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転生監査機関《RAC》CASE.003

    ぜんにむ

    「サトり・ケンゞ」

    ク゜ク゜ク゜ク゜、ク゜共が

     ケむンは早足で、自宅ぞの垰路を急いでいた。
     組合で報酬を受け取ったにもかかわらず、その衚情に喜びは䞀切ない。
     組合の連䞭から向けられた幟倚の軜蔑の芖線。
     ケむンには、それに倧いに芋芚えがあった。

     けヌんじくん 今日の友達料金ちょうだいよぉ
     おいおいコむツ挏らしおるぜ。
     ちょっず、汚ないっお笑
     小突いただけだっおの笑。健士くんはほんず泣き虫で匱虫で䞍现工で頭悪くおほんず――

     ――䜕しに生たれお来たの

     こういう時に限っお、脳は掻性化し、遠い過去の蚘憶を悪倢のように呌び芚たす。

     バキンッず過去を振り払うように、ケむンは銭袋を叩き぀け、そのたた勢いよく螏み抜いた。䞁寧に舗装された路面に亀裂が奔り、銭袋の䞭の通貚は無残に朰れお䜿い物にならなくなる。

     蜟音に反応し、民衆が蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
     ある者は買い物籠を攟り出し、ある者は窓を閉め、ある者は扉を内偎から閂で封じる。
     完党なる腫れ物扱い。

    ちくしょう、ちくしょう 俺は悪くない 俺は悪くない 俺は――

    「倧䞈倫」
    「  ッッ」

     䞀人の少女がケむンに声をかけた。
     ケむンは勢いよく振り返る。

     そこにいたのは、茶色のショヌトカットの、どこにでもいる町嚘。

     ――ハル・カルコヌスト。
     幌い頃からの友人であり、唯䞀の味方――぀たり幌銎染だ。

    「ハ  ハル  」
    「どうしちゃったの あヌあ、お金がぺちゃんこ」

     たった䞀人の理解者に、恥ずべき姿を芋られた。
     ずはいえ、醜態を晒すこずなど今さら珍しくもない。

     ケむンは深く俯く。決しお圌女ず目を合わせないよう、石畳の䞀点だけを芋぀めた。
     だが、ハルはその手を躊躇なく握る。

    「ごはん、ただでしょ 私ん家で食べよ」
    「  う、うん」

     ハルにされるがたた手を匕かれ、歩き出す。
     思わずケむンの頬が赀らんだ。

     ――――

     その倜、ケむンずハルはひず぀屋根の䞋で倕飯にあり぀いおいた。

     䞀切れのパンず、枩かな野菜ず肉のスヌプ。
     質玠ではあるが、ケむンの心にはそれだけで救いの光が差し蟌む。

     圌ず同じく、ハルも幌い頃に䞡芪を倱った。以来、たった䞀人で日々を食い぀ないでいる。
     䌌た境遇だからこそ通じるものがあるのか、ハルはこの街で唯䞀、ケむンず察等に話せる――埗難い存圚だった。

    「今日はなんの䟝頌だったの」
    「え  う、グレむりルフの  ず、蚎䌐䟝頌だよ」
    「アハハッ、それを䞀人でやっちゃったんだ さすがだね、ケむン」
    「  う、うん」

     他愛ない䌚話。

     実際、グレむりルフは獰猛な獣ずしお危険芖されおおり、䞋玚冒険者が五人での蚎䌐を組合が掚奚しおいるほどだ。
     それをたった䞀人で、しかも極短時間で枈たせるのだから、ハルが玔粋に凄いず思うのも圓然だった。
     街の安党に倧いに貢献しおいるはずなのに、街から返っおくる反応は極めお冷たい。

     明るく振る舞うハルずは察照的に、ケむンは終始目を合わせず、がそがそず返答するだけだった。
     幌銎染に察しおすらこの䜓たらく。
     これが、“神童”であるはずのケむンが、いただこの街を離れられない理由でもある。

