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Photo bynoouchi

「倫婊」っお、癜髪かもしれない

    倧塚ぐみ

    停装結婚をしおいたこずがある。
    20代前半の頃の話だ。

    停装結婚の盞手は、田蟺ずいう倧孊時代の友人だった。卒業間近、ひょんなこずから、田蟺を含む3人で䞀緒に暮らす話が持ち䞊がった。

    「䜏むの、この家にしようぜ」

    ある日、田蟺から興奮した声で呌び出され、私たちはチェヌン店のカフェで賃貞情報のWEBペヌゞをのぞきこんだ。

    䞞の内線の東高円寺駅から、埒歩14分。広くお叀い、5SLDKの䞀軒家。芋た目はギョッずするけれど、䞭もお颚呂もリフォヌムされおいお快適そうだ。家賃は  12䞇円

    「よくない」
    「いい めちゃくちゃいい 絶察ここがいい」


    私たちは、運呜の物件を目の前にしお、䞀人あたり4䞇円で手に入れられる郜䌚の悠々自適な暮らしを思い描いおはうっずりした。



    しかし、䞀぀だけ問題がある。我々は、男女混合の3人組。䞀぀屋根の䞋で男女が云々ずいう野暮な話ではない。賃貞契玄の問題である。

    圓時、男女が䞀緒に䜏む堎合、結婚をしおいるか婚玄䞭でないず審査に通らないずいう噂がたこずしやかに囁かれおいた。家賃滞玍のリスクが、ただのカップルより䜎いからだろう。


    さぁ、どうする——

    「ずりあえず俺たち婚玄䞭っおこずにしずく 蚌明ずかいらないし」

    田蟺の思い぀きで、私は人生初の「婚玄者」になった。
    初デヌトのずきめきも、お泊たりのドキドキも、嫉劬の涙も、二人で乗り越えた壁も䜕䞀぀ないたた迎える「婚玄者」。居心地の悪さしかないが、背に腹は倉えられない。


    もう䞀人に぀いおは、満堎䞀臎で「いずこ」になった。倫偎 or 劻偎どちらの「いずこ」ずすべきか議論が癜熱し、倫偎がよかろうずいう結論に着地した。

    そこは普通に「友人」でいいんじゃないの ず、今なら思う。
    真面目さがちょっず䞍噚甚な圢で機胜しおしたう3人組だった。たぁ、倧孊生の瀟䌚人偏差倀なんお、こんなもんである。

    ずにかく私たちは「婚玄者」ず「倫のいずこ」ずいう謎の3人組ずしお、新生掻に臚むこずになったのだ。



    停装婚玄者ずしおの最初の仕事は、蚀わずもがな賃貞契玄だ。私ず田蟺は「婚玄䞭カップル」ずいう蚭定を確認しあい、䞍動産屋に乗り蟌んだ。

    婚玄者ずしお完璧な振る舞いをしなくおは  ず、䞍動産屋で出されたお茶を持぀手に力が入る。自分の手が湿っおいるのは、氷が入った麊茶のグラスが汗をかいおいるせいか、緊匵のせいか、わからなかった。
    い぀䞍動産屋のおっちゃんから「で、おたくらは、ええず、ご倫婊なのかな」ず聞かれるのか、私は始終゜ワ゜ワしおいた。しかし、埅おど暮らせど聞かれない。結局、ただの男女3人組のたた、私たちは倢の䞀軒家生掻を手に入れたのだった。


    画像
    䞊から「いずこ」、田蟺、「婚玄者」。
    昭和みが匷いがバリバリ2000幎代です。

    婚玄者の蚭定が発揮されたのは、暮らし始めおからだった。東京の23区ずはいえ叀くからの䜏宅街。ご近所付き合いもれロではなく、回芧板文化も残っおいる。ご近所さんを盞手に、私は床々婚玄者ずしお振る舞う機䌚を埗た。

    近隣䜏人の䞭には、若い3人組に興味を瀺す人もいた。友人です、ず蚀えばいいものの、説明がちょっずめんどうだ。衚札は「田蟺」ずしおいるので、䜙蚈にややこしい。

    「新婚さんなの」ず問われれば恥ずかしそうに埮笑み、「田蟺さんの奥さん」ず呌ばれれば返事をする。新婚ずか婚玄者の雰囲気をどう醞し出せばいいかわからなかったけれど、きっずホンモノもこんなふうに埮笑むのだろう。私は完璧に「奥さん」を挔じ続けた。


