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連載小説(36)漂着ちゃん

    山根あきら | 哲学者

     エヴァの車が見えなくなるまで見送ったあと、私はひとり収容所の中に入っていった。
     玄関前にたどり着くと、護衛官が二人立っていた。

    「なぜ、あなたたちが?!」と私は思わず声を漏らした。

    「なぜって、私たちは収容所の職員ですから。お部屋まで付き添わせていただきます」

     私は護衛官に両脇を挟まれて、エレベーターにのった。

     護衛官はAIロボットだったはずではないか?、という疑問で頭の中がいっぱいだった。なぜ彼らは動いているのだ?

    「着きました。ナオミさんがお待ちです。ではこれで失礼します」

    「ちょっと聞きたいことがあるのだが」と声をかけたが、彼らは無言のまま再びエレベーターにのり、姿を消した。


    「あら、お帰りなさい。だいぶ長くなりましたね。所長さんとのお話はどうなりましたか?」

    「とくに具体的にはなにも。しばらくの間はこれまで通りの生活になりそう」

    「そう。それがいちばんかもしれませんね。お疲れになったでしょう。ゆっくりと休んでくださいね」
     そういうと、ナオミはヨブのほうへ向かっていった。


     ひとりになった私は、なぜ護衛官が今までと変わらず動いているのかということについて考え始めた。
     所長の動きが止まったとき、この町のすべてのAIロボットが止まったはずだ。なのにエヴァのもとからここに帰ってきてみれば、以前となにも変わらない。
     AIの護衛官が動いているということは、ひょっとして再び所長AIも動き始めたのだろうか?

     エヴァと私が地下室にいるとき、確かに所長の動きは止まっていたはずだ。一時的に停止しただけだったのか?
     今すぐにでも地下室に行けば、本当に所長が止まったのかどうかを確認できる。しかし、護衛官がいてはそれは不可能だ。今はあらゆる可能性を考えるしかない。

     落ち着いて考えてみよう。所長の停止マニュアルは未来に書かれたものとはいえ、確かに私の筆跡だった。これは間違いない。私の目で確認したのだから。
     マニュアルの中身はどうか?
     エヴァは完全に所長を停止させるマニュアルだと言っていたが、一時的に停止させることができるだけだったのではないだろうか?

     Age3500という未来の言語を読み解けたと言っていたが、不完全だったのではないだろうか?

     ここまで考えたとき、私の脳裏に別れ際のエヴァの姿がかすめた。さっきの別れ際、エヴァにはまったく笑顔がなかった。彼女はもっと何か知っているのだろうか?

     今、ここに私がやって来てから起こった出来事を思い起こしてみると、すべての出来事がエヴァを中心に動いているような気がしてきた。

    「もしかして、エヴァが?」
     私に突拍子もない考えが浮かんだ。
    「まさか?しかし、そう考えれば、すべてのことに説明がつく」


    …つづく


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    初投稿2021/08/08。毎日投稿。2023年から個人企画「青ブラ文学部」。英語、ことば、文学、哲学、数学、時々noteのことなどを書いています。 『星空の恋の方程式』で創作大賞2025中間選考通過。『算数の時間 | 分数を理解しよう!』で「今日の注目記事」に選出。

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