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転生監査機関《RAC》CASE.023

    ぽんにむ

    「VS工藤・旭」


     黒い稲妻が迸る。
     それはケイン・アッキネン戦時のそれを凌駕する出力――30%である。

     グレイプニルMK2の役目は、ドゥーの内に流れるアバドンを圧しとどめること。
     万が一感情が高ぶっても、一滴すら外界へ漏出させない。たったそれだけのために、かつて神獣を縛り付けた神の鎖を繊維状に複製し、体にぎちぎちに巻き付けている。
     だが、それでは足りないのだ。

     神器をもってしてもドゥーのアバドンは完全には止められない。
     いずれは決壊したダムのように爆発することを恐れた神々は、時折それを排出する機構を付け加えた。
     それこそが、MK2の成り立ちである。

     
    「な、なんですか……あれは……」
    「………………」

     突然、モノアイの装甲が変形した。
     赤い筋のようなものが走り始めたかと思えば、全身から謎の黒い稲妻を放出し始めたのだ。

     絶えず振り続けていた剣の雨は瞬く間に吹き飛ばされ、迸るそれ自体がバリアのように機能している。

    (初見の魔法……いや、そもそもあれは魔法なのか?? それに……なんだ、この――)

     レーゲンブルクはひどく困惑していた。
     それは、その黒い稲妻の禍々しさもさることながら、何よりもその嫌悪感。
     こちらの存在を骨の髄まで拒絶するかのような、表現すべき言葉が見つからぬほどの不快感がレーゲンブルクとミークを始めとしたその場の全員を襲っていた。

    「総員、退避しろ! 退避――」
    「ぎああああああッ!?!?」

     得体が知れないため、一時的に敵を囲む勇者たちを下がらせようとする。
     だがそのうちの1人から絶叫が上がった。

    「た、たすぎィああぁぁぁぁ……」

     おそらく、あの黒い稲妻に触れてしまったのだろう。
     触れた足からビキビキと体が崩れ始め、それが全身へと伝播していく。
     本人は何が起きたかも理解できないまま、周りの魔導士が必死に治癒魔法をかけるも空しく、苦悶の表情を浮かべたまま最後は黒い屑となって消えてしまった。

    (体が崩れ、魔法をも受け付けない魔法…………いや違う、あれは魔法どころの話ではない)

    「ミーク君、君はどう見る」
    「どう見る、とは……?」
    「あの黒い何か、あれは何だ?」
    「そんなの……僕にだって見当もつきませんよ!」

     黒い稲妻は、触れた矢先から全てを粉々にしている。
     力による粉砕とは違う。燃やしすぎた木材のように、ボロボロとひび割れ崩れていく。
     魔法も何も受け付けない。それこそ、全てを拒絶しているかのような――

    「そもそも、奴はどこから来たのでしょうか」
    「ふむ……」

     たしかに、もっともな疑問だ。

     その様相は、明らかにこの近辺――いや、もはや世界そのものから逸脱している。
     世界を股に掛けた大賢者だからこそ、あの敵の異常さがわかる。
     生きる世界が違う。文化も何もかも。
     違う次元からやってきたような、まさに別次元からの来訪者。

     
     ――神だ。
     

     あの言葉。
     息子の問いに、あの者は確かにそう答えた。

     神の存在は定かではない。
     宗教上の偶像崇拝の対象にはなるが、その実物も、その存在を裏付ける証拠も見たことがない。
     だが――

    (やはりいるのか……)

    「息子は逃げおおせるだろうか」

     ただ、それだけが心配だった。
     あの敵は真っ先にエリオットの背を追うだろう。そして、あの黒い何かで殺すのだ。
     
     息子が、先ほどの勇者のように崩れながら惨たらしく死んでいく。
     それだけは父親として絶対に避けねばなるまい。

    「大丈夫ですよ、大賢者様! エリオット様は天才なんです。ボクはあの人を、あの人を信じたロッテを信じます」
    「そうか……では、我々も息子の尻拭いを全うするとしようか」
    「はい!」

     

