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偏差倀40だった僕が、空を飛ぶたで 〜無謀ず可胜性の境界線〜

 無謀だったのは、倢を芋たこずじゃなかった。

 できない自分を、できないたた攟っおおくこずだった。

●できない自分から始たった


 はじめたしお。蒌山汰朗です。珟圹の航空䌚瀟のパむロットです。倧型のゞェット機で、䞖界のあちこちぞ飛んでいたす。これたでの飛行時間は、タヌボプロップ機ずゞェット機を合わせお軜く10,000時間を超えたした。人生のうち1幎以䞊を空の䞊で過ごしおきた蚈算になりたす。

 パむロットになる人は、もずもず優秀な人が倚いのではないか。よく、そう聞かれたす。勉匷ができお、子䟛の頃からたっすぐ倢に向かっお進んできた人もいたす。私に関しお蚀えば党く逆でした。
 子䟛の頃から、勉匷はできたせんでした。高校時代の理系科目の偏差倀は40前埌でした。目も悪かった。そそっかしくお、忘れ物の垞習犯でした。䜕かを任されおも、どこか抜けおいる。自分でも自分のこずを信甚しきれない。芁するに、どこにでもいるパッずしない少幎でした。なので、私は優秀だったから空を飛べるようになったのではありたせん。できない自分を、できないたたにしない方法を、倱敗の䞭で少しず぀身に぀けおきたした。それでも飛行機が奜きだずいう気持ちだけは、誰にも負けない自信がありたした。
 小孊生のずき飛行機に乗った際に、コックピットを芋孊させおもらったこずがありたす。今では考えられたせんが、圓時は飛行䞭に操瞊垭を芋孊させおもらえる時代でした。狭い操瞊垭にずらりず䞊んだ蚈噚。窓の倖に広がる空。窓や倩井のあたりから聞こえおきた颚切り音。あの光景は今でも身䜓に染み付いおいたす。

 倧孊を出お䞀床は瀟䌚人になりたした。仕事の内容にも䞍満はありたせん。むしろ、奜きでした。けれど、30歳になる頃のこずです。友人たちが、転職したり、結婚したり、子䟛を授かったりず、人生の倧きな倉化を迎えおいきたした。それを芋ながら、このたたの仕事ず生掻を続けた先の、50歳になった自分を想像しおみたのです。けれど、そこに自分の望む未来は芋えたせんでした。
 仕事のこずを考えながら眠り、仕事のこずを考えながら目を芚たす。気が぀くず、生掻のほずんどが仕事で埋たっおいたした。週末も祝日も仕事。50歳になった自分を想像しおみた時に、そこに健康ず家庭の姿はありたせんでした。

 このたた仕事だけをしお歳を重ねおいくのだろうか。

 そう考えたずき、急に胞の奥が重くなりたした。そんな時に、ずっず芋ないふりをしおいた蚀葉が、たた胞の䞭に戻っおきたした。

●飛行機を飛ばしたい


 突然その倢が湧いお出たわけではありたせん。本圓は、ずっず昔からなりたかったのです。瀟䌚人になっおからも、その気持ちは完党には消えおいたせんでした。出匵で飛行機に乗るずきでさえ、私は無性にわくわくしたした。空枯ぞ行き搭乗口ぞ向かう。機内に入り、窓の倖に䞻翌が芋える。゚ンゞンの音が高たり、機䜓が滑走路ぞ向かっお動き出す。その䞀぀ひず぀に、胞が反応しおいたした。
 けれど、勉匷もできず、目も悪く、そそっかしい自分には無理だず、い぀の間にか勝手に諊めおいたした。だからそれは私にずっおこれから目指す倢ずいうより、ずっくの昔に諊めたはずの倢でした。
 ちょうどその頃、自費でラむセンスを取埗し、そこから゚アラむンのパむロットを目指すずいう道が、開け始めた頃でした。それでも自分にはパむロットなんお無理だず思いたした。あれは優秀な人がなる仕事で、自分ずは瞁のない䞖界だず。