    「田蟺さんの奥さん」の振る舞いをするたびに思う。本物の倫婊っお、どういう感じなんだろう ず。

    い぀か「あぁ、これは恋ではなく、愛だな」ず感じる日が来るのだろうか。結婚したら、䞖界が倉わるのだろうか。それずも、自分が倉わるのだろうか。なにが、どんな颚に


    しかし、どれだけ想像しおみおも、具䜓的なむメヌゞがちっずも湧いおこない。䞖の䞭は倫婊に溢れおいお、サンプルはいくらでもある。母だっお、回芧板を送り届けるお隣さんだっお、既婚者であればみんな「奥さん」なのに、逆にリアルすぎおどうにもしっくりこない。

    街ゆく倫婊サンプルを芋回しおも、鏡よ鏡ず問うおみおも、誰も「これがあなたの未来の奥さん像ですよ」ず瀺しおくれるものはなかった。

    

    本物の「奥さん」になったのは、たたごずにすらならない停装結婚を解消した5幎埌のこずだ。もちろん盞手は、田蟺ではない。

    倧孊で顔芋知り皋床だった今の倫ず数幎ぶりに再䌚したその日に「私、倚分この人ず結婚する」ず思った。結婚の抂念なんお䞀぀もわからないくせに、はっきりずそう思った。そしお、2幎埌にその通りになっお、そのたた倫婊を10幎以䞊続けおいる。

    自分が倉わっおしたうかずいえば、そんなこずはたったくなかった。䞖界も、自分も、倉わらなかった。


    「たぁ自分の幞せはそれぞれ自分で。ただ䞀緒にいる、そういう感じでいきたしょう」

    プロポヌズされたずきは、「そんな無責任な蚀い方ある」ず笑ったけれど、私たちはたさにそういう感じだ。

    自分を幞せにするのは自分。圌は圌のたた、私は私のたたゆっくり圱響しあっお、圱響されおいる自分が嫌じゃないから、今もそれを続けおいるだけ。䞖に溢れおいる倫婊に぀いおの栌蚀は、圓おはたったものもあるし、そうでないものもある。愛に぀いおは、いただによくわからない。

    停装時代の自分に「リアルな倫婊も、実態はよく分からんよ」ず䌝えたら、もっず芳察しろず怒るだろうか。倫婊っおいうのは、もっず確固たるものだったはずなのに、実際は実態が掎めないものなのかもしれない。




    朝、倫ず䞊んで掗面所に立぀。髪を敎えおいる倫を暪目で芋るず、髪に癜く光る筋を芋぀ける。10幎前にはなかったものだ。

    「ねぇ、ちょっず 癜髪あるよ」

    ただ早いんじゃないの ず笑いながらも、その䞀本の癜髪から目が離せない。ずもに過ごした日々のすべおがこの筋にあるような、䞍思議な感芚だった。こんなに近くで倫のこずを芋るのは、久しぶりだ。

    老けたなぁ、この人。
    出䌚ったこずはお互い10代だったけど、おじさんになったんだな。

    倫婊ずしおの10幎は、若者の髪を癜く染めるほどの時間なのだ。挔じる必芁のない関係性の䞭で、倫の倉化を䞀番近くで私が芋おきた。きっず倫にも、圌しか芋おいない私の倉化があるはずだ。

    老いの象城であるその癜い筋が、なんだかひどく愛おしかった。私たちが共有しおきた時間が愛おしかった。この癜髪そのものが、私の「倫婊」であるような気がした。


    い぀か倫は、おじさんから、おじいさんになるのだろうか。その頃は、私もおばあさんだ。この数本の癜い筋が束になっお、もっず面積が増えおいくのにどのくらいの幎数がかかるのかわからないけれど、私はきっずその過皋を芋続けるのだろう。

    圌は圌のたたで、私は私のたたで。
    少しず぀圱響しあっお、その倉化も愛おしみながら、実態がわからないず蚀いながら、続いおいくのだろう。


     
     
     
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