
検索広告は意図を「捉える」。AIは意図を「生成する」。——ChatGPT、Google AI Mode、AI Overviewで何が起きているか。Similarwebレポートから
広告業界のひとたちは今、ひとつの問いを共有している。
「AIの中に、広告は入れられるのか?」
答えはすでに出ている。入っている。しかも、思っていたより速いペースで。
そして今起きているのは、AIが広告を「表示する」だけでなく、購買意図そのものを「生成する」という、これまでの広告とは異質な現象だ。
Similarwebがこのほど公開したレポート「Ads in AI: Insights From Real User Behaviour」は、ChatGPT、Google AI Mode、AI Overviewという3つのプラットフォームで実際に配信されているAI広告のデータをまとめた、おそらく世界初に近い実態調査だ。
このレポートをもとに、いま起きていることを整理してみたい。
3つのプラットフォーム、3つのまったく異なるゲーム
まず前提として知っておきたいのは、「AI広告」と一口に言っても、プラットフォームごとにまったく別物だということだ。
ChatGPT:アクティブブランド約1,000社・最低出稿額$50K・会話内スポンサードリンク形式・1ターン1ブランドの独占モデル
Google AI Mode:数千ブランドが参加・Google広告インフラ活用・ショッピング+テキスト広告・複数広告が共存
AI Overviews:100K超ブランドが参加・ショッピングフィードから自動配信・商品カード形式・複数広告が共存
ChatGPT広告の最大の特徴——「キーワードではなく会話を読む」
ここからが本題の核心だ。
従来の検索広告は、キーワードに広告を紐づける。「ランニングシューズ 購入」と検索すれば、シューズブランドの広告が出る。シンプルだ。
ChatGPTの広告は、その設計がまったく違う。会話全体のコンテキストを読んで、広告を配信するかどうかを判断する。ユーザーが「ヘッドフォン」という単語を一度も打っていなくても、会話の流れがそれを示唆していれば、ヘッドフォンの広告が出ることがある。
そしてここに衝撃的なデータがある。
ChatGPTで広告が配信されたクエリの83%は、Google ショッピングでは配信対象外だったクエリだった。
83%だ。
これが意味するのは、ChatGPT広告が従来の「購買意図のある検索」を捉えているのではなく、「まだ購買意図が顕在化していない段階の会話」に広告を届けているということだ。これは「ダイレクトレスポンス広告ではなく、会話の中に溶け込んだブランド広告」だ。広告見出しに「今すぐ購入」という表現が使われているのは全体のわずか2%しかない。
会話は深い——だから広告の接触機会も長い
もうひとつ見落とせないのが、ChatGPTの会話の「深さ」だ。
Google AI Modeと比較してみると、その差は歴然としている。
広告後の会話継続率:ChatGPT 73% / Google AI Mode 41%
会話の中央値:ChatGPT 6ターン / Google AI Mode 1ターン
平均会話ターン数:ChatGPT 17ターン / Google AI Mode 2.6ターン
広告配信後のターン数:ChatGPT 4回以上 / Google AI Mode 1回
ChatGPTでは広告が配信された後も、73%のユーザーが会話を続ける。そして平均で4ターン以上、その会話の中にブランドの存在が残り続ける。
テレビCMは30秒で終わる。検索広告はクリックした瞬間に終わる。だがChatGPT広告は、会話の文脈の中に「居続ける」という特性を持っている。
パフォーマンスデータ——ディスプレイより上、検索よりは下
では実際の効果はどうか。
ChatGPTの広告CTRは全体平均で0.68%、ブランド中央値で0.50%。
上位25%のブランド:1.00%以上
上位10%のブランド:1.57%以上
最高値:5.4%
比較対象として参考になるのが、検索広告の平均CTR(3〜5%)、ディスプレイ広告(0.35%)、ポッドキャスト広告(0.5〜1%)だ。
現時点では検索広告には届かないが、ディスプレイ広告やポッドキャスト広告と同等か、それ以上の水準だ。CPMは$60程度(推計)、implied CPCは$12。LinkedInの広告(CPM $33〜65)と同等のコスト感と考えると、B2B的な使い方との相性もありそうだ。
最も重要な発見——AIは購買意図を「捕える」のではなく「生成する」
このレポートで個人的に最も注目したのは、Similarwebが独自に開発した「会話インテント」モデルの発見だ。
購買意図ゼロで会話を始めたユーザーの46%が、広告が配信される時点までに購買シグナルを発していた。
これは何を意味するか。
これまでの広告は「すでに存在するインテントをキャプチャする」ものだった。ユーザーが「〇〇を買いたい」と思っている瞬間を捕まえる、それが検索広告の本質だ。
検索広告は「捕える」技術だ。AIは「生成する」技術だ。この違いが、広告の因果構造を根本から変える。
だがAI会話は違う。会話を重ねる中で、ユーザー自身も気づいていなかったニーズが掘り起こされ、購買意図が「生成」される。
レポートにはこんな実例が示されている。あるユーザーはゴルフクラブの選び方を質問するところから会話を始め、10ターン後には「CallawayとTaylorMadeの価格比較」を聞いていた。その瞬間に配信されたのが、DICK'S Sporting Goodsの「Golf Club Deals」広告だった。最初のターンでは購買シグナルはゼロ。でも10ターン目には、広告が刺さる状態になっていた。
日本市場への示唆——「まだ先の話」ではない
正直に言えば、ChatGPT広告の$50Kという参入障壁は日本の多くの企業にとってまだ高い。日本語ユーザーへのリーチも、英語圏と比べれば限定的だ。
だが、Google AI OverviewとAI Modeは別の話だ。
あなたの会社がGoogle広告(ショッピングキャンペーン・テキストキャンペーン)をすでに運用しているなら、AI OverviewやAI Modeにすでに広告が配信されている可能性が高い。ただし現状のGoogle広告レポートでは、AI経由の配信とそれ以外が分離されていないため、気づいていないだけだ。
まず確認すべきことは、レポートが言う通りシンプルだ。「Google広告アカウントを今日チェックすること。」
おわりに——「測れないものは最適化できない」
Similarwebがこのレポートを出した背景には、もちろん自社の「Ad Intelligence」製品のプロモーションという意図がある。それは差し引いて読む必要がある。
ただ、レポートが示す核心的な課題は本物だ。
各プラットフォームは自社のデータしか見せない。競合のシェア・オブ・ボイスも、業種ベンチマークも、AI経由の配信比率も、今は見えない。
測れないものは最適化できない。
AI広告は始まった。測定インフラが整うより先に、実績が積み上がっていく。今動いているブランドが作るパターンを、後から入るブランドは「お手本」として継承することになる。
どのポジションを取るかは、それぞれの判断だ。ただ、「様子を見る」という選択肢も、れっきとした戦略であることを意識した上で選ぶべきだと思う。
※本記事はSimilarweb「Ads in AI: Insights From Real User Behaviour」をもとに、筆者の見解を加えて構成しました。