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#17 大雨への備えは、知識だけでは足りません 防災士教本 第16講(風水害・土砂災害等への備え)

    この記事を書いている今も、台風の影響で大雨への警戒が続いている地域があります。すでに大きな被害を受けられた方、今も気の抜けない状況にある方に、心よりお見舞い申し上げます。

    台風や線状降水帯、ゲリラ豪雨について書きながら、ふと自分に聞いてみたくなりました。

    「家に、土のうはありますか」

    正直に言うと、実家にはありません。

    台風の発生の仕組み、線状降水帯の予測の難しさ、ゲリラ豪雨が気象庁の用語ですらないという事実は書けても、自分の家の備えについては、これくらいのものです。

    知っていることと、備えていることは、まったく別なのかもしれません。

    今回は、知ったことを一つでも実行に移すための、具体的な備えの話です。


    📍 家の中でできる、小さな備え

    📌 止水板がなくても、土のうの代わりになるもの

    止水板や土のうと聞くと、どこか本格的な準備が必要な気がしてしまいます。

    でも、家にあるもので代用できるといわれています。
    ポリ袋を二重にして水を入れ、段ボール箱に詰めて玄関前に並べる。
    これだけで、簡易的な水のうになります。

    大げさな準備ではなく、手元のものでできることから始めれば十分です。

    📌 「高いところに置く」が意外と効く理由

    浸水というと、床上まで水が来るような大きな被害を想像しがちです。

    ところが、内水氾濫は道路の排水が追いつかないだけでも起こります。
    ほんのわずかな浸水でも、コンセントには思わぬリスクが生じます。

    水に含まれる泥などの不純物は小さな隙間にまで入り込み、回路をショートさせたり、異常な発熱によって発火させたりする危険があります。
    「壊れる」だけでなく、そこから火災や感電につながることがある。
    これが、電化製品を高い場所に置くことが効く、本当の理由です。

    洗濯機や冷蔵庫の下には、「かさ上げ台」と呼ばれる置き台があります。
    もともとは防振や掃除のしやすさのための商品ですが、高さ5〜10cm程度のものを敷くだけで、水が直接触れる瞬間を少しでも遅らせることができます。

    コンセントの位置も見直せます。
    低い位置にあるタップを、壁の高い位置や机の上に移すだけで、かなり違います。

    「壊れるかどうか」ではなく、「火が出るかどうか」の話だと思うと、見え方が変わってきます。


    📍 逃げるタイミングは、意外と難しい

    📌 「垂直避難」と「水平避難」、どっちが正解か

    避難というと、遠くの避難所まで移動することをイメージしがちです。
    これを「水平避難」と呼びます。

    でも、状況によっては、自宅の2階に上がるだけの「垂直避難」の方が安全なこともあるといわれています。
    外に出た瞬間、増水した道路や強風の中を移動すること自体が、危険になる場合があるからです。

    どちらが正解か、あらかじめ決めることはできません。
    自分の家がハザードマップのどこに位置していて、どんな構造なのか。
    それを知っておくことが、いざというときの判断材料になります。

    📌 決められないなら、先に決めておく方法があります

    垂直か水平かの最終判断は、その場にならないとわからないかもしれません。
    でも、判断以外の部分は、先に取り決めておくことができます。

    「いつ」「誰が」「何をするか」を、災害が来る前に整理しておく、マイ・タイムラインという考え方があります。

    このきっかけの一つは、2012年にアメリカ東海岸を襲ったハリケーン・サンディでした。
    現地では事前の行動計画を活用して早期避難や交通規制を行い、被害を最小限に抑えたといわれています。
    この事例を受けて、日本でも2016年に指針がまとめられました。

    台風が来る何日も前、まだ何も起きていない時間に、家族で「避難所までは誰の車で行くか」「ペットはどうするか」を話し合っておく。
    判断そのものを、災害が来てから一人で背負わなくてもよくなります。

    「その場で決める」のではなく、「決めておいたことを、その場で思い出す」。それだけでも、当日の負担はかなり変わります。


    📍 車は、逃げ場所にならないことがある

    📌 水深60cmで、ドアは外から開かなくなる

    大雨の中、車で移動しようとする方は少なくありません。

    JAFが行った実験によると、水深60cmでは水圧の影響でドアを開けるのに通常の5倍近くの力が必要になり、成人男性の力でも外からスライドドアを開けることができなかったという結果が出ています。

    成人のひざの高さは、およそ45cm前後といわれています。
    60cmは、その少し上。せいぜいひざ上あたりの水位です。
    それだけの深さで、車という逃げ場所は、逃げ場所ではなくなってしまいます。

    冠水した道路には、近づかないことが一番の対策です。

    📌 それでも巻き込まれてしまったときの、脱出の順番

    「近づかない」が一番の対策だとしても、走行中に急に水位が上がってしまうことはあります。
    そうなったときのために、覚えておきたい脱出の順番があります。

    まず、シートベルトを外します。
    次に、窓が開くかどうかを確認します。
    開かなければ、ガラスを割ります。

    パワーウインドウは、水による電気系統のトラブルや水圧の影響で、開かなくなることがあります。
    車に緊急脱出用ハンマーを常備しておけば、ガラスを割って脱出できる可能性が上がります。

    小銭や傘で窓が割れるという情報がありますが、実際には強化ガラスの強度に対して力が足りず、割れないといわれています。

    もしハンマーが手元になければ、ヘッドレストを使う方法があります。
    座席から引き抜いて、金属の芯の部分を窓の隅の隙間に差し込み、てこの原理でこじってガラスを割ります。
    確実な方法ではありませんが、何もないよりは可能性が上がる、最後の手段として知られています。

    ただし、フロントガラスは合わせガラスのため、こうした方法では割れません。
    割るなら、横の窓か後ろの窓です。

    この手順を知っているかどうかは、パニックになった瞬間の数秒を左右します。


    止水板の代わりになるもの。
    コンセントの位置。
    避難のタイミングを、先に決めておくこと。
    車に乗っているときの、脱出の順番。
    そして、ハザードマップを見直すこと。

    知ってしまえば、当たり前に見えることばかりかもしれません。

    でも、知っていることと、備えていることの間には、まだ距離があります。

    そのうちの一つだけでいい。
    今日、家の中で試してみる。

    それだけで、次に大雨が来たときの自分は、今日の自分とは少し違っているかもしれません。

    ※本記事は、防災士教本「第16講(風水害・土砂災害等への備え)」に関連する内容を、防災士育成研修での学びをもとに、等身大の視点で整理したものです。

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