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転生監査機関《RAC》CASE.052

    ぽんにむ

    「開幕」


     空気が即座に裂けた。
     そう錯覚するほど、ヴォルツの初撃は凄まじく速い。

    「ッッ!!」

     いよいよ特殊第六執行部隊の対ヴォルツ戦闘が始まった。
     コンディションは最悪。
     ドゥーは武器が破損し素手による対応。FREYAもその防御性能の60%を失っている。
     一方インヨウ兄妹は、その機動性と俊敏性でなんとかヴォルツの猛攻を往なしていた。

     ブォオンンッッッ!!!

     ドゥーは咄嗟に身を捻る。
     銀白の斬閃が頬先を掠め、そのまま背後の地面を抉り飛ばした。
     空気ごと削り取り、薙いだ空間が一瞬だけ真空に近い状態になる。その副次的効果と言うべきか、真空空間への大気の吸い込み力が発生し、抉られた土と草が一拍遅れて爆ぜた。轟音と共に、大地が一直線に裂けていく。
     この一瞬の吸引効果とシンプルな剣速が、ドゥー達を大いに苦しめていた。

    (なんちゅーバカげた身体能力だ! これが神の力というやつか……!! ていうか、なんで振るだけでこんなカマイタチみたいな――危ッ)

     あり得ない速度に、あり得ない威力。
     ついでと言わんばかりに空気の斬撃まで飛んでくるという隙のなさ。そして地味に厄介な吸引。
     何が絶望的かというと、この剣撃・吸引・かまいたちという三段階の猛攻を、ヴォルツはまるで肩慣らしとでも言いたげな無造作さっぷりで放っていた。
     
     剣を振るう右腕以外は、本業の執事のようにゆったりとした動きのままだ。

    「わっ!」
    「よっと!」

     インとヨウが左右へ大きく跳ねる。
     直後、二人がさっきまでいた空間を、二撃目・三撃目がほとんど間を置かずに通過した。
     続いて二人の到達地点を予測して、さらなる斬撃が飛ぶ。

     ギィンッッ!! と耳をつんざく衝突音。

     インが咄嗟に蛇腹剣を撓ませて受け流し、ヨウがナイフの腹で軌道を逸らす。
     どちらも直撃は避けることに成功。だがその反動だけで、二人の身体が大きく吹き飛ばされる。

    「うっ……!?」
    「おおっとっとぉ!」

     空中で無理やり体勢を整えながら、インヨウ兄妹はそれぞれ別方向に着地した。
     地を滑り、草を削りながら、ようやく勢いを殺す。

     たった一合。
     だがそれだけで彼我の戦力差を嫌になるほど理解させられる。

    「往なしてもピリピリくるよぉ、イン兄〜ッ!!」
    「ドゥーなんとかしてよ」
    「いや勘弁してください、俺素手なんですよ!?」

     武器のないドゥーは、もはや必死に被弾を避けるのが関の山であった。FREYAがその6割を機能停止している以上、一太刀でも浴びれば大惨事になる。

    (強い……ッ!)
     

     ――ヴォルツ・ディ・エルヴァニス。
     
     かつて“宝剣”と恐れられた男は、何一つとして衰えていない。
     むしろ今この瞬間に限って言えば、その剣は全盛以上の冴えを見せているようにすら思える。
     
    「ほら、どうしたのです?」

     丘の平原、その中央。
     宝石細工めいた剣を片手に、ヴォルツは静かに立っていた。

    「先ほどまでの威勢は何処へ? まさかその程度で、我らルーンプリンスを害そうとしていたわけではないでしょう?」

     口調はあくまで穏やかだ。
     怒鳴りもせず、息も乱さず、ただ淡々と事実だけを述べて挑発をする。
     だがその一歩ごとにヴォルツの圧力が増していった。

     ドゥーは歯噛みしながら間合いを測った。
     まともに打ち合えば終わる。
     よってやるべきことは一つ――徹底的な生存。回避&時間稼ぎだ。

    「ミラ! まだか?!」
    「いぃ~まやっってるっスよぉーーッ!!!」
    (このポンコツアホ毛が!!)
     
