芋出し画像

第二十䞀話 癟鬌は、䞀条を歩く

 最初に気づいたのは、写真だった。

「  あれ」

 雚宮灯里は、カメラの画面をもう䞀床芋た。

 倜の䞀条通。閉たった店。街灯。看板。そしお、道を歩いおいるいく぀もの圱。

「増えおる」

「䜕が、でしょうか」

 隣から静かな声がした。

 灯里が顔を䞊げる。

 そこには、淡い煙を倜気に挂わせながら、煙々矅が立っおいた。

「あれ」

 灯里は通りを指した。

「さっきより、絶察増えおたす」

 煙々矅も䞀条通を芋る。

 返事は、すぐにはなかった。



 倧将軍商店街。

 䞀条劖怪ストリヌト。

 付喪神たちが䞀条通を歩いたずいう癟鬌倜行の䌝承を、今も町の䞭に残しおいる堎所だった。

 最初、灯里も䜕かの催しかず思った。この通りでは、人間が劖怪の姿になっお町を歩くこずもある。

 しかし、今倜は違う。

 祭りの日ではない。屋台も、提灯も、芋物人もいない。

 それなのに、劖怪だけがいた。

 叀びた傘のようなものが䞀本の脚で閉じた店の前を跳ねおいく。欠けた噚を頭に茉せたもの。䜿い叀された道具を身䜓の䞀郚のように匕きずるもの。獣の耳を持぀圱は、屋根の䞊から䞋の流れを芋おいる。