    「残念ながら、それは叶わんよ。旧き友よ」

     突如背後から声がかかり、レーゲンブルクは即座に振り向く。

    「――なッ!? 貴様はッ!!」

     
     ―――
     

     走れ。
     走れ走れ走れ。

    「ハァ……ハァ……!」

     工藤は全身に強化魔法を何重にもかけ、戦場を疾走していた。
     身体中がビキビキと痛い。
     普段使わない筋肉まで総動員している。
     魔法も最大出力。プライドも効率もなにもかもをかなぐり捨て、今は必死に前へ進む。

    「ハァ……ハァッ……!!」

     もはやこの命は自分だけのものではない。
     ロッテの命、ゼノの命。みんなの命。
     なぜ今になって、こうも周りが鮮明に見えるようになったのか。ぼんやりと見えたこの世界に色彩が宿ったかのようにリアルだ。
     
     ゲームか何かだと思い続けてきたのに。
     リアルではない仮想的なものだと自分を騙し続けてきたのに。

    (ロッテ……)

     たかがNPCだと思っていた。
     単に主人公が最初に出会うタイプの、都合のいいヒロイン役だと。
     
     だが彼女の死は、彼の固定観念を吹き飛ばすほどにリアルだったのだ。

     実際に戦ったからこそわかる。
     アイツドゥーは化け物だ。
     自分の力がこの世界では異常であることは、薄々自覚しつつある。そもそも、自分がゲームの主人公だと思っていたわけだし。
     それを差し引いても、あれはダメだ。

     桁違い。
     人を滅ぼすためだけに生まれてきたサイボーグ。前世で見た某近未来映画のそれを彷彿とさせるほどに。

     きっと今頃、父たちが死力を尽くして応戦しているだろう。
     もはや何人殺されているか。
     想像するだけで吐き気がするが、何が何でも足を止めてはならない使命感が、彼の背中を押していた。

    (はは……四十万人殺したくせに、何言ってんだか)

     やっと自身の罪の大きさを自覚したその最中、突如後方から異様な轟音が聞こえた。
     間違いない、奴だ。

     振り向いてはダメだと分かってはいる。
     だが、彼はちらりと一瞥してしまう。

    「――まじかよッッ!!」

     凄まじい勢いで、距離を詰めてきている。
     様相が変わり、まさに鬼気迫ると言うべきか。
     赤いモノアイと身体中に走る線をギラギラと光らせながら、障害である勇者軍を蟻の群れを一蹴するかのように薙ぎ払いつつ、こちらへ向かっている。

    (まさか……もう……!)

     あの包囲網を突破したということは、もう父は――

    「クソッ!!」

     考えてはダメだ。
     そんな悠長なことしてる暇などない。
     敵はもう、肉眼で赤い揺らめきが鮮明に視界へ映る距離まで来ている。
     今は何としても、あの敵の索敵範囲内から脱出するほかないのだ。

    「水砲アクアバーストッ!!」

     手を翳し、魔法を唱える。
     水砲の反動で前進しつつ、敵を牽制。
     合理的な判断。今この状況における最適解だ。

     照準を敵へ合わせ、魔法陣を回転させ、魔力を極限まで高める。
     もはや周りの被害など考えない。今はとにかく生きる。何としても、ロッテの命を無駄には――

     
     だが突如。
     彼の魔法陣は、その回転がピークへ達する直前に、ガラスのようにパリンと砕け散った。

     
     ――――――
     

    「先輩、いました!! 前方300m!!」
    「無理した甲斐があったな」

     規定上限の20%を超えた30%。
     カイやヘパーの小言は必至、これから降りかかる報告書地獄も容易に想像できる。
     だが今は、グレイプニルの施錠を緩めたことによるアバドンの一部開放、そして身体能力の向上によるターゲットへの急接近が、この場では何よりの最適解だ。

    「前方150m! 高エネルギー反応、何か来るッス!」
    「……!」

     前方、工藤を見ると踵を返してこちらを向いている。
     手のひらには大きな魔法陣。先の突撃時に跳ね返したあの魔法を撃つつもりなのだろう。

    (黒凪は発動時のインターバルがネック……仕方がない)

     するとドゥーの前腕部から、黒い液体が滲み始める。
     黒い水滴は前腕を伝い、そのままブレードの刃を纏うように滴り始めた。
     刃に反応しているのか、ギギギという金属特有の悲鳴のような音が鳴り始める。