    「チッ、ダメね」

     カイは舌打ちした上で、携帯を投げ捨てる。そんな音がした。

    「本部の見解を伝えるわ」
    「「待ってました!!」」
    「応援要請は却下。あくまで私たちだけで完遂せよとのことよ」
    「「待ってませんでした(´・ω・`)」」

     インヨウ兄妹はノリツッコミをしつつ、期待外れの回答に項垂れる。
     ツッコミをしている時点でまだまだ余裕がありそうだが、一方のドゥーは本気で焦っていた。

    「じゃあどうしろっていうんですか!? こっちはすばしっこいの2人と、素手の恩寵無し1人だけですよ! おまけに毎度の如くあのブレードは使い物にならない!」
    「……わ、わかってるわ! だからもう一度掛け直すから、持ち堪えて!!」

     二人の声には、明確な緊張と苛立ちが混じっていた。
    『アバドン』を使えればまだどうにか、と考えていた。
     だが本部は何を考えているのか、このまま素寒貧で突っ込めとのことだ。

     今すぐ本部に突撃して『アバドン』を解放したいところだが、その瞬間——ヴォルツの姿が掻き消えた。

    「ヨウッッッ!!!!」

     インが叫ぶより先に、ヨウが反応した。
     蛇腹剣を展開。鞭のようにしならせ、横合いから迫る斬撃へ絡め取るように差し込む。

     だが、次の瞬間。

    「甘いですね」
    「――ッ!?」

     ヴォルツは剣の軌道を途中で捻じ曲げた。
     巧みな手首の返し。絡んだはずの刃が逆に蛇腹剣を巻き込み、ヨウの体勢が崩される。

     そこへ追撃。

     だが、その斬撃がヨウへ届く寸前、インが低空から滑り込んだ。

    「ヨウに――触るなッ!!!」

     ナイフと蛇腹剣による十字の斬り上げ。
     小柄な身体を極限まで沈め、地を這うような超低姿勢からの一閃だった。
     しかしヴォルツはそれすら読んでいたかのように、剣の腹で二本まとめて受け止める。

     甲高い火花が幾度も連続で散る。

    「見事です」
    「チッ」
    「こんのぉッ!」

     ヨウは即座に跳ね退き、空中で一回転。離脱と同時に袖口から短刃を三本放つ。
     インも崩れた体勢のまま地を蹴り、左右から挟み込む形へ移行した。

     カカカカカンッ!! と、金属音が連続する。

     速い。二人とも十分すぎるほどに速い。
     下級執行官の領域としてはもはや異常の域だ。
     だがその高速機動すら、ヴォルツの前では“なんとか防戦を維持している”以上の意味を持たない。

     インがナイフを投擲。
     ヴォルツは投げナイフを払い、インの蛇腹剣を捌き、ヨウの懐への潜り込みを半歩で外す。
     お互い、まるで未来でも見えているかのような処理速度だった。

    (クソ……!)

     ドゥーは見えぬ歯を食いしばる。

     あの激闘に、自分だけがまともに踏み込めていない。というか踏み込めない。
     今のヴォルツを相手に半端な差し込みは自殺と同義だということ。その上、自分だけならまだしも、自分の介入がノイズとなり二人の足を引っ張りかねない。
     そのため動こうにも動けない自分を、歯痒く思う。

    (『アバドン』が無いとこのザマか……!)

     辛うじて彼のヘイトを散らすため、左右へ大きく回り込み続けるのが精一杯だった。

    「随分大人しいですね、赤目の方」

     ヴォルツの視線が、ちらりとこちらへ向く。
     その一瞬で総毛立つ。

    「賢明な判断です。今の貴方はただの凡骨。彼ら二人の肉盾が関の山でしょう」

     直後、地面が爆ぜた。

     ヴォルツが一度、本気で踏み込んだのだ。
     たかが一歩。されど一歩。だが彼の身体能力を以てすれば、一踏みで平原の草が円状に薙ぎ倒される。

    「煩わしい蠅は火力で叩くに限る」
    (――来るッ)
    「行儀のよい時間は終わりです」

    「散れッ!!」

     ドゥーの叫びと同時に、三人はそれぞれ別方向へ跳んだ。

     次の瞬間、宝剣が大きく薙がれる。

     月光を反射した白刃が、音すら置き去りにして平原を高速で横断した。
     斬撃というより、もはや切れ味抜群の巨大な衝撃波。剣神と崇められる最上位存在が一柱――タケミカヅチ神を彷彿とさせる空間を裂く剣撃だ。
     丘の斜面が抉れ、土塊が吹き上がり、草原が丸ごと一列消し飛ぶ。

