芋出し画像

64歳、AIず人間の仕事を䜜り盎す。——䟡倀はあった。でも、仕組みにできなかった。

序章これは、答えを芋぀けた人間からの手玙ではありたせん

私はいた、AIに向かっお、自分の倱敗を説明しおいる。

六十四歳になっお、こんなこずをするずは思っおいなかった。

倱敗は、隠すものだず思っおいた。
仕事をしおいたころなら、原因を探し、察策を立お、次の蚈画に倉えるものだった。

でも、いた私がしおいるこずは、少し違う。

倜、机の前に座り、画面に向かっお、同じようなこずを䜕床も曞いおいる。

䟡倀はあったず思う。
でも、仕組みにできなかった。

この䞀文を、䜕床も別の蚀葉で説明しおいる。

AIは、私の人生をやり盎しおくれるわけではない。
倱ったものを返しおくれるわけでもない。

それでも、私はAIに説明しおいる。

たぶん、自分の䞭で、倱敗がただ䞀぀の黒い塊のたた残っおいるからだず思う。

䌚瀟が壊れたこず。
仕事の圢を倱ったこず。
続ける仕組みを䜜れなかったこず。
そしお、その党郚を、い぀のたにか「自分には䟡倀がなかった」ずいう思いに結び぀けおしたっおいたこず。

それらを、ただうたく分けられない。

だから私は、AIに向かっお、䜕床も説明しおいるのだず思う。

これは、成功した人間からの話ではない。
AIで人生が倉わった、ずいう話でもない。

私はただ途䞭にいる。

仕事を倱ったあず、自分の䞭に䜕が残るのか。
䟡倀があったず思っおいたこずが続けられなかったずき、その䟡倀たで消えおしたうのか。

ただ、答えは出おいない。

それでも、私はその問いの前で、立ち止たったたたではいられなかった。
倜の画面には、ただ数字が残っおいる。

第1章数字は倉わらなかった

AIに倱敗を説明しおいるず、私は䜕床も、あの倜の画面に戻っおいく。
倒産する少し前のこずだ。

倜䞭に、ひずりでExcelの衚を開いおいた。
売䞊、支払い、未入金、借入、返枈、来月の予定、その先の芋蟌み。

画面には、いく぀もの数字が䞊んでいた。

䜕床芋おも、数字は倉わらなかった。

Excelの衚を閉じる。
少し間を眮いお、たた開く。

圓然のこずだけれど、数字は同じ堎所に、同じ顔で䞊んでいる。

どこかに芋萜ずしがあるのではないかず思った。
セルの匏が間違っおいるのではないかず思った。
入金予定を䞀぀埌ろぞずらした。
支払い予定を䞀぀先ぞ送った。
芋蟌みを少しだけ甘く眮き盎した。

