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連載小説(40)漂着ちゃん

    山根あきら | 哲学者

    「私はずっと自らの子どもを持てない身体だと思い込んでいました。私は何でも出来る。この事実を受け入れることに時間がかかりました。しかし、物事というのは、真に完全に諦めところから始まるものなのです」

     エヴァは話しつづけた。


     自分で子どもを産むことを諦めていた私は、あなたがこの町にやって来てナオミを拾って来たとき、あなたの子どもを是が非でも欲しいと思いました。
     あなたが眠っていた長い時間、ずっとそばにいるうちに、あなたに深い愛情を感じました。早く目覚めてくれることを願っていました。

     それとにともに、私はナオミを懸命に育てました。あなたがこの女を助けたいと思ったのは、ナオミに愛情があると感じたからです。あなたはナオミに愛情を抱いた。そして、ナオミも自分を助けてくれたあなたに恩を感じることは間違いないとも思いました。

     あなたの子どもはナオミに生んでもらえばそれでいいじゃないか、と。

     いちばん愛するあなたをナオミと結ばせなければならなかったことは、つらいことでした。しかし、子孫を残すためにはこれ以外に選択肢はなかったのだと何度も自分に言い聞かせました。


     けれどもいざヨブくんが生まれてきたとき、嬉しさよりも悔しさがまさってしまったのです。
     何でこんなにあなたのことを愛しているのに、あなたとの子どもを持つことが出来ないのかと自分を責めました。ヨブくんが成長するにつれて、自分で決めたことなのに、ナオミさんに嫉妬する自分が心の中にいることに気がつきました。

     やるだけのことをやってから私とあなたの子どもを産む夢を諦めようと。
     本当にまったく、あなたと私との間に子どもが出来るなんて信じてなかった。やはりAIである所長にも予測できないことがあるのだと。


     ここまで話を聞いたとき、私はエヴァを疑ったことを恥じた。

    「エヴァさん、どうやら私が誤解していたようです。この町を牛耳っていたのは、やはりAIである所長だったのですね。私はてっきり、所長というAIを作り出したのはエヴァさんなのではないか、と疑ったのです」

    「疑われても仕方ありませんね。所長を止めたことで町全体が止まったはずなのに護衛官が動いていたから、不思議に思ったことでしょう」

    「で、今は所長はどうなっているのですか?止まったままですか?」

    「いえ、稼働させました。所長だけを止めるということは出来ないようなのです」

    「じゃあ、今は再び所長が町を支配しているのですか?」

    「支配していると言えるかどうか。一度止めたことで、所長には何も出来ないのだ、ということがわかりました」

    「と言うと?」

    「所長は指令を出すだけで、それに背いたからといって、なんの実力もないのです。ただ、地下室に人を呼んで命令すること以外はね。ここに私とあなた以外の者を入れさせなければ、所長はただ独り言を言っているのと同じことです。なのに、所長の言うことに私やあなたが従ってきたのは、私たちのマインドセット以外のなにものでもないのです」


    …つづく


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    初投稿2021/08/08。毎日投稿。2023年から個人企画「青ブラ文学部」。英語、ことば、文学、哲学、数学、時々noteのことなどを書いています。 『星空の恋の方程式』で創作大賞2025中間選考通過。『算数の時間 | 分数を理解しよう!』で「今日の注目記事」に選出。

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