そのろうそくが灯すのは
深夜徘徊に誘える友人がいる。
それはとても貴重なことである。
その日は、
友人らと昼間から屋上BBQをして、
公園で野良上映されていた
ナントカという映画を観た。
クラフトビールがおいしい、
不思議なイベントだった。
僕は友人のひとりと、
クレープとチュロスを買う。
ちょっとはしゃぎすぎな気もしたが、
口いっぱいに広がる甘さが
夜風に溶け出すようでほどよかった。
それはちょっと嘘で、
チュロスのほうは胸ヤケがした。
ほんの少しだけ、
年齢を重ねたようだ。
こんないい夜にもう解散するのは
勿体ないような気もするが、
年齢を重ねるというのは
つまりそういうことなのだと、
「足りないくらいでいいんです」と、
宇多田ヒカルと胸ヤケが教えてくれた。
家が近い友人らと
のらりくらりと帰路につく。
「歩くの早くないか?」
僕はまるで
その言葉を待っていたかのように、
歩くスピードをさらに緩める。
交差点のマクドナルドで
話に花を咲かせる。
花を咲かせるというよりは、
せっかく咲いた花弁が
落ちていくのを両手で掬って、
掌にもう一つの花をクラフトしよう
的な感覚に近い試みだったと思う。
少なくとも僕にとっては。
このタイミングでマックというのが
どことなく女子っぽいなと思った。
ほどなくして退店した。
なぜなら退店を促されたからだ。
僕らの迷惑行為ではなく、
営業時間の制限による退店だ。
誰からともなく、
退店したその足でそのまま
目的を持たずに歩き始める。
この瞬間が一番愛おしいもので、
思わず誰かに貸し出したいと思う。
利子付きで。
自宅からも
そう離れていないというのに、
見たことのない新鮮な景色が続く。
深夜徘徊は誰かと共同で行えば
2倍、いや3倍たのしいと、
もっと早く教えてほしかった。
まばらに光るビル群、
深夜にこそ本気を出す自販機、
都心を流れる川、その川を泳ぐカモ、
あるいはカモのような何か。
それがカモかどうかは
全く取るに足らないことで、
この景色を一緒に眺められる
友人を持ったということが、
いちばん重要なことなのカモ。
カモ川を超えると、
小さな公園についた。
公園は子供たちが楽しく
遊んでいる時間帯を除いて、
横切らないのは無礼である。
その公園には、
高さが異なる座面が付いた
シーソーのような形のベンチが
いくつか設置されていて、
それ以外には何もなかった。
「横切らせてくれてありがとう」
公園に礼を言って出ようとすると、
出口付近の立て看板が目に留まる。
看板にはこう書いてある。
「大きな音が出る花火禁止」
大きな音が出ない花火なら、
やっちゃってもいいのか?
そういう屁理屈のようなことを
考えずに過ごすというのが、
大人になるという事でもある。
しかしあいにく僕たちは、
自分を大人と認めた覚えはない。
衝動的に近くのコンビニを探す。
もう6月なのだから、
花火はそこら中に転がっているはずだ。
見覚えのないコンビニで、
「煙が少ない花火」を手に入れた。
ああ、外の景色が違って見える。
花火をするつもりで歩く道と、
そうでない道。
同じ景色でも別世界だった。
もはや僕たちの身体はすでに
白い煙に包まれているかのよう。
大きな音も出ていたかもしれない。
さっきより軽くなった足取りで、
友人のひとりがつぶやく。
「ろうそくも要るかな」
ああ、要るだろうとも。
当然だ。忘れていた。
ライターは持っていたが、
花火はろうそくから火をつけねば
とうてい花火とは呼べない。
そんなことは全くないのだが、
今日はそういうことにしておきたい。
僕は別のコンビニで、
126本入りのろうそくを買った。
もっとこう、10本入りとか
そういうのを想定していた。
126本入りしかなかった。
でも僕は思うのだ。
こういうことにお金を使っていきたい。
126本入りのろうそくぐらい
エイ‼っと買えない金ならば、
むしろ持たないほうがいい。
誰かに貸したほうがいい。
利子なしで。
だって、
これでまた花火をして
友達と遊ぶ約束ができた。
また一緒に深夜徘徊をする口実が、
うっとりするほど完璧に仕上がった。
そう、これは投資。
この友情の未来へ、ささやかながら。
人と仲良くできることには
必然的な流れがある。
それはそうかもしれない。
でも自分と関わる以上は、
それなりの対価を受け取ってもらおう。
ゲームキューブがあること。
プレステ2を持っていること。
自分の部屋があること。
線香花火に火をつける、
ろうそくを1本持っていること。
(※実際には126本ある)
自分にできることなんて
確かに凹むほど少ないけど、
でもこちとら、
タダでお前らと友達でいられるなんて、
少しだけしか思っていないのである。
本当の友情にはグッバイが必要ない。
俺たちの絆は固いろうそくで繋がっている。
熱くなりすぎると溶けるが、それもまた一興。
その時は冷やしてまた固めればいい。
それにろうそくは126本もあるんだぜ。
例の公園に舞い戻る。
一応あの立て看板を確認する。
「大きな音が出る花火禁止」
よかった、まだ消えてなかった。
大きな音が出ない、
控えめな手持ち花火が連れてきたのは
明らかな夏のはじまり。
4本ぽっちの線香花火を咲かせた
1/126本の小さな灯。
それは紛れもなく、
これからも続いていくであろう
深夜徘徊の狼煙だったに違いない。