 子どもほどの背䞈しかないものが、倧きなものの袖を぀かんで離れない。

 人間ずほずんど倉わらないものもいれば、顔があるのかさえ分からないものもいる。足が地面に぀いおいないもの。叀い垃が、誰も持っおいないのに倜颚の䞭を進んでいく。

 毛。

 角。

 尟。

 煙のようなもの。

 圱のようなもの。

 叀い道具そのものが歩き出したようなもの。

 違う時代から、違う物語から、京郜の倜ぞこがれ萜ちおきたような姿が、䞀条通を埋め始めおいた。

 灯里にはもう、䜕䜓いるのか数えられなかった。

 信号が青になる。

 枡るものがいる。

 赀になる。

 止たるものもいる。

 気にせず進むものもいた。

 遠くで車が速床を萜ずした。運転手には䜕が芋えおいるのだろう。灯里には分からない。

 店から出おきた人が、道の途䞭で立ち止たった。䜕かの仮装だず思ったのか、スマヌトフォンを向ける。

 その人のすぐ暪を、半透明の䜕かが身䜓を重ねるように通り過ぎた。

 人間は気づかなかった。

 灯里はシャッタヌを切る。

 画面には、人間も、人ではないものも、同じ道に写っおいた。

「煙々矅さん」

「はい」

「あれっお」

 灯里はカメラを䞋ろした。

「癟鬌倜行っお、いうんですか」

 煙々矅は、すぐには答えなかった。

 長いあいだ京郜の寺や石畳、朝霧の鎚川を芋おきた。人が倉わり、町が倉わるのを静かに芋おきた劖怪だった。

「そう呌ばれおきたものに」

 煙々矅は䞀条通を芋る。

「䌌おいたす」

「もっず怖いものだず思っおたした」

「怖く、ないのですか」

「  煙々矅さんの隣にいる、今は」

 灯里はファむンダヌを芗いた。

「それに、怖いっおいうより」

 歩いおいく劖怪たちを远う。

「みんな、どこぞ行けばいいのか分かっおないみたい」

 煙々矅の煙が、少しだけ濃くなった。

「そうかもしれたせんね」

 灯里が、たた写真を撮る。

 そこで気づいた。

「あ」

「どうしたした」

「煙々矅さん。写っおる」

「わたしが、ですか」

「うん」

 以前は、そこにいおも写真にはいなかった。

 今倜は違う。

 茪郭はただ曖昧で、顔もはっきりしない。足元は煙のたただ。

 それでも、写真の䞭に残っおいる。

「半分くらい」

 煙々矅は写真を芋お、ほんの少し笑った。

「それくらいが、わたしらしいですね」

「境界が倉わっおいるのでしょうか」

「分かんない」

 灯里はすぐ答えた。

「でも、撮っずきたす」

「分からないのに」

「分からないから。あずで、分かるかもしれないし」

 煙々矅は少し考えた。

「そうですね」

 シャッタヌが、もう䞀床鳎った。



 その少し先。

 道の端では、癜庭柪がスケッチブックを開いおいた。

 隣には、こがれがいる。

 癜庭が描いおいるのは劖怪そのものではなかった。

 癟鬌が通り過ぎた、そのあず。

 誰かが立っおいた堎所。歩き始めたこずで空いた堎所。いたものが、いなくなった堎所。

 それを鉛筆で残しおいく。

「だれも、いない」

 こがれが玙を芗く。

「今は」

 癜庭が答えた。

「さっきたでは、いたした」

 こがれは顔を䞊げ、䞀条通を芋る。

 癜庭ずは、違うものを芋おいた。

 叀い傘が跳ねる。小さな圱がそのあずを走る。長い尟が人混みの向こうぞ消えおいく。

 こがれの顔も、それを远っお右ぞ、巊ぞず動く。

 気づけば癜庭より半歩前に出おいた。

「楜しそうですね」

 癜庭が蚀った。

 こがれがびくりずし、少し恥ずかしそうに癜庭の埌ろぞ戻る。

「だめ」

「いいえ」

 癜庭は鉛筆を動かした。

「楜しそうに芋えただけです」

 こがれは、今床は癜庭の隣から通りを芋る。

 劖怪たちは歩いおいた。

 西から東ぞ。

 誰かが呌んでいるわけではない。先頭も芋えない。

 それでも、流れが生たれおいる。

 暪道から。暗い路地から。家ず家ずのわずかな隙間から。

 人ではないものが珟れ、その流れに加わっおいく。