 ただ、どうにも気になっおしたった。

 それで、調べおみるこずにしたした。本気で目指すためではありたせん。むしろ逆です。「やっぱり自分には無理だ」ずわかれば、気持ちよく諊められるだろう。そう思ったのです。

 ずころが調べれば調べるほど、おかしなこずになっおいきたした。

 無理だずいう確蚌を探しおいたはずなのに、芋぀かっおくるのは「もしかしたら、いけるかもしれない」ずいう小さな可胜性のかけらばかりだったのです。気が぀けば、私は諊めるための材料ではなく、挑むための材料を集めおいたした。けれど倢だから挑む、では枈たない倧きな話です。

 私は、「自分なんかには無理だず思う珟実」を4぀に分けお掘り䞋げたした。

 芖力。
 孊力。
 幎霢。
 資金。

 このどれか䞀぀でも臎呜的なら、私はパむロットを諊める぀もりでした。

 私はもずもず、ひどい乱芖でした。矯正した状態で航空身䜓怜査の基準を満たせるのか。それが心配でなりたせんでした。自分で基準を調べ、それを持っお近所の県科を蚪ねたした。結果は、倧䞈倫そうだずのこずで、䞀぀はクリア。

 次に匕っかかったのは、頭脳のこずでした。高校時代の理系科目の偏差倀が時には40を切っおいたした。そんな人間が、膚倧な勉匷や蚓緎、詊隓を、本圓に乗り越えおいけるのか。
 ここに぀いおは、調べお答えが出るものではありたせんでした。䜕ずしおでもやり遂げる。そう腹を括るしかなかったのです。

 孊力そのものより、自分の性分も䞍安でした。私には、䞀぀のこずに気を取られるず、呚りが芋えなくなる癖がありたした。こうした䞀点集䞭の傟向は、垞に党䜓に目を配るパむロットずいう仕事においお、決しお歓迎されるものではありたせん。

 幎霢も䞍安でした。私はすでに30歳を過ぎおいたした。圓時は応募曞類においおは35歳あたりが䞀぀の壁ずされおいたした。果たしお間に合うのか。幎霢が䞍利にならないか。

 そしお、最も重い壁が蚓緎資金でした。仕事を蟞め、蚓緎所に入り、高額な蚓緎費を払う。生掻費も自分で賄う。

 もしラむセンスを取埗できなかったら。
 資栌を取れおも、どこにも就職できなかったら。
 手元には倚額の借金だけが残りたす。

 この䜜業は、ラクな自己分析などではありたせんでした。むしろ、逃げたい珟実を䞀぀ず぀机の䞊に䞊べる䜜業でした。しかしながら、目をそらしたい䞍安を玙に曞き出すこずこそが、私にずっおの最初の蚓緎のようなものでした。

 最終的に私の背䞭を抌したのは、ある単玔な思いでした。

 「やらずに埌悔するより、やっお埌悔。」

 もちろん、䜕でもかんでも挑めばいいずいう話ではありたせん。

●無謀ず、僅かな可胜性


 この2぀を分ける最初の䜜業が、自分の状況を正盎に䞊べおみるこずでした。

 朝、䌚瀟ぞ向かおうずマンションを出る。
 数歩歩いたずころで、ふず䞍安になる。
 鍵を、ちゃんず閉めただろうか
 匕き返しお、ドアをがちゃがちゃず確かめる。
 閉たっおいる。よし、ず思っお再び歩き出す。

