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【国語構造力学:前編⑥】「動詞生成の構造力学」4 『変格活用』の生成と解釈

    『変格活用』と例外処理

    国語動詞の『変格活用』とは

     古典文法では、これまで示した『四段活用』『上二段・下二段活用』『上一段・下一段活用』の四つの『正格活用』に加え、例外となるラ行・ナ行・サ行・カ行の4つの『変格活用』がある。略して『ラ変』『ナ変』『サ変』『カ変』。複合語を除くとこれだけである。

    • 『ラ変』あり 『ナ変』去《い》ぬ、死ぬ 『サ変』為《す》 『カ変』来《く》

     現代口語ではラ変・ナ変は『五段活用』に吸収され、残るは『サ変』『カ変』のみとなっている。
     使用頻度の高い語が変化耐性が強く例外(不規則)になるのは一般的に見られる傾向らしい。軽々な比較は危険だが、『変格活用』はおおよそ英語の不規則動詞に対応するものの、『活用』という観点のみからは、国語動詞の不規則は英語に比べると極めて少ない。不規則部分も『活用』の一部に限定されている。
     言語の不規則は善悪や合理非合理で判断しても実用的には無駄、例外処理として無条件に受け入れるのが得策なのは承知している。学校文法も基本そういう姿勢だ。今回は、無条件降伏の前に「無駄な」抵抗をすることになる。

    『変格活用』の例外箇所

     学校文法では、これらを全段に渡って暗唱するが、実は例外部分は太字だけだ。

    • 『ラ変』ら り り る れ れ(ほぼ『四段』)

    • 『ナ変』な に ぬ ぬる ぬれ ね(ほぼ『四段』)

    • 『サ変』せ し す する すれ せよ(ほぼ『下二段』)

    • 『カ変』こ き く くる くれ こよ(三段活用?)

    個別に説明を試みる。

    『ラ行変格活用』あり(ほぼ『四段』)

     これは「体言(名詞)止め」で十分だろう。「春はあけぼの」の「あけぼの」と同じだ。
     「あり」は『終止形』がイ段となる唯一の例外とされるが、これこそ『活用』に縛られた結果である。「あり」という転成名詞を提示すれば状況説明に事足りるだけのことである。
     他の動詞の場合は「風吹き、雨降る。」が『連用中止法』とされる。これも実質的には「体言止め」だろう。

    結論:『ラ変』→動作語基a-a\text{-}、但し「あり」は言い切りで体言止め。

    『ナ行変格活用』去ぬ、死ぬ(ほぼ『四段』)

     『四段活用』と『上二段活用』の『連体形』『已然形』を再掲する。

    『四段活用』  修飾語基kak{u-kaku-書く『連体形』-e¨-in-pa-kake¨ba-書けば『已然形』\bm{『四段活用』 \;修飾語基}\\[1em] kak \begin{cases} u\text{-} &kaku\text{-} &書\bm{く}『\bm{連体形}』\quad\\ \text{-}\"{e}\text{-}\cancel{i}n\text{-}pa\text{-}&kak\"{e}ba\text{-} &書\bm{けば}『\bm{已然形}』\\ \end{cases}\\

    『上二段活用』  修飾語基oku{u-okuru-起くる『連体形』-e¨-in-pa-okure¨ba-起くれば『已然形』\bm{『上二段活用』 \;修飾語基}\\[1em] oku \begin{cases} u\text{-} &oku\sout{r}u\text{-} &起く\bm{る}『\bm{連体形}』\quad\\ \text{-}\"{e}\text{-}\cancel{i}n\text{-}pa\text{-}&oku\sout{r}\ddot{e}ba\text{-} &起\bm{くれば}『\bm{已然形}』\\ \end{cases}\\

     母音連続に対して『四段活用』では縮合(脱落)、『上二段活用』では分離(r\sout{r}分音)という方策を採っている。その後母音縮合に転じたことを考えると、端的に「語の変化推移の平安時代での途中経過」が『ナ変』と考えれば良い。

    尚、孫引きだが、次の解釈もある。

    結論:『ナ変』→「去ぬ・死ぬ」は『四段活用』なので動作語基はin-,sin-\bm{ in \text{-},sin\text{-}}。但しu音連続は縮合せず分離する。(古形の名残)

