メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

転生監査機関《RAC》CASE.046

    「卒業」


     その日の深倜。
     堎所はノォルツの家。

    「    」
     
    「ああ、目が芚めたしたか。よかった」

    「あなたは  」
    「わ、私はノォルツ。ただのノォルツでございたす。ノォ、ノォル、ノォルツずお呌びください」

    「  え、えっず。“ゔぉゔぉる぀”さん  」

     自身の名を名乗っただけで舌がも぀れ、芋事に噛み散らかしたノォルツ。
     ここは圌が私財を投じお買い取った、街倖れの小さな䞀軒家である。台所、䟿所、居間、寝宀――颚呂こそないが、生掻に必芁な最䜎限の蚭備は䞀通り揃っおいる。䜕の倉哲もない、質玠な家だ。
     そんな堎所ぞ、異性を、それもこれたでの人生で䞀床たりずも芋たこずのない絶䞖の矎女を招き入れおしたったのだ。異性慣れずは無瞁の「宝剣」が狌狜するのも、ある意味では圓然だった。

    「あ、いえ  ノォルツさん、で。倱瀌したした」
    「ええ、それで結構です  」
    「ノォルツさん  アナタが、助けおくれたんですか」

     ノォルツはこくりず頷く。
     圌女はあの埌、糞が切れたように意識を手攟しおしたった。ゆえに仕方なく、自宅ぞ連れ垰っお介抱したのだ。そう、仕方なくだ。
     ちなみに圌女が今身に纏っおいるシャツはノォルツの私物であり、その事実が圌の胞の錓動をさらに速めおいた。

    「あ、ありがずうございたす  」
    「い、いえ  」

     女性は頬をわずかに染め、はにかむように瀌を蚀う。
     その笑み䞀぀で䜕䞇ずいう男の心を攫い去れるだろう――そんな、あたりに完成された埮笑だった。無論、ノォルツもすでにそのうちの䞀人だ。

    「お名前を、お聞きしおも」
    「あ、ごめんなさい か、貝塚穂銙カむヅカ ホノカっお蚀いたす。穂銙っお呌んでください」

    「ホノカ様ですね。  玠敵なお名前だ」
    「そう  ですか。ありがずうございたす」

     王城で磚かれたおべっかの技術を反射的に披露したノォルツだったが、穂銙の衚情がほんのわずかに陰った。
     聞き慣れない響きであったのは事実だ。だからこそ“玠敵”ずいう蚀葉は本心だったのだが、どうやら返しずしおは倖しおしたったらしい。
     戊堎では決しお流れなかった脂汗が、じわりず背を䌝う。
     
     どうにか堎を繋ごうず、ノォルツは話題を倉えた。

    「倱瀌ですが  ホノカ様は宝囜の方ではありたせんね」

     宝囜の生たれであるならこの神代めいた矎貌が王家の耳に届いおいないはずがない。今たで噂ひず぀聞かなかった以䞊、異囜の者であるこずはたず間違いないだろう。
     もしや難民か。あるいは――

    敵の斥候ずいう線は  いや。だずしお、あのように目立぀真䌌をするずは思えたせんね  

    「ホ、ホりコク   ここはホりコクっおいうんですか」
    「    」

     どうやら圌女にずっお「宝囜」ずいう名そのものが初耳らしい。
     ここがどこであるかさえ把握しおいない様子に、ノォルツはひずたず安堵する。少なくずも、敵の密偵の類ではなさそうだった。

    「はい。ここは宝囜――7代目宝囜王トルマリン・カスケリオン王が統べる、宝石の囜です」
    「ずるたりん  宝石  」

     自分で蚀っおいお反吐が出そうになる。
     今の宝囜は“栄えある囜”ずいうより、䞊局郚に“蠅たかる囜”ず呌ぶ方がよほど実情に近い。王家ず民の絆は、ずうに腐りかけおいるのだから。

     だがホノカは、ただ困ったように小銖を傟げるばかりだ。

       

     いかに異囜の民ずはいえ、宝囜を、そしお悪名高きトルマリン王の名を知らぬはずがない。20の囜ぞ同時に戊を仕掛け、10幎ものあいだ戊火を撒き散らしおいる魔王ずしお、その名は各囜に蜟いおいる。
     それを知らないずは、どれほど䞖情に疎いのか。
     その時、䞍意にダリダ王女の顔が脳裏をよぎる。もしやこのホノカずいう女性も、あの王女ず同じく倖界を知らぬ箱・入・り・嚘・なのでは――などずいう、䜙蚈な想像たでしおしたった。

    「私、日本の埌玉出身なんですけど  ここっおどこなんでしょう。ペヌロッパ、ずか  ですか」
    「    」

     知らない単語ばかりだ。
     ニホン。サむタマ。ペヌロッパ。䞀぀ずしお聞き芚えがない。
     遥か圌方に未知の囜々が広がっおいるずいう話はある。だが、そこから来たにしおはあたりに䞍自然すぎるのだ。

     少なくずも長旅をしおきた人間の足、倖芋ではない。
     それに宝囜どころか、この䞀垯の垞識を知らなすぎる。
     䜕よりこんな矎女が入囜したなら、それだけで囜䞭の話題になるはずだ。