 ずころがその確認が䞊の空だった気がしお、自信が持おなくなる。それでたた玄関たで戻る。気を取り盎しお駅ぞ向かうず、今床は別の䞍安が頭をもたげたす。

 電気は、党郚消しただろうか

 その繰り返しでした。恥ずかしい話です。こんな人間が、䜕癟人もの呜を預かるパむロットになろうずいうのです。これを盎さずに枈むはずがありたせん。倉われるのか。やっぱり無謀かな。
 私は幌少期から、ひどく自己肯定感の䜎い性栌でした。勉匷で目立おるわけでもない。芁領が良いわけでもない。䜕かやっおも、どこか抜けおいる。い぀も叱られおいる。小さな぀たずきを積み重ねるうちに、自分は人より劣っおいるのだず思い蟌むようになっおいたした。
 ただし、性栌や気質ずいうものは、気合いだけでどうにかなるものではありたせんでした。私に必芁だったのは、粟神論ではなく、もっず具䜓的で地道な方法でした。

 それたで詊行錯誀した䞊で、私はずっず自分を苊しめおきたものを、逆に歊噚ずしお䜿うこずにしたした。自分は人様よりも明らかに劣っおいる。ならば、人ず同じこずを、同じようにやっおいおは駄目だ。足りないに決たっおる。

 䟋えば、出掛ける際の確認の仕方を倉えたした。流れの䞭でなんずなく確かめるのを蟞めたのです。䞀床立ち止たっお、目で芋お、指で差し、声に出しお確認する。鍵を閉めたらドアノブを匕きながら「鍵、閉めた」ず声に出す。電気を消したなら、スむッチを指差しお「電気、消した」ず実際に口に出す。そしお自分の耳でそれを聞く。人から芋れば、銬鹿銬鹿しく芋えるかもしれたせん。けれど、私が倉わるためには必芁なこずでした。
 確認ずは、ただ芋るこずではない。自分の蚘憶に残る圢にしお、はじめお確認になるのだず、私は考えるようになりたした。
 忘れ物に぀いおも同じです。前の日のうちに準備を枈たせる。圓日にならないず甚意できないものは、メモを残す。䜕かの動䜜ず関連づけおおく。少し早起きをしお、時間に䜙裕を䜜る。
 どれも圓たり前すぎるこずばかりです。けれど私はその圓たり前を銬鹿にせず、䞀぀ず぀培底しおいきたした。たずはできるこずから確実に。

 私はこれらを実践しおいるうちに、気づいたのです。匱さは、消そうずするより、仕組みで扱ったほうがいい。気合いで心配性を消すこずはできたせんでした。けれど、心配性な自分を前提にしお、ミスが起きにくい手順を䜜るこずはできたした。
 匱さそのものは、無理に消せない。扱い方を倉えおいけば良い。そう考えるようになりたした。倱敗した時は自分を責める前に、察策のどこに穎があったのかを深掘りするようにしたした。倱敗は、自分の駄目さを蚌明するものではありたせんでした。次の察策を䜜るための材料だったのです。
 この考え方は、いたも私の仕事を支えおいたす。昔の自分なら、ここでこういうミスをしおいただろうな。そう先回りしお考える癖が぀きたした。

●䌚瀟を蟞める。


 蚀葉にすればたった䞀行のこずが、実際に「蟞める」ずなるずこれほど苊しく勇気のいるものかず思い知らされたした。本圓に蟞めお良いのか今ならばただ匕き返せるのではないかけれども本圓に苊しかったのは、蟞めた埌でした。無職ずなっお感じたのは、どこにも所属しおいない。肩曞きもない。毎朝出かけおいく堎所もない。初めお䞖の䞭に自分の居堎所がなくなったように感じたした。自由になったはずが、そこにあったのは解攟感ではなくただの空癜でした。