    『サ行変格活用』為(ほぼ『下二段』)

    『サ行下二段活用』との比較

     「似す」「乗す」等の『サ行下二段活用』動詞は現在は「似せる」「乗せる」という『サ行下一段活用』となっている。全てを確認はしていないが、「似す」には「似る」、「乗す」には「乗る」という自他双対動作語基があるので、「す」は使役・他動詞化の為、「他者への働きかけ」を意味する文法化(『助動詞化』)された「す」が結合しているものである。
     尚、『上二段活用』に『サ行』動詞は存在しない。『サ変』は、丁度その欠落を埋める形になっているようだ。

     『サ行下二段活用』と『サ変』の活用を比較する。

    • 『サ行下二段活用』せ せ す する すれ せよ 

    • 『サ行変格活用』 せ し す する すれ せよ

     例外は『連用形』のみだ。

    『転成名詞』からの考察

     転成名詞について考えよう。
     「捨つ」なら「捨て」が対応する転成名詞であるが、「為」には明確なものは思い当たらない。しかし、現代口語で「〜なさい」と言う場合には「せなさい」ではなく「しなさい」であり、「し」が顕になる。
     我々の深層意識でこれを「為」の『名詞形』であると認識しているのであろう。
     一方、古語の『命令形』は「せよ」。「よ」は呼び掛けであるから、「せ」も『転成名詞』である筈だ。
     明確な「転成名詞」は存在せずとも、深層意識として「せ」「し」が両立していると考えざるを得ない。

    "i"冠母音 修飾語基との関連

     結論としては『連用形』の場合に「し」となるのであるが、『連用形』の正体は、後置する修飾語基の冠母音iiであった。そしてその語源は「至つ -it-\text{-}it\text{-}」「去ぬ -in-\text{-}in\text{-}」という本動詞との複合である(「き-iki-\text{-}iki\text{-}」については特殊であり別論を立てる)。
     推測であるが、本動詞がまだ十分に「文法化」せず、その冠母音iiが優勢であった時代の名残が変化耐性の高い「為」に残ったものではないだろうか。
     その結果、『連用形』に位置する「し」が「転成名詞」として認識されるようになり、現代口語での『命令形』では「しろ」や「しなさい」が成立したのであろう。

    結論:『サ変』→「為(す)」は『下二段活用』に準じ動作語基はse¨-\bm{ s\"{e} \text{-}} 。但し"i"冠修飾語基が後置する場合はe¨+i→i\"{e}+i \to iとなる。(古形の名残)

    『カ行変格活用』来(三段活用?)

    『カ行上二段活用』との比較

     「起く」「生く」等の『カ行上二段活用』動詞は現在は「起きる」「生きる」という『カ行上一段活用』となっている(「生く」はその前は『四段活用』であった)。尚、自他双対動作語基は「起こす」「生かす」となる。

     『カ行上二段活用』と『カ変』の活用を比較する。今回は、甲乙音があるのでローマ字での比較となる。

    • 『カ行上二段活用』kı¨‾ kı¨‾ ku kuru kure kı¨‾yo¨k\underline{\"{\imath}} \ k\underline{\"{\imath}} \ ku \ ku\sout{r}u \ ku \sout{r}e \ k\underline{\"{\imath}} y\"{o} 

    • 『カ行変格活用』 ko¨‾ kıˊ‾ ku kuru kure ko¨‾(yo¨)k\underline{\"{o}} \ k\underline{\'{\imath}} \ ku \ ku\sout{r}u \ ku\sout{r}e \ k\underline{\"{o}} (y\"{o})

     『カ変』はいわば「三段活用」となっている。
     オ段音は、文語動詞活用表語尾では、『命令形』語尾「よ」以外一切現れず、この二箇所だけであることは興味深い。母音ooがa,i,ua,i,uが融合して後に成立した傍証となるであろう。

     さて、一見すると『連用形』は同じであるが、前者は乙音、後者は甲音であり明らかに異なっている。

    『転成名詞』からの考察

     次に、「来」についても、まず転成名詞について考えよう。
     「起く」なら「起き」が対応する転成名詞である。が、「来(く)」にもやはり明確なものは思い当たらない。現代口語で「〜なさい」と言う場合には「きなさい」である。古語の『命令形』は「こよ」。「こ」も『転成名詞』であり、「転成名詞」として「こ」「き」が両立していると考えざるを得ない。

