
波が夢を運んでくれる【3つのお題に空想のひらめきを】
朝の日課として、近くの砂浜を散歩することにした。私が会社を辞めて今の実家がある海辺の街で療養を始めてから、散歩する機会が増えた。健康のためにも、医者から勧められたという理由が大きいのかもしれない。
砂浜では足取りが重くなる。アスファルトの歩道とは違い、砂が足を引っ張るような、不思議な感覚がする。それでも一歩一歩を踏みしめながら、私は波打つ海を見つめる。
――海って、眠らないで、ずっと波を打っているんだね。
海とは無縁の地域の会社で長年働いていた私にとって、こうして海を見ることは、どこか不思議な体験だった。きっと、どんなものでもそうなのだろう。たとえば、雪国以外の人が雪を見れば「面白い」と感じるけれど、雪国の人からすれば、なぜ面白いのか分からない。そんな「身近ではないと分からない感覚」というものがあるのだろう。
また一歩、砂浜を進むと、波が運んできたであろう漂着物がいくつも放置されていた。漢字で書かれたものもあれば、ひらがなやハングル文字で書かれたものもあった。
――不思議なものね。波が運んできてくれたんだ。
この浜を管理している街の人や、近くの漁協の人たちにとっては、きっと迷惑な代物なのかもしれない。けれど私には、それが波がこの浜辺に運んできた「夢のかけら」のようにも思えた。波に飲まれる前は、どこかの誰かの漁具だったのかもしれないし、異国の海辺の家にあったものかもしれない。ゴミだと思われるかもしれないけれど、それぞれに小さなドラマのようなものがあったのではないか。そんな風に想像しながら、私は歩みを進めた。
それにしても寒い。もう海水浴のシーズンではないため、釣りをする人を除けば海辺には誰もいなかった。風も強い。私は持っていた青いマフラーを首に巻いた。少しだけこの実家の街をイメージして選んだ色だった。でも、よく考えてみれば、海辺の街は霧の日が多いから、白いマフラーのほうが似合っていたのかもしれない。
そんなことを考えながら、私は家路につく。きっと、また明日も、同じ砂浜を散歩することになるだろう。
#3つのお題に空想のひらめきを
片桐みかん様に企画に、また参加させていただきました。よろしくお願いします。