    「えちょ、先輩なにして――」
    「いいから黙って見てなさい」

     ミラの慌て声に、カイの真剣な低い声音が重なる。

     先ほどの続きだが、グレイプニルMK2で圧迫するだけではドゥーのアバドンはいつか決壊する。
     そのため、時折排出するための機構を追加で取り付けている。それが、ドゥーの各関節部に取り付けられた圧力制御装置だ。
     水道管のノズルのような要領で、グレイプニルのアバドンを締め付ける力――つまりトルク力を調整する。普段は全開、力の100%を用いて締め付けることでアバドンの出力は0を維持。その線を緩めることで、徐々にアバドンの力を開放していく。
     それが『アバドン・システム』の全容である。

     さらに、アバドンは通常時は液体。
     ドゥーの身体を循環するそれは、封印を緩めることで任意の箇所から汗のように分泌させることができる。
     今、ドゥーの前腕部を滴る正体がそれなのだ。

    「フッ!」

     ブレードを勢いよく振りかぶる。
     刃に伝うアバドンはその勢いを乗せたまま、工藤のショットガン水魔法のように黒い雫状へ拡散し、エリオットへ飛ぶ。

     黒い雫がちょうどエリオットの魔法陣へ触れる。
     その瞬間、今まさに放たうと回転していた魔法陣は、ガラスのようにバリンと割れてしまう。

    「は?」
    「え?」

     工藤とミラが、ほぼ同時に呆けた声を出す。

    「な、なんスか今の!?」
    「アバドンは全てを拒絶するって言ったわよね。あらゆる物理現象、それも神の力を含めた全てを」

     「まさか」とミラはキーボードを打ち鳴らし、今起きた現象の解析を試みた。

    「アバドンで魔法陣の、魔法の流れを乱したってことッスか……?」
    「まあ、詳しくは私にもわからないけどね」

     下手すると、今この現状でアバドンを最も理解しうるのはドゥー本人と、卓越した解析能力を持つミラだけだろう。
     この世界の魔法と呼ばれる技の成り立ちも、その原理も不明瞭。そのため、この現象を説明することはカイにはできない。
     だが報告書から察するに、魔法にはかなり複雑な工程が必要なのだろう。そこへアバドンのような劇薬が放り込まれれば、十中八九バグが起きる。マザーボードのような精密部品に、ほんの少し傷をつけるだけで機能を失うのと同じイメージだ。
     
     そして、確かにアバドンが触れたことで工藤の魔法陣は木っ端みじんに粉砕された。
     これだけは事実である。

    (なんなんだよ、これ!!)

     その事実に、特に狼狽していたのは当然、工藤本人である。
     威力を担保するために溜めに溜めた魔法陣が、何らかの理由で割れて無に帰した。
     
     初めての現象。
     だが、自身の落ち度ではないことは確か。
     間違いなく敵が何らかの形で魔法に干渉したのだ。

    (無効化系の能力!? それともまた別の魔法――)

    「クソッ!!」

     即座に逃亡から応戦へ切り替え、工藤はまた新たな魔法陣を構築し始める。

    「炎×土魔法――『地雷嵐マインストーム』ッ!!」

     ドゥーの足元の大地が隆起し始め、さらに燃え盛る炎が襲いかかる。
     大地はドゥーを瞬時に包み、そのまま半ばオーブンのように対象へ煉獄の地獄を味わわせる――工藤の即興魔法だ。

     だが瞬時に土のバリケードはサイコロ状に切り刻まれ、何事もなかったかのようにドゥーは脱出する。

    「くッ!! 水×風×氷魔法――『極寒棺アイシーコフィン』ッ!!」

     今度は水の塊でドゥーを高速拘束し、そのまま風で打ち上げ、氷でがちがちに固める。
     今思いつく限りの最強の高速魔法。殺せずとも数秒は足止めが可能なはず。

    「す、すげえ……」
    「神業……」

     その異次元な戦いを、魔王軍も勇者軍も思わず手を止めて観戦していた。
     ただでさえ、1つの魔法の習得が特別なこの世界。それを極めるどころか複数の属性を合体させる。それはまさに神業に等しい。

