
【創作大賞2026】落花生
「ここのおそば屋さん、人気なんだ。すごく並んでる。」
店員の案内で席に着く若いカップル。そばを二つ頼み、他愛もない話をする。
すると、男はふと、箸置きが気になり始めた。珍しいもんだ、落花生の殻がまるごと箸置きになっている。持ち上げて軽く振ってみる。カサカサとした音が聞こえる。
「ねぇ、聞いてる?何してるの?」
女も男の真似をして落花生を振る。
カサカサ、カサカサ。
「中に何か入ってるのかな?」
止める間もなく女は落花生を真っ二つにした。
落花生を右目に当てて、中を覗き込む。
「あれ、あっち側に誰か見える。」
男はぎょっとした。
なぜなら、その瞬間に女は落花生の中へ吸い込まれていったからだ。
ずりんと女は落花生の中へ収まった。
そして再び男は目を見張った。
落花生の中から何かが出てきたのだ。
ずりずりずり、女性だ。
知らない女性が目の前の椅子に座っている。
「でさー、そいつにこう言ってやったの。」
知らない女性が、さっきの話の続きをしている。
男はずっと前から知っているかのような感覚に陥る。感覚に陥る?いや、ずっと前から知っている。そうだ、自分の彼女だ。
「何呆けた顔してるの?」
男は「いや、何でも」と笑い、テーブルに運ばれてきた蕎麦をすする。
女は「美味しいね。また来ようね。」と言って箸を置いた。
男は笑顔で頷いた。そして、お冷をもらうために店員を呼んだ。
「お冷注ぎますねー」
グラスの氷がだいぶ溶けている。カラカラと音を立てながら水が注がれる。
「落花生お下げしますねー」
割れた落花生を店員がキッチンへさげた。