いつか流れた夢の跡
ディズニーのカチューシャを売った。
チップとデールのどっちかわからない片方を、タバコに毛が生えたくらいの値段で。
私が一番簡単に手放した、いつかの夢の残骸。
夏になったらいろんなところに連れて行くと言った。彼女がその言葉に密かに期待していたと知ったのは、随分後のことだったけれど。
結局海も山も都心も田舎も、どこにも連れて行けなかったけれど、唯一行ったのがディズニーランドだった。
あの日は生憎曇天で、少し雨も降っていた。
学生だった彼女にとっては特に珍しい場所でもなくて、もしかしたらあくまで日常の少しついていない日だったのかもしれない。
それでもあの日はどうしようもなく愛しくて、同時にこれ以上を想像できなかった。
雨とリニューアルの関係でスカスカだった園内を、代わりに8の曇りと2の雨が埋めていた。そんな事は意にも介さず、私たちはずっとくだらない話をしていた。並ぶ時間なんてほとんどないから話さなくたって十分だったけれど、それでも足りないくらいの今までとこれからをずっとずっと話していた。
「どうせ濡れるから関係ないよね」ってずぶ濡れでスプラッシュマウンテンに乗ったり、『アロハエコモマイ』を口ずさむ彼女を見て「なんで歌えるの」なんて笑ったりしてた。傍から見たら鼻で笑ってしまうありきたりなワンシーンが、褪せず確かに残っている。
同じ場所を別の相手と歩くことに未だ抵抗のある私だけれど、どうしても歩いてしまうそんな場所。
形がなければ残らないなんて、あの日はとっくに終わっているのに。
いつか忘れてしまう思い出を、またいつか思い出すかもしれないきっかけを、今日の私は明日のために売ったのだった。