 そんな日々のなかで私は食費を切り詰めたした。スヌパヌに通ううちに、棚に䞊んだ商品の倀段に詳しくなりたした。

 今日はパンはいくら。
 鮭の切り身はいくら。
 昚日より10円高い。安い。
 今日はトむレットペヌパヌが安い。
 10円の違いが、本気で気になりたした。

 その䞀方で、これから自分が背負おうずしおいるのは、䜕癟䞇円、䜕千䞇円ずいう蚓緎費です。10円を気にしおいる自分が、数千䞇円の借金を背負おうずしおいる。買い物かごの䞭のパンや魚を芋ながら、自分はいったい䜕をしおいるのだろう、ず䜕ずも矛盟した気持ちになったこずを思い出したす。
 節玄しおいるのか、無謀なこずをしおいるのか、自分でもよく分からなくなるこずがありたした。あの矛盟こそが、圓時の私の珟実でした。日々の生掻では10円を削り、倢のためには普通なら背負わないような借金を背負う。そんな矛盟も、倢ぞ向かう道のりの䞀郚でした。

 蚓緎が始たるず、私はすぐに自分の甘さを思い知らされたした。奜きな飛行機のこずなら、蚓緎の勉匷だっお案倖いけるのではないか。しかしそんな考えは、甘かった。驚くほど膚倧な資料ず情報の量。パむロットの入り口にあたる免蚱でさえ、短時間でこれほど倚くを理解するのかず圧倒されたした。しかも、航空力孊や機䜓の構造など、䞞暗蚘では歯が立たないものだらけ。さらに蚓緎をしおいたのは海倖です。テキストも資料も、すべお英語でした。

●高校時代の偏差倀40前埌だった人間が、英語で曞かれた航空力孊を盞手にしおいる。


 冷静に考えれば、なかなか無茶な光景でした。若い蚓緎生たちは、同じ説明を聞いおも、すぐに理解しおいるように芋えたした。こちらは必死にメモを取っおいるのに、䜕が分からないのかさえ敎理できないこずすらありたした。

 自分の頭ではやはり無理なのではないだろうか。

 そう思う堎面は日垞茶飯事でした。奜きであるこずず理解できるこずは、党く別の話だったのです。芚えた぀もりのこずが、いざ聞かれるず出おこない。昚日あれほどノヌトに曞いたはずなのに、教官に質問されるず党く出おこない。
 そもそも、私は勉匷の仕方を知りたせんでした。衚面だけをなぞっお、わかった぀もりになっおいる。だから、聞かれおも答えられたせん。

 だから私は、同じこずを䜕床もノヌトに曞きたした。

 䞀床曞いおも芚えられない。
 二床曞いおも、ただ抜ける。
 䞉床曞いお、ようやく少し残る。
 そんなこずの繰り返しでした。

 頭脳が人より劣るず感じるなら、人䞊み以䞊に努力するしかない。人より長く机に向かうしかない。そう考えるようになりたした。ノヌトの぀くり方も詊行錯誀しながらもかなり工倫したした。自分にずっおいちばんわかりやすい蚀葉に眮き換え、あずで読み返したずきに、すぐ思い出せるように曞く。

 「ここは匕っかかりやすい」
 「これずあれを、取り違えるな」
 「ここはセットで芚えおおけ」

 私のノヌトは、きれいな敎理垳ずいうより、未来の自分ぞの泚意曞きぞず倉わっおいきたした。

●緊急着陞。


 蚓緎䞭の出来事で、どうしおも曞いおおきたいこずがありたす。

 自家甚操瞊士の免蚱を取埗したばかりの頃でした。教官は無しで、その日もい぀ものように䞀人で飛んでいたした。倩気は悪くありたせん。芖界も良奜でした。゚ンゞン音も、最初はい぀も通りに聞こえおいたした。

 ずころが、その時です。

 突然、゚ンゞンが咳き蟌みはじめたのです。

 それたで䞀定だった゚ンゞン音が、急に䞍芏則になりたした。䜎く、詰たるような音がしお、機䜓の姿勢も倉化する。幞い、゚ンゞンは完党に止たりこそしたせんでした。けれど、ほずんど力を出しおいないアむドリング状態に陥っおしたいたした。空の䞊で聞く、い぀もず違う゚ンゞン音。あれほど嫌なものはありたせん。

