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猿の実験


「なんでこの人たちみんな坊主なの?」


うんざりする程の暑さが続く夏のある日、娘が誰にともなく聞いた。私と妻は顔を見合わせどちらが演壇に立つのか目でディスカッションをする。

どうやら私のようだ。

「き、気合いが入るからじゃないかな?」

えー意味分かんないと、当然納得していない。

「規律や団結を重視する文化があるのよ」

妻も応戦する。が、
難しい言葉を使うので尚更こんがらがる娘。


テレビ画面では甲子園で闘う高校球児の映像が流れており、確かに登場する球児は漏れなく全員坊主だった。


娘は言う。


「坊主にしたら強くなるの?」



なるほど。と私は思った。


確かに、私も分からない。


何故、高校球児は坊主なのだ?
中学の野球部はみんな坊主ではなかった。
何故、高校球児だけ・・・・・・が坊主なのだ?

今まで真剣に考えた事がなかった。

妻の言うように伝統であり、先輩からの継承なのだと勝手に思っていた。「みんなやってるから」「そういう文化だから」と、サッカー部だったので他人事に捉え固定観念と化していたのだ。

娘の言う通りだ。

あの髪型に合理的な根拠なんてあるはずが無い。あるならば大谷翔平もといメジャーリーガー全員も丸刈りのはずなのだ。

頭を守る為の髪をあえて剃るリスク、熱中症のリスク、汗が目に入りプレーに支障をきたすリスク、女子にモテないリスク。坊主が嫌で有望株を逃すリスク、個性を無くす事による判別不明のリスク。

一利がどこにも無いではないか。


考えれば考えるほど意味が分からない。これはいつ誰が決めた文化なのだろう。


そこで私はピーンとある話を思い出した。



「猿の実験」である。


何年も前だがネット記事で読んだのだ。人間社会への風刺が効いた面白い実験だったので鮮明に覚えている。


私は脳内で構成したそれを娘に話したーー・・









ある部屋の中に猿が10匹いました。

その部屋の真ん中には紐で吊るされたバナナがあります。バナナを見た猿はみんな一目散に飛びつきます。すると突然、冷たい水を掛けられます。

猿たちはもうびっくり仰天!何回チャレンジしても同じことが起こります。

1匹だけが獲ろうとしても全員に冷たい水が掛けられるのでやがて猿たちは学びます。

「バナナを獲ろうとすると冷たい水を掛けられるぞ!」

と。

じっと待つ10匹の猿。

誰もバナナを獲ろうとはしません。


次に、10匹の内1匹を新しい猿と入れ替えます。

新しい猿は部屋に入るやバナナを発見。もちろん一目散に飛びかかります。

それを他の9匹の猿は全力で止めます。なんで止められるのか分からない猿は何度チャレンジしてもバナナを獲らせてくれません。パンチやキックをされボコボコになった猿はついにバナナを諦めます。

じっと待つ9匹とボコボコにされた1匹の猿。

誰もバナナを獲ろうとはしません。


また猿を1匹入れ替えます。
新しい猿が2匹になりました。

新しい猿はさっきの猿と同じようにバナナに飛びつきます。でもその猿も同じようにみんなからボコボコにされます。

この時、さっきボコボコにされた猿も一緒になってパンチやキックをしています。なんで殴るのか理由は分からないまま。

そしてボコボコにされた新しい猿もバナナを諦めます。

じっと待つ8匹とボコボコにされた2匹の猿。

誰もバナナを獲ろうとはしません。


これをあと8回繰り返します。するとどうなる?最初にいた10匹の猿はいなくなります。今いるのはすべてボコボコにされた新しい猿です。

じっと待つボコボコにされた10匹の猿。

誰もバナナを獲ろうとはしません。


でもこの猿たちは知らないんです。




バナナを獲ると冷たい水が掛けられるという事を。



①吊るされたバナナを獲っちゃダメ
②バナナを獲る猿はボコボコにしていい

新しい猿たちはこういうルールだと思っています。でも本当のルールは「吊るされたバナナを獲ろうとすると冷たい水を掛けられる」なんです。

でも今いる猿たちは誰も分かっていませんーー・・・







本来の規則と変わっていても誰も疑問に思わない。形骸化していく規則に対する皮肉めいた実験。ちなみに実際にやった訳ではなく、擬似実験らしい。猿可哀想だしね。

私の会社でもこのようなケースは山ほどある。

入社当時、外で行う体操は「防寒着を着たらダメ」だと教えられた。なので、冬になると皆ブルブル震えながら体操をしていたのだ。

そして数年前、管理職が世代交代をし、超合理主義な人が来て真っ先に言った。「え、なんで防寒着を着て体操しないんですか?寒くないですか?笑」と。すぐにみんな防寒着を着て体操をするようになった。

私もそういう上司を目指している。「昔からそういうルールなんだよ」と思考停止で前例パンチを出す老害には改革キックをお見舞いしてやるのだ。



猿の実験の話を終え、娘を見る。斜め上を見ながら口を半開きにして何かを考えていた。

学校生活にも当てはまる事があるのだろう。

私も高校時代、頭髪服装検査に対してずっと意義を唱えていた。襟足の長さと自尊心が比例する時代に刈り上げを要求するなどあり得ないだろう。


小学2年生ながら娘の着眼点は素晴らしかった。ここでまた一段二段とステップアップするのだ。いいキッカケになった。


私は娘に聞いた。


「お父さんが何を言いたいか分かったかい?」





娘は私を見て答えた。








「話が長すぎて全然分かんなかった」


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