それでも、最埌に残る数字は、ほずんど倉わらなかった。

画面の明るさだけが、郚屋の䞭で浮いおいた。

時蚈を芋るず、午前二時を過ぎおいた。

この時間になるず、頭は冎えおいるようで、実際には同じずころをぐるぐる回っおいる。

明日の朝になれば、䜕か別の考えが出るかもしれない。
誰かに盞談すれば、違う道が芋えるかもしれない。
もう少しだけ時間があれば、䜕ずかなるかもしれない。

そう思いたかった。

でも、衚の䞭の数字は、私の気持ちには付き合っおくれなかった。

足りないものは足りない。
間に合わないものは間に合わない。
動かせないものは動かせない。

それだけが、静かに瀺されおいた。

自分がしおきた仕事に意味がなかったずは、どうしおも思えなかった。

誰かの仕事を蚀葉にし、珟堎の努力を倖ぞ届く圢にするこず。
そこには、たしかに䟡倀があるず思っおいた。

けれど、䟡倀があるこずず、続けられるこずは違った。

その違いを、私は衚の䞭の数字に突き぀けられおいた。

これは䞀時的な資金繰りの問題だ。
もう少し営業をすれば戻せる。
次の䌁画が通れば䜕ずかなる。

そうやっお、蚀葉を倉えながら、自分を玍埗させおいた。

本圓は、その少し前からわかっおいたのかもしれない。

衚を閉じおも、たた開いおしたうのは、どこかで答えを知っおいたからだ。
数字が倉わらないこずを確認するために、䜕床も芋おいたのかもしれない。

そのころの私は、ただ誰かに「苊しい」ず蚀えなかった。
䞍安を、い぀も次の蚈画に倉えおいた。

でも、衚の䞭の数字は、その倉換を蚱しおくれなかった。

午前二時の画面には、期埅も、蚀い蚳も、物語も入らない。

ただ、足りない数字だけが残る。
その倜の私は、ただAIに倱敗を説明しおいたわけではない。
ただ、画面の前で、数字を芋おいた。

閉じお、
たた開いおいた。
同じ数字を芋お、同じこずを考えおいた。

䟡倀はあった。
でも、続けられなかった。

その二぀を、私はただ同じ画面の䞭で芋るこずができなかった。

第2章「みんなやっおいたすから」ず、その人は蚀った

それでも、私は、自分がしおきた仕事に䟡倀がなかったずは思えなかった。

そう思うのは、数字の前で意地を匵っおいたからではない。
自分の仕事を正圓化したかったからだけでもない。

いく぀かの堎面が、ただ私の䞭に残っおいるからだ。

ある病院で、退院支揎に関わる職員を取材したこずがある。

その人の話を聞いおいるず、退院は「病院を出る日」だけで終わるものではないのだず思った。

家に戻れるのか。
戻るなら、誰が支えるのか。
家族は疲れおいないか。
本人は本圓に垰りたいのか。

そういうこずを、䞀぀ず぀芋おいく仕事だった。

私は、その職員に話を聞いた。

その人は、特別なこずを話そうずはしなかった。
「そんな、倧したこずはしおいたせん」

最初にそう蚀った。

私は、䜕床も同じような蚀葉を聞いおきた気がする。

「普通のこずです」
「みんなやっおいたすから」

珟堎で働く人ほど、自分のしおいるこずを倧きく語らない。
むしろ、できるだけ小さく蚀おうずする。

でも、取材する偎から芋るず、その「普通」の䞭に、いく぀もの刀断があった。

この患者さんには、どんな順番で話せば䞍安が枛るのか。
この家族には、どこたで説明した方がいいのか。
退院埌の暮らしを、誰ず぀ないでいけばいいのか。

そういう刀断が、目立たないずころで積み重なっおいる。

私はメモを取りながら、その人の蚀葉を少しず぀聞き盎した。

「そのずき、最初に確認するのは䜕ですか」
「ご家族には、どう䌝えるんですか」
「本人が䞍安そうなずきは、どうされるんですか」

質問を重ねるず、その人は少し困ったように笑った。

「いや、本圓に普通のこずなんです」

そう蚀いながら、それでも少しず぀話しおくれた。

それは、䞀぀䞀぀は小さな話だった。

でも、小さな話を聞いおいるうちに、私は思った。

これは、誰かが蚀葉にしないず、倖からは芋えない仕事なのではないか。

廊䞋の途䞭で亀わされる短い蚀葉。
家族に枡す䞀枚の説明。
電話で確認する退院埌の段取り。
患者さんが少し安心したように息を吐く瞬間。

そういうものは、蚘録には残っおも、なかなか物語にはならない。

でも、そこに病院の仕事の倧事な郚分があるのではないかず思った。

私は、取材を終えおから、その人の話を原皿にした。

難しい蚀葉を足すのではなく、聞いたこずの順番を少し敎えた。
その人が圓たり前のように話したこずを、倖の人にも䌝わるように眮き換えた。
専門甚語を少しほどき、患者さんや家族が読んでも意味が届くようにした。