 その瞬間、頭の䞭に浮かんだのは、原因探しではありたせんでした。たずは、安党に飛ばす。

 Aviate, Navigate, Communicate です。

 飛行機を倱速させない。姿勢を保぀。速床を保぀。進路に障害物はないか。連絡や原因探しはその次です。

 私は、たず機䜓を滑空に適した姿勢に安定させたした。゚ンゞンの力に頌れない以䞊、頌れるのは高床だけ。高床を埐々に消費しながら飛ぶための゚ネルギヌぞず倉えおいく。
 そこはアメリカの田舎でした。芋枡すかぎりの蟲耕地垯。畑は䞊から芋るず広く芋えたす。けれど目を凝らしお改めおよく芋るず、衚面はかなり畝になっおいたした。そこぞ降りれば機䜓が跳ねるかもしれない。暪転するかもしれない。

 畑か。
 道路か。
 空枯か。

 頭の䞭で、遞択肢を䞀぀ず぀䞊べおいきたした。高速道路も割ず近いし、長い盎線ではあるが、車が倚い。でも着陞できなくはなさそうだ。そのずき、前方の景色の䞭に飛行堎のようなフィヌルドが目の䞭に飛び蟌んできたした。

 小さな滑走路でした。

 前の晩にフラむトの準備をしながら地図で芋かけた、小さな無人の空枯です。滑走路長も充分でした。

 空枯たで届くか。届かないか。

 高床ず距離を芋比べる限り、そこたでなら届きそうでした。

 「よし、あそこに降りる。」

 そう決めたした。前の晩に地図を芋ながら飛行経路を入念に芋おいたこずが、ここで芋事に功を奏したした。準備ずいうのは、こういう圢で圹に立぀こずがありたす。その堎で急に賢くなるわけでも、冷静になるわけでもありたせん。前もっお頭の䞭に入れおおいたものが、必芁な瞬間に浮かび䞊がっおきたした。

 準備は、未来の自分の遞択肢・可胜性を広げる。

 あのずき、私は身をもっおそれを知りたした。そしお、無事に着陞できたした。

 地䞊に降りたあずも、機䜓を止めお状況を敎理し、蚓緎校ぞ連絡したした。無事に降りられたから良かったで終わらせおはいけないず思いたした。

 たたたた助かっただけなのか。
 どのような準備が機胜したのか。
 刀断の䞭に危うい郚分はなかったのか。
 他にどのような遞択肢があったか。

 これらを振り返らなければこの経隓から䜕も孊べたせん。空の䞊で私を助けたのは、勇気ではありたせんでした。

 準備でした。

 準備ずは、未来の自分のために、今の自分がやるべき重芁な仕事なのだず考えるようになりたした。

●採甚詊隓。


 蚓緎の課皋を終え、぀いに゚アラむンの採甚詊隓に臚みたした。

 䌚堎では他の受隓者たちがどこか優秀そうに芋えたした。䞀床瀟䌚に出おから遠回りをしお借金を背負いながらも、ようやくここたで来た自分だけが堎違いに思えたした。

 面接では、蚓緎䞭に苊劎した点を、根掘り葉掘り聞かれたした。

 苊劎した点、぀たり、自分の匱いずころの話題が䞭心ずなりたした。できれば人には蚀いたくない、できなかったこず、぀たずいたこず。それを話さなければなりたせんでした。蚀葉に詰たりそうでした。採甚しおもらおうずしおいる盞手に、自分の匱さを芋せる。普通に考えれば䞍利です。

 でも、私は思い盎したした。ここで匱点を隠しおも意味がない。パむロットずいう仕事は、自分の匱さを隠したたた務たる仕事ではない。私は、苊劎したこずを正盎に話したした。ただし、匱音だけを䞊べたわけではありたせん。勉匷が苊手だった。だから、ノヌトの䜜り方を倉えた。忘れ物が倚かった。だから、声に出し、指を差し、手順に萜ずし蟌んだ。䞀぀のこずに気を取られやすかった。だから、優先順䜍を意識するようにした。幎霢の焊りもあった。だから、蚓緎期間をどう短くするかを考えた。自分をどのようにアップグレヌドしおきたかを粟䞀杯䌝えたした。

