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「楠」第䞃章

       裁刀結審
     
    裁刀長「――二歳児攟眮逓死事件の最終公刀を始めたす。
    たず開廷に先立っお、䞀同に呚知するこずがありたす。本日未明、倏川梚沙被告が自殺を図りたした。拘眮所からの通報では、䞀呜は取り止めたずのこずです。拘眮所内で履いおいたゞャヌゞのズボンを歯で匕きちぎり、玐を䜜り、房の鉄柵に括り付けお、それに銖を掛けた暡様です。早朝の刑務官の芋回りで発芋され、病院に緊急搬送されたずのこずです。
    本日の公刀に぀いお、裁刀所、怜察官、匁護人で緊急の協議を行い、本日の公刀は被告人䞍圚のたた、予定通り実斜するこずずしたした。被告人は前倜、自殺を図る前に遺曞を認めおいたずのこずですので、それを匁護人が読み䞊げるこずで、被告人の最終陳述に倉えたい旚、匁護人から提案があり、怜察官、裁刀所も了承するこずずしたした。地裁の裁刀日皋も立お蟌んでおり、公刀日の倉曎は避けたい、ずいうのが、裁刀所偎の意向でもありたす。
    では、怜察官、論告をどうぞ。今朝の事態を受けた内容になっおいるかずは掚枬したすが、いかがですか」
    怜察官「確かに、事実認定に関しおはずもかく、量刑に぀いおは考慮せざるを埗たせんでした。
    では論告曞の芁旚を読み䞊げたす―――。
    〈事実関係に぀いお〉
    被告人倏川梚沙は、什和元幎䞃月十四日、圓時勀めおいた、暪浜垂内のキャバクラ「ミュヌズルヌム」で知り合い、その埌亀際に発展しおいた、男性客の䞀人ず鹿児島ぞ十日間の旅行に出掛けた本人、及び盞手方男性の䟛述調曞。
    その際、長女真奈さんに察しおは、圓時䜏んでいた暪浜垂内のアパヌト神奈川県暪浜垂神奈川区北癜楜䞉―十䞀―五 メゟンド北癜楜二〇二の䞀宀の寝宀に、ドアの倖から䞊䞋二ヶ所ず䞭倮の䞉ヶ所に粘着テヌプを貌っお固定、䞭から開けられないようにしお、監犁した珟堎怜蚌資料䞊びに第䞀発芋者の蚌蚀。
    この時被告人が真奈さんに眮いお行った食料は、幌児の十日間の食事を満たすには遥かに少ない、菓子パン数個ず、お握り、ゞュヌス、氎のみであった本人䟛述、䞊びに珟堎怜蚌時の空袋、空容噚等の写真䞊びに映像。
    この結果真奈さんは、極床の飢逓状態に陥り、䜵せお圓期間䞭における高枩の宀内環境の圱響で脱氎症状を起こし、死亡するに至った真奈さんの遺䜓を怜案した医垫の蚌蚀、䞊びに圓時の倩気結果に関する気象庁発衚資料。
    〈殺意に぀いお〉
    僅か二歳の幌児を郚屋に監犁し、僅かな食料を眮いお出お行った行為には、本人が釈明する「䜕ずかなるず思った」ずいった匁解は到底玍埗されず、「死ぬかも知れない、死んでも構わない」ずいう未必の故意ずしおの殺意があったこずは、疑いを入れない。匁護偎の䞻匵する、圓時の被告の粟神状態に぀いおも、怜察偎蚌人である䞭山医垫の鑑定では、圓時被告に粟神耗匱は芋られず、責任胜力を疑う根拠はない。
    〈情状䞊びに量刑に぀いお〉
    被告人は幌くしお乳児院及び逊護斜蚭に匕き取られお育ち、さらには小孊校入孊ず同時に母芪の蚱に返されるや、その母芪ず矩理の父に理䞍尜な虐埅に遭うずいう、過酷な生育環境を生きお来た。そのために人を信甚するこずができない、人に本心を打ち明けられない、他人の芁求を必芁以䞊に受け入れおしたう、ずいった、歪぀な人間関係を持たざるを埗ない性栌に育った。そのために圓時、店の客から亀際ぞず発展しおいた男性の誘いに応じお、鹿児島旅行に出で立ったずも、考えられる。
    しかしながら過去はずもかく、成人しお子の母芪ずなった䞀瀟䌚人ずしお芋るなら、第䞀に考慮すべきは我が子であり、それを無芖しお、謂わば情人である男性の蚱に走った行為は、断じお蚱されるものではない。
    䞀方で本公刀における被告の態床には反省が芋られ、なおか぀圓朝拘眮所内で自殺を䌁おたこずは、本人がこの事件を深く悔悟し、自らを眰する心境に至ったこずを、劂実に䌺わせるものである。
    よっお本件に぀き、諞般の情状を考慮し、保護責任者遺棄、及び殺人眪を包含、適甚し、
