欠です。ですから、潜在能力の顕現を如何に助けるかが重要であります。こうして思ってもいない事を書くだけなら至極簡単なのですが、その裏には、幅広い知識と豊かな感受性、グローバルな視点、感覚だけに頼らない分析能力や的確な洞察力、そして先見力が必要不可欠であり、はっきり言ってこれらは個人の能力に因る所が大きく、天賦の才能でないと如何しようもありません。本人に無いものを引き出してやるというのは無理な話っしょ。
では如何するのか。添付の才能で対抗します。添付の才能なら誰でも訓練によって身につける事が可能です。多くの事例に取り組ませる事で知識と感受性とグローバルな視点を養います。鬼の様に沢山計算させる事で分析能力や洞察力を磨き上げます。面倒臭い、厭だ、と思った時点で負けです。プリンストンやハーバード出の天賦の才人はそんな問題もあっさりと片付けてしまう能力を持っています。これに対抗するには、もう天賦の才人が興味を示さない様な問題を探してきて、時間をつぎ込んで先に遣っ付けてしまうのです。はい、せこいです。チャンスが到来するまで二晩でも三晩でも息を殺して物蔭に潜むスナイパーの如き強靭な精神力を持ちましょう。私は厭ですが。
とは雖も、これらの能力を一朝一夕に身に付けさせるのは不可能です。教育や研究を通じてその辺りの感覚や要領を掴ませる事ができればいいかなあ。なーんて思ったりもします。
又、学生は多感な年頃ですからこういった息苦しい世界を見せると意気消沈してしまう者も急度いるでしょう。ですから精神面のケアも忘れてはおりません。バッチリです。任せて下さい。既存の文芸倶楽部なんか廃止して新しく雑文倶楽部を創設します。ゲージ理論だの真っ黒経済だのははっきり言ってどうでもいいでしょう。適当です。もう部活の指導へは人生の全てを注ぎたいと考えています。他の先生方の参加も歓迎致しますので、土日祭日休憩時間を全部潰して家庭も顧みずに一緒に更新しましょう。楽しいですよおー。仁儀禮智を重んじ人格形成へ及ぼす影響を充分に配慮しつつ、偏狭な人物ではなく良い意味での型破りな雑文作家を育成できれば本懐であります。
得意科目
と、得意科目って。專門科目に決まってるじゃないですか。あ、それとも哺乳類霊長目ヒト科とかの科目でしょうか。急度そうですよね。だったら鯖科鮪属でお願いします。偶蹄目も結構好きです。
資格
「博士号取得者はその旨を記述」との事ですが、それって資格ですか。医師免許よりも教員免許よりも運転免許よりも保険代理店初級よりも役に立たないんですけど。
特技
ええと、鼻から讃岐饂飩を吸って口から出せます。そんな事知ってどうするんですか。
趣味
ウルトラ・スーパー・ハイパー・テキスト・マークアップ言語を用いたMP4型式による掲示板自動巡回システムの開発。用途はメールアドレスを取得して名簿会社に売った金で鮪を食べる。
志望の動機
図書館には専門雑誌が一冊もなく助教授以下は全て二人部屋でパソコン共用で而も鮪の生簀附き、という御校の素晴らしい環境の中で己の力を試してみたく志望する次第です…が、本音を隠さずに言うと給料が欲しいからです。霞を食べて生きては行けないんです。仙人じゃないんだから。でも専任にはなりたいです。是非、採用して下さい。
え、やっぱり不採用ですか。
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