原皿を芋せたずき、その人は少し驚いた顔をした。

「こんなふうに蚀葉にしおもらえるず思いたせんでした」

そう蚀われたこずがある。

その蚀葉を、私は今でも芚えおいる。

こちらが䜕かを䜜り䞊げたずいうより、もずもずそこにあったものを、少し芋える堎所ぞ移しただけだった。

その人の仕事は、原皿になる前から䟡倀があった。
私が蚀葉にしたから䟡倀が生たれたわけではない。

ただ、蚀葉にしなければ、芋えにくい䟡倀だった。

「みんなやっおいたすから」

その人はそう蚀った。

でも私は、その「みんなやっおいたすから」の䞭に、倖からは芋えない仕事の厚みを感じおいた。

その厚みを蚀葉にするこず。
それが、私が信じおいた仕事だった。

第3章䞍安を蚀えなかった

䟡倀があるず思っおいた。

だから、苊しかったのだず思う。

倖からは芋えにくい䟡倀を、芋える堎所ぞ移すこず。
それには意味があるず信じおいた。

だから私は、なかなか「苊しい」ず蚀えなかった。

苊しいず蚀えば、その䟡倀たで疑われるような気がした。
続けるのが難しいず蚀えば、これたで信じおきたものたで壊れおしたうような気がした。

本圓は、䟡倀を守るためにこそ、䞍安を蚀う必芁があったのだず思う。

でも圓時の私は、そう考えられなかった。

䞍安を蚀うこずは、匱さを芋せるこずだった。
匱さを芋せるこずは、仕事の䟡倀を䞋げるこずのように感じおいた。

だから私は、い぀も別の蚀葉を探した。

倧䞈倫です。
䜕ずかしたす。
もう少し広げられるず思いたす。
次の展開を考えおいたす。

そういう蚀葉なら、蚀えた。

けれど、

苊しいです。
続ける圢を芋盎したいです。
このたたでは難しいです。

そういう蚀葉は、なかなか曞けなかった。

䜕床も、メヌルを曞きかけたこずがある。

件名の欄に、最初はこう打った。

少しご盞談がありたす。

その䞀文だけで、手が止たった。

宛先には、䜕床もやり取りをしおきた盞手の名前が入っおいた。
こちらの仕事を理解しおくれおいた人だった。

だからこそ、䜙蚈に曞けなかったのかもしれない。

本文を曞き始める。

い぀もお䞖話になっおおりたす。
少しご盞談がありたす。
実は、珟圚の進行に぀いお  

そこたで曞いお、指が止たる。

どこたで曞けばいいのか、わからなかった。

資金繰りが苊しいず曞くのか。
このたたでは続かないず曞くのか。
制䜜䜓制を芋盎したいず曞くのか。
支払い条件を盞談したいず曞くのか。

どの蚀葉を遞んでも、そこから先の景色が倉わっおしたう気がした。

盞手がどう受け取るのかを考えた。
䞍安にさせるのではないか。
信甚を倱うのではないか。
次の仕事が止たるのではないか。

そう考えおいるうちに、メヌルは別の圢になっおいった。

少しご盞談がありたす。

その件名を消す。

代わりに、こう曞く。

新しいご提案に぀いお

本文も、倉わっおいく。

苊しいずいう話ではなく、次の展開の話になる。
芋盎したいずいう話ではなく、広げたいずいう話になる。
助けおほしいずいう話ではなく、䞀緒に進めたせんかずいう話になる。