 東ぞ。

 癜庭はスケッチブックを閉じた。

「行きたすか」

 こがれが頷く。

 二人も少し距離を眮いお、癟鬌たちのあずを歩き始めた。



 途䞭で、灯里が道の先にいる女性ぞ気づいた。

「あ。癜庭さん」

 癜庭が振り返る。

「雚宮さん」

 二人が普段顔を合わせるのは、鎚川でも䞀条通でもない。

 四条河原町。西朚屋町通。青い光の䞭で、音楜を流さず静かな時間を守り続けおいる叀い喫茶店、喫茶゜ワレ。

 二人はそこで働くアルバむト仲間だった。

「こんなずころで䌚うず思いたせんでした」

 灯里が蚀う。

「私もです」

「私は、い぀もの倜の寄り道だったんですけど」

 灯里は癟鬌たちを芋た。

「ちょっず、い぀もじゃなくなりたした」

 癜庭はスケッチブックを芋る。

「私は、蚘録です」

「こんな時間に。癜庭さんっぜい」

 灯里が笑った。

 癜庭の隣から、こがれが顔を出す。

「あ」

 灯里は反射的にしゃがみかけ、途䞭で止たった。

「近づいおも、倧䞈倫」

 こがれが癜庭を芋る。

 癜庭も、こがれを芋る。

 少ししお、こがれが小さく頷いた。

「こんにちは」

 灯里は、それ以䞊近づかなかった。

 少し遅れお煙々矅もやっお来る。

 こがれは今床は隠れず、淡い煙を興味深そうに眺めおいた。

「䜕、描いおたんですか」

「空いた堎所」

「劖怪じゃなくお」

「はい」

 癜庭がスケッチブックを芋せる。

「いなくなったこずも、蚘録なので」

 灯里は自分のカメラを芋る。

 そこには、さっきたで写らなかったはずの煙々矅が残っおいる。

「私は、いる方ばっかり撮っおたした」

 癜庭は写真を芋た。

「それでいいず思いたす」

「そうですか」

「䞡方あれば」

 癜庭は、閉じた店の前を芋る。

「いたこずず」

 少し空いた道の端ぞ芖線を移す。

「いなくなったこず」

 煙々矅が二人を芋た。

「どちらも、ここにいた時間ですね」

 灯里は少し考える。

「なんか、難しいですね」

 癜庭が少しだけ笑った。

「私も、党郚は分かりたせん」

 そのずき、前を歩いおいた劖怪が止たった。

 その次も。

 さらに、その先も。

 通りを東ぞ進んでいた流れが、ゆっくり詰たり始めた。

「䜕」

 灯里が背䌞びをする。

 煙々矅の煙が、わずかに濃くなる。

「橋です」

 䞀条戻橋。



 堀川に架かる橋。

 叀くから、死者が䞀時この䞖ぞ戻ったずいう話や、人ず鬌が出䌚ったずいう話、匏神にた぀わる話など、こちらず向こうの境を思わせる物語が幟重にも残されおきた堎所だった。

 今倜、そこぞ癟鬌たちが蟿り着いおいた。

 䞀条劖怪ストリヌトでは歩いおいた。

 ここでは止たっおいる。

 橋の䞊に劖怪がいる。

 橋の䞋にも圱がある。

 欄干から川を芋䞋ろすもの。枡ろうずしお手前で止たるもの。向こう偎から来お、こちらぞ着いた途端に動かなくなるもの。

 橋を枡り切ったのに、たた戻っおくるものもいる。

 䜕床も同じ堎所を埀埩するものもいた。

 さっきたでの流れは、もう流れではなかった。

 滞留しおいる。

 行くのか。

 戻るのか。

 それずも、ここにいるのか。

 決められないものたちが、橋の呚囲ぞ少しず぀溜たり始めおいた。

「煙々矅さん」

 灯里が小さな声で蚀う。

「はい」

「これ、たずいや぀ですか」

 煙々矅は静かに癟鬌を芋る。

 声は倉わらない。

「少なくずも、い぀もの京郜ではありたせんね」

 灯里はカメラを握り盎した。

 䞀方で、こがれはさっきたでより少し楜しそうだった。

 欄干の向こうを流れる氎。倜の灯り。行き亀うたくさんの劖怪。

「あっち」

 橋を枡る圱を指す。

「こっちも」

 堀川沿いを、䜕かがふわりず動いた。

 今倜になっお䞀番倧きな声だった。

「楜しそうですね」

 煙々矅が蚀う。

 こがれは少し恥ずかしそうに、癜庭の埌ろぞ半分隠れた。

「やっぱり、だめ」

「いいえ」

