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止まったのは時計だけじゃない

今日は万有引力の影響が少ない。
朝から物が落ちない。

テーブルの上でゆで卵がクルクル回る。
「あっ!」
と思った瞬間、ピタッ。

落ちない。

アーモンドも同じだ。
欲張って一握り取ったのに、一粒も落とさない。
今日は手が神がかっている。
これは珍しい。

私の人生にも、こんな日があるらしい。

コーヒーを飲みながら時計を見る。

……。

もう一度見る。

……。

動いてない。

止まってる。

まずい。

今日は朝一番でミーティングだ。

歯ブラシをくわえたまま家中を走り回る。

時計を見る。
止まってる。

スマホを見る。
止まってない。

終わった。

事務所へ全力疾走。

「おはようございます!」
と言った時には、
もう全然おはようじゃなかった。

心の中では必死に言い訳を考える。
「時計が止まってまして……」

いや、弱い。

「電池切れで……」

もっと弱い。

「時間という概念に裏切られまして……」

もう意味がわからない。

その日は何もかも噛み合わなかった。

提出期限は過ぎている。
昼ご飯は家に置いてきた。
非常食もない。

エネルギー切れ。
午後には、もはや私の電池も切れていた。

帰宅して時計を見る。

やっぱり止まっていた。

原因は電池切れ。
朝から私は、止まった時計に振り回されていた。

……いや。

本当に止まっていたのは時計だけだろうか。

判断も。
段取りも。
やる気も。
全部止まっていた。

万有引力は弱かった。

物は何ひとつ落ちなかった。

その代わり、
盛大に落ちたのは、

私のメンタルだった。


#創作大賞2026 #エッセイ部門

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