    「っ、は……!」

     ドゥーは転がるように着地し、すぐさま顔を上げた。マントはボロボロ、あちこちにヒビが入っている。
     インは辛うじて避け切ったが、仮面が半壊し素顔が見えてしまっており、ヨウも左腕の装甲を削がれ、火花を散らしていた。

     全員、直撃だけは免れたもののこの有様だ。
     少しでも当たり所が悪ければ、その部位ごと消し飛んでいたかもしれない。

     だが休む猶予など、あのヴォルツが与えてくれるはずもない。
     土煙が舞う中、ドゥーは一瞬ヨウの方へ高速で向かう影を視認する。

    「や、ば——」
    「まずは一匹目」

     ヴォルツは拳を限界まで握り込み、FREYAを一発で機能不全に陥らせたその剛腕を、体勢を崩しているヨウの顔面へ叩き込もうとする。
     だが、その間にドゥーが間一髪で割り込んだ。

    「ドゥ―――」

     バゴンッッ!! という轟音と共に、ヴォルツの全力の拳がドゥーにクリーンヒットする。
     かろうじて両腕でガードを試みるも、その一撃は彼をここまで吹き飛ばしたあの打撃より遥かに凄まじかった。
     腕の防御ごとドゥーを遠方まで弾き飛ばした。

    「~~~~~~~~ッッッ!!!!」

     声にならない嗚咽を吐きながら、何度も地面に叩きつけられる。
     川で親子ともども楽しむ水切りのごとく、ドゥーは幾度もバウンドしながら転がっていった。

    「ドゥーッ!!」
    「バカ!」

     ヨウがドゥーの方へ駆け寄ろうとした瞬間を、ヴォルツは見逃さない。
     その隙を突くようにヨウの喉元へ迫る剣撃を、またしてもインがカバーする。

    「ボさッとするなヨウ!」
    「ご、ごめんイン兄……!」

     
     三人の高速の応酬が再開した頃、ドゥーはようやく止まった。

    「ぐ…………ごあ…………ッ」

     腕の感覚がほとんどない。
     頭痛と耳鳴りも酷い。
     FREYAはもはや応答すらしなくなっており、視界が酷いノイズで覆われている。

    (……まずい…………)

     ダメージが装甲を貫通し、内部の拘束具グレイプニルMK2にまで及んでしまっている。
     FREYAに空いた破損箇所から、ドロドロと黒い液体が流れ落ち始めた。

    「先輩!!」
    「……ぐ……ぅ」
    「大丈夫ッスか!? ちょうど今、解析が終わりましたよ!」

     ようやくか、とドゥーは悪態をつく。
     正直声もまともに出せそうにない。流出する『アバドン』を抑えるのに手一杯のため、ただミラの説明を待つしかなかった。

    「ヴォルツ・ディ・エルヴァニス――奴は半神です!」
     
    「は、は……んしん……?」
    「母はインタースペース人、父はあの剛神『トール』です!!」

    「……………………は?」

     ドゥーは一瞬だけ思考を止めてしまう。
     最上位存在が一柱――『トール神』。
     “神域”ブリタニカにおける主神――『オーディン神』に次ぐ主神級の神々の列に名を連ねる傑物であり、その逸話は数知れない。

     巨人を破壊尽くした“雷槌《ミョルニル》”の使い手。
     力を倍増させる帯――“メギンギョルズ”の所有者。
     己の異次元な握力を抑えるための銀の手袋。そしてかつての厄災『ラグナロク』にて宿敵ヨルムンガンドを討ち滅ぼした大英雄。

     今はそのヨルムンガンドの毒で療養中、随分と大人しくなっているが、昔は生粋の“ヤル○ン”として有名であった。
     女はとっかえひっかえ。その腕っぷしと男の色気むんむんな装いから引く手あまた。にもかかわらず、『シヴ神』という麗しいドワーフ製の黄金の髪を持つ女神と婚姻。そしてその後も遊びの限りを尽くしたという。

    (なるほど……もう色々納得したぞ全く……)

