【青春回想記】 ひぐらしが鳴いていた──わたしが少しだけ変わった季節
たぶん、あれは高校2年の夏だった。
今でも、ひぐらしの声を聞くと、あの夕暮れがよみがえる。
あの頃のわたしは、恋に恋していて、性に少しだけ興味があって、 でもどこかで、大人になりたがっていた気がする。
経験こそなかったけど、もう、それなりのことは知っていた。
だからはじめてに対しての不安は、少なかったと思う。
ただ、
――あれって、どんな形してるんだろう?
そんな、子どもみたいな疑問が、どこかにあった。
その頃、ペンフレンドだったのが、拓也くん。
もう1年くらい手紙をやりとりしていたけど、会ったことはなかった。
拓也くんは同い年の高校球児で、焼けた肌と大きな手をしていた。
正直、顔は好みじゃなかったけど、すでに共通の話題があったし、会ってすぐに
「この子なら、いいかも」
って思ってしまった自分がいた。
公園で待ち合わせて、手を繋いで──少し話して、 彼はわたしを膝に乗せて、ずっとキスしていた。
そして言った。
「うちにケーキあるから、来ない?」
かわいすぎる誘い文句に、思わず笑ってしまったのを覚えている。
彼は一人っ子で、ご両親は共働きだった。
誰もいないその家には、夏の蒸し暑さと、クーラーの音だけが漂っていた。
彼が「先にシャワー浴びるね」と言ったとき、
――あ、これは来るな。
って、どこかで悟った。
そして案の定、
風呂上がりの彼は、自然な口調で言った。
「シャワー浴びてきなよ。タオル、そこ。」
ドキドキしながら浴室へ向かう。
むだ毛、大丈夫かな? 汗、ちゃんと流せるかな?
あのときの頭の中は、ほとんどセルフ点検会だった。
でも、シャワーを終える頃には、
なぜか不思議と心が落ち着いていて、
「もう、大丈夫」って、静かに思えた。
部屋に戻ると、
まるで台本があるみたいに、導かれるようにキスの先へ進んだ。
だけど怖くなかった。
彼は優しかったし、わたしも拒む気持ちはなかった。
感覚の意味も、よくわからなかったけれど、
「これが、わたしのはじまり」
そんなふうに感じていた。
そしてそのとき、
窓の外で、ひぐらしが鳴いていた。
どこか遠くで、でも確かに聞こえていた。
その声が、すべてを包み込んでくれた。
季節の音が、そっと寄り添ってくれた気がした。
あれは、きっと、わたしの青い記憶。
今でも、ひぐらしの声を聞くたびに、胸の奥が、そっとざわつく。