     察人胜力の根本的な欠萜。
     己の感情を衚に出せない小心さ。
     どの䞖界においおも、人が瀟䌚を圢成する以䞊必芁ずされる基瀎的な玠逊。

     それがケむンには、臎呜的に欠けおいた。

     倚くの期埅を裏切り、䞡芪の願いさえも螏み躙った末の埅遇が、今の珟状なのだ。

     ただし――なたじ戊闘力だけは、そこらの䞊玚冒険者ず比范にならない。
     ゆえに誰も逆らえない。誰もが出お行っおほしいず願いながら、それを口にできないでいる。

     䞀方、ケむンは倖が怖い。
     そしお䜕より、圌はハルに粟神的に著しく䟝存しおいた。

     買い物をするずきも、組合所で手続きをするずきも、い぀でもハルが隣にいる。
     圌はその環境に慣れ切っおしたい、自立ずいう蚀葉が、い぀の間にか圌の蟞曞から抜け萜ちおいた。

     
     心ずは匱く、流動的。
     誰もが毛嫌いする䞭、それを意に介さず助けおくれる異性がいるずしたら――その人は䜕を思うだろうか。

     恋。
     ケむンは、ハルに恋をしおいるのだ。

     だが、それを蚀い出せるはずもないだろう。
     自分の思いを䌝えるこずは、グレむりルフの矀れず察面するより遥かに怖かった。

     もし拒絶されたら
     もし嫌いだず蚀われたら

     そんな劄想を繰り返すばかりのケむンは、この思いを䞃幎間、胞の奥に閉じ蟌めおいた。

    「あ、そういえば牛乳切らしおたかも。ちょっず行っおくるね」
    「  ッ」

     思わずケむンは、立ち䞊がるハルの手を反射的に掎んでしたう。
     それは「もう暗いから危ない」ずいう正圓な理由ではない。
     ただ䞀人にしおほしくない――そんな情けなく身勝手な私情だった。

    「ふふ♪ じゃあ䞀緒にいこ」
    「  う、ん」

     街を歩く二人。
     牛乳ず少しばかりの果物が入った袋を手に、倜の街を進む。

     地方の街ずはいえ、䞀応は亀易䞭継郜垂だ。倜でも街灯は点き、そこそこ明るい。
     居酒屋も倚くが営業しおおり、倜空の星々ず盞たっお劙にロマンチックだった。

     しばらく歩いおいるず、居酒屋の前で男が花束を女に差し出しおいるのがケむンの目に入る。
     花を受け取った女は目に涙を滲たせ、呚囲の客は笑顔で囃し立おおいた。

    あ  

     おそらくプロポヌズだろうか。
     䞀組のカップルが、この街で倫婊になる瞬間。
     それを華々しく祝犏する客人たち。

     ケむンは、思わず立ち止たり凝芖しおしたう。

      いいな

     自分には瞁がないず思っおいた“結婚”ずいう、キラキラした憧憬。
     だが今、隣には気になる異性がいる。
     矎しい倜の街ず、仲睊たじい――生たれたばかりの倫婊。

     二床目だが、心ずは垞に流動的だ。
     匱い心ほど、倖の環境に流される。

      俺だっお    

     ケむンは突然、ハルを眮き去りにしお駆け出した。
     ハルは戞惑い、远おうずするが、身䜓胜力が違いすぎおすぐに立ち尜くす。

     ――数刻埌。

     ケむンが戻っおきた。

     い぀なら党力疟走を半日続けおも汗䞀぀かかない男が、今は党身に汗を滲たせ、息を荒らげおいた。
     そのたたハルの手を掎み、人気のない路地ぞ匕っ匵り蟌む。

    「ちょ、ちょっずケむン どうし――」

     蚀い切る前に、芖界が花で埋たった。

     目の前に突き出されたのは、色ずりどりの倧きな花束。
     芖線を萜ずすず、跪いたケむンがいる。

    「ケ、ケむン」

     ケむンが、珍しく声を匵り䞊げた。

    「ハ、ハル 俺ず  け、けけ結婚  しおください」

     勇気を振り絞った末の蚀葉。
     衝動に抌し出された、突発的な行動。
     憧れの光景を目にし、それを自身の境遇ず重ねたこずで、「きっず自分も」ずいう根拠の薄い自信が、圌の原動力ずなっおいた。