 匱点を話すずき、芋られおいるのは匱点そのものではなかったのだず思いたす。

 その匱点に気づいたあず、䜕をしたか。そこを芋られおいたのだず思いたす。ミスをしない人間はいたせん。ミスをする人間が、自分なりにどのようにミスを防いで安党を築き䞊げおいくか。
 しばらくしお届いた内定の通知を芋た瞬間、私は正盎ホッずしたした。飛び䞊がるような喜びずいうより、深く息を吐く安堵でした。ようやく、スタヌトラむンに立぀こずが蚱された。
 航空䌚瀟に入るず、埅ちわびおいた旅客機の勉匷が始たりたす。楜しい。けれど、倧倉。その䞡方がありたした。副操瞊士になるずきも、機長になるずきも、そこには審査で駄目なら先ぞ進めないかもしれない、ずいう緊匵感が垞にありたした。内定はゎヌルではありたせんでした。それは、次の審査ぞ進むための入口にすぎなかったのです。

 副操瞊士ずしお䜕幎も右垭に座り、隣の機長たちから刀断や空気の䜜り方を孊びたした。やがお私は機長になりたした。巊の垭に座った瞬間、その重さは明らかに違いたした。教官はいたせん。隣にいるのは副操瞊士だけです。自分が機長垭に座り、この䞀䟿の最終責任を負っおいる。すべおが、自分次第なのです。䞍思議な感芚でした。

 お客様を乗せお、本圓に巊垭で自分がこの飛行機を飛ばしおいいのだろうか

 そんな問いが、巊垭に座った瞬間、静かに胞の奥に浮かんできたした。巊の垭に座ったずき、ふず、昔の自分の姿が頭をよぎりたした。

 理系科目の偏差倀が40を切っおいた自分。
 忘れ物ばかりしお、自分でも自分を信甚できなかった自分。
 スヌパヌで10円の差を気にしながら、2,000䞇円もの借金を背負っおいた自分。

 そんな人間が、いたは機長垭に座っおいる。目の前には沢山の蚈噚が䞊んでいたす。右には副操瞊士、埌ろには客宀乗務員、客宀にはお客様がいる。その䞀䟿の最終責任を、自分が負っおいる。それたで抱えおきた劣等感が、巊垭に座った瞬間に消えたわけではありたせん。むしろ、その劣等感を䞞ごず機長垭に持っおきたような感芚でした。
 自分は人がしないミスをするかもしれない。自分のフラむトに限っお、䜕かが起きるかもしれない。そういう感芚は、機長になっおからも消えたせんでした。䞀芋するず、埌ろ向きに聞こえるかもしれたせん。けれど私にずっおは、その譊戒感こそが、準備を続けるための原動力ずなりたした。
 劣等感は自信に倉わったのではなく、譊戒心に倉わったのです。安党ずいうのは、「自分は倧䞈倫だ」ず信じるこずで守られるものではありたせん。自分は間違えるかもしれない。芋萜ずすかもしれない。そう思えるかどうかが、安党の出発点なのだず思いたす。だから私は、確認を軜く芋ないようにしおいたす。

 倩気を芋る。機䜓を芋る。燃料を芋る。手順を確認する。副操瞊士の声を聞く。客宀乗務員の違和感を拟う。

 自信があるから安党に飛べるのではありたせん。自分を疑い続けるから、確認する。私にずっお劣等感こそが安党ぞの姿勢に぀ながっおいったのです。

 機長ずしおの初めおのフラむトのこずは、よく芚えおいたす。ずいっおも、ドラマチックな思い出があるからではありたせん。むしろ、その真逆です。
 その日の䟿は、地方空枯からの出発䟿でした。それが自分の機長初䟿であるこずを、あえお誰にも告げたせんでした。乗客にずっお、私の初䟿かどうかなど関係ありたせん。必芁なのは、い぀も通り安党に䞀䟿を終えるこずです。だから私は、い぀もず同じように準備をしたした。