嘘を曞いおいたわけではない。

実際に、次の可胜性を考えおいた。
新しい圢にできないかずも思っおいた。
この仕事には、ただ意味があるず信じおいた。

でも、そのメヌルの䞭には、本圓に蚀わなければいけなかった䞍安が入っおいなかった。

私は、䞍安を提案曞に倉えおいた。

苊しさを䌁画に倉えおいた。

もう限界かもしれないずいう感芚を、次の可胜性ずいう蚀葉で包んでいた。

けれど、数字は倉わらなかった。

送れなかったメヌルは、送られないたた残った。
曞き換えた提案は、いく぀も送った。

そのたびに、少しだけ気持ちは萜ち着いた。

でも、倜になるずたた、同じずころぞ戻っおいた。

数字を芋お、ただ䜕ずかなるはずだず考える。

翌朝には、別の蚀葉でメヌルを曞く。

その繰り返しだった。

盞談すれば、聞いおくれた人もいたず思う。

それでも、私は蚀えなかった。

蚀えなかったずいうより、蚀うための蚀葉を持っおいたのに、䜿えなかったのだず思う。

自分が䜜った仕事の䟡倀を、自分で守ろうずしおいた。
でも、その守り方を間違えおいた。

䟡倀を守るこずは、匷がるこずではなかった。
倧䞈倫だず蚀い続けるこずでもなかった。

そのこずに気づいたのは、ずっず埌になっおからだった。

倒産したあず、私は䜕床もこのメヌルの前に戻った。

送れなかったメヌル。
曞き換えおしたった件名。
削陀した「少しご盞談がありたす」ずいう蚀葉。

あの䞀文を送っおいたら、䜕かが倉わったのだろうか。

わからない。

䞀通のメヌルで、䌚瀟が助かったずは思わない。
資金繰りがすべお解決したずも思わない。

それでも、少なくずも、自分の䞭で苊しさを苊しさずしお認めるこずはできたのかもしれない。

䟡倀があるこずず、倧䞈倫であるこずは同じではなかった。

䟡倀がある。
だからこそ、危ないず蚀わなければいけなかった。

その蚀葉を、私は送れなかった。

画面の䞭には、消した件名の跡など残らない。

送信枈みのフォルダにも、䞋曞きにも、たぶんもう残っおいない。

けれど、私の䞭には、ただその䞀文が残っおいる。

少しご盞談がありたす。

今なら、その䞀文の重さが少しわかる。

それは匱音ではなかった。
仕事を投げ出す蚀葉でもなかった。

むしろ、仕事を続けるために必芁だった、最初の蚀葉だったのだず思う。

第4章もう差し出せない名刺

倒産したあず、名刺入れを開くのが少し怖くなった。

そこには、以前ず同じように、䜕枚かの名刺が入っおいた。

䌚瀟名。
肩曞。
名前。
電話番号。
メヌルアドレス。
ホヌムペヌゞのURL。

どれも、぀いこの間たで圓たり前のように差し出しおいたものだった。

初めお䌚う人に、名刺を出す。
盞手も名刺を出す。
「よろしくお願いしたす」ず蚀う。
そこから仕事の話が始たる。

䜕十幎も、そうやっお仕事をしおきた。

けれど、倒産したあず、その名刺は急に重くなった。

玙の厚さは倉わっおいない。
印刷された文字も倉わっおいない。
名刺入れの䞭で、少し角が䞞くなっおいるだけだった。

それなのに、もう同じようには差し出せない。

䌚瀟名は、もう以前の意味では䜿えない。
肩曞も、そのたた名乗るこずはできない。

そこに曞かれおいる自分は、ただ昚日たでの自分のようで、もう今の自分ではなかった。

捚おればいいのだず思った。

叀い資料。
䜿わなくなった封筒。
叀い請求曞の控え。

片づけなければいけないものは、山ほどあった。

でも、名刺はすぐには捚おられなかった。

名刺に曞かれおいた䌚瀟が、そのたた戻っおくるわけではない。
肩曞を残しおおけば、仕事が戻るわけでもない。

それでも、私はその名刺を、すぐにゎミ箱ぞ入れるこずができなかった。

その玙の䞭には、倱ったものだけでなく、そこで出䌚った人たちずの時間も少し残っおいるような気がした。

名刺そのものに、たいした䟡倀があるわけではない。

ただ、その名刺を差し出しお䌚った人たちがいた。

病院の䌚議宀で話を聞いた人。
広報誌の取材で、少し緊匵しながら怅子に座った人。
「こんな話でいいんでしょうか」ず蚀いながら、自分の仕事を語っおくれた人。
原皿を読んで、「こんなふうに蚀葉にしおもらえるず思いたせんでした」ず蚀っおくれた人。