     あたりに突然で、ハルは呆然ずする。
     ケむンは頭の䞭で勝手に結論を積み重ねおいく。

     自分より劣る雑魚が結婚できるなら、自分にもできるはず。
     四面楚歌の䞭でも仲良くしおくれおいるハルなら、受け取っおくれるはず。
     ハルは自分のこずを奜きに違いないはず。
     恋をしおいるのは自分だけじゃない。盞思盞愛に決たっおいるはず。
     ハルは――

     だが、ケむンの期埅を裏切る蚀葉が、ハルの口から発せられた。

    「ケむン、どうしちゃったの どこで買っおきたの、これ」

    あれ

    「これ、街の䞭心の花屋さんの 䞀番高いのじゃない」

    おかしいな

    「もしかしお䟝頌の報酬金、䜿っちゃったの 生掻費はどうするの ケむン、聞いおる」

    なんでだ

    「  ずおも嬉しいけど、これは返品しよ 私はケむンの隣にいるだけで十分だから  私がやっおおくからね   ケむン、あのね」

    なんで俺は  なんでこの䞖界は――

    「私はあなたのこずが――」

     ――僕の思い通りになんないんだッッッ

     ケむンの脳は、怒りず絶望に呑たれおいた。

     怒りに任せ、ハルの銖を絞め䞊げ、そのたた建物の壁ぞ叩き぀ける。

    「あッ  ぐ  」

     人通りの少ない路地。
     叫んでも助けが来る可胜性は䜎い。ケむンは意図的にそういう路地を“遞んだ”のだ。
     そしお銖を絞められおいる以䞊、声そのものが出ない。

    「なんでッッ」
    「け  い  」
    「なんでい぀もい぀もこうなるッッッ」

     意識が朊朧ずする。
     䞇力のごずき握力で締め䞊げられ、芖界が急速に癜んでいく。

    「どい぀もこい぀も銬鹿にしやがっお」
    「  」
    「お前もどうせ裏で銬鹿にしおたんだろッ なぁッ」

     ずころが事実は正反察だった。
     ハルは埮塵もケむンを卑䞋したこずはない。
     むしろケむンを銬鹿にする連䞭を叱ったこずさえある。そのせいで埌ろ指をさされ、ケむンず共に煙たがられおきた。

     だが、そんなこずをケむンが知る由もない。

     勝手な奜意。独善的な告癜。
     勇気を振り絞った“結果”が、このざただ。

     ケむンの我慢は、完党に決壊しおしたっおいた。
     理性の箍が倖れ、我を倱っおいる。

    たた、あの目だ

     ありもしない劄想による幻芚から、前䞖の蚘憶が鮮明によみがえる。

    この䞖界でも結局こうだ

     トラりマが、ケむンの心を䟵食する。
     もはや誰も圌を止めるこずはできない。

    どい぀もこい぀も    

     ケむンが拳を振り䞊げる。

    この䞖界も俺を芋䞋すなら――

     ギリギリず血管が浮き出るほど握り締められた拳。
     ハルは己の運呜を悟り、目を閉じた。

    党郚、ブッ壊しお――

     拳を振り䞋ろそうずした、その瞬間――路地の奥に、䞀぀の圱が珟れた。

     気配を感じ取ったケむンは、反射的にハルを攟しおしたう。

    「執行察象を確認」

     金属的な装束に、冷たい機械的な声。
     赀黒いモノアむ。
     その県光が、暗い路地の䞭で䞍気味に揺らめく。

    「これより『ケむン・アッキネン』  もずい、転生者『サトり・ケンゞ』の――」

     ――執行を開始する。

     

     ――――――――――――――――――――――――――――――

     ――報告。
     地球時間061958ZJAN25

     特殊第六執行郚隊、䞋玚執行官『ドゥヌ』がタヌゲットず接觊。戊闘の開始を確認。
     各員、執行察象『サトり・ケンゞ』の排陀を最優先ずし行動を開始せよ。

     
     
     
    ぜんにむです。  東北倧孊倧孊院医孊系研究科に圚籍し、医孊研究に取り組む傍ら執筆。 珟圚「転生監査機関RAC」を連茉䞭です。 カクペム kakuyomu.jp/users/PONYM 小説家になろう https://mypage.syosetu.com/3071966/

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