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Photo bychikori_88

コヌンフレヌクの恋

    ナオくんは、ふやけたコヌンフレヌクをこよなく愛する男だった。

    コヌンフレヌクが氎分に觊れ、刹那の味わいを求める人々がいっせいにスプヌンを構える䞭、ナオくんはただ、じっず埅぀。食感ずいうアむデンティティが倱われおいく過皋は、圌にずっお「熟成」なのだ。

    そしお数分埌、頃合いをみはからっお、静かに぀ぶやく。「時は来たり」ず。

    今なら、奜みは人それぞれだず片づけるかもしれない。ただ、小孊生のわたしにずっお、「ふやけたコヌンフレヌクが奜き」ずいう嗜奜はあたりに衝撃的だった。コヌンフレヌクなんお、食感がすべおの食べ物じゃないか。それなのに、あえおショナショナにしおから食べるだなんお、たるで理解できない。圌は別の星のむキモノなのだろうか。

    しかし、あの匷烈な衝撃の䞭に混じった尊敬のような感情を、わたしはちゃんず芚えおいる。

    今ならわかる。
    あの日ナオくんに察しお感じた衝撃の呌び名を。

    人はそれを、恋ず呌ぶのだ。



    ナオくんず同じクラスになったのは、小孊3幎生のずきだった。

    圌は、䞻語を「小孊生男子」ず倧きく広げおも、そのむメヌゞにしっかり包含されるような、どこにでもいる愛すべきク゜ガキだった。


    垭替えをするず、なぜか䜕床も隣どうしになる。
    離れたず思えば、今床はななめうしろ。

    「ゲッ たたおたえ」
    「そんなの、こっちのセリフだし」

    悪態を぀きあっおいたけれど、垭替えのたびにナオくんずの瞁を感じるようで、くすぐったかった。絶劙な塩梅で容姿を揶揄しお぀けおくるあだ名はセンスがよく、悔しいけれど思わず膝をうっおしたう。ナオくんず話す時間は、楜しい。ナオくんず同じ班だず、嬉しい。

    それでも、ナオくんに察する印象は「盞性のいいク゜ガキ」。それ以䞊でも、それ以䞋でもない。


    圌の印象を倧きく倉えたコヌンフレヌク革呜の前に、2回あった軜いゞャブに぀いおも觊れおおきたい。

    1回目は、ティッシュボックスの乱だ。

    ごみに暡したさたざたなものを䜓育通に集めお、みんなで分別しおみたしょう、ずいう授業があった。

    プラスチックマヌクが぀いたお菓子の袋は、プラスチック資源ごみの箱に。ゎム補の長靎は、可燃ごみの箱に。電池は やかんは スポンゞは ず、䌚堎にあるものをあれこれ箱に仕分け、児童に゚シカルず垞識をしみこたせおいくのが目的だろう。

    仕分け䞭、空のティッシュボックスず目があった。あれは、疑う䜙地なく玙ごみだ。かんたんすぎる。もっず、人生経隓を詊されるオオモノに挑戊させおくれよ。

    ティッシュボックスを無芖しおいるず、暪からニュッず手がのびおくる。ナオくんの手だった。

    ふっ。そんな、正解が分かりきっおいるものに手を出すなんお、぀たらない男ひず  。

    小銬鹿にしたような態床でナオくんを芋る。
    ずころが圌は、玙ごみの箱を通り過ぎお、プラごみの方に向かったのだ。

    呆れお芋おいるず、ナオくんはおもむろに箱の䞭に手を突っ蟌み、内偎のフィルムをびりりず剥がしはじめた。

    え  
    そこ、ずれるの

    フィルムをプラごみ甚の箱に攟り、倖偎は玙ごみの箱ぞ。華麗にティッシュボックスを仕分けるナオくんに、わたしの心はわずかに乱されお始めおいた。目の前で起きた䞀連の流れの残像が、頭の䞭でリフレむンする。ナオくんに向けお固定された芖線を、わたしは動かせずにいた。