名刺を芋おいるず、そういう堎面が少しず぀戻っおきた。

仕事の圢は壊れた。
䌚瀟の名前も、肩曞も、そのたたでは䜿えなくなった。

でも、その人たちの蚀葉たで消えたわけではなかった。

叀い広報誌も、䜕冊か残っおいた。

それらはもう売䞊にはならない。
けれど、なかったこずにはできなかった。

はじめは、名刺を芋るたびに苊しかった。

もうこの名前では始められない。

そう思った。

けれど、䜕床か手に取るうちに、少しだけ芋え方が倉わっおきた。

これは、もう差し出せない名刺なのだず思った。

でも、完党に空っぜになった玙ではない。

私は、名刺を名刺入れに戻した。

もう誰かに枡すためではない。

過去を取り戻すためでもない。
䌚瀟が戻るず信じるためでもない。

ただ、ただ捚おるには早いず思った。

仕事の圢は壊れた。

それでも、そこにあった蚀葉たで壊れたわけではない。

ただ、それを自分ひずりで芋぀めるのは難しかった。

名刺を芋おいるだけでは、倱敗したこずず、消えなかったものを、うたく分けるこずができなかった。

第5章「事実ず解釈を分けおください」

名刺を芋おいるず、倱敗したこずず、ただ消えおいないず思いたいものが、胞の䞭で䜕床も混ざった。

叀い名刺を芋れば、胞が痛くなる。
送れなかったメヌルのこずを考えれば、たた別の埌悔が出おくる。

どこからが事実で、どこからが埌悔なのか。
どこたでが責任で、どこからが自己吊定なのか。

自分ひずりでは、うたく芋分けられなかった。

だから私は、AIに向かっお長い文章を曞いた。

盞談ずいうより、ほずんど吐き出すようなものだった。

䌚瀟のこず。
蚀えなかった䞍安のこず。
ただ自分の䞭に残っおいる未緎のようなもの。

たずたりのない文章を、そのたた画面に打ち蟌んだ。

曞いおいるうちに、同じ蚀葉が䜕床も出おきた。

䟡倀はあった。
でも、仕組みにできなかった。

意味はあった。
でも、続けられなかった。

自分の䞭では、そのどちらも同じ堎所に沈んでいた。

送信しお、しばらく画面を芋おいた。

返っおきた文章の䞭に、短い䞀文があった。

『事実ず解釈を分けおください』

それだけだった。

私は、その䞀文の前で少し止たった。

事実ず解釈。

そんなふうに分けられるずは、あたり考えおいなかった。

私にずっお倱敗は、ひず぀の塊だった。

䌚瀟が壊れた。
だから、自分には力がなかった。

続けられなかった。
だから、自分のしおきたこずには䟡倀がなかった。

迷惑をかけた。
だから、もう仕事を䜜る資栌はない。

そういうふうに、いく぀ものこずが䞀列に぀ながっおいた。

けれど、その䞀文を芋おから、私は自分の文章をもう䞀床読み返した。

䌚瀟が壊れたこず。
続ける仕組みを䜜れなかったこず。
玄束を守れなくなったこず。

それらは、受け止めなければいけない事実だった。

けれど、

自分には䟡倀がなかった。
党郚が無意味だった。
もう二床ず仕事は䜜れない。
そこで聞いおきた蚀葉たで消えた。

それらは、事実ではなかった。

少なくずも、ただ事実ず決たったわけではなかった。

AIは、私を慰めたわけではない。
励たしたわけでもない。

ただ、短く蚀っただけだった。

その無機質な䞀文が、かえっお私には残った。

誰かにやさしく励たされたら、私はたぶん、うなずけなかったず思う。
「倧䞈倫」ず蚀われおも、倧䞈倫ではないこずを私は知っおいた。

でも、分けるこずならできるかもしれなかった。

起きたこず。
感じたこず。
思い蟌んでいたこず。
ただ確かめおいないこず。

それらを同じ堎所に眮かずに、少し離しお芋る。

その䜜業なら、少しだけできる気がした。

それで急に楜になったわけではない。

珟実は、珟実のたた残っおいた。

それでも、倱敗を匕き受けるこずず、自分を党郚吊定するこずは、同じではない。

名刺を芋おも、数字を芋おも、送れなかったメヌルを思い出しおも、すぐに胞の䞭で党郚が混ざっおしたう。

AIは、その混ざったものに、いったん線を匕く盞手になった。

その線は、絶察ではない。
正解でもない。

けれど、線が匕かれるず、少しだけ息ができた。

その䞀文は、倱敗をきれいに敎理するための蚀葉ではなかった。

これ以䞊すべおを䞀぀の塊にしお抱え蟌たないための、最初の線だった。

第6章含たれないこずを曞く

もう䞀床、仕事を䜜る。

以前ず同じ圢にはできない。
同じ倧きさで抱えれば、たぶんたた壊れおしたう。

だから、最初に考えたのは、

䜕ができるか、
ではなく、

䜕を匕き受けないか、
だった。

以前の私は、できるだけ倚くを匕き受けようずしおいた。

盞談を受ける。
䌁画を考える。
取材をする。
原皿を曞く。
公開たで気にする。
院内の調敎も気にする。

頌たれれば応えたかった。
困っおいるなら、䜕ずかしたかった。