     
     それを可能にしているのが、工藤・旭の恩寵ギフト――『常理外演算《オーバー・チュートリアル》』。
     
     あらゆる状況、あらゆる物理法則において、その場の最適解を自動でプログラミングするというTHEチート能力だ。
     魔法の世界において、それは神にも等しい力であり、どれほど習得難度が高い魔法でも短時間で習得・応用し、さらには新たな魔法を構築することができる。
     
     常にその場の最適解を出力する力。
     それは皮肉にも、この世界を虚構と断じ、魔法以外の全てにおいて不正解を選び続けた男へ与えられた――まさに豚に真珠、馬の耳に念仏の過ぎた祝福であった。

    「あああああああッ!!」

     炎、水、雷、土、風魔法。
     ありとあらゆる組み合わせを即座に構築し、矢継ぎ早に仕掛ける。

     炎の雷槍。
     煉獄の竜巻。
     強酸の雷雨に巨大なゴーレムによるボディプレス。

     今世における最大出力の魔法の連打。
     頭の回転は最高潮。アイデアが湯水の如くぽんぽん湧く。
     神の御業レベルの魔法をいくつも完成させ、その場で実践する。まさに実験の絶好の機会だ。

     こんな状況でなければ。

    「……くそ」

     その全てを、ドゥーは軽々とくぐり抜ける。
     アバドンを開放した彼には、あらゆる事象は意味をなさない。
     炎の熱は届かず、氷の凍てつく冷気も阻む最強の盾となる。アバドンを纏ったブレードはあらゆる万物を切り裂く刃と化し、いとも簡単に障害を両断する。
     手応えがあるとすれば、土魔法による物理的な拘束のみ。それもたったコンマ数秒の話だが。

    (詰みかな……)

     いかなる妨害も躱され斬られ、それでもあの赤いモノアイはぎらついている。
     疲れを一片たりとも見せぬ俊敏な動きを見せており、心が今にも折れそうだった。

     その時、彼の脳裏にミークの言葉がフラッシュバックする。

     
     ――どうか生きて。私のためにも、ゼノのためにも……何よりロッテのために。何を差し置いても生きて。

     
    「ッッ!!!」
     
     その時の彼には、一抹の躊躇もなかった。
     工藤は天に手を翳し、北方戦線のあの時見せた超巨大な魔法陣を展開する。

     
     ――『水爆』。

     エリオット・レインフェルの最強にして最大火力の大魔法。
     四十万を一瞬で屠った災害。それをここで発動する。

    「死ねない……こんな所で死にたくないッ!!」

     ゼノのため。
     ミークのため。
     命を賭して逃がしてくれた父のため。

     そして、ロッテのため。

     今は何を差し置いても生きる。
     たとえこの場で勇者軍と魔王軍を巻き添えにしてでも、あのサイボーグまがいを殺す。
     それがこの場の、この瞬間の“最適”なのだ。

    (だから今度こそ死ねよッッ!!)

     空気の乱流は唸りを上げ、巨大な魔法陣が回転する。
     中央には暗い青の大穴が、あの大質量の水の放出を今か今かと待ち望んでいた。

    「ぶっ潰れろッッ!!! 水魔法奥義――『水ば――』」
    「あーそれはダメっスねぇ」

    「……は?」

     飄々とした軽快なあの女の声が聞こえた。
     それよりもいくら念じても、水が出てくる様子がない。

     脳が大混乱を起こしている。
     何故だ。
     何を間違えた。
     というか誰だよこの女――
     
    「その魔法はすでに解析済み。要はこれ、転移魔法ッスよね? 大海の底に穴を開けて、任意の場所に海水をぶちまける感じの奴。いかにも転生者が考えるような事っスねぇ~」
    「な……ッ」

     淡々とミラは説明する。
     その横で、カイは汗を浮かべながらミラを見守っていた。

    「三度目の正直。二度とアタシの前に転移系の能力は通じないッスよ」
    「……ミラ、貴女何をしたの?」
    「んえ?」

     カイの問いに、ミラは声音を変えることなく答えた。

    「簡単ッス。先回りして魔法陣のゲート座標に障害物を転送させただけッスよ?」
    「な……!」
    「はぁッ!?」

     ミラの説明。
     それはターゲットのあの魔法が、海の底にゲートを開けて超高圧の海水を落とすものだということ。
     であれば、魔法の発動の瞬間にゲート位置へ先回りし、そこへ何かしらの障害物を転送すれば穴が塞がり何も出ない――という理屈だ。

     オペレーターの仕事は執行官の補佐。そこには転送も含まれる。
     執行官の転送に物品の支給。本来直接干渉しにくいオペレーターの、その業務の一部を利用した超絶妨害テクニックだ。
     ミラは魔王の二度の転移魔法をいまだ根に持っており、ここで汚名返上を兼ねて絶技を披露したのだ。

    「二度も転送で泡食ったッスからね。三度目はないッスよ~」
    「ミラ、まさか貴女……あの一瞬でゲートの座標を特定したの?」
    「え、そうですけど?」

     カイは呆れたように天井を見上げ、缶ビールを啜る。

     時間にして4秒。
     その間に彼女はこの世界の極一点の座標を瞬時に突き止めたというのだ。
     これは下級オペレーターにあるまじき神業である。特級官を以てしても、これほどの早業をひろうすことは不可能である。

    「あれれ~? アタシもしかしてなんかやっちゃいました~?(笑)」
    「バカねぇ、もう」

     ミラはてへぺろっと舌を突き出す。
     カイは諫めることなく、優しくミラの頭を撫でた。

    (貴女がここへ配属された理由……やっとわかったわ)

     憎たらしいが、同時に誇らしくもあり、オペレーターとしての能力を存分に発揮して見せたミラの髪をくしゃくしゃと撫でまわす。
     だが、そこで嫌な予感が過ってしまう。

    「――ちょっと待って。貴女何を転送したの?」
    「んへ♡ 秘密ッス♡」
    「ちょ、バカあんた! まさかろくでもないもの送ったんじゃ――」
    「ちゃあんと戻しますから大丈夫ッス~。それよりモニター、もうすぐ終わりッスね」

     
    「なんなんだよ……!」

     いくら手を動かしても水は降ってこない。
     魔法陣はしっかり発動しているのに、だ。
     腕を振っても、手を開閉しても何の音沙汰もない。工藤はただ、空中に浮かぶ目立つだけの魔法陣を眺めることしかできなかった。

     すると――

    「工藤・旭ッ!!」

     冷徹なあの声。
     振り返ると、あのモノアイはすぐそこまで接近していた。
     その声には怒号が混じり、ますます鬼気迫る様子である。

    「チィッ!!」

     切り替え、もう片方の手で魔法による拘束を試みるが――

    「な、なんで!?」

     魔法が出ない。
     つまり、魔力切れだ。
     いくら唱えようが、魔力が切れれば何も出ない。
     これもまた、限界を経験したことがない人生において初めて体験する現象だった。

    「『アバドン・システム』30%――」
    「あ……」

     赤いモノアイは目と鼻の先。
     刃を構え、今まさに斬られようとするその瞬間――遠くから近づく、とある集団を垣間見た。

    (父さん……)

     大賢者率いる勇者軍。
     大賢者である父、そしてミークの姿がはっきりとこの眼に映る。彼らがまだ生きていることに喜ぶ間もなく、彼は瞬時に悟った。
     もう、終わりであると。

    「……みんな、ごめ――」
    「――『罰劾ばっがい』」

     ドゥーの黒き十文字斬り。
     アバドンを纏いさらに威力を増したそれは、エリオット・レインフェルを――工藤・旭の身体を四つに両断した。

     

     
     ————————————————————————————————

     

     ――報告。
     地球時間170944ZJAN25

     

     特殊第六執行部隊、準上級執行官ドゥーのターゲット――『工藤・旭』の執行を確認。
     直後、アバドン・システムは沈黙。

     全RAC職員に告ぐ。
     レッドアラートを解除。総員、緊急対神態勢を解除せよ。

     追記:最上位存在が一柱――ポセイドン神から伝令。

     「なんか儂のおうち、無くなったんだけど誰か知らん??」

     以上。

     
     
     
    ぽんにむです。  東北大学大学院医学系研究科に在籍し、医学研究に取り組む傍ら執筆。 現在「転生監査機関RAC」を連載中です。 カクヨム kakuyomu.jp/users/PONYM 小説家になろう https://mypage.syosetu.com/3071966/

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