     漏れ箇所を手で押さえながら、ドゥーはゆっくりと立ち上がった。

     ヴォルツの神がかりの身体能力。
     正直、半神であの戦闘能力というのはあまり信じたくはないが、実際トールの“隠し子”と言われれば合点がいく。
     それだけ数多の女と関係を持ったのならば、一人や二人身ごもる者がいてもおかしくはない。

     そしてその一人がヴォルツなのだ。

     おそらく隠蔽を兼ねてここの世界に捨てられたのだろう。
     この世界のランクは“γ”。異世界の中では最低位であり注目もされず、時間――といっても地球時間では気の遠くなるほどの年月――が経てばいずれは自壊、もしくは廃棄処分となる。
     そんな中、自身の不祥事と共にRACについでに処理されるのであれば一石二鳥なのだ。

     つまり彼ら特殊第六執行部隊は今――

    「アタシらは今、神の不祥事の口封じに加担させられてるってことッス……ね」
    「…………」

     
    (ふざけるな)

     あまりに度が過ぎたおふざけだ。
     RACの本来の在り方は“転生者の執行”。そして“異世界の調停”。
     決して神々のくだらない諍いの尻拭いではない。

     だが本部が応援要請を受け付けないという事は、中枢機関、その中の神々も一枚噛んでいるという事だ。
     どこまでコケにすれば気が済むのか。

     出来損ないの世界を作り、未熟な魂に不相応な力を与えた。
     挙句の果てにその対処は全て彼ら基底界インタースペース人任せであり、このような汚職に巻き込むことも辞さない。

     ドゥーの怒りはゲージを突き抜け、彼のどこかで何かがプツンと切れる音がした。
     そこへカイが心配そうに割り込む。

    「ドゥー、本件は私達の手に余りすぎる。私の独断でアナタ達は強制帰還させるわ。今、予備のグレイプニルを転送するから、もう少しの辛抱――」
    「……………………いい」
     
    「……え?」

    「……もういい」

     ドゥーは抑えていた破損部を放す。
     するとドロドロと『アバドン』が滲み始め、ミラが心配そうに喚き始める。

    「先輩ヤバいっス、駄々漏れッスよ~!」
     
    「ミラ」
    「は、はい?!」
    「今すぐRACの全アナウンスをハックしろ」

    「へ?」

     真剣な声音で何を言い出すのかと思えばと、カイはドゥーの乱心を咎めようとした。

    「ちょっと、ドゥー!アナタなにを――」
    「そして俺のマイクに繋げろ」
    「ちょっホントに――ミラ駄目だからね?? いい子だから大人しくしてて頂戴、ね?」
    「え? え? え~?!」
     
    「頼むミラ」
    「だめよミラ!」

     二人の間で綱引きが起こり、ミラは目を回す。
     世界最悪な板挟み。片方は瀕死の先輩、もう片方は頭が上がらない上司。以前であれば速攻放棄し、自室に逃げ込むところだったが――

     
    「頼む、相・棒・。お前の力が必要だ」
    「………………先、輩……」
     

     このまま作戦を終了しても、おそらくミラの評価は覆ることは無い。
     十分実力を見せた。結果も出した。今回の件はカイが全責任を取るというのなら、今この場面ではカイの言う通り、執行官三人を強制的に帰還させて中断するのが安牌だ。