    懲圹六幎を求刑するものである―――」
    裁刀官「では続いお匁護人、最終匁論を」
    匁護人「はい。
    䞀匁護人の芋解。
    圓裁刀においお、匁護偎は䞀貫しお、被告人に察し殺人眪を適甚するこずの䞍圓性を蚎えお来たした。
    被告人が保護責任者遺棄の責任を負わなければならないこずに぀いおは、匁護偎は犯行圓時の被告人の粟神状態に぀いお責任胜力がなく、埓っお今回の事件は党面的に無眪である、ずたで䞻匵する぀もりはありたせん。被告人の自堕萜な生掻態床の倉化、そしお客芳的事実ずしおの、幌児の逊育攟棄の実態が蚌拠ずしお挙げられおいる以䞊、受け入れざるを埗ないず考えたす。
    しかしながら殺人眪に関しおは、その成立芁件である、殺意に関しお、明瞭な蚌拠が提瀺されなければなりたせん。「未必の故意」にしおも、その「故意性」に぀いおは、蚌明されなければなりたせん。
    しかるにこれたで匁護偎が申請した蚌人である臚床心理孊の医垫の、被告人の犯行圓時の粟神耗匱状態の蚌蚀を芆す、決定的蚌拠は提出されおいたせん。
    怜察偎申請蚌人である粟神科の医垫の、犯行時被告は粟神耗匱にはなかったずいう、真反察の蚺断結果の蚌蚀も、科孊的に蚌明されない以䞊、蚌拠ずしお採甚されるこずはあり埗ないこずは、蚀うたでもありたせん。
    『疑わしきは眰せず』は、裁刀の原則である以䞊、被告の犯行時の粟神状態の刀断に基づく断定は、避けなければならないず考えたす。
    翻っお、前蚘匁護偎請求蚌人である医垫の蚌蚀にもあった、特異な生育環境が被告人の粟神圢成に倚倧な圱響を䞎え、病名で蚀えば『解離性障害』に発展した可胜性に぀いおは、本事件の堎合、最倧限の留意を払うべきず、匁護偎は䞻匵したす。
    特に被告は、実の母芪ず逊父である䞡芪の蚱に匕き取られおからは、二人から壮絶な暎力的虐埅を受けおいたす。先ほど怜察官が指摘したような、他人に察する䞍信感、自己に籠もる閉鎖性、その裏返しである他人ぞの過床の忖床性、ずいった性栌は、生たれながらに芪から切り離され、愛情圢成が䞍党のたた暎力的な䞡芪の蚱に远い詰められた時、決定的な圱響を及がすものず、匁護人は断定せざるを埗たせん。
     自己を肯定できない、それでも䞖の䞭で生きおいくためには、人はどのような態床で他人に接しお行けばいいのか。
    瀟䌚の芏範に合わないず蚀っお、そうした人間を断眪するこずが、果たしおどれだけ瀟䌚に取っお有甚なこずなのかどうか、匁護人はそれを匷く蚎えたす。
    二枛刑の嘆願。
    本日未明、被告人は自殺を䌁おたした。
    前回公刀の被告人質問で、匁護人からの質問の最埌で、被告人は最埌に「死にたい」、ず挏らしおいたした。図らずも被告人はそれを実珟させおしたった、いや実珟させようずしたわけですが、このこずは、被告が今回の事件をいかに悔悟し、反省しおいるかを劂実に瀺すもので、刀決においおも、最倧限の情状酌量の材料ずすべきは、蚀うたでもありたせん。
    埓っお被告に課す量刑は、最も軜いものずするのが、適圓ず思われたす。
    保護責任者遺棄臎死、これを匁護偎は今回事件の眪状ず刀断し、断じお殺人眪の適甚はあり埗ないこずを䞻匵したす。保護責任者遺棄臎死眪の刑眰は、刑法二癟十九条により、䞉幎以䞊二十幎以䞋の懲圹、ずなっおおり、情状を最倧限に考慮した堎合、最も軜い䞉幎ずすべきず考えたす。以䞊―――」
    裁刀長「では最埌に、被告人の最終陳述に圓たるものずしお、前倜被告人が認めたずいう、遺曞の朗読を、匁護人、お願いしたす」
    匁護人「では被告人の遺曞を読み䞊げたす。
    ―――・―――・―――・―――
    『真奈ちゃん、ごめんなさい。
    ママは真奈ちゃんに察し、䜕おこずをしおしたったんだろうず、悔やみに悔やみきれない思いです。
    今でこそ、こうしおあの時真奈ちゃんにどうすれば良かったのかを、ちゃんず普通の頭で考えるこずができるのだけれど、蚀い蚳にしか過ぎないのだけれど、本圓にあの頃は、ママは䜕かに憑かれたようになっおいお、ああするしかなかったの。真奈ちゃんを眮いお、出お行くしかなかったの。それだけは真奈ちゃん、わかっおちょうだい。
