メインコンテンツへスキップ
見出し画像

連載小説(44)漂着ちゃん

    山根あきら | 哲学者

     イサクとの初対面の時から、その後20年間、私はナオミとエヴァとの間を、1年おきに行ったり来たりという生活をおくった。
     ナオミの家族とエヴァの家族は、その間1度も会うことがなかった。

     私の最初の子どものヨブがまず成人になった。ヨブはまだ、母親のナオミという女性しか知らない。
     次に私の二番目の子どものマリアが成人になった。マリアは私に容姿は似ているが、性格はエヴァに近い。まだ、私以外の男性は知らない。
     3番目にイサクが成人を迎えた。イサクは、母エヴァと姉マリア以外の女性を知らない。


     ある時ナオミが言った。

    「ヨブもそろそろ、結婚を考える時期になってきましたね。マリアさんとそろそろ会ってもいい時期じゃないかしら。エヴァさんはなにかおっしゃっていますか?」

    「この前に会った時に、マリアとヨブをそろそろ会わせましょうか?、と私が言った時には無言だった。笑顔を浮かべていたが、正直に言って、よくわからなかった」

    「そうなんですね。やはり所長の指示がないと、動けないということなんでしょうか?」


     ナオミには所長が事実上、なにも指示を出していないことは伝えていない。エヴァから固く「言うな」と言われているからだ。20年前に地下室ではじめてイサクと出会った日からずっと、所長の声はオフになったままだ。所長AIは稼働しつつも、何の影響力ももっていないに等しかった。

     ナオミを含めて町の漂着ちゃんたちは、所長という存在がいると信じているだけだ。なにか一度事件が起これば、所長により、なんらかのペナルティを与えられると信じているだけだ。いわば所長はパノプティコン的な役割しか果たしていなかった。


    「あぁ、そうだね。エヴァさんは優秀な女性だけど、町の運営は全面的に所長に任せている。『漂着ちゃん第1号』としてこの町にやって来たから、特別な存在ではあるけどね。それ以外は他の漂着ちゃんと何ら変わるところはないしね」

    「そういえば、もうだいぶ長い間、新たな漂着ちゃんはやって来ませんね。たしか、10年くらい前に数人漂着したことがあったと記憶していますが」

    「そうだね。おそらくこの収容所のどこかに彼女たちが住んでいるはずだが、私にも詳細はわからない」


     10年前、最後に漂着ちゃんがこの町にやって来たとき、私はエヴァのもとにいた。

    「なんか今日は漂着ちゃんが川に流れてくるんじゃないか、という予感があるの。あなたが行ってここへ連れて来て欲しい」

     エヴァに頼まれて、新たな漂着ちゃんを迎えに行ったのは他ならぬ私であった。
     数回同じようなことを繰り返した。その年に収容した漂着ちゃん3人は、現在すべてエヴァのもとにいる。イサクの将来の結婚相手はその3人の中から選びたいとエヴァは言っている。


    「そうなんですね。あなたが知らないのならば、私には知りようがありませんね」とナオミは悲しそうに言った。

    「そうだね。この町にはわからないことが多い。とりあえず、ヨブとマリアのことは今度エヴァさんに会ったときにもう一度話してみようと思う」

     私はナオミに半分は本当のことを言い、半分は内緒にしなければならないということが心苦しかった。しかし、エヴァに背くことは決して出来ないと直感していたのだった。


    …つづく


    #漂着ちゃん
    #連載小説
    #私の作品紹介
    #秘密
    #創作大賞2024
    #ファンタジー小説部門
    #忘れられない恋物語

     
     
     
    初投稿2021/08/08。毎日投稿。2023年から個人企画「青ブラ文学部」。英語、ことば、文学、哲学、数学、時々noteのことなどを書いています。 『星空の恋の方程式』で創作大賞2025中間選考通過。『算数の時間 | 分数を理解しよう!』で「今日の注目記事」に選出。

    あなたへのおすすめ