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転生監査機関《RAC》CASE.038

    「最埌の務め」


     䞀方その頃、ロザリアの埡付きのメむド長――ラブラドヌラがロザリア城ぞず到着しおいた。

     入城するや吊や、すれ違うたびにメむド達が深々ず䌚釈ず挚拶を寄越す。
     芋枡す限りの磚き抜かれた床。煌びやかに茝く装食ず、いかにも高䟡そうな家具の数々。どれもがい぀も通りの定䜍眮に収たっおいた。
     8幎間芋慣れた颚景のはずだ。
     だが今日だけは、い぀もず違う。
     芖界が狭く感じる。

     気のせいなどではない。
     長きにわたる執念ず忍耐が手繰り寄せた絶奜の機䌚。圌女の䞻、同時に怚敵であるロザリアを、己の手で屠るこずができるたたずない奜機が転がり蟌んできたのだ。
     その重圧が心臓の錓動を急き立おる。血圧が急速に高たり、極床の緊匵で芖界がわずかに滲んでいた。

     そしお、これを誰にも悟らせるわけにはいかない。

     玄束の時刻はずうに過ぎおいる。
     今頃、ルヌンプリンスの宿舎では協力者が階士たちの足止めをしおいるはずだ。メむド達の様子からしお、ただ緊急事態の報せはここには届いおいないのだろう。
     であれば、このたた寝銖を掻っ切るのみである。

     この時間はロザリアの湯济みが終わる頃合い。
     ノォルツもいない以䞊、圌女が最も無防備ずなる瞬間だ。

     殺れる。

     脳がその事実を認識した瞬間、胞の奥が高揚し始めた。
     自然ず歩みが速たり、最短距離の道順で颚呂堎ぞず向かう。

     ただ、䞀぀だけ懞念があった。
     ロザリア――いや、ノォルツの指瀺により、圌女の近蟺にはい぀いかなる時もルヌンプリンスが2人ほど配されおいる。
     いざずいう時には即座に䞻の䞋ぞ駆け぀ける手筈ずなっおおり、どれほどの手緎れの暗殺者でも指先䞀぀觊れるこずができない。

     だが、それでもやるしかないのだ。

     そもそも、ロザリアに最も近づける人物ずいえばノォルツず自分だけだ。
     我が呜などこの際床倖芖。あの女の銖さえ取れれば十分なのだ。
     掗脳が解けるならば䞇々歳。䞇が䞀解けずにルヌンプリンスが抌し寄せおきおも、そこたでの呜だ。悔いはない。
     それに、あの3人なら簡単に逃げおおせるこずだろう。

     汗をかかない皋床に、小走りで廊䞋を進む。
     角を曲がるず、颚呂堎の扉が芋えおきた。
     扉前に到着し蟺りを芋回すが――人の気配はない。
     壁ぞ耳を擊り付けお聞き耳を立おるず、ぱしゃんず氎の跳ねる音がした。

     いる。
     奎は確実に䞭にいる。

    萜ち着いお、私  䜕も悟らせずに、䞀気に仕留めるのよ

     深く、ゆっくりず息を吞い蟌み、ラブラドヌラは意を決しお扉を開けた。

    「ロザリア様、着替えず湯䞊がりの果実酒を持っおたいりたした。そろそろ䞊がらないずのがせおしたい――ッ」

     ラブラドヌラは、ロザリアが湯䞊がりの果実酒を至高の䞀杯ず称するほど習慣化しおいるこずを知っおいる。
     それに釣られおのこのこず党裞で出おきたずころを䞀刺しする予定だった。だが――

    「うふふ  掗うのが䞊手じゃない、きゃっ♡」
    「フフフ、お耒めに䞎り至極光栄でございたす、ロザリア様」
    「ほら、アナタも♡ ここがお留守よ♡」
    「  よ、よろしいのですか」

     想定倖だ。
     護衛のはずのルヌンプリンス2人ずロザリアが、混济に興じおいるではないか。

     䜕の冗談だず、ラブラドヌラの額に汗が滲み始める。

    なぜ 混济をするこずはあれど、儀匏の翌日は必ず䞀人を奜むはず   たさか

     満足しなかったのか。
     いや、ラズリ皇子が圌女を満足させるに至らなかったのだろうか。

     今たさに3人は欲望の暩化ずなり、湯船の䞭で絡み合っおいる。
     このたた特攻するのはあたりにも無謀だ。
     䞞腰ずはいえ、盞手はあのルヌンプリンス2人。女䞀人、玠手でも真っ裞でも、十分にこちらを無力化できるだろう。

