記憶って、思い出そうとすると逃げる。
これまでいろんな事を書いてきた。
なぜだか忘れてしまっているけれど、
何か素敵な記憶はなかったかなと、
少し温まりすぎた部屋の空気を入れ替えようと窓辺に立つ。
立て付けの悪い窓枠を開けると、
視界を奪うほどの白いまぶしさ。
たった5センチほどの隙間から、冷たい鋭い風が一気に前髪を揺らす。
膝にかけていたブランケットを首に巻き直して、そっと外の世界を覗き見る。
目の前には大きな柿の木がある。
もうほとんど裸で、実は2、3個、半分欠けて潰れているだけ。
たわわに実っていた頃から、
人間はただ指をくわえて見ているしかなかったこの柿の木は、鳥たちの食堂だ。
それにしても大したものだ。
一つとして地面に落ちていない。ほぼ完食状態。
最大に甘く熟した日を狙っていたのだろう。
この数日、何十羽もの鳥たちが一気にこの木に集まっていたはずだ。
その柿の木の横の屋根には、
いつも日向ぼっこをしている猫がいて、
今日はお腹を出して完全に無防備で眠っている。
よく焙煎したカカオみたいな、
きれいな焦茶色の木の幹。
錆びたトタン屋根の上の黄色いとら猫。
雲ひとつない青い空。
なんだか、とてもきれいな組み合わせだ。
何でもない日だけれど、
この日の、
この色を、
いつか思い出す日が来るのかなと思った。
あの日は全然書けなかったな、なんて。
こんな日もある。
少し吹っ切れた私は、
ガガッと窓を閉め、
シャーッとカーテンを戻す。
そういえばまだ開けてないお土産のお茶を飲んでみようと、台所へ向かった。
謎のお茶。
あまりにもナチュラルで、ほとんど乾いた草。
パッケージは相変わらず素敵だけれど、文字はファンシーな模様みたいで読めない。
読めるところだけ解読。
「山のお茶(山ミックス)」
恐る恐る鼻を近づける。
スープみたいな香り。
お茶.....?
お湯が沸くのを待つ間から、
じっくりとそれを眺めながら正体を謎解く。
お茶をゆっくり啜りながら、
まだ見ぬ異国の山を想像する。
ふと、横で一緒にお茶を楽しんでいた彼が、
「寒い日に飲むこれが最高なんだよな」と
大きなマグカップを片手に、
強引にガラッと窓を開ける。
ババババーっと、鳥が一斉に飛び立つ音がした。
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ここまで読んでくださってありがとうございます。
勉強だったはずの語学が、暮らしになっていく記憶を書いています。
この文章をもう少し先まで見守ってもいいな、と思っていただけたら、
そっとチップを置いてもらえたらうれしいです。