芋出し画像

手術宀に広がる宇宙、明日飲む牛乳

䞖界の音が消えたような感芚を芚えたのず同時に、地面に倒れるたでの瞬間がスロヌモヌションのように目に映った。

どういう䜓勢で転がう、ずいく぀か遞択肢を考えたが、実際に経過した時間はほんの䞀瞬である。
頭の䞭では色々な可胜性を考えるこずができたのだが、肝心の身䜓は䞊手く制埡するこずができなかった。

芖点がゆっくりず䜎くなっおいくのを感じる。
気づけば目の前にはアスファルトの地面が広がっおいた。


今回感じた痛みは、普段の怪我ずは性質が明確に異なっおいる。
自身が転倒したずいうこずを少し時間をかけお認識した埌に、そう確信した。

たず、ずにかく右肘が痛すぎる。
腕の内郚から突き䞊げるような痛みが絶え間なく続き、思わず涙が零れる。

今たで生掻の䞭で身䜓の「軞」や「芯」ずいうものの存圚を意識したこずはなかったのだが、今回は明確に身䜓の䞭心郚がずきずきず䟵されおいるような感芚があった。

芋た目にも倧きな倉化があった。
肘関節のあたりが普段の1.5倍ほどに腫れ䞊がり、明らかに異垞事態であるこずを芖芚的にも告げおくる。

さらに、腕が思うように動かせない。
腕を動かす繊现な動䜜は人䜓の奇跡的な構造によっおもたらされおいるこず、そしおそれが無意識䞋で粟緻に行われおいるこずを予期せぬ圢で知るこずずなった。

たた、時間が経぀に぀れ、普段は党く感知しおいなかった「腕そのものの重さ」が自身にのしかかっおくるのを感じる。
右腕ずそれ以倖が分離し、別の物䜓になったような感芚は他の怪我では䜓隓したこずがないものだった。

確かに腕には異垞事態が起こっおおり、先ほどから嫌な寒気や脂汗は止たらない。
しかし、この感芚のおかげで、幞か䞍幞か事態をどこか別の堎所で起こったこずであるかのように捉えおいる自分の存圚も認識した。


病院が開く時間たで痛みに耐える。
むンタヌネットで「腕 腫れお痛い」「腕の骚 ひび割れ」「腕 骚折」「骚折 手術」「骚折 入院」ず、想像できる限りの様々な蚀葉を打ち蟌み、時間が経぀のをただ埅぀。
たるで䜕かの宣告を受けるのを埅぀ような気分だった。

やはり骚折しおいるかもしれないずいう䞍安ず、さすがにそんなこずにはなっおいないだろうずいう気持ちが混ざり合う。


なんずか蚺察を受け、骚折したこずを正匏に䌝えられた。
いざ病状が確定するず、「やはりそうか」ずいう気持ちに䌎う、ちょっずした安心感がある。

もちろん、蚺断前埌で痛みの皋床には倉化はない。
しかし、この苊しみから解攟される芋通しが明確に立ったずいうこずに察し、心境が倉化した、ずいうこずなのだろう。

やはり「名前が付く」ずいうこずには倧きな意味があるのかもしれない。
挠然ずした䞍安感が、先人たちの手によっおたずめ䞊げられた䜓系的な知の䞀郚ぞず倉貌する。
自身の関心が「痛みそのもの」から「今埌のこず」ぞず向くようになったのを感じた。


手術は玄2時間皋床である。
圓日午前に入院し、午埌に手術を受けるこずずなったため、朝にそわそわしながら病院に向かうこずずなった。

正盎、転倒盎埌から自分が骚折し、手術が必芁な状況に陥っおいる、ずいうこずぞの実感が湧いおいない。
混乱しおいたり、動揺したりしおいるわけではないのだが、たるで倢の䞭にいるかのような少し浮぀いた感情だ。

おそらくこれは、日垞から骚折ずいう非日垞ぞの転萜があたりにも急だったこずに起因する。
日垞ず非日垞は隣り合っおいるものの、通垞その倉化はグラデヌションのようなもので、急激にどちらかに傟くこずはあたりない。

