【記録03】旦那様、その「また」は何を指しているのでございますか。
皆さま、本日も当屋敷へご足労いただき、ありがとうございます。王様記録係の猫でございます🐈⬛
さて……
人というものは不思議なものでございます。
嬉しかった言葉は、いつの間にやらぼんやりしてしまうこともあるというのに。
「なぜ、あの時そんなことを言ったのか」
という一言に限って、十年経とうが二十年経とうが、妙にくっきりと覚えているものでございます。
時は遡りまして、十数年前の出来事でございます。
📜ペラ……
では本日は、記録帳の少々古い頁を開いてみることにいたしましょう。

奥様が、お嬢様をご懐妊された頃のお話でございます。
奥様にとっては初めての妊娠。
しかし、年齢的には高齢出産にあたり、産婦人科の先生から羊水検査を勧められました。
もっと簡単に受けられる検査もあったそうですが、そちらはあくまで確率で結果が出るもの。
年齢によって数値が高く出やすいこともあり、奥様は羊水検査を受けることをお決めになりました。
そして、受けた検査の結果には性染色体が記載されておりました。
先生はあえてそこには触れませんでしたが、XXなのかXYなのかは見れば分かります。
奥様はインターネットで調べ、
「あ、女の子なんだ」
と知ったそうでございます。
そして旦那様に、
「女の子だったよ〜」
と報告なさいました。
初めてのお子様でございます。
さぞや、「女の子か〜」とか、「楽しみだね」とか、そんな会話になるものかと思いきや。
旦那様は、少々嫌そうなお顔をされて、
「また女?」
と、おっしゃったのでございます。
……。
「また」
その言葉に、奥様は固まりました。
まどろんでいた私の眠気も、一瞬で吹っ飛んだのでございます。
実は、旦那様には離婚歴があり、以前の結婚で女の子のお子様が二人いらっしゃるのですが……
大切なこと故もう一度申し上げますが、奥様にとっては初めての妊娠。
そして、奥様と旦那様の間に生まれるお子様も、この子が初めてでございます。
固まっていた奥様は、たいへん冷静に旦那様へお尋ねになりました。
「その“また”は、どこにかかってるの?」
……。
まるで国語のテストでございます。
【問1】
次の文章における「また」が指すものを、家族構成を踏まえて答えなさい。
なお、旦那様との間における妊娠は今回が初めてであるものとする。
旦那様は、なかなかの難問をご自分で出題なさいました。ちなみに、国語はあまり得意ではないようです。
この問題。
模範解答を出したところで、家庭内が炎上する未来しか見えません。
「今でしょ!」の林先生であっても、うまく答えられるかどうか……。
しかしながら、妊娠中、旦那様が何もしてくださらなかったわけではございません。
奥様はつわりが大変重く、それは出産までずっと続きました。
毎晩吐き、吐くものがなくなっても吐き、泣きながら病院へ電話をして点滴を受けることもありました。
口の中がずっと苦く、味の濃いものしか食べられない時期もあり、見ている私も大変つろうございました。
そんな中、「今日はチャーハンなら食べられそう」と言えば、買ってきてくださった。
キレートレモンやジンジャーエールがつわりを少し楽にするらしい、と奥様が言えば、それも買ってきてくださった。
そういうことは、ちゃんとしてくださっていたのでございます。
……が。
「また女?」
この一言の破壊力たるや。
それまでのあれやこれやを、一撃で吹き飛ばす……つまり、『天空の城ラピュタ』でいうところの「バルス」に匹敵する一言であろうと、私は思うのでございます。
言葉というものは、恐ろしいものでございます。十年以上経った今でも、奥様は少しも忘れておりません。
大変、根に持たれております。
おそらく、これからも忘れないのでしょう。
旦那様。
ほんの二文字でございます。
「また」
この二文字、たいへん取り扱い注意でございます。
ゴホン……失礼いたしました。
今日のところは、この辺にいたしましょうか。
もしもお気に召していただけましたなら……近いうちにまた、次の記録でお目にかかりましょう🐈⬛

手土産をお受け取りくださいませ。