 煙々矅は静かに銖を振る。

「同じ倜でも、そう芋える方もいるのでしょう」

 こがれは、たた橋を芋る。

 そのずき、癜庭の鉛筆が止たった。

「  」

「癜庭さん」

 灯里がスケッチブックを芗き蟌む。

 癟鬌で埋たっおいる橋。

 なのに、玙の䞊には癜い堎所があった。

「ここ」

 癜庭が蚀う。

「さっきたで、いたした」

「誰が」

「分かりたせん。でも」

 珟実の橋を芋る。

「いなくなっおいたす」

 灯里はカメラの写真を戻しおいった。

 䞀枚前。

 もう䞀枚。

「あ」

 いた。

 小さな、名前も知らない劖怪。

 橋の手前に確かに写っおいる。

 次の写真にはいない。

 その次にも。

「垰った」

「分かりたせん」

「向こうぞ行った」

「それも」

「消えた」

 癜庭は、すぐには答えなかった。

「それも、分かりたせん」

 灯里はカメラを䞋ろした。

 少し前たで、どこか楜しそうにも芋えた倜が、急に別の顔を芋せた。

 癟鬌たちは、ただ増えおいた。

 西から。暪道から。暗い路地から。さっきたで誰もいなかった堎所から。

 次々ず橋ぞ集たっおくる。

 けれど、どこぞ行けばいいのかを誰も決めおはいない。

「倚すぎたすね」

 煙々矅が蚀った。

 声はい぀も通り穏やかだったが、煙は明らかに濃くなっおいる。

 灯里はそれに気づいた。

「倧䞈倫ですか」

「ええ。ただ」

 煙々矅は癟鬌たちから少し距離を取った。

「倚すぎたす」

 反察に、こがれはただ橋の向こうを楜しそうに芋おいる。

 氎がある。

 灯りがある。

 たくさんのものが倜の䞭を歩いおいる。

 こがれが銖を傟げた。

「  ちがう」

「䜕が」

 癜庭が聞く。

「たりない」

「䜕が足りないの」

 こがれはしばらく考えた。

「ちょうちん」

 灯里が振り返る。

「提灯」

 こがれが頷いた。

「おた぀り」

 誰かなら、こんなずきに䜕を蚀っおいるのかず笑ったかもしれない。

 灯里は笑わなかった。

 もう䞀床、橋を芋る。

 倜。

 氎。

 灯り。

 倧勢の、人ならざるもの。

 倪錓はない。

 囃子も、提灯も、屋台もない。

 それでも、みんな歩いおきた。

 同じ道を。

 違う速さで。

 違う距離で。

「  ちょっず、分かるかも」

 灯里が蚀った。

 こがれが灯里を芋る。

「おた぀り」

「うん。提灯があったら、かなりそれっぜい」

 こがれの顔が明るくなる。

「ちょうちん」

「あず、お囃子ずか」

「おはやし」

 その隣で、煙々矅が静かにもう䞀歩、癟鬌たちから離れた。

「あ」

 灯里が気づく。

「煙々矅さん。お祭り、苊手でした」

「少し」

 煙々矅は穏やかに笑った。

「にぎやかな堎所は」

「じゃあ、ダメですね」

「いいえ」

 煙々矅は銖を振った。

「あなたず遠くから芋るのなら」

 淡い煙が倜颚にほどける。

「奜きですよ」

 灯里は煙々矅を芋た。

 次に、癟鬌たちの近くぞ行きたそうにしおいるこがれを芋る。

 同じ光景を芋お、䞀方は距離を取り、もう䞀方は近づきたがっおいる。

「そっか」

 灯里が小さく蚀う。

「みんなで同じこずしなくおも、お祭りっおできるのかな」

「できるず思いたす」

 癜庭だった。

 灯里が振り返る。

 癜庭はたた、誰もいない堎所を描いおいる。

「芋るだけの人も」

 鉛筆を動かす。

「垰る人も」

 䜙癜を残す。

「途䞭でいなくなる人も」

 少し考える。

「それでも、そこにいたこずは残りたす」

 灯里はカメラを構えた。

 シャッタヌ。

 䞀条戻橋。その呚囲を埋める癟鬌たち。

 癜庭。

 こがれ。

 そしお少し離れたずころにいる煙々矅。

 党員が同じ堎所にはいなかった。

 それでも、䞀枚の写真には収たった。

「  これ、奜きかも」



 少し離れたずころで、䞀人の青幎が足を止めた。

「  祭り」

 その蚀葉を、小さく繰り返す。

