見出し画像

君はいつか消えてしまいそうで


彼女は、いつも少しだけ遠くにいる。

隣に座っているのに、手を伸ばせば消えてしまいそうな気がする。

休日、公園を歩いていたときもそうだった。

「ねえ」

彼女が振り返る。

木々の隙間から差し込む光が髪に落ちて、風が吹くたびにさらさらと揺れる。

「どうしたの?」

「……いや」

思わず見つめてしまっていた。

彼女は不思議そうに首を傾げ、それから小さく笑った。

「また見てたでしょ」

「……見てない」

「嘘だ」

そう言いながら、彼女は楽しそうに笑う。

でも、少しするとその笑顔がふっと薄くなった。

「こういう時間って、なんかいいよね」

「うん」

「ずっと続けばいいのに」

彼女は別に悲しそうな顔をしているわけじゃない。ただ、木漏れ日の中で笑う姿があまりにも静かで、綺麗で。まるで、この瞬間だけ世界から切り取られたみたいだった。

「……なんでそんな顔するの」

「どんな顔?」

「いなくなっちゃいそうな顔」

そう言うと、彼女は少し驚いたように目を丸くした。

そして、困ったように笑う。

「なにそれ」

「なんとなく」

「大丈夫だよ」

彼女はそう言って、俺の隣を歩き始めた。

数歩進んでから、ふと振り返る。

「ほら、ちゃんといるでしょ」

その笑顔を見て、少しだけ安心する。

だけど俺は知っている。

彼女は儚い。

夕暮れの空みたいに。

花びらみたいに。

目を離した瞬間、どこかへ消えてしまいそうなくらい。

だから今日も、俺は彼女の隣を歩く。

この何気ない時間を、できるだけ長く覚えていられるように。






いいなと思ったら応援しよう!