    チッ  あの坊ちゃん、情けないわね  

     かわいい顔をしおいたが、䞋の方も可愛かったに違いない。
     被害者であるラズリ皇子には同情すべきずころだが、突然の倉曎に苛立ちを隠せない。

    「あら、そこにいるのはラブラドヌラ」
    「  ッ」

     突然声を掛けられ、䜓が倧きくびく぀く。
     しかし持ち前の粟神力で持ち盎し、即座に毅然ずした態床で応じる。

    「はい、私でございたす、ロザリア様」
    「良いずころにきたわね♡ 貎女もたたには混ざらない」

     普段ずは䞀颚異なる提案だ。
     混ざりたいずは露ほども思わないが、熟考するに倀する案ではある。
     入济を装いながら銖を掻き切るこずも遞択肢ずしおなくはないのではず。

    「      」

     いや、リスキヌすぎるずラブラドヌラは頭を振る。
     そもそも刃物をどうやっお湯船たで持ち蟌むずいうのか。最悪、入宀した瞬間に察知される。
     そのような危険を冒す必芁はないず、ラブラドヌラは吊ず刀断した。

    「いえ、私のような者がロザリア様の園を汚すわけにはたいりたせん」
    「あら、残念。貎女も十分矎しいのに、もったいないわ。ねぇ、二人ずも」
    「「勿論でございたす」」
    「たぁヌでも  少しのがせおきたかしら。今日はこれくらいに――」


     ゞリリリリリリッ

     突然、心臓が飛び出るほどの金属音が鳎り響いた。
     その堎にいる党員が䞀瞬固たる。
     その䞭で唯䞀、ラブラドヌラだけが瞬時に思考を回しおいた。

    これは  非垞ベル

     緊急事態を告げる非垞ベル。
     党おの階に蚭眮されおいるものの、ルヌンプリンスの匷固な防衛網によりこれたで䞀床ずしお鳎ったこずのないアラヌムだ。
     それが今鳎ったずいうこずは――

    宿舎ぞの襲撃が䌝わった  

     盞圓暎れ回っおいるのだろう。
     この短時間でこのベルを鳎らすだけの戊力を、あの3人が持っおいるずいうのか。期埅以䞊だが、それが今床は悪い方向ぞ効力を働いおいる。

     あの小さな2人のうち䞀人だけでも同行させればよかったずいう埌悔が蟌み䞊げおくるが、今ずなっおは結果論だ。
     それに、このタむミングでのベルは悪い話ではない。突然の爆音に、ルヌンプリンス2人もパニックに陥っおいるはずだ。

     この機に乗じお、䜕ずしおもロザリアを二人から匕き離さなければならない。

    「ロザリア様ッ」
    「な、なに なによこれ ラブラドヌラッ」
    「緊急事態を告げるベルです。すぐにお䞊がりくださいッ」

     ロザリア本人も盞圓に狌狜えおいる。
     無理もない。台頭しお以来、圌女は危険ずいう抂念から最も遠いずころで生きおきたのだ。
     甘やかされた日垞から恐怖の底なし沌ぞ匕きずり蟌たれる感芚だろう。利甚しない手はない。

     ばたばたずロザリアずルヌンプリンスがあられもない姿で颚呂堎から飛び出おくる。
     豊満な胞をぶるんぶるん揺らしながらわたわたず着替え始めるが、ラブラドヌラはタオルで党身を也かす暇すら䞎えず、即座にロザリアをバスロヌブで包んだ。

    「着替えのお時間はございたせん すぐさた避難いたしたすよ」
    「ちょ、ど、どういうこず ただびしょびしょなんだけど――」
    「䜕が起きおいるのですか、メむド長」

    「敵の襲撃ですよッ」

     その䞀蚀に3人の顔が匷匵った。
     ロザリアは恐怖、ルヌンプリンスの2人は困惑ず怒りで。

    「し、襲撃など  他の階士たちは䜕をしおいるッ」
    「そのルヌンプリンスが襲撃されおいるのですッ」
    「「はぁ」」

    「宿舎を  襲撃 我らルヌンプリンスをですか」
    「そんな銬鹿な  明らかな自殺行為だ  いや、それほどの戊力が」
    「3人です」
    「「は」」

    「敵勢力はたった3人。階士を屠りながらこちらぞ向かっおいるようです」

     二人は絶句した。
     長幎続いた倧戊を瞬く間に鎮圧した最匷の郚隊。この宝囜が誇るルヌンプリンスが、城ぞの進撃を蚱すばかりか、䞀方的に蹂躙されおいるずいう。しかも、たった3人に。
     到底信じ難い話だが、䞻に長幎仕えるメむド長がそのような出鱈目を口にするはずがない。二人は即座に臚戊態勢ぞ意識を切り替えた。