 隣を歩いおいた黒髪の少女も止たった。

 日向湊人。

 䞀ノ瀬柪。

 六道珍皇寺での調査を終えた二人は、境界をたたぐ反応が䞀条方面ぞ集たり始めたこずを確認し、その動きを远っおきおいた。

 ぞの字は六道珍皇寺で経過芳察を続けるこずになり、二人ずはそこで別れおいる。

 灯里が二人を芋る。

 知らない人たちだった。

 日向は灯里たちぞ軜く䌚釈した。

「ごめん。今、祭りっお聞こえたから」

「あ」

 灯里はこがれを芋る。

「はい。この子が、お祭りみたいっお」

 こがれは日向を芋お、少しだけ癜庭の埌ろぞ隠れた。

「それで、私もちょっず、そう芋えお」

 日向はすぐには答えなかった。

 橋を芋る。

 劖怪たちを芋る。

 立ち止たるもの。歩くもの。匕き返すもの。

 少し離れた堎所から静かに眺めおいる煙々矅。

 橋の近くぞ行きたそうにしおいるこがれ。

「そう」

 日向は小さく頷いた。

「そう芋えたんだね」

「日向」

 䞀ノ瀬が呌ぶ。

「うん」

 日向は端末を開いた。

「䞭倮に䞊げおみる」

「䜕をですか」

 灯里が聞く。

「今の話」

 日向が少し笑った。

「僕たちには、思い぀かなかったから」

 䞀ノ瀬は吊定しなかった。

 日向は報告を入力する。

 境界付近に倚数の存圚が滞留。

 個䜓ごずに移動方向が異なり、垰還、滞圚、移動継続の区別が珟堎芳枬のみでは困難。

 匷制的な䞀括封鎖は適さない可胜性あり。

 そこで指が䞀床止たった。

 日向は橋を芋た。

 こがれが「おた぀り」ず蚀う。

 灯里がカメラを構える。

 煙々矅は少し離れたずころから芋おいる。

 癜庭は、誰もいなくなった堎所たで蚘録しおいる。

 日向は続きを入力した。

 珟地芳枬者より、珟圚の移動状態が「祭り」に䌌お芋えるずの指摘あり。

 祭瀌圢匏を応甚した移動誘導に぀いお、怜蚎を提案。

 送信。

「これで䜕か倉わるんですか」

 灯里が聞いた。

「分からない」

 日向は端末を閉じた。

「僕は祭りの専門家じゃないから」

「専門家、いるんですか」

「いる」

 䞀ノ瀬が答えた。

「たぶん、今から起こされる」

 日向が䞀ノ瀬を芋る。

「寝おるず決め぀けないで」

「午前䞉時だよ」

「朱雀なら起きおる」

「それも偏芋じゃない」

 䞀ノ瀬は答えなかった。

 灯里には䜕の話か分からなかったが、どうやら䜕か専門の人たちがいるらしい。

 京郜は思っおいた以䞊に分業制だった。



 平安神宮。

 䞭倮調敎機関。

 日向から届いた報告を、担圓者が読み返しおいた。

 青韍からは境界の異垞ず、人ず人ならざるものの䜍眮関係。

 玄歊からは過去の蚘録ずの照合。

 癜虎からも、各地の道ず移動状況に関する情報が集たり始めおいる。

 そしお画面の最埌。

 祭瀌圢匏を応甚した移動誘導。

 担圓者の芖線が、そこで止たった。

 今倜、ただ倧きく動いおいない組織が䞀぀ある。

 朱雀。

 祭瀌。

 火。

 音。

 人が集たり、歩き、たた散っおいくための仕組み。

 担圓者は顔を䞊げた。

「朱雀に連絡を」

 ただし、これはただ案にすぎない。

 祭りにすれば解決するのか。

 䜕を䜿うのか。

 誰が参加するのか。

 どこぞ導くのか。

 そしお、垰りたくない者をどうするのか。

 䜕䞀぀、決たっおはいなかった。

 ただ䞀぀。

 远い返すのでも、党員を同じ堎所ぞ集めるのでもないやり方があるかもしれない。

 その可胜性だけが、平安神宮ぞ届いた。



 䞀条戻橋では、こがれがただ癟鬌たちを芋おいた。

 その少し埌ろ。

 煙々矅も、同じ癟鬌たちを静かに眺めおいる。

 同じ倜。

 同じ橋。

 同じ光景。

 それでも、二人がいたい堎所は違っおいた。

「おた぀り」

 こがれが小さく呟く。

 もう䞀床。

「おた぀り」

 少しだけ。

 でも、心からうれしそうに。

 煙々矅は、その蚀葉を吊定しなかった。


いいなず思ったら応揎しよう