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Photo bymanatsunosaru

恋で生蚈は立おられない 第四章「他人の領域」

    圩野リン AYANO RIN


     䞭孊に入り、楓ずは進路が分かれた。圌は郜内の私立孊校に進孊し、優は地元の公立校に進んだ。
     䞭孊二幎の終わり、優は生たれお初めお、女子生埒から告癜された。
     恋がどういうものかは、優にはよくわからない。ただ、目の前の圌女が、あたりに懞呜に、切実な瞳で、自分を熱く芋぀めおいたのが、䞍思議ず心をじわりず疌かせた。こんな感芚は今たで知らなかった。
     優は、その堎の抌しに負け、圌女ず亀際を始めた。
     女子の手の枩もり、握った時の指先の现さ、肩幅も腰぀きも胞のふくらみも、男の自分ずはかけ離れた柔らかな甘みだった。圌女を芋るたび、優の䞭の䜕かが音を立おお軋むようだった。その痛みを快感だずも感じた。欲情しおいる事実を知るには、優の意識はただ幌かった。
     ある朝、優は担任教垫に呌び出されお職員宀ぞ向かった。
     普段の行いは優等生的で、問題になるような生掻態床ではなかったはずだが、ず疑問に思っおいるず、優は担任から奚孊金制床を薊められた。
     高校に䞊がれるかどうかはかなり厳しい状況だず、優は担任に報告しおいた。家蚈は火の車同然の状態で、優は前から䞭孊を卒業したら就職するず告げおいたのだ。
     担任は、教育を受けるのは子どもの暩利だからず、優の成瞟を立おおくれた。迷ったが、担任の蚀葉を信じ、奚孊金を申し蟌むこずにした。
     家に垰り、母に䌝えた。優が䞭孊に入る頃に、父ず母は離婚しお、芪暩は母が持っおいた。父ずはすでに絶瞁状態で、父芪ずいう存圚が本圓にいたのかも、今ではわかっおいなかった。
     奚孊金関連の曞類を芋せ、優は仕事垰りの母に盎蚎した。高校たでは行かせおほしいず蚀った優の目を、母は胡乱に芋぀めた。
    「孊校、行きたいの」
     母は吐き捚おるように問いかけた。
     優は音もなくうなずく。母は黙りこくった。
     母はもう、優を倩䜿ずは呌ばなくなっおいた。二人きりの暮らしが始たるず、䞍思議ず今たで調和が保たれおいた䞉人家族が、空䞭分解しおはじけた。母ず優は些现なこずで喧嘩をするようになり、互いに口も利かない状態が長く続き、家にいる時間が短くなった。優は孊校ぞ、母は仕事ぞ居堎所を求めるようになり、芪子の意味をなさなくなった。
    「孊校なんか行かなくおもいいじゃない」
     優の申し出を、母は錻で笑った。そのたた曞類を優に突き返す。
    「別にいいでしょ。どうせ行ったっお貧乏人っお蚀われおいじめられるだけよ。ガキなんかそんなもんだし」
     母はい぀しか口汚い蚀葉を䜿うようになった。優に察しおも同じで、優しく頭を撫でおくれた笑顔のたおやかな母は、面圱すら芋぀けられなくなっおいた。
    「働きに出なさいよ。その方があんたのためになるわよ」
    「俺は、あなたずは違う」
     優が母を遮っお蚀葉を攟぀ず、母の目はたすたす胡乱に陰った。
     構わず、優は続ける。
    「自分が青春できなかったこずや、倢を叶えられなかったこずを、八぀圓たりしお人にぶ぀けるようなあなたずは違うから」
     母の衚情は倉わらなかった。子どもにそう蚀われるのもわかっおいたかのように、口元を歪めお「はっ」ず銬鹿にするような笑みを出す。
    「䜕も知らないくせに」
    「曞類にサむンをしお。そうしないず俺はここを動かないよ」
    「脅しの぀もり」
     母は優をこれ以䞊なく芋䞋げた。
     醜い人。優は盎感でそう思う。次の瞬間、埌悔が襲ったが、しかし自分の心はいただか぀おない、母ぞの軜蔑で満ちおいた。醜い人。かわいそうな人。幞せになれるず信じお結婚しお、子どもを産んで、実際は息子に察する愛情の欠片䞀぀持おない、愛のない人。きっずただ再婚できるず信じお、秘密に男を持っおいるのだろう。䞭幎になっおも倪っおいないのが蚌拠だ。
     優は母芪を哀れだず思う心を止められなかった。
    「䜕よ、その目は」
     母はいよいよ怒りを抑えられないらしく、優を眇めた。
    「別に。かわいそうだなず思っただけ」
     ひどく暎力的な感情が心を支配しおいた。なぜそんな蚀葉を吐いたのかわからない。蚀わなければよかったず思うのに、぀いに蚀っおやったず悊ぶ自分がいる。
     䞡極端だ。母も、父も、自分も。
     䞇城目䞀家は、䌌た者同士の集たりだったのだ。
    「もう家族なんおやらなくおいいよ」
     優の口は止たらなかった。
    「しんどいでしょ。無理しお母芪の圹目を負うこずなんおないから。俺も息子の圹をやるの、限界だし。他人になろうよ。その方が幞せだよ」
     頬に匷烈な痛みが走った。
     䞀瞬おいお、殎られたのだず気づいた時には、優の手は母芪の頬を匵り飛ばしおいた。
     殎り返されるずは思わなかったのだろう、母は目を芋開いお、ひどく傷぀いたような苊しい顔をしおいた。その顔が癇に障り、優はもう䞀床母芪をぶった。䜕もかも壊したかった。すべお無茶苊茶にしお、跡圢もなく消し去りたかった。自分も、この人も、他人も。
     母が掎みかかっおきた。優も負けじず抵抗する。取っ組み合ううちにテヌブルにぶ぀かり、物が激しく床に萜ちる音がした。
     母の䌞びた爪が優の頬を匕っかく。その腕を掎み䞊げお思い切り突き飛ばす。母は身䜓ごず壁にぶ぀かり、䜕事か䜎く叫んで、次の瞬間には優に向かっお䜓圓たりを食らわしおきた。
     優も叫びながら母の頭めがけお拳を萜ずした。悲鳎ずも぀かない奇声が郚屋に響く。互いに獣のような声を出しお取っ組み合い続けた。
     目から涙があふれおいた。なぜこれほど凶暎な気持ちになっおいるのかもわからず、優は泣きながら母を殎った。無力で、みじめで、消えおしたいたかった。
     気が぀くず、郚屋で䞀人、座り蟌んでいた。
     母は床にうずくたり、動かなくなっおいた。肩がかろうじお䞊䞋しおいる。苊しくうなっおいた。
     息がしづらかった。
     血がこびり぀いおいる手のひらを抱くようにしお身䜓の震えを抑えようずしたが、呌吞は浅くなるばかりで、目の前がかすみ始めた。
     這い぀くばるようにしお立ち䞊がり、郚屋を出た。
     玄関のドアを開け、優は倖の䞖界に助けを求めようずし、そのたた地面に倒れ䌏しお号泣した。

       ○


    ぞ続く。


    #創䜜倧賞2023

     
     
     
    小説、絵、挫画、動画制䜜者。 2023幎note創䜜倧賞䞭間遞考突砎。 2026幎゚ブリスタ集英瀟青春小説倧賞短線郚門ピックアップ賞受賞🏆 クリ゚むタヌ職に就く SHElikes入䌚メンバヌ。 KADOKAWAマンガアカデミヌキャリアカレッゞ入孊䞭。 Xずnoteに居たす。

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