    「それでは、ロザリア様を安党な堎所たで埡――」

     その時、ドォンず近くで地響きが蜟いた。
     城党䜓がぎしぎしず軋み、シャンデリアがぐらぐらず揺れる。
     「嫌ぁヌッ」ずロザリアが蹲り、普段の圌女からは想像もできないような悲鳎を䞊げる。

    「すでに敵はすぐそこたで迫っおいたす。お二人は迎撃に集䞭しおください。ロザリア様は私が安党な堎所たで守り抜きたす」
    「  それでは  いや、さすがはメむド長。この状況、それが最善でしょう」
    「ロザリア様を頌みたしたよ、メむド長殿ッ」

     この城をメむド長ほど熟知しおいる者はいない。圌女の誘導であれば、䞻の安党は担保されたも同然だ。
     信頌に満ちた県差しを向けお軜く䌚釈するず、腰になけなしのタオルを巻いた二人は、氎滎を滎らせながらその堎を離れた。

      いけるッ

     唯䞀の障壁たるルヌンプリンスの匕き離しに成功。
     隣には、パニックで矎貌が台無しになっおいる心现い䞻が残された。
     これはもう勝ったも同然だろう。

     だが油断などしない。
     ここで仕掛ければ、悲鳎であの二人が即座に舞い戻る可胜性がある。
     今はできる限り゚ントランスから離れた堎所ぞ移動するべきだ。

    「ロザリア様、お立ちください 私めが、呜を懞けおお守りいたしたすゆえ  ご安心くださいたせ」
    「ラ、ラブラドヌラ  」

     「ふええ」ずいう情けない声を挏らすロザリアの手を掎むず、足早に廊䞋を駆け抜ける。
     足をばた぀かせ、いかにも走り慣れおいない䞍栌奜なフォヌムでロザリアも぀いおくる。
     ラブラドヌラに匕っ匵られる圢で、氎滎を撒き散らしながら、圌女ずいう蜘蛛の巣ぞ誘い蟌たれおいくのであった。

     ―――

     到着したのは、あの儀匏の郚屋だ。
     ロザリアの営みの音を倖に挏らさぬため蚭えられた、防音性の高い個宀。暗殺にはこれ以䞊ないほど奜郜合な堎所である。

     ロザリアは息を切らしながらベッドぞ座り蟌む。
     髪は半也きのたた乱れ、がたがたず震えるその様は、普段の圌女ずは皋遠い。䞀般垂民が芋れば、ロザリアだず気づかないほどだろう。
     そんな圌女が震える声でラブラドヌラに話しかける。

    「ラ、ラブラドヌラ  ここは安党なのよね」
    「    」

     ラブラドヌラは黙り蟌んだたた、䜕も答えない。

    「わ、私、倧䞈倫よね あの子達が䜕ずかしおくれるわよね ねぇ  」
    「      」
    「な、なんで䜕も蚀っおくれないの 怖いよ私  誰か  私を安心させお  ノォルツ  」

    「では、䞀぀。昔話を臎したしょうか」
    「昔話」

     がちゃりず、扉を内偎から斜錠する。
     くるりず振り返り、改めおロザリアず正面から向き合った。

    「昔、この囜は戊犍の枊に包たれおいたした  」
    「な、なに  」

    「宝囜は鉱物の採掘が盛んな囜。それゆえ他囜からは栌奜の暙的ずなりたした」
    「ねぇ  」

    「だが圓時の囜王――珟囜王であるアゲヌトスカスケリオンの兄にあたるトルマリンカスケリオンは、民を守るべく決死の抗戊を続けたした」
    「ねぇラブラドヌラ  䞀䜓どうしたのよ」

    「自ら戊地ぞ赎き、その比類なき頭脳で幟倚の戊線を維持。10幎もの間、宝囜に敵を近づけるこずはありたせんでした」
    「なんでそんな話を  トルマリンっお、あの戊犯のこずでしょう それがな――」
    「――だが倧戊末期。䞀人の人間が珟れたした。そう、あなたですよ。ロザリア・ディ・゚ルノァニス」

     ぎろりず鋭い県光でラブラドヌラがロザリアを射抜く。
     か぀お䞀床も芋せたこずのない凍お぀いた県に、ロザリアは思わずベッドの奥ぞず埌退った。

    「登堎するや吊や、アナタは“宝剣”ずしお名を銳せおいたノォルツぞ接近。そのたた篭絡し、骚の髄たで虜にした  」
    「ね、ねぇ  どうしちゃったのラブラドヌラ 䜕か、今日――」
    「お黙りなさい」

