
23歳 / 量産された青い春の行方
片方ずつで聴いたら、それはもう別の曲なんだよ
突然、
致死量のJ-popを浴びて吐きそうになった。
連休の中日、遊び疲れた娘をベビーカーに寝かせ、
空調の効いたカフェに腰を下ろした。
店内では甘ったるいラブソングが
恥ずかしげもなく愛を叫んでいる。
平成の空気がそのまま残った土産物屋と、
清潔ではあるけれど少し古びた施設。
無遠慮に並ぶ色褪せたイルカのキーホルダーと、誰が買っていくのかわからない奇抜な色のTシャツ。
コンセプトなんてどこにもない。
水中モチーフの壁に、会議室みたいな椅子が並ぶ中途半端なカフェでコーヒーフロートを頼んだ。ここで働き、この場所に立ち続けるバイトの若者たちを思って勝手に息苦しくなった。
この空間に長くいてはいけない。
自分の輪郭がぼやけていくような気がした。
注文を待ちながら
10年前のあの場所を思い出していた。
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私にも、年下の彼に合わせて
西野カナを聴いていた春がある。
彼が好きだった2曲だけ、カラオケでは必ず歌ってみせた。着慣れない色の服を着て、欲しくないピアスをつけ、車での移動中はいつもJ-popをかけていた。洋楽だらけのiPodはカバンにしまって、居心地の悪さに気づかないふりをした。
あの頃の私は、若者らしく正気ではなかった。
彼が従兄弟から安く買い取った、
冷めるような青色の平たい車でどこまでも走った。
早すぎる同棲、思い出のファミレス、
小さな部屋でのささやかな事件の数々。
毎週土曜日の深夜は、
ジャンプがいち早く手に入るコンビニに通った。
駐車場で彼がタバコを吸うのを待ちながら、
似合ってもいない服を着て、
好きでもない曲を聴きつつ外を眺めていた。
あれはたぶん、愛だった。
特別だと思っていた全てが
「どこにでもある恋」だと知ったのは、
彼と離れて何度目の春だっただろう。
あの頃聞いていたJ-popに彼は高揚し、
私は慣れるのを待っていた。
きっとその瞬間から、
終わりがはじまっていた。
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時刻は18:00。
次々に施設が閉まっていく。
アイスの溶け切った
泥水みたいなコーヒーフロート。
正解がわからないまま置かれたオブジェや
塗装がはげ、少し悲しげなマスコット。
何かを諦めきれないものたち。
あの頃、懸命に脱ぎ去ったもの。
少しダサく、中途半端で、芯のない、
でもその中にいれば安全で健やかなあの場所。
抜け出したくて仕方がなかったあの場所は、
確かにまだ存在していた。
閉店のチャイムを聴き終わる前に、
足早に店を出た。
娘がベビーカーの中でもぞもぞと動きだしている。
さっきまで耳障りだったJ-popが、
背中の方でまだ流れていた。