     その傍証として、地名がある。「潮来(いたこ)」「安来(やすぎ)」「朝来(あさご)」である。因みに、これを縁として三市議会で交流が行われているそうだ。

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    平成29年2月9日 潮来市議会だより164号より引用

    "i"冠母音 修飾語基との関連

     『サ変』同様、『連用形』が問題となる。
     『サ変』での考察を援用すると、やはり冠母音iiの名残が「来(き)」に残ったと考えられる。現代口語での『命令形』の「きなさい」が成立したのも『サ変』同様。「来い(こい)」は「来よ(こよ)」が転訛して残ったものだ。

    「来」の単層動作語基生成

     『未然形』が融合母音ko¨k\"{o}である以上、動作語基はku-ku\text{-}とする外ない。"i"冠母音語基の古形は先述の通り本動詞の文法化以前の形、『転成名詞』はその類推から生じている。

    来 k.ku{i.『転成名詞』ku-i‾→ki‾.(古形)u.『終止形』ku-u‾→ku‾."a"冠母音語基 ku-a‾→ko¨‾."i"冠母音語基 ku-i‾→ki‾.(古形)"u"冠母音語基 ku-u‾→ku‾.但し母音融合優位性:a=u<i来  k.\\[1em] ku \begin{cases} i.『転成名詞』k\underline{\cancel{u}\text{-}i} \to k\underline{i}.(\bm{古形})\\[1em] u.『終止形』k\underline{\cancel{u}\text{-}u} \to k\underline{u}.\\[1em] "a"冠母音語基  k\underline{u\text{-}a} \to k\underline{\"{o}}.\\[1em] "i"冠母音語基  k\underline{\cancel{u}\text{-}i} \to k\underline{i}.(\bm{古形})\\[1em] "u"冠母音語基  k\underline{\cancel{u}\text{-}u} \to k\underline{u}.\\[1em] \end{cases}\\[1em] 但し母音融合優位性:a=u < i \\

    『命令形』の「こ」は『被覆形』か

     『命令形』以外は決着した。では「こkua→ko¨kua \to k\"{o}」は如何か。
     ここで前出の『被覆形』『露出形』に登場願う。

    • 「木」 『被覆形』ku+a→ko¨ku+a \to k\"{o}「木立」『露出形』ku+i→kı¨ku+i \to k\"{\imath}

    • 「火」 『被覆形』pu+a→po¨pu+a \to p\"{o}「炎」『露出形』pu+i→pı¨pu+i \to p\"{\imath}(但し『被覆形』は類推)

     この伝で行くと、

    • 「来」 『被覆形』ku+a→ko¨ku+a \to k\"{o}「潮来(いたこ)」『露出形』ku+i→kı¨ku+i \to k\"{\imath}

     『露出形』は恐らくkıˊk\'{\imath}で一致しないが、ここでの要諦は、『名詞被覆形』は-a\bm{\text{-}a}によっても得られることである。
     「こ」の生成については、この可能性も指摘しておきたい。

     残念ながら、命令形の「こ」についてこれ以上追求する能力を持ち合わせていないので勝手な推測を交えて結論とする。

    結論:『カ変』→「来(く)」の動作語基はku-\bm{ ku \text{-}} 。
    但し
    ・"i"冠修飾語基が後置する場合はu+i→iu+i \to iとなる。(古形の名残)
    ・修飾語基と融合する。
    ・被覆形転成名詞「こ」が命令に使われる。
    ・「き」も転成名詞として用いられる。

    国語構造力学:前編 了

    後編予告

     【国語構造力学:後編】「修飾語基(助動詞)の整理と意味の導出」

    #創作大賞2026 #オールカテゴリ部門


     
     
    大学では劣等生でしたが、やっぱり数学物理は単純に楽しいなあ。 兵庫県豊岡市・飲み屋街の真ん中と、大阪市港区の端っこ・運河の側で塾をやっています。 塾以外にも、ブラジル音楽とか。

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