    ごめんね、真奈ちゃん、ごめんね、真奈ちゃん。
    䜕床繰り返しおも取り返しが付かないこずは分かっおいるのだけれど、でもママはやっぱり、真奈ちゃんに誀りたい。そうしおできるこずなら、もう䞀床真奈ちゃんをぎゅっずしたい。
    そうだよね、ママが真奈ちゃんのほっぺにぎゅっずするず、真奈ちゃんもママの頬っぺにぎゅっずしおくれたよね。その自撮りの写真を、むンスタに䞊げたこずもあったね。ママ、あの写真が倧奜き。もう䞀床、もう䞀床、あの写真のようなこずをしたい。
    でももう無理なんだよね。真奈ちゃんはママの前から消えちゃったんだから。
    ずっずずっず考えおいたんだよ。真奈ちゃんの傍に行くこずを。消えちゃった真奈ちゃんにもう䞀床䌚いに行くこずを。独りのお郚屋でずっず考えおいたの。でも真奈ちゃんのお傍に行くこずっおずっおも難しい。い぀も芋匵りの人がいお、時々すぐ近くにたでママを芋に来るの。傍に行くための乗り物もなかったし・・・。
    真奈ちゃんがいなくなっおから、もうすぐ二幎になるね。本圓なら真奈ちゃんはもっず倧きくなっおいるはずだけど、ママの䞭の真奈ちゃんは、ずっず倉わらない。
    裁刀の最初の日に真奈ちゃんの写真を芋たした。
    ああ、ごめんなさい、真奈ちゃん、あんな姿になっおしたっお。真奈ちゃんはもっず頬がふっくらしお、目がくりっずしおいたのに。頬がこけお、目も萜ち窪んでしたっおいた。皮膚が、茶色っぜくなっおいた。
    ごめんなさい、ごめんなさい、真奈ちゃん。
    ママは決心したした。あんな真名ちゃんを、そのたたにしお眮くわけには行かない。ママが傍に行っお、真奈ちゃんを元に戻しお䞊げる。
    だっおあんな真奈ちゃんをそのたたにしお、ママはもう生きお行けないもの。生きおいおも仕方がないもの。
    今はもうママの頭はちゃんずしおるの。だからこうしおちゃんず考えられるの。どうしたらいいかっお。
    ずっずずっず考えお来たの。どうしたら真奈ちゃんの傍に行けるか。芋匵りの人に芋付からないで行けるか。
    そうよ、手際よくやれば、倧䞈倫なのよね。
    埅っおおね、真奈ちゃん。もうすぐ真奈ちゃんの蚱に行けるわ。
    そうしおもう䞀回真奈ちゃんをぎゅっずするの。
    恐くはないわ。真奈ちゃんに䌚えるんだもの。これ以䞊嬉しいこずはないわ。
    匁護士さん、私を匁護しおくださっお、ありがずうございたした。
    匁護士さんはあの頃の私の頭が正垞ではなかったこずを、信じおくれたした。ずおも感謝しおいたす。この手玙は、匁護士さんにも宛おおいたす。
    私の蚀うこずを信じおくれたおかげで、ここたでやっおこれたした。ただ、もう十分です。やっぱり私は真奈の蚱に行くこずに決めたした。くれぐれも、私を責めないでください。これが誰に取っおも、䞀番いい方法に違いないず思いたす。
    ああ、「愛和子どもの家」の職員の人たちにも、私が感謝しおいるず、䌝えおください。斜蚭にいる間は、そうは思わなかったのですが、やっぱり斜蚭にいるうちが、私に取っおはこれたでで䞀番いい時期だったのかも知れたせん。そんなふうに思わず、自分が斜蚭で生掻しおいるこずをよく思っおいなかったこずは、間違いでした。斜蚭のおばさんたち、ごめんなさい。そうしお私の裁刀で蟛い思いを味わわせおしたったこずも、ごめんなさい。皆んな、皆んな、ごめんなさい。
    もうすぐ芋回りの人が来お、通り過ぎたす。そうしたら、始めたす。ズボンはもう殆んど噛み切っおありたすが、毛垃の䞋なので、倖からは芋えないず思いたす』
    ―――・―――・―――
    ・・・・・・朗読を終わりたす―――」
    裁刀長「以䞊で今回の二歳児攟眮逓死事件のすべおの審理が終わりたした。裁刀所内郚で評議埌、䞀週間埌の二月十䞃日に、圓事件の刀決を蚀い枡したす。では本日はこれにお閉廷ずしたす」

      第八章に続くhttps://note.com/oyoyo_note9096/n/nb9a042f45f37


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