     静かな䞀喝に、ロザリアは完党に瞮み䞊がる。

    「ノォルツを傀儡ずしたアナタは、そのたた解攟の戊乙女ずしお台頭。宝囜を戊犍から救う英雄ず名乗り、圌を䞭心ずしたルヌンプリンスを組織――各地の戊地ぞ兵を挙げたした」
    「    」

    「党おの戊地の鎮圧。僅か半幎の出来事。だが、党おの解攟を果たしおもなお、貎方がたルヌンプリンス軍は垰囜しなかった」
    「      そんなの――」
    「䜕故なら――その足でそのたた、トルマリンを蚎ちに向かったからだ」

    「   」

     ロザリアはひたすら困惑しおいた。
     突然の襲撃に、ラブラドヌラの豹倉。そしお䜕より――䞀介の䜿甚人である圌女が、なぜそこたで詳しく知っおいるのか。
     たしかにロザリアが率いるルヌンプリンス軍は瞬く間に敵勢力を蹂躙した。しかし歎史曞が蚘すのはそこたでだ。
     ルヌンプリンス軍がそのたたトルマリン軍を蚎ったこずは、歎史の底ぞ葬り去られたはずなのである。

    「背埌からの奇襲を受けたトルマリン軍は瓊解。そのたたあっけなくトルマリン王は蚎たれたした  」
    「ら、ラブラド――」
    「だが貎様らの蛮行はそれだけでは終わらなかったッ」

     声の枩床が急激に䞊がり、ロザリアがびく぀く。
     ラブラドヌラの衚情はさらに険しく、もはやそこには䞀族の怚敵を前にした埩讐者の顔があった。

    「貎様らはッ トルマリン王の銖を晒すこずすらせず  戊争を長匕かせた戊犯ずしお――“愚王”の汚名を擊り付けたッッ

     もはやロザリアは黙るほかない。
     なぜならメむド長――ラブラドヌラの正䜓の片鱗が、混乱に満ちた頭の䞭でもなんずなく芋え始めおきたからだ。

    「トルマリン王の像が䜕故存圚しないのか 䜕故六䞖の名だけが歎史曞から抹消されおいるか それは党お  貎様が汚名を着せたからに他ならないッッ」
    「お願い、ラブラドヌラ  」

    「アゲヌトスには劻がなく、䞖継ぎもいない。それを奜機ず芋たアナタは歊功を盟に、繰り䞊がりで王ずなったアゲヌトスの寵愛を受け、嚘同然の埅遇のたた宰盞の座ぞ成り䞊がった  そうしお、自堕萜に成り䞋がった悪埳什嬢が誕生したのだッ」
    「萜ち着いお、ラブラドヌラ」

     ロザリアはラブラドヌラを宥めようず、その肩をそっず抱き寄せようずする。
     しかしその手は、無慈悲なほど力匷く匟き飛ばされた。

    「觊るな䞋郎ッッ」

     びしっず、メむドの蚌――ロザリアが盎々に䞎えた装食品を匕きちぎり、ロザリアの傍ぞ叩き぀ける。

    「私の名は“ラブラドヌラ”などではない  ッ」

     腰のポヌチから液䜓の入った小瓶を取り出し、そのたた自身の頭䞊からぶちたける。
     じゅうっずいう音ず共にラブラドヌラの挆黒の髪から色が抜け始め、赀、青、緑、黄――鮮やかな圩りのバむカラヌが露わずなっおいく。

     それはたるで、かの愚王ず揶揄されたトルマリン王の劂き髪色。

    「よく聞け悪埳什嬢  私の名は『ダリダモントカスケリオン』――」

    「――トルマリン王の血を匕く子、正統なる宝囜『セレスティア宝統府』の王女であるッッ」


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     ――報告。
     地球時間012319ZFEB25

     協力者ラブラドヌラのタヌゲットずの接觊を確認。
     ドゥヌ準䞊玚執行官に䌝達――䟝然ずしお生䜓反応が急速接近。協力者が倱敗した堎合に備え、迅速な凊理を掚奚。

     远蚘最䞊䜍存圚が䞀柱――テむア神から䌝達事項。

    「あらら、面癜いこずになっおるわね。ちなみにラブラドラむトの宝石蚀葉は――」

    「――“憎悪の抑制”よ」

     以䞊。

     
     
     
    ぜんにむです。  東北倧孊倧孊院医孊系研究科に圚籍し、医孊研究に取り組む傍ら執筆。 珟圚「転生監査機関RAC」を連茉䞭です。 カクペム kakuyomu.jp/users/PONYM 小説家になろう https://mypage.syosetu.com/3071966/

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