     準上級への昇進はまず間違いないだろう。
     彼女の華々しいエリート街道は、今まさに産声を上げているのだ。
     リスクを冒す必要などないのだ。

     なのに――

    「一つ貸しっスよ、先輩」
    「あぁ」
     
    「ちょ、ちょちょちょちょちょま——」

     ここ一月で、悪友ドゥーと培った関係性が彼女を変えた。
     これは彼女の――ミラの物語。何人も、たとえ神でも彼女を止める術はない。

    「ほい、ぽちっとな」

     ミラがボタンを一押しする。
     するとドゥーのマイクに雑音が入り、最後には何かに接続したような音が鳴る。

    「RAC本部、全てのアナウンスに先輩のマイクを接続したッス」
    「は!? ちょバカ、アナタ何して――」

    「猶予は15秒。その間は先輩にお任せします」
    「感謝する、ミラオペレーター」

     「へん!」とミラははにかむ。
     直後に特大のカイの拳骨が振り下ろされるが、そんなことは知らずにドゥーは口を開いた。

     
    「中枢機関、及び最上位存在が一柱――『トール神』に告ぐ」
     
    「ぁあーもう知らない! 私知らないからぁ~~!! (んぐんぐんぐんぐ……)」
     
    「やべっ!! ユリスパイセン、カイ姐が錯乱したッス!」
    「カイ監査官、任務中の暴飲は不適切なこ……おごっ」

     鈍い音がした直後、ユリスが沈黙した。
     そんなことは構わず、ドゥーは続ける。

     
    「見てるんだろ、神々クソ共。どうせこの案件も全部端から織り込み済みだろ?」

     
     インヨウ兄妹もまた、激闘の最中で響き渡るドゥーの声を聞く。
     RAC本部の中では彼の声が、食堂や会議室、トイレに至るまで大音量で反響していた。

     当然、中枢機関も例外ではない。

    「あの男…ッ」
    「セキュリティは何をしておるのだ!?」
    「止めろ!! 早くこの放送を切れ!!」
     
    「だぁーはっはっはっはっ!!! さっすがだなぁ、特殊第六執行部隊ィー!」

     神々が慄き、怒り、慌てふためく中、RAC局長のブッダ神だけは腹を抱えて笑っていた。

    「何を笑っているのだ、ブッダ!!」
    「これは由々しき事態だぞ。だから私はあれほどあのインタースペース人の起用に反対したのだ!!」
    「これを機に、お前には局長の座をおりてもら――むぐぅ!?」

    「びーびーうるせぇなァ?? あ”ぁ”ん”??」

     喚く神々の一人の口を鷲掴みにしながら、ブッダ神は他の神々を睨みつける。
     その威圧は、同じ神であっても一瞬たじろいでしまうほどの殺気である。

    「もとはといえば、トールのクズが発端なんだ。これはそう、因果応報って奴だ、ゼ?」
    「貴様……自分が何を言っているのか、わか――うぐぅ!?」
    「分かってらいクソジジイ。今は黙って聞いてろ」

     ブッダはこちらに向けて声明を出すドゥーの姿を、モニター越しに見つめる。

     
    (フハハ……やっぱ君の言う通り面白くなってきたよ、ヤハウェ)
     
     

    「よく聞け、上でふんぞり返ってる張りぼての神共」

     その言葉で、カイはくらくらと意識が遠のく。
     こんな大放送で正面から堂々と最上位存在を揶揄するのは、自殺願望者でもやらない恐るべき蛮行だ。
     RAC本部では怒る者、笑う者、冷笑する者、そして――ごく一部、称賛する者で綺麗に分かれていた。

    「お前らの汚ぇケツは俺が代わりに拭ってやる」

     ミラは爆笑。
     ユリスとインヨウ兄妹も思わず吹き出してしまう。

    「一度しか言わん。俺に『アバド――」

     そこで放送が切れた。

    (チッ、頭に血が昇って全部話せなかったぞクソが)

     だがその挑発が功を奏してか、即座に一通の伝達がミラの元に届いた。

    「せ、先輩!」
    「っ! やっとか……」

     彼女の嬉々を含んだ甲高い声音は、伝達の内容を把握するには十分であった。
     両腕を頭上に広げた直後、真下に振り下ろしてその名を叫ぶ。

    「やったれ先輩!」

     
    「『アバドン・システム』――起動!!」

     
     ————————————————————————————————
     
     

     ――報告。
     地球時間020031ZFEB25

     
     特殊第六執行部隊・ミラオペレーターによる、RAC本部へのハッキングを確認。
     電波系統に約15秒の大規模な障害が発生。セキュリティスタッフにはRAC本部におけるセキュリティプロトコルの強化を強く要請する。

     
     同時刻、ドゥー準上級執行官による『アバドン・システム』の起動を確認。

     出力計測結果――50%。
     これは個体名ドゥーが執行官就任以来、異例の最高値である。

     RAC【第一執行部隊】に緊急出動を要請。
     即刻、ターゲット『ヴォルツ・ディ・エルヴァニス』の執行を援助せよ。

     以上。

     
     
     
    ぽんにむです。  東北大学大学院医学系研究科に在籍し、医学研究に取り組む傍ら執筆。 現在「転生監査機関RAC」を連載中です。 カクヨム kakuyomu.jp/users/PONYM 小説家になろう https://mypage.syosetu.com/3071966/

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