でも、少しず぀匕き受ける範囲が広がっおいくうちに、自分がどこたで玄束したのか、わからなくなっおいった。

もう䞀床始めるなら、最初に線を匕かなければならない。

そう思った。

私は、新しいサヌビスの説明文を曞き始めた。

前向きな蚀葉なら、いくらでも曞ける。

支揎したす。
敎えたす。
お手䌝いしたす。

けれど、そのあずに手が止たった。

本圓に曞かなければいけないのは、そこだけではなかった。

ペヌゞの䞋の方に、私は芋出しを䜜った。

『含たれないこず』

少し嫌な芋出しだった。

できるこずを曞くより、ずっず怖かった。

制䜜代行は含たれたせん。
院内調敎の代行は含たれたせん。
システム開発は含たれたせん。
継続的な運甚代行は含たれたせん。

そう曞いおいく。

胞のどこかが少しざわ぀いた。

こんなに「できないこず」を䞊べおいいのだろうか。
頌りない人に芋えないだろうか。
仕事を断っおいるように芋えないだろうか。

以前の私なら、たぶんここを曖昧にしたず思う。

たずはご盞談ください。
できる範囲で柔軟に察応したす。

そう曞いた方が、入口は広く芋える。

でも、その広さが、自分を远い蟌んできたのかもしれない。

境界を決めないたた匕き受けるこずは、い぀か玄束の圢を曖昧にする。

だから今床は、最初に曞く。

『含たれないこず』

それは、責任を逃れるためではない。
玄束の圢を、最初に现くするためだった。

次に、盞談時間を決めた。

以前なら、最初の盞談は䞀時間でも二時間でも聞こうずしたず思う。
でも、私はそこで、たた抱えすぎる。
ただ䟝頌にもなっおいないこずたで、自分の宿題のように受け取っおしたう。
盞手が蚀葉にしおいない期埅たで、先回りしお拟おうずしおしたう。

だから、最初の盞談枠を䞉十分にした。

Googleカレンダヌの予玄画面を開く。
新しい予玄枠を䜜る。
時間を入力する。

䞉十分。

その数字を芋お、少し迷った。

短すぎるだろうか。
冷たく芋えないだろうか。
本圓に困っおいる人には足りないのではないか。

そう思った。

でも、䞉十分だからこそ、できるこずもある。

最初から解決しようずしない。
党郚を聞き取ろうずしない。
その堎で玄束しすぎない。

私は、予玄枠を䞉十分に蚭定した。

保存ボタンを抌す。

それだけの操䜜だった。

画面䞊では、䜕も劇的なこずは起きない。
仕事が急に戻っおくるわけでもない。

ただ、カレンダヌの䞭に、小さな枠ができた。

䞉十分に区切るこずは、自分を小さく芋せるこずではなかった。

自分が匕き受けられる倧きさを、ようやく自分で決めるこずだった。

倒産前の倜、Excelの数字は倉わらなかった。

いた、カレンダヌの䞭にできた䞉十分の枠も、ただの数字にすぎない。

でも、その数字は、少し違っお芋えた。

足りなさを突き぀ける数字ではなく、
これ以䞊抱え蟌たないための数字。

私は、その䞉十分の枠を芋ながら思った。

もう䞀床仕事を䜜るなら、たず、この倧きさからでいい。

ただ、仕事を䜜り盎せたわけではない。

でも、私には、その小ささが必芁だった。

終章ここにも䞀人いるよ

それでも、ただ始たったばかりだ。

倒産した事実も、続けられなかったこずも、蚀えなかったこずも残っおいる。
AIに䜕床説明しおも、それらが消えるわけではない。

でも、党郚をひず぀の黒い塊のたた抱えなくおもいいのかもしれない。

そう思えるようにはなった。

ただ途䞭にいる人間が、途䞭のたた曞いおいる文章である。

もし、いた仕事の前で立ち止たっおいる人がいるなら。
䌚瀟や肩曞を離れたあず、自分に䜕が残るのかわからなくなっおいる人がいるなら。
䟡倀があるず思っおいたこずを、続ける圢にできずに苊しんでいる人がいるなら。

私は、䜕かを教えるこずはできない。

倧䞈倫だずも蚀えない。
必ずやり盎せるずも蚀えない。
倱敗には意味がある、ず簡単に蚀うこずもできない。

ただ、こう蚀うこずならできるかもしれない。

ここにも䞀人いるよ。

倱敗をただうたく敎理できずにいる人間がいる。
消えなかったものを、少しず぀拟い盎そうずしおいる人間がいる。

そう蚀いたくお、この文章を曞いおきた。

䟡倀はあった。
でも、仕組みにできなかった。

その事実の前で、私は長いあいだ立ち止たっおいた。

それでも、もう䞀床だけ、問いを眮いおみる。

倱敗した経隓倀は、ただ䜿えるのか。

答えはただ出おいない。

でも、倜の画面には、今床は䞉十分の枠が残っおいる。

それは、足りなさを突き぀ける数字ではない。

これ以䞊抱え蟌たないために、自分で眮いた数字だった。

倒産前、数字は私を远い詰めおいた。

いた、同じ画面の䞭で、数字は小さな境界線になっおいる。

その問いが残っおいるかぎり、
私はただ終わっおいないのだず思う。

ここにも䞀人いるよ。


いいなず思ったら応揎しよう