メインコンテンツへスキップ
見出し画像

魚の味が消える②|カツオが、消えた。

    つい先日、いつものスーパーで、真空パックのカツオのタタキを見つけた。広告の品というポップ。どれどれ、とのぞきこんで見ると、ビックリするほど安い。隣にも発泡スチロールのトレイにのったタタキがあるのだけれど、どうしてこんなに値段がちがうのか、というほどの差があった。

    なにかあるのか?と思ったけれど、穴があくほどジロジロ見ても怪しいところはない。きっと、大量仕入れとか規格外商品で、超お得だったのだろう。だとしたらGO。
    うっしっしと、ほくそ笑みながら、でっぷりとしたやつを1本ゲットした。

    そして、本日。
    冷凍庫に放り込んでいた、このタタキ。そろそろいただこうかしら、と冷蔵庫へと移動させる。せっかく1本あるのだから、なんか変わった食べ方をしたい。そう思って、調味棚を開けてみる。
    そこでふと、スイートチリソースが空になりそうなのに気がついた。忘れないように買わなくちゃ、と思ったところで、ピカーン。

    カツオにスイートチリソースを使っちゃう?

    ということで、さっそく組み合わせる野菜の選定に入る。新玉ねぎじゃ、つまらない。もっとこう。なんというのか⋯⋯。

    そこで白羽の矢が立ったのは、パツパツに張った、青が美しいピーマン。そして、わたしの大好きなセロリちゃん。調理台の上に置いたら、夜まで待つ。

    どこからともなく夕ごはんのニオイがしてくる頃、我が家のカツオくんも準備完了。いい感じで解凍されているのを確認したら、さっそく調理をスタートだ。

    厚めに切ったカツオのタタキをお皿にのせる。そこに、薄くスライスしたセロリと、細切りピーマンをどっさりのせる。そこに、醤油とレモン果汁。ちょっと輪郭を立てるために黒胡椒をガリッ。さらには、スイートチリソースをとろりとかける。

    さて、どんな味になるのかな。

    すぐには手を出さない。タタキにしっかりレモン醤油を吸わせる。レモンの酸が入って、カツオが少しずつ変わる。スモーキーな部分。でろんとしまりのない部分。キュッとしまった部分。3つの層ができるのを待つ。

    いい感じになった頃、まずはカツオを、セロリとピーマンと一緒に食べる。カツオのスモーキーさと、鉄っぽい味、さらには異なる三種の食感。そこに、セロリのフレッシュな香りとシャキシャキ感、ピーマンの青さと苦み、軽い歯ごたえがぶつかり合う。食感だけでいえば、このセロリのシャキシャキ感。カツオのもたついた食感にはかなりいい。(カツオに失礼だな)

    ふた口目。今度はスイートチリソースがかかった場所を取る。口に入れて、味を確かめる。
    すると、甘さと辛さもまじわって、わけがわからなくなった。

    なんじゃこりゃ。
    おいしいのか、おいしくないのか、わからない!
    スイートチリソースの甘辛さまで加わって、味の焦点が定まらない。

    うーん、と思う。感動でもない。ガッカリでもない。なんか不思議な感じ。いったいどうなってるんだ、と思いながら、もぐもぐ食べる。味がケンカしてるのに、なぜかバラバラじゃない。

    ところがここでは終わらない。
    そのうち、セロリとピーマンもレモン醤油を吸って、いつの間にか、しなっとしてくる。カツオのタタキも、レモン醤油をさらに吸って、変容していく。
    そこに、スイートチリソースの甘辛いところ、甘辛くないところ。もぐもぐもぐもぐ。

    そして、ある時点で──。

    うまい!

    情報の多さに慣れた結果、味覚がズレて、この味がクセになったのかもしれない。でも、それだけでない。身に覚えのある、いや、舌に覚えのあるなにかが起きている。

    あれ、この感じ、知ってる。
    以前、ビンチョウマグロにネギ塩、レモン、青梅醤油漬けを合わせたとき、魚の味が消えて、全体として完成してしまうようなことがあった。
    これは、あのときとおんなじだ。
    あのときは、ビンチョウマグロの味が消えた。
    そして今日は、カツオのタタキの味が消えた。でも、全体としてうまい。

    カツオだけでなく、セロリ、ピーマン、スイートチリソース、それぞれの個が消えるのに、全体として完成してしまっていた。
    思いがけず、構造が閉じた瞬間との再会に、構造観察官ユキはうなった。
    また、おまえと逢えるなんてな。

    そう思った瞬間、あれ?と思った。
    あのビンチョウマグロ。塩とごま油、そこにレモン果汁を加え、最後に青梅の醤油漬けの粗みじんを加えた。で、わたしは、青梅の醤油漬けが転換点だと思っていた。だから最後まで、なぜ?という疑問が解けなかった。

    でも、今日の流れで考えると、味が別物になりはじめたのは、カツオとセロリ、ピーマンが、レモン醤油を一定量吸ったタイミングだ。醤油は味を支えた。でも、大きく作用したのは、たぶんレモン。

    そうか。
    ビンチョウマグロの転換点も青梅醤油漬けではなく、レモン果汁だったのかもしれない。変容はすでに起きていて、それがたまたま青梅醤油漬けを加えたタイミングと重なっただけだ。そう考えれば、なぜの疑問が解ける。

    構造観察官ユキ。まだまだ修行が足りませんな。

    📝観察ログ
    ・カツオ → 旨み・鉄っぽさ・焼きの香ばしさ
    ・ピーマン → 青い苦み・細い線
    ・セロリ → 香り・水分・上に抜ける流れ
    ・レモン → 酸・輪郭・変容のスイッチ
    ・醤油 → 塩味・着地
    ・チリソース → 甘辛・つなぐ

    ・魚が主役 → 魚が土台になる
    ・味が消える → 構造の中に溶け込む

    おいしいのか、おいしくないのか。
    判断が追いつく前に、もうひと口が先にくる。


    前の話はこちら:
    魚の味が消える①|冴えないビンチョウマグロが、途中で別物になった日

    ※この記事は、はてなブログ「今日も懲りずに『脳みそ散歩』」に掲載したこちらの記事をもとに、note創作大賞応募用に整えたものです。


    あなたへのおすすめ