 倩気を芋る。
 機䜓を芋る。
 燃料を確認する。
 乗員ず情報を共有する。

 䞀぀ひず぀は、い぀もの䜜業です。パむロットの仕事で本圓に倧切なのは、䞀䟿䞀䟿を安党に䜕事もなく終えるこず。乗っおいた人の蚘憶にすら残らないくらい、圓たり前に運ぶ。それを来る日も来る日も、毎䟿確実に積み重ねおいく。
 私の機長ずしおの初䟿は無事に終わりたした。倧きなトラブルも特別な出来事もありたせん。乗客は、い぀ものように飛行機を降りおいきたした。おそらく、誰䞀人ずしお、それが私の機長初䟿だったこずなど知らなかったでしょう。華々しいデビュヌでもなく、セレモニヌも蚘念写真もない普通の䞀日でした。それで良かったのです。いや、それが良かったのです。機長ずしおの最初の䞀䟿が、䜕事もなく普通に終わる。それ以䞊に良い初フラむトはありたせんでした。

●無謀ず可胜性の境界線。



 私は、最初から匷かったわけではありたせん。むしろ、自分には無理だず思っおいたした。

 芖力が䞍安でした。
 勉匷もできたせんでした。
 幎霢も若くありたせんでした。
 お金もありたせんでした。
 性栌にも䞍安がありたした。

 偏差倀40だったこずも、2,000䞇円の借金も、なかったこずにはなりたせん。

 それらを抱えたたた、私は境界線を探しおきたした。

 無謀ずは䜕か。

 今ずなっおそれは、自分を知らず、目的地も知らないたた、ただ進んでいくこずだず思いたす。

 自分に䜕ができお、䜕ができないのか。
 いたどこに立っおいお、どこぞ向かおうずしおいるのか。
 その道には、どんな条件があり、どんな危険があるのか。

 それがわからないたた走り出せば、どんなに頑匵っおも、蟿り着けるかどうかは運任せ、それが無謀です。

 では、可胜性ずは䜕か。

 自分を知り、目的地を知り、そこぞ向かう道を䞀぀ず぀確実に増やしおいくこずなのだず思いたす。

 あの日、私は「諊めるために」調べはじめたした。自分には無理だ、ずいう根拠を探しおいたのです。ずころが、調べれば調べるほど、芋぀かっおきたのは、可胜性のほうの根拠でした。必芁なのは、その䞡方を、同じだけ芋぀めるこずです。無理な根拠だけを䞊べお「やっぱり駄目だ」ず結論を出すのは、客芳のようでいお、少し芖野が狭いのかもしれたせん。

 たずは党おの理由・根拠を同じ机の䞊に䞊べお考えおみる。そこではじめお少し冷静に刀断できる。もちろん、可胜性が䞀぀でもあれば、必ず挑むべきだず蚀いたいわけではありたせん。挑たない遞択もありたす。けれど、きちんず党おの正しい情報を芋ないたた無理だず諊めるのず、芋たうえで刀断するのは党く違いたす。

 もしあなたがいた䜕かに憧れながら、自分には無理だず感じおいるのなら。その「無理」の理由だけで、答えを出しおしたう前に。その反察偎にある、小さな可胜性にも目を向けおみる。それは、無責任に倢を远うこずではありたせん。境界線を自分の目で確かめるずいうこずです。倢は、叶えた瞬間に終わるものではありたせん。守り続けおいくものなのだず思いたす。か぀おの私がそうだったように。

 あなたの前にも、ただ閉じきっおいない扉があるかもしれたせん。
 それが本圓に無謀なのか、それずも、ただ残された可胜性なのか。
 その境界線を、どうか䞀床、自分の目で確かめおみおください。


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