
僕たちの風景 01
•ハンカチ
僕は床屋の椅子に座らされて、バリカンを当てられていた。
床屋のテレビには、タラップから手を振りながら降りてくるビートルズがいた。
それを見ている間に、髪は床に舞い散り、僕は中学生らしくなった。
小学校からの繰り上がりなので、殆どが顔見知りだ。
少しオドオドしながらも、僕達は一年生になり、子供との境目を振り返って見るようになっていた。
盛夫は社交街と呼ばれている一角で育った。
夜は男達が集まる歓楽街で、住みながら働いている女性が多い。
そのせいか、盛夫は女言葉で話すのでよく揶揄われていた。
僕らは仲良しだった。
よく遊んだし、お互いの家も行き来していた。
僕らが2年生になった頃だった。
「ベンチャーズが来てるよ、行こうよ。あさの達も一緒にさぁ」
「あさの達も?」
あさのがラブレターを持ってきたことがある。
「これ、バスケット部の直子から」と手渡された手紙には付き合ってほしいと書かれていた。
しばらくして、あさのに呼ばれた。
「どうなの?」
「‥どうって」
「直子のことよ」
「‥よくわからん」
「じゃあ、そう言っとくよ」
女の子と話すのは上手じゃない。
あさのとは直子の事でやり取りがあったせいで、普通に話せる気軽さがあった。
(あさの達も、というのは直子も含めて4人か?)
直子のことも気になり、どうしようと思いながらも、エレキバンドも聴いてみたいし、結局行く事になった。
公演は映画館でおこなわれた。
僕らは入った順番に座った。
あさのが僕の左の席にいた。
演奏が始まり少し経った頃、
あさのの右手が僕の左手に触れた。
もう横を向く事は出来ない。
演奏は続いているのに‥。
曲が変わるタイミングで手のひらを上に向けた。
あさのの手が柔らかく汗ばんでいた。
僕の手も。
もう誰の汗か分からない。
手が少し緩み、あさののハンカチが差し込まれた。
盛夫は中学二年の途中、結核を患った。
卒業式で会う事は出来なかった。