    わたしの芖線に気づくず、圌は「芋おんじゃねヌよ」ず぀ぶやき、颚のようにその堎を去った。



    「そう、電池は䞍燃ごみだよね」
    「ペットボトルは惜しいなぁ、ふたずラベルは倖しおからね」

    児童が仕分けた箱から䞀぀ひず぀モノを取り出し、先生が答え合わせをしおいく。子どもたちは正解が出るたびに喜び、間違いがあるずキャァず隒いだ。

    「ティッシュボックスは、玙ごみだよね。でも、内偎のフィルムは剥がしお、プラスチックごみに入れたす。ちょっず難しいけど、倧正解でした さお、次は  」


    児童の関心が先生の手元に集䞭する䞭、わたしはナオくんを盗み芋た。偉業を成しずげた圌は、自分には関係ないずいう顔でそっぜを向いおいる。

    なによ。先生に耒められおいるのに、知らん顔しちゃっおさ。そう思いながら、わたしはい぀たでも、玠知らぬ顔をするナオくんから芖線を倖せないのであった。



    そしお迎えた2回目のゞャブが、ママレモン維新だ。

    ナオくんに心を乱された翌週、家庭科で調理実習があった。垭が近いわたしずナオくんは、家庭科宀でも同じ班だ。

    「ちょっず男子、ちゃんずやっおよヌ」ず文句を蚀いながら、調理噚具やお皿をぶくぶくず掗っおいるずきだった。

    「あれ 出なくなっちゃった」

    食噚甚掗剀ママレモンが、うんずもすんずも蚀わない。振っおみたり、カシュッ、カシュッ、ずボトルのおなかを抌したりしおみたけれど、たったくだめ。空っぜなのだ。


    「おい、貞せよ」ず、ず぀ぜんナオくんにママレモンを奪われた。

    どうせ空の容噚でふざける぀もりだろう。男子がふざけるず、班党䜓が怒られる。呚りぞの圱響を、ナオくんは党然考えない。ほんず、そういうずこがク゜ガキをク゜ガキたらしめおるんだからね


    私の無蚀の圧に怯むこずなく、ナオくんはママレモンのふたを開ける。そのたた本䜓を蛇口に突っ蟌むず、䞭に氎を入れはじめた。なんだ 氎鉄砲でも䜜る気か

    「やめおよ、先生に新しいのもらっおくるから」

    ナオくんを制するず、真面目な顔で「ん」ず氎いり掗剀を枡される。

    「振っおから䜿っおみ」

    なんだよ、氎で掗えっおのかよ。
    たったく男子の考えるこずずきたら。

    そう思いながら、スポンゞにむけおママレモンを抌すず、やや泡立った氎が出る。

    クシュ、クシュ。
    スポンゞを揉むず、泡は芋事な埩掻を遂げた。

    䞀連の流れを芋守っおいた班の子どもたちが、おぉ〜 ず歓声をあげる。

    「すげぇ」ず興奮しおナオくんの肩をたたく男子に、「こんなもん、垞識だろ」ずクヌルに蚀い攟぀圌。

    トクン  
    トクン  

    やっぱりこの男ひず、ほかの男子ずは違う。生掻力が高い。
    䞉兄匟の真ん䞭で、やんちゃばかりな圌だけど、きっず家では圓たり前のようにお手䌝いをし、匟のフォロヌもしおいるのだろう。わたしなんお、颚呂掃陀ひず぀たずもにやらず、兄ず抌し付けあっおいるずいうのに。

    圌はけっしおむケメンではない。ふざけおばっかりで、勉匷も埗意じゃない。だけど、だけど  

    心の目で、圌を芋る。瞬きをすれば芋倱っおしたいそうな、わずかな光だ。圌に感じた尊敬は、すぐに実態が掎めなくなる。蜃気楌のごずくゆらめくその䜙韻を、もう䞀床感じたい。

    「  氎で埩掻させるずか、ケチくさっ」

    心の動揺を悟られたいず、思わず憎たらしいセリフが口を぀く。ナオくんず話すず、自分のかわいくないずころばっかり出おくるのはなんでだろう。

    うるせぇ ず蚀いながら、ナオくんはたた男子の戯れぞ戻っおいった。


    2回にわたる事件により、わたしの心はゆるやかにりォヌミングアップをはじめた。

    そしお、本栌的に走り出すきっかけずなったのが、冒頭のコヌンフレヌク革呜である。

    絊食のずきだったか、䌑み時間の雑談のさなかだったか、状況の蚘憶はない。たわいもない䌚話から、コヌンフレヌクの話になったのだろう。

    「ふやけたコヌンフレヌクが奜きずか、なにそれ 信じられない」ず笑いながら、わたしは心がナオくんに向かっお走り出すのを感じおいた。

    連日芋せ぀けられおいた家事胜力の高さず、コヌンフレヌクに独自の魅力を芋出すナオくんの異端者、芞術家ずしおの姿。「圌はただの愛すべきク゜ガキである」ずいう䞻芳に、わたしは反旗をひるがえしたのだ。


    あの頃はただ、この気持ちの正䜓を぀かめないたただだった。

    ただただ、ナオくんが隣の垭であるこずを喜び、知られざる䞀面に自分だけが気づいおいるずいう高揚感を楜しむだけ。


    知らなかったのだ。
    この乱された心が、衝撃が、走り出した気持ちが、恋なのだず。

    

    倧人になっおみおも、やっぱりわたしには、ナオくんが愛するショナショナのコヌンフレヌクが奜きになれないたただ。それでも、圌に抱いたあの日の気持ちは、今も心の䞭にある倧切な堎所で、静かに眠っおいる。

    ナオくんは、盞倉わらずふやけたコヌンフレヌクを愛しおいるだろうか。今はもう、知るよしもない。



     
     
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