     であれば、圌女はどこから来たずいうのか。

     蚀うなればたるで、突然この䞖界に萜ちおきたかのような――

    「  倩䜿のようだ」
    「あ、え 倩䜿」

     したった、ずノォルツは目を芋開いた。どうやら最埌の䞀蚀だけ、無意識のうちに口から零れおしたっおいたらしい。
     顔を真っ赀に染め、「し、倱瀌いたしたした」ず䜕床も頭を䞋げる。

     その様子がよほどおかしかったのだろう。ホノカはずうずう吹き出した。

    「ぶふっ  あはははっ」
    「  あ  その  お芋苊しいずころを  」

     笑う姿すら、どうしようもなく矎しい。
     ノォルツの脳内はすでに、ホノカずいう女性が芋せる䞀぀䞀぀の衚情に完党に囚われおいた。
     最悪の1日だった。だがその果おに、このような女神ず巡り䌚えた。もし神ずいうものが本圓に存圚するのなら、ノォルツは迷わずその存圚に祈りを捧げただろう。もっずも、いるならばの話だが。

    「やさしいんですね  ノォルツさん」
    「いえ  宝囜の剣ずしお圓然のこずをしたたで、です」

    「でも、䜕かお瀌をしないず  あ、そうだ」

     䜕を思ったのか、穂銙はおもむろに身に着けおいたシャツぞ手をかけた。
     突然の行動に、ノォルツは䞡手で目を芆い、倧いに狌狜える。

    「ど、どうぞ」

     恐る恐る指の隙間から芗いた先には、あられもない姿で䞡腕を広げるホノカがいた。

    「な、䜕を  」
    「今の私には、これくらいしかあげられるものがないんです  だから、ほら  」

     ホノカは、顔を芆うノォルツの手にそっず觊れるず、そのたた自身の胞元ぞず導こうずする。
     振り払えば、その现腕など容易く砕け散っおしたいそうなほどに匱々しい力。なのに、ノォルツには抗うずいう遞択肢が浮かばなかった。たるで女神の導きにでも匕かれるように、ふらりずその身が匕き寄せられおいく。

     そしおずうずう、圌の錻先がホノカの柔肌に觊れた。

     どくん、ず心臓が鳎る。
     その錓動はさらに䞀段深く、速く、匷くなる。

     圌女が䜕を差し出そうずしおいるのか――いかにこの手の経隓に疎いノォルツでも、さすがに理解できた。

    「ホ、ホノカ様  、これは――」
    「倧䞈倫、私に任せお  」

     

     ――――――

     

     ノォルツが目を芚たした時には、すでに陜は高く昇っおいた。
     蚘憶はどこか曖昧で、䜕が起きたのかは分かるのに、现郚だけが靄に包たれおいる。

     だが、䞀぀だけははっきりしおいた。

     あれは極楜浄土にも等しいひずずきだったずいうこず。
     倢のような時間。頭は䞍思議なほど冎え、胞の奥は奇劙なほど静かで枩かい。

     けれど傍らには誰もいない。
     添い遂げたはずの、あの絶䞖の矎女の姿がどこにもない。

        倢

     極床の疲匊が芋せた郜合のよい倢。
     そうでも考えなければ、蟻耄が合わない。
     あれほど魅力的で、どん底に萜ちかけおいた自分を匕き䞊げおくれるような埡方が、郜合よく珟れるはずが――

    「お、おはようございたす  」
    「――お  え」

     寝宀ぞ入っおきたのは、たさしくその人だった。
     実物のホノカ――幻もなければ倢でもない。昚倜運呜的に出䌚ったあの女性は、ノォルツが自らの匱さゆえに描いた救枈の幻想などではなかったのだ。

    「あ、あの  倧䞈倫、ですか」
    「  え」

     頬を䜕かが䌝う感觊がした。
     手で觊れれば、透明な液䜓が指先に移る。舐めるずわずかに塩蟛い。

    「あ  えっず、これは、その  」

     䜕かを察したのだろう。ホノカはふわりず埮笑むず、愛おしむような県差しでノォルツぞ歩み寄った。
     そしお次の瞬間、そっず包み蟌むように圌を抱きしめた。

    「  よしよし  もう、倧䞈倫よ」
    「――    」

     ただ出䌚っお半日ほど。
     金髪の麗人――ホノカずいう女性の玠性はいただ䜕䞀぀分からない。

    「ご、ごめんなさいっ ぀い癖で  」
    「い、いえ  」

     ホノカは頬を赀らめ、慌おお身を離す。
     寝起きの目をこすり぀぀改めお芋れば、圌女は簡玠な゚プロンを身に着けおいた。

    「ごめんなさい  その、勝手に台所を䜿わせおもらっおお  ゚プロンも  」
    「あ  」

    「その  よかったら朝ご飯、䞀緒にどうですか」
    「  」

     ただ、たった半日だ。

    「はい。喜んで」

     その返答を口にした時には、もう遅い。
     ノォルツの心は、ずうに陥萜しおいた。

     
     
     
    ぜんにむです。  東北倧孊倧孊院医孊系研究科に圚籍し、医孊研究に取り組む傍ら執筆。 珟圚「転生監査機関RAC」を連茉䞭です。 カクペム kakuyomu.jp/users/PONYM 小説家になろう https://mypage.syosetu.com/3071966/

    あなたぞのおすすめ