しかし、今回の転倒から受蚺、手術たでは、急を芁するものであるこずもあり、玄1週間の間に起こったこずだ。
事態を受け入れ、飲み蟌んだかず思えば既に事は枈んでいる、ずいった状態である。
たさに日垞から非日垞ぞの転換、そしお日垞ぞの回垰が驚くべきスピヌドで進行しおいる、ず捉えおも過蚀ではないだろう。

手術する箇所に印を぀けられたり、䜓枩枬定や採血などの必芁な凊眮を受けたりしおいく最䞭、ようやくじわじわず事態を飲み蟌むこずができおきた。

急激に「自分は䜕の脈絡もなく転倒・骚折し、手術を受けないずいけない」ずいう事実ず、それに䌎う実感が襲っおくる。

今さらながら、自身の䞍泚意さず軜率さに新鮮に驚いた。
少し悲しくもなったのだが、今からこの状況が奜転するのにも関わらず、悲しむのは違うかな、ず思い盎し、手術に向けお自身ができるこずを粛々ず進めおいくこずに決めた。


必芁な手続きや準備を終え、手術宀に向かう時間になった。
想定しおいたより無機質で広い空間に通される。

手術台の䞊に乗っお身䜓を固定されるず、県前にはやけに高い倩井が広がるのみで、呚囲の様子を䌺うのはかなり頑匵っお頭を動かさないず難しい状況だった。

少しの間、呚りに人の気配をあたり感じない時間があった。

たるで宇宙にいるみたいだ、ず考える。
珟圚、身䜓の自由は通垞時よりも制限され、生呜の安党も自分の力だけで保障しおいるわけではないような状態にある。

䞀面に広がる高い倩井の暡様は、どこか星空に䌌おいた。
手術宀ずいう名の宇宙に挂う自分は、あたりにも無力で小さい存圚だ。


手術の開始時間が近づき、手術宀にも人が増えおきた。
盎前たで感じおいた空間の冷たさは、せわしなく行き亀う医療埓事者の方々の存圚によっお、その鳎りを朜める。

いよいよ手術が始たるのかずいう緊匵感ず、ちょっずした非日垞䜓隓に察する高揚感、そしお䜕より、転倒以来ずっず続いおきた苊しみからようやく解攟されるのだ、ずいう喜びが混ざり合い、安堵感ぞず発展しおいった。


酞玠マスクを着甚し、点滎を通じお党身麻酔が掛けられるこずになった。
麻酔を掛けられるこずに察しおは、怖さより少し奜奇心が勝る。

本圓にすぐ眠っおしたうのか、自身の意志が介圚せずに意識が消倱する感芚ずはどのようなものなのか、など、気になっおいたこずは数倚くあった。

実際に麻酔が掛かり始め、今たで味わったこずがないような感芚に襲われる。
たず、䞡足の自由が利かなくなる感芚ず共に、足そのものの重みや感觊が消倱し、䞋半身が自分の意志ずは別に浮き䞊がっおいるような感芚を芚えた。

驚いお足元に目をやるず、少し遅れお䞡腕にも同じ感芚が䌝わっおくる。
身䜓の末端から䞭枢郚にかけおも埐々に浮遊感が広がっおいく。

背䞭を這うように䌝わっおきた感芚は぀いに頭にたで到達し、党身ががんやりずした浮遊感に包たれた。

宇宙空間の無重力を挂う時、人はこんな感芚を味わうのだろうか。
心地よい浮遊感に身を任せ、眠りに萜ちた。


心地よい眠りを終えおうっすら目を芚たすず、呚囲にたくさんの人の気配ず慌ただしい空気を感じる。
あたり意識がはっきりせず、頭の䞭はただもやがかかったような状態だ。

時々、非垞に深い眠りから芚めるず「自分はなぜここにいるのか、どういう状況なのか」が分からなくなるこずがある。
今回はそれに加えお呚囲の状況を把握する胜力が萜ちおおり、さらに䜓も自由に動かせない、ずいう状態だ。

なんだか良く分からないがおそらく移動しおいるのだろう、ずがんやり思いながら、再び眠くなったので目を閉じた。


少し時間が経ち、ようやく自分の状況が分かっおきた。
取り付けられた酞玠マスクず自身に繋げられた耇数の医療機噚によっお、ああそういえばさっき手術を受けたのだった、ずいうこずを思い出す。

たた、先皋の移動は、手術宀から入院しおいる病棟たで運ばれおくるものだずいうこずも分かった。

術前ず術埌で倉化したこずは倚い。
しかし、その䞭でも最も倧きな倉化は、術前にはなかった右腕の巚倧なギプスの存圚だ。

ギプスは非垞に重い。
腕を持ち䞊げおみようずしたのだが、巊腕の数倍にも䞊る重量があり、術埌の疲匊した状態では盞圓な重劎働だった。
手術宀ずいう宇宙から垰還した今、重力の存圚をしっかりず感じる。
麻酔によっおもたらされた浮遊感は既に倱われおいた。

たた、ギプスの䞭では、手術を受けたこずに䌎う傷が痛む。
骚折盎埌の痛みは身䜓の内郚から激しくずっず䌝わっおくるようなもので、痛みに耐えるのはかなり苊しかった蚘憶がある。

これに察しお、今回の痛みは断続的に䌝わっおくるものである䞊、痛みの匷さも我慢できる皋床のものだった。

加えお、どちらかず蚀えば皮膚の衚面付近が痛むようなものであり、手術によっお骚折の根本の原因が改善された、ずいうこずを感芚的にも確信するこずができた。


1日安静にしたのち、その翌日に退院するこずずなった。
退院が決たったずはいえ、完党に元の状態に戻ったわけではないのが少しもどかしい。

腕はギプスで完党に固定された状態だし、少し傷の痛みも残っおいる。
麻酔の名残もあっお、右手の感芚は未だ鈍いたただ。

片方の腕が䞍自由な状態で日垞生掻を送っおみるず、これたで無意識にこなしおいた動䜜がいかに倚様であったかを、改めお実感させられる。
衣服の着脱や、食事におけるお箞・食噚の扱いをはじめ、䜕気ない䞀぀ひず぀の行動が、以前ず同じようにはできなくなっおいるこずに気づかされるのだ。

しかし、詊行錯誀を繰り返す䞭で、少しず぀新たな自分なりのやり方を確立できるようになっおきおいる。
人間の適応力の高さや柔軟性を自分の身をもっお知るこずができたのは、案倖倧きな収穫だった。


術埌の経過は良奜だ。
ただ、骚折が完治するたでにはただ少し時間が掛かる。

先日、初のリハビリに行っおきた。
忘れおいた身䜓の動きを思い出させお、再び芚えこたせる䜜業である。
指を開いたり閉じたりするだけでも、筋力の䜎䞋した状態では重劎働だ。

䜕床か定められた動きを繰り返し、怪我をする前の感芚を取り戻しおいく。
筋肉や腱同士の぀ながりを意識しながら、動き方を忘れおしたった郚䜍の可動域を広げおいくのだ。

今たで無意識䞋に行っおきた動䜜を分解しお意識的に動かせるよう詊行しおいく過皋には、少し違和感が䌎う。
長時間正座をしおいたこずで痺れおいた脚が、埐々にい぀もの状態に戻っおいくようなものだ。

これには痛みを芚えるこずも、少し倧倉だず感じるこずもあった。
しかしその䞀方で、あるべき堎所にあるべきものが戻ったような、少し萜ち着くような感芚を芚えたのも事実だった。


今回のリハビリはごく短時間のものだった。
しかし、身䜓の可動域が確実に広くなっおいるこずを感じる。

怪我が治りそうな兆しが芋えるず、心も晎れやかだ。
回埩に向け、小さいが確実な䞀歩を螏み出せたように思う。

しばらくの間は、カルシりムを倚く含んだ食品をたくさん摂るようにしよう。

明日の朝は、牛乳を飲むこずにした